コソボ独立宣言、迫る
コソボ独立宣言が迫っている。ニュース報道では17日という予想が多い。この問題について私が特定の見解を持っているわけではないが、時代のログとして看過できないので簡単に触れておきたい。
この問題は、大筋では地位問題である。国家の地位問題は日本近代史さらには日本近隣国家の問題として重要な問題を示唆する部分もあるだろう。
ウィキペディアを見ると単独の項目が立っていて(参照)、簡素な説明がある。一言でいえばこうだ。
コソボ地位問題(又はコソボ地位プロセス)とは、国連暫定統治下にあるセルビア共和国のコソボ地域の最終的な国際法上の地位を確定する問題。
概要も手短にまとまっているが、実際的な問題化はコソボ紛争の関わりが深い。
コソボは1991年にユーゴスラビア連邦共和国(当時)からの分離独立を宣言した。これを国際的に承認したのはコソボと同じアルバニア人国家であるアルバニアのみで、国際承認というプロセスにおいてコソボは独立国と見なされず、国際的にはあくまでもユーゴスラビア(その後、セルビア・モンテネグロ、次いでセルビア)の一自治州と見なされていた。
一方1999年のコソボ紛争後、コソボにおけるセルビア人部隊が一斉にセルビアに引き上げ、これに代わって国連コソボ暫定行政ミッション(United Nations Interim Administration Mission in Kosovo:UNMIK)の暫定統治下に入った。ここにおいてコソボはセルビアの実効支配下から完全に脱する事になった。[1]
従って1999年以降のコソボは「独立国ではない」ものの「特定国家の実効支配下にない」という非常にあいまいな地位に意図的に留め置かれている。
「コソボの地位問題」とは、究極的にはこのあいまいな状態を脱して「独立国」とするのか、それとも「現状を維持」するのかという議論に集約できる。
つまり今回の独立宣言の予想は、この問題を住民側から一歩進めることになる。
そこで懸念されるのはコソボ紛争の悪夢だ。コソボ紛争についてもウィキペディアを引用しておく(参照)。多少セルビア寄りの視点を感じる人もいるだろう。
一向に進展しない情勢に業を煮やしたアルバニア人住民の中には、ルコバの非暴力主義では埒が明かないと、武力闘争を辞さない強硬派のコソボ解放軍(KLA)を支持する者も多くなった。またアメリカやEUがコソボ解放軍を支援していたとの情報もある。コソボ解放軍は1997年7月頃からセルビア人住民へ対しての殺害や誘拐などのテロ活動を行うようになり、1998年には遂にユーゴ連邦政府は反乱を鎮定するべく連邦軍(実質セルビア軍)を送り込み、コソヴォ解放軍との間で戦闘となった。しかし、セルビア軍やセルビア人民兵がアルバニア人の虐殺を行ったことが明らかになり[1]、人道面からユーゴ政府に対する非難の声が上がった。
アルバニア人による自作自演とセルビア側は主張しているが、西側マスコミはこぞってセルビア軍の残虐さを強調した。国際連合はユーゴにコソボからの撤退を要求したが、当時のミロシェビッチ大統領は「自国の問題」と拒否した。
とりあえず以上が今回も問題の背景だが、近いところでは、結局このブログで触れなかったのだが、3日行われたセルビア大統領選挙が重要だった。単純に色分けすれば、極右とされるセルビア民族主義系のセルビア急進党ニコリッチ党首代行に対して、再選を目指す親欧米系の民主党タディッチ大統領の争いだった。結果はタディッチ大統領が勝利し、欧米側としては胸をなで下ろした形になったが、皮肉な見方をすれば、経済的な関係でEUと縁を切るわけにもいかないというセルビアの現実路線の結果でもあっただろうし、国政を担う元ユーゴ大統領でもあったコシュトニツァ首相にはセルビア民族主義系の支援層も強く、そのあたりからコソボ独立に向けて奇妙な動きも懸念されるといえば懸念される。
私はこの問題の本質によくわからない点があるので、ごく単純に本質はロシアとEUの問題だろうと思っている。約200万人の住民構成からすればコソボはアルバニア人が9割を占め、EUや米国も独立承認に賛成の意向を持っているので、問題は反対勢力が浮かび上がる。セルビアが反対するのは元領土ということで理解できるが、これを国際問題上難しくしているのは国連の常任理事国でもあるロシアがセルビア支持に回っていることで、広義にはロシアの民族主義的な動向の力の問題だろう。冷淡に見ると、コソボが独立しても経済的にはセルビアが利する面のほうが大きいようにも思われる。
もう少し踏み出していえば、EUはセルビアをも飲み込む形で動こうとしているのをロシアが阻止したいのだろうし、ロシアの思惑はEUとNATOの分断を目論んでいるのだろう。
NATOを中心とした流れで見ていくと、アフガン問題におけるNATOの躓きも結果的にはロシアを利する方向に動いていく。だが、そうであればEUはもっとアフガン問題に関わっていくかというとそうではない。むしろ、穏和な形で各国のナショナリズムが国際問題を遠隔化していく。この傾向は日本も同じだ。そのなかで表面的には反米意識が鼓舞されることになる。そして当の米国はこれも単純にいえば大統領選挙もあり、また金融問題からも米国自身が国内問題に目を向けすぎている。
とはいえ、実際にコソボが独立宣言を出した場合の動乱も予想される。EUは関わらざるをえないし米国も巻き込まれるだろう。ロシアはすでに巻き込む気概で固まっているようにも見える。
こうした当面の問題に対して、日本、そして中国も対岸の火事のように傍観しているし、傍観を越えそうな気配以前にロシアは日本にもちょこっと威嚇をかけているようにも思われる。
単純に見れば、新冷戦構造とも言えないことはない。だが、経済の流れから見れば、ロシアとEUは一蓮托生になっていくだろうし、EUは長期的にはより国内の民族問題を抱えていくのだろうから、ロシア的な国家モデルが先行しているかもしれないし、賢いプーチンのことだからどっかに痛みのある落とし所を想定しているのかもしれない。
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コメント
スイスの難民ですが、コソボの人口の3割はスイス国内で保護してるらしいんですが見たこと無いです。
独立もあるし帰ったんでしょうかね。
石油などの資源豊富な国は分裂とかいろいろありますけど・・・。
投稿: JB | 2008.02.21 23:47
はじめてコメントさせていただきます。
今回のコソボ独立宣言について調べていて、こちらにたどりつきました。
大変勉強になり、拙ブログにてこちらの記事を紹介させていただきました。
しかしこちらの問題だと思うのですが、TBが上手く張れません。URLからご確認くださるとありがたいです。
http://www.actiblog.com/rieinc2/53425
投稿: コンドウ | 2008.02.24 13:17