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2008.02.20

米国偵察衛星のミサイル破壊

 米国偵察衛星のミサイル破壊実験だが、15日付け産経報道では”米衛星破壊、ミサイル発射は20日以後”(参照)とあり、そういえば今日だなと思い出し、欧米のニュースを見ると19日ロサンゼルスタイムズ”Pentagon might launch missile at satellite Wednesday”(参照)によれば米時間で今日ということだ。けっこう早いものだなと思うので忘れないうちに雑感程度だが書いておこう。
 米国偵察衛星のミサイル破壊実験についてだが、15日付け朝日新聞記事”米、偵察衛星をミサイルで破壊へ 人体に有害な燃料搭載”(参照)の書き出しが簡素に要点をおさえている。


 米国防総省は14日、制御不能で地上に落下する見通しのスパイ衛星を、大気圏再突入前にミサイルで破壊する、と発表した。衛星には人体に有害な燃料ヒドラジンが積載されており、地上への飛散を回避するのが主な目的。米国のミサイル防衛システムが人工衛星の破壊に使われるのは初めて。

 さらりと書いているがこの記事を書いた記者はかなり優秀で、今回の実験目的がミサイル防衛システム(MD)の一環である示唆を巧妙に含めている。

 発表によると、この衛星は米国家偵察局(NRO)が06年12月に打ち上げたもので、直後に制御不能になった。小型バスほどの大きさで、重さは約1.1トン。姿勢制御用燃料ヒドラジンを約450キロ積載している。2月下旬から3月にかけて地上に落下する見通し。

 サイズ的には大きいようにも思えるし、有毒なヒドラジン関連の米国説明もあながち嘘ということでもないようだ(ちなみヒドラジンを含む衛星落下の懸念が今回初ということではない)。が、米国艦船つまりイージス艦から海上配備型迎撃ミサイルSM3で打ち落とすということでこれはMD実験であることは明白だろう。中国報道CRIが17日付け”米の衛星破壊は「新たな戦略兵器の実験」とロシアは懸念”(参照)でロシアの懸念を伝えているのが奥ゆかしい。

 アメリカ国防総省が、制御不能になって地球に落下する恐れがあるスパイ衛星をミサイルで破壊すると発表したことに対して、ロシア国防省は16日、「アメリカは、新たな戦略兵器の実験を計画しているのだろう」と懸念を示しました。

 やはりわかりやすいコミュニケーション技術というのは必要なものでロシアはきちんとメッセージを受け止めているし、中国も中華風に伝えていることになる。
 今回の実験だが、ネットを見ていたら、先日の中国による衛星破壊実験を米国が責めていながら、その米国が同じことをするというのはどうよという意見もあった。この点についてはしかし、軍事的な威嚇という意味では正しいが、汚染について米国が理不尽ということではない。

 人工衛星のミサイルによる破壊は、07年1月に中国が実験として実施。破片が他の衛星などに衝突する危険性や、宇宙での軍拡競争につながりかねないとの懸念などから、米国などは中国を強く批判した。
 今回の衛星破壊について米航空宇宙局(NASA)のグリフィン長官は「中国の衛星破壊実験は高度約850キロで行われ、破片は数十年とどまるが、今回は(破壊高度が低く)破片は数カ月以内に落下する」と話し、問題はないとの認識を示した。

 上空約240キロの大気圏外で破壊になるので、この米国の認識は科学的に正しいと言ってよいだろう。そのあたりの科学的な理解がなく反米なり親中といったイデオロギー的な理解に矮小化しても問題は見えない。むしろ、SM3ってそんなに高度が上がるのかというのは強い軍事的なデモンストレーションになるのだろう。
photo
LA Timesイラスト
 気になるのは、中国もやったから米国もやった的な議論もまた、どうも浅薄な印象を受ける。詳しく情報を整理するのがめんどくさいので記憶によるだが、昨年1月の中国による衛星破壊だが、中央の北京政府側がきちんと軍事部門を統制できてなかったような情報の混乱と、さらに事後米国は中国を非難したが事前のプロセスでは実質的に中国が衛星破壊を行ってもよいと見なせるようなシグナルを出し、ある意味で中国がこれにひっかかったような経緯がある。陰謀論とまでのことではなく、こうしたシグナリングは軍事外交上普通のことだがそれでも米国が端から中国による衛星破壊を阻止しようせず、これを機会とする可能性と北京政府側のグリップを注視していたようすはあった。今回の件でも北京政府側はオリンピックなどを控え忍耐強く耐えているかのようだが案外米国の今回の実験に親和性をもっている可能性もある。が、経済関係で実際にはポールソン・ウー対談の失敗から米中関係が冷え込んできており、また中国政府投資の背景などもあり、いろいろ慎重にならざるえないというあたりが妥当な観測だろう。
 今回の実験について米国ジャーナリズムの受け止めはどうかというと、先のロサンゼルスタイムズの記事でも実質MDに焦点を当てていることから、やはり軍事威嚇としての理解は広まっている。16日付けニューヨークタイムズ社説”Taking Aim at a Disabled Satellite”(参照)でもその配慮が見られる。冒頭から衛星攻撃兵器(anti-satellite:ASAT)の話題が出てくる。

The United States has given a plausible reason for wanting to shoot down an errant spy satellite before it can tumble to Earth and release potentially harmful gas near the impact point. But that hasn’t calmed suspicions that what the Bush administration really wants to do is test its capacity for waging anti-satellite warfare.

 社説の次の指摘はブロガーに焦点を当てている点で興味深い。

Some experts and bloggers are skeptical that safety concerns are the main reason for this effort. They speculate that the Pentagon is worried that if the satellite does not burn up it might give away secret technology to any enemy that found it. Another theory is that the Navy really wants to test whether its missile might have applications as an anti-satellite weapon, or that the United States is eager to trump China, which shot down one of its own satellites last year. American officials firmly deny all of these speculations.

 米国では対抗ジャーナリズムとして"Some experts and bloggers"が存在感をもっている。引用後半部はすでに触れたように対中軍事的な疑念だが、前半の"it might give away secret technology to any enemy"という技術的な疑念もあるらしい。そこまでは考えすぎだろうと、日本のブロガーの一人として思うが。

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コメント

これでしょうか?

政府のブログでテロを阻止?
http://jp.blogherald.com/2008/02/19/help-stop-terrorists-with-government-blog/

投稿: katute | 2008.02.20 14:00

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