[書評]脳を鍛える!(シンシア・R・グリーン)
表題から連想できる程度のハウツー物なので「脳を鍛える! ボケないための8つの習慣」(参照)はブログで取り上げるほどのことはないかというのと、でも2002年の出版で新刊書でもないので弾小飼氏に献本されてもいないだろうから……。ただ読み方のアングルがハウツー的ではなかったせいか、自分なりには面白かった。
脳を鍛える! ボケないための 8つの習慣 シンシア・R・グリーン |
コットの書籍では、シンシア・R・グリーンはこう紹介されている。
グリーンはニューヨーク市のマウント・サイナイ医学校およびマウント・サイナイ医療センターに勤め、マウント・サイナイ病院における記憶力増強プログラムの創始者である。これは健康な成人のための記憶管理プログラムで、このテーマに関する最新の神経科学的研究を応用した「脳を鍛える! ボケないための8つの習慣」(手塚勲訳、山と渓谷社)の原理に沿った六週間の授業からなる。
著者シンシアは医師であり、健康者を対象とはしているが本書は基本的に医学的な観点から書かれている。
コットのインタビューでも強調されているが、シンシアの記憶増強の原理はAM原理とされている。Aはアテンション(注意力)、Mはミーニング(意味)である。記憶力を増強したいなら、記憶対象に注意力を払えるようにすること、そしてその意味を了解すること、ということだ。
AM原理は、ごく当たり前といえば当たり前のことだが、いわゆる記憶力ハウツー本は本書の後半に書かれている、トリックフルな記憶術的訓練と習熟の関連が多い。つまり、コンピューターのように記憶を入れては出すといった頭脳を獲得したいという要望に応える書籍がどうしても多い。だが、AM原理はそれと本質的に異なっている(まったく異なっているわけではない)。全体的な記憶力にとって重要なのは、覚えるべきことにいかに注意を払えるかということであり、その意味をどう了解したかということだ。いわゆる記憶はそれに従属的なのだ。
私自身おやっと思う間に50歳とかになってしまい、記憶力衰えたかなと思うことがある。アレなんだっけ思い出せないな、みたいな状況がある。爺だな俺みたいな。ただ、冷静に考えてみるとどうも自分が溜め込んだゴミのような記憶が膨大になっていて、それに対する注意力の配分が問題らしく、記憶力自体はそれほど若いときと変わってないようでもある。本書でも老人の記憶力低下とされているものは、病変でなければ、注意力の維持が年齢とともに衰えることだとされている。そう言われてみるとそのほうが思い当たることはある。
新しいことを覚えるときでも、基本的に過去の学習の枠組みを応用してしまい、そしてたいていの場合はそれが有用なので、新規なものの学習が阻まれるし、新しい名称など過去の枠組みの名称分類に影響されるあたりが、記憶力の低下のようにも現れてくるのだろう。が、案外、若い学生さんとかでも同じようなことがあるかもしれない。若いときはいわゆる学習に向けるべき注意を散漫にする魅力的なことが多いだろうから。
何に注意を払いどこに意味を感じるかということに、年を取ると過去の記憶が影響するのが問題なんだろうなと本書を読みながら理解した。
関心や感覚をリニューしつつ、古い関心を整理して、注意力を維持し、未知な分野を理解しようとしてくと、それなりに脳の機能というのはそれほどは老いないものかな。そのあたりに関心がある人ならこの本、図書館とかで読んでみてもいいかもしれない。
| 固定リンク
「書評」カテゴリの記事
- [書評] ポリアモリー 恋愛革命(デボラ・アナポール)(2018.04.02)
- [書評] フランス人 この奇妙な人たち(ポリー・プラット)(2018.03.29)
- [書評] ストーリー式記憶法(山口真由)(2018.03.26)
- [書評] ポリアモリー 複数の愛を生きる(深海菊絵)(2018.03.28)
- [書評] 回避性愛着障害(岡田尊司)(2018.03.27)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
Amazon中古で1円だったので、脊髄反射で注文しました。
投稿: straycat | 2008.02.20 11:43
ある日、ある人物が「あなたの記憶に全てがあります」と言う。俺は「何があるというんだ」と聞く。その人は「全てある」としか言わない。独善的な態度に俺は切れる。「記憶と言うのは未来に対する期待などによって、常に編集されてるんだ。記憶はフィクションだ。」と解説する俺。相手は、それがどうしたと言う態度。そこで夢が覚める。その謎めいた夢の人物の言ってることが完全に正しい事に、彼はやがて気づくだろう。
投稿: itf | 2008.02.29 19:59