指貫
指貫のことをちょっと書きたいと思うのだが前振り。
はてなに匿名ダイアリーというのがあり、ネットの匿名なのだから2ちゃんねるのようになっているかというと、必ずしもそうでもない。いや2ちゃんねるだっていろんなスレがあるのだから、匿名というだけでは比較にはならないというのもあるだろう。それでも匿名ダイアリー、通称「増田」は、匿名で暴言を撒き散らすというより、はてな利用者が若い世代が多いこともあるのだろうが、性のことや恋愛のちょっと内面的な話題が覗けて面白い。覗き趣味なんて下品とも言えるが、日常生活からちょっと性活動を隠す微妙な部分のコミュニケーション可能な領域というのはあるだろう。悩み事の話も多い。私は悩みの多い人なんで、そうだよなと共感することが多いのだが、それでも50歳にもなればそれなりに、いろいろと若い時代の悩みは終了している。自然に終了したものも多い。単に自分の顔を鏡で見て、これ俺の顔だよねとようやく納得したという類も多い。なんとか自力で解決した問題もある。書籍から学んでわかったこともある。そういう書籍を3冊紹介して、「大人になるために必読の3冊」とかネタにしようと思っていた。候補は決まっている。2点はすでに書いた。
あと一点は、「常識以前でございますが おばあちゃんの家事ノート(町田貞子)」(参照)かなと思って書架から取り出して読んで、そうだよなこれかな、とアマゾンを見るとすでに絶版。もちろん絶版でも中古で安く購入できればいいのではないかなと見ると2800円とプレミアム状態。本を見る人は見るもんだなとも思うが、案外他の書店とかにはあったりするのでネットを見ると、復刊リクエスト投票(参照)にリストされているものの、こうある。
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2004.04.29 ゆぴちん とにかく読みたい!
2003.01.12 玲子 まだ 絶版になっていませんでした。 購入可能です。
年号を見るともう絶版だろうか。町田貞子の本はどれも金太郎飴的なので他の本でもいいのではないかと見ていくと、「娘に伝えたいこと 本当の幸せを知ってもらうために」(参照)は文庫化されていた。元の単行本は1999年だ。「常識以前でございますが」は1985年。ざっと15年くらいの時代の差がある。
![]() 娘に伝えたいこと 本当の幸せを知ってもらうために 町田貞子 |
そして、なんでこんなことに気が付かなかったのだろう。「娘に伝えたいこと」は町田の絶筆なのだった。遺書と言ってもいい書籍だ。それから今、さらに10年近い年月が過ぎ、明治時代の女性というものが見えなくなるなか、いろいろ考えさせられる。
読みながら、いろいろと明治生まれの人を思い出すのだが、基本的に彼らは現代の日本人より近代人の相貌をもっている。ある意味で精神が徹底的に若いし、合理的なのだ。女性の場合、専業主婦というのはむしろ少ない。もちろん、昭和初期までの近代化というのはそれでも第一次産業が主であり家族労働という側面もあるが、シャドーワーク的な主婦労働というのとは違っていた。いや、家事の労働も質が違う。そのあたりの微妙な部分が「娘に伝えたいこと」であり、その象徴が指貫だ。
「常識以前でございますが」のプロローグ「銀の指ぬき」はこう始まる。
私は、今年七十四歳になります。
座っているそばには、合い間仕事にと持ち歩けるよう、つかいこんだ小出しの針箱があります。その中には銀の指ぬきが光って、そっと入っています。
それは、私の結婚が決まった、いまから五十数年前に、母が私にくれた指ぬきです。母が使っていたのと同じ……銀製の。
そのとき母は、私にその指ぬきを手渡しながら、
「昔から秋田では、お針仕事がよくできるようにとねがって、母親は娘が嫁ぐときに、その娘の幸せを重ねてねがいながら、銀の指ぬきをあげたものだといいます。私もあなたのおばあさんから、そうやってもらったから、こんどは私が貞子にあげる番です」
と話してくれました。
短い静かなひとときでしたが、いまでもその場をはっきり覚えています。母は秋田の生まれ、そしてその昔、秋田は銀山をもち、銀細工の盛んなところでした。
私の母は長いこと小学校の教師として働き、いまでいう兼業主婦ということになりますが、その忙しい毎日のなかでも、時間をみつけてはよく針仕事をしていました。かならず右手の中指に銀の指ぬきをして……。
この話は14年後の「娘に伝えたいこと」の「はじめに」に続いていく。
遡りますと十四年前(一九八五年)のことになりますが、光文社から刊行した『常識以前でございますが』のプロローグで「銀の指ぬき」のついて書きました。それが十四年経って、今また「銀の指ぬき」の話が蘇ってきたのです。
話の要点は今度その銀の指ぬきを娘や孫娘に継がせるということで、その銀の指ぬきが象徴する女の生き方ということになる。そこが説教じみているし保守反動的でもあるのだろうが、この本の主眼になるし、冒頭たらたらと増田のことを書いたが、知っておけばいいような人生の知恵みたいなソリューションがあるにはある。
ただここでちょっと私は意図的に話をずらしたい。
同書にはこういうエピソードがある。
私は相談にのって手製の『衣服ノート』のことをいろいろお話ししました。
その帰り際にお嬢さん方が、「先生が出された『常識以前でございますが』を私たちは読んで、そこで初めて『銀の指ぬき』のことを知りました」と言い出したのです。
これな。1985年、私が28歳のとき。私はどういうわけだがいろいろお譲さん方を見ていたものだが、つまりこのお嬢さんたちは私の同級生くらいだ。彼女たち真性お譲さんたちは『常識以前でございますが』をさらりと読んで嫁に行ったのだった。もっとも、このシーンのお嬢さんたちはそれから10年後、現在ようやく40歳といったあたりの年代だろう。
さらに「先生のところにあるその銀の指ぬきがどんなものか見せていただきたいのです。私たち、本を読んですごく憧れましたから」と言うので、「ああ、そうなの。それじゃ、お見せしましょうね」と、私は母からもらった銀の指ぬきを出してきました。
初めて銀の指ぬきを見たお嬢さんたちは、実際に指にはめてみながら、「わあ、これ素敵! こういうもんがあるんですね」と喜んでいました。
お嬢さんたちの喜ぶ姿を見て私が「あら、あなた方、それ欲しいんですか」ときくと、「そうですね、どこかで売っていれば欲しいですけど……」と言うのです。
町田の視線とおニャン子世代のお嬢さんたちの視線は少し違っている。
![]() 絹糸でかがる 加賀のゆびぬき 大西由紀子 |
私の同世代の、かつてのお嬢さんたちは今頃、嫁がせる娘をもっているだろう。銀の指ぬきを渡しただろうか。というのもこの伝承は町田が言うような日本の伝統というより、西洋の伝統臭い。町田の母も近代人でありそうした流れのなかの近代幻想なのではないだろうか。
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コメント
家のお袋は洋裁やってたのですが、小学校の家庭科で使うために裁縫道具を揃えるときに、学校指定のやつじゃなくてわざわざ専門店で博多鋏から何から揃えてくれたのですが、その中に指輪型の指貫がありました。
投稿: himorogi | 2008.02.28 20:27
今年、賭けにでるぞ。2007年は見通しが甘く失敗した。上手く行くんだろうか・・・。「ショーシャンクの空に」の主人公ほど、難しい挑戦ではないと思うが・・・。勝ちあがった年配の人が社会の上部に少数いて、若い未熟な人(20-30)が大勢底辺にいる。じゃ、負けた年配の人はどこで何を?
投稿: itf | 2008.02.29 19:52
「さしぬき」のことかと思った。
投稿: 明治よりもっと昔の人 | 2008.02.29 22:46