« [書評]昏睡状態の人と対話する(アーノルド・ミンデル) | トップページ | ニューヨーク・タイムズが報道した中国薬剤問題について »

2008.02.06

[書評]人間関係にあらわれる未知なるもの(アーノルド・ミンデル)

 先日、「極東ブログ: [書評]身体症状に<宇宙の声>を聴く(アーノルド・ミンデル)」(参照)を書いたあと、アーノルド・ミンデルの新刊書がこの1月25日に出ていたことを知って、条件反射的にアマゾンのワンクリックてぽちっとなとした。すぐに、これ、「人間関係にあらわれる未知なるもの 身体・夢・地球をつなぐ心理療法」(参照)が、古い本というか初期ミンデルの著作だなとわかったが、注文の取り消しはしなかった。おそらくミンデルをフォローしている関係者にとって、日本の現在に重要な本という認識があるのだろうという直感があったからだ。実際読んでみて、そのあたりの思いのようなものは伝わった。たぶん現実に日本でプロセスワークに関わっている人、あるいは関わっていく人にとっては、昨日触れた「極東ブログ: [書評]昏睡状態の人と対話する(アーノルド・ミンデル)」(参照)より喫緊の課題というか、差し迫った現状のようなものがあるのだろう。

cover
人間関係にあらわれる
未知なるもの
身体・夢・地球をつなぐ
心理療法
 とはいえ本書のオリジナル"The dreambody in relationships"が執筆されたのが1987年であることの明示的な言及はなかった。訳本は2002年刊行のものを利用しているが、オリジナルは1987年であることについて監訳者あとがきに含めるべきだっただろう。もっとも本文に中にはすでにプロセスワークでは利用されていない、易(「ガラス玉演戯」を彷彿とさせる)や冷戦時代背景についての訳者注は含まれているので、そうした点での理解に躓かないような配慮はなされている点は評価できる。
 難癖のようなコメントが続くが表題も誤解を招きやすいのではないか。確かに、ミンデルは「人間関係にあらわれる未知なるもの」に着目しているし、冷戦時代らしい世界意識や公的な政治状況の対話を実践していく後半の展開からは、「身体・夢・地球をつなぐ心理療法」という表現も的外れではない。オリジナルの"The dreambody in relationships"をそのまま「関係性におけるドリームボディ」とするわけにもいかないこともわかる。だが、この原題のrelationshipsは実際には夫婦関係と親子関係を指しているので、「夫婦と親子の関係を人生の総体から見直す」という含みがある。「ドリームボディ」というというミンデルのオカルティックな着想は、人間の個性化の可能態ともいえるだろうし、個性化と家族関係の問題が、実質本書のテーマになっている。
 冒頭の、本書の訳書が今なぜ?という視点に戻ると、私の推測だが、団塊世代が退職を始めた日本の現在、そしてその子供たち(団塊チルドレン)がさらに子供を産み、大きなジェネレーション変化が起きつつあるが、その地殻変動的な日本社会変化に、この"The dreambody in relationships"が関わるという、大きなプロセスの認識が訳者たちの実践の場にあり、それが出版に大きく関わっているのではないか。
 端的に言えば、ふたつの問題になるだろう。ひとつは団塊世代の夫婦関係の少なからぬ関係が終わりを迎えているというここと、もうひとつは団塊チルドレンがうまく親になれないことだ。
 あまり強く勧めて失望されてもなんだが、この二点の問題に関心のある人なら本書から得るものは大きいだろうと思われる。本書は、「身体症状に<宇宙の声>を聴く―癒しのプロセスワーク」(参照)のような不必要な難解さもないし、「昏睡状態の人と対話する プロセス指向心理学の新たな試み」(参照)のような、人によっては深刻な渇望とも違う文脈にあり、かつ、ミンデルの初期の作品らしく比較的わかりやすい。ただし、前半はやや精神医学プロパーな話もあるし、一次プロセスと二次プロセスという概念はやや曖昧な部分がある。即効を求めてしまう現代人には、少し忍耐を強いる読書になるだろう。
 本書の、現代日本という文脈における意義として私は二点あげたが、その一点目を「夫婦関係の少なからぬ関係が終わりを迎えている」とした。これは端的には離婚なり熟年離婚して理解されるだろうし、それはそれでいいのだが、私が本書を読みながら考えたのは、夫婦関係というのを、人間のプロセス、つまり、人生の流れのなかで経験すべき過程(プロセス)として捉えたとき、始まりと終わりがあるという、ミンデルのある明瞭な前提意識だった。
 すこし余談に逸れる。米人の場合、人工国家的な米国国家の特質にもよるが、その構成員は家族と愛というものに個体レベルの神話性を求められるので恋愛という協約的な神話が人生のプロセスに求められる。それゆえに愛情がないと家族が崩壊してしまう。やや余談めくが米人における愛情とは実際には身体的なセンセーションであり禁忌と性快楽の無意識のシステムなので、愛情(恋愛)に性が強く反映する。反面、実際の米国の支配層は恋愛よりも日本の閨閥にも近いファミリーの関係性のなかで資本と女を交換しているので、性愛は別の側面に出るし、その特権性が禁忌的な階級への欲望を喚起する。いずれにせよ、夫婦の関係が、その国家の認識のように丸山真男的な作為の契機を軸としているので、終わるという前提発想がある。また彼らは性センセーションによる身体性から、死体による性交不能性によって、関係性の終わりを暗示する愛の神話的な構造がある(死は身体の性的な別離である)。これに対して日本では、夫婦関係の終わりは恋愛から性的身体の終焉としての死体にはなく、家制度に、つまり娘の権力の側の神格化に、収斂していく。吉本ばなな「デッドエンドの思い出」(参照)が顕著な例だが、夫婦関係は「老」から「死」の空間にたやすく接合している。しかも、彼女の父吉本隆明がプレ団塊であることから、彼女もプレ団塊チルドレン的な世代ではあるものの、この日本の夫婦関係の幻想性は、団塊チルドレンの夫婦関係の無意識的な基底に危うく存在することも示唆される。吉本ばななが過剰なまで身体性を唱える疑似宗教的な雰囲気を醸し出しているのも同じ水平にある。
 余談に逸れたが、夫婦関係は、プロセスという視点からすれば当然、始まりがあり終わりがある。その形態は文化性として偽装されている国家の宗教性との関係があるものの、そのまさにプロセスとしての本質には関わらない。端的にいえば、退職した団塊世代の夫婦は強烈な圧力でそのプロセス、つまり夫婦関係の終わりというのも日本の社会に吐き出すだろうし、その団塊チルドレンの夫婦関係の暴走もそれに連鎖するだろう。その一番身近な問題は、団塊チルドレンの子供の身体と心に、こう言うとやや一線を越えるのだが、病的に出現するだろう。まさに、その病的特質こそがドリームボディの本質でもある。
 ここには、プロセスというものが、個体を越えている、つまり、関係性のプロセスをドリームボディが含み込むという、通常なら曖昧な言説にしか受け取れないミンデルの明瞭な認識がある。夫婦関係の終わりというのは、個体プロセスの側の問題だけではなく、関係性のプロセスの問題であるのだ。短絡させれば、個体や関係を包む社会から日本社会という関係性のプロセスの総体が今問われ始めていることになる。
 この極東ブログを読んで不眠症が解消されましたと素敵なコメントをくださった五反田六先生こと鋭敏なライター速水健朗による「自分探しが止まらない」(参照)はまだアマゾンでは予約中だし私などが読んでも理解できるかどうかわからないが、表題や釣りから察する「自分探しが止まらない」日本人というのは、おそらく個体の問題というより、夫婦関係的な性の関係性の不安定性とその時代的なフレームワークの終焉の大きな圧力の、まさにプロセスなのではないだろうか。
 と書くとまた五反田六先生の眠気をさそう曖昧な表現となるのだろうが、本書「人間関係にあらわれる未知なるもの」は、日本社会の大きな変化が性的な関係性(夫婦関係・家族関係)でどのように出現するかということに対して、初期ミンデルの心理治療家らしい具体的な創見に満ちている。
 ついでなので、現時点までのミンデルの邦訳著作のリスト(邦訳書はアフィリエイト・リンク)を整理しておく

  • 1982年 『ドリームボディ』(第二版)  Dreambody, the body’s role in revealing the self. Santa Monica, CA: Sigo Press. ISBN 0938434055
  • 1985年 『プロセス指向心理学』 River’s way: the process science of the dreambody: information and channels in dream and bodywork, psychology and physics, Taoism and alchemy. London: Routledge & Kegan Paul. ISBN 0710206313
  • 1985年 『ドリームボディ・ワーク』 Working with the dreaming body. London: Routledge & Kegan Paul. ISBN 0710204655
  • 1987年 『人間関係にあらわれる未知なるもの』 The dreambody in relationships. London: Routledge & Kegan Paul. ISBN 0710210728
  • 1989年 『昏睡状態の人と対話する』 Coma: key to awakening. Boston: Shambhala. ISBN 0877734860
  • 1990年 『自分さがしの瞑想』  Working on yourself alone: inner dreambody work. New York, NY.: Arkana. ISBN 0014092018
  • 1992年 『うしろ向きに馬に乗る』  Riding the horse backwards: process work in theory and practice. New York, NY.: Arkana. ISBN 0140193200
  • 1993年 『シャーマンズボディ』 The shaman’s body: a new shamanism for transforming health, relationships, and community. San Francisco, CA: Harper. ISBN 0062506552
  • 1995年 『紛争の心理学』(抄訳) Sitting in the fire: large group transformation using conflict and diversity. Portland, OR: Lao Tse Press. ISBN 1887078002
  • 2000年 『24時間の明晰夢』 Dreaming while awake: techniques for 24-hour lucid dreaming. Charlottesville, VA.: Hampton Roads. ISBN 1571741879
  • 2001年 『プロセス指向のドリームワーク』 The dreammaker’s apprentice: using heightened states of consciousness to interpret dreams. Charlottesville, VA : Hampton Roads. ISBN 1571742298
  • 2004年 『身体症状に「宇宙の声」を聴く』 The quantum mind and healing: how to listen and respond to your body’s symptoms. Charlottesville, VA: Hampton Roads. ISBN 1571743952

|

« [書評]昏睡状態の人と対話する(アーノルド・ミンデル) | トップページ | ニューヨーク・タイムズが報道した中国薬剤問題について »

「書評」カテゴリの記事

コメント

訳者の藤見氏が、2月25日から3日間、放送大学で講義されるようです。

投稿: 74 | 2008.02.21 23:06

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]人間関係にあらわれる未知なるもの(アーノルド・ミンデル):

» 読書の効き目 [kazgeo::10%ダイエット]
 id:finalvent先生がミンデルという研究者の訳書を紹介されていた。訳者が抱える問題意識を,finalvent先生は,  端的に言えば、ふたつの問題になるだろう。ひとつは団塊世代の夫婦関係の少なからぬ関係が終わりを迎えているというここと、もうひとつは団塊チルドレンがう... [続きを読む]

受信: 2008.02.10 21:55

« [書評]昏睡状態の人と対話する(アーノルド・ミンデル) | トップページ | ニューヨーク・タイムズが報道した中国薬剤問題について »