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2007.10.06

パソコンは基本ソフト込みで販売してはいけない?

 話は昨日のエントリ「欧州裁判におけるマイクロソフト敗訴について」(参照)の続き。ただ、少しテーマが違う。EUは結局、パソコンは基本ソフト込みで販売してはいけないと言い出しているようだということ。
 まず、前エントリのまとめだが、3年に渡るEUの判定では、マイクロソフトはウィンドウズという基本ソフトにアプリケーションをバンドルして販売してはいけない、という主張を持っていることはだいたい明らかになった。そしてその背景にはコンピューターにおけるウィンドウズのシェアを減らしたいという意図があることもだいたい明らかになった。さらにぼんやりした線ではあるが、EU市場を制御する可能性のあるIT分野の知的財産に歯止めをかけようとする意図もありそうだ。私なりにまとめるとこの3点ということに、とりあえずなる。
 EUの主張をマイクロソフトが仮に丸呑みしたとする(実際には不可能だけど)。するとどんなウィンドウズが見えてくるか。まず、ウインドウズは基本ソフトだけのすっぴんになる。英語の世界ではnakedと表現されている。ということは、ハードウェア対基本ソフトという線がくっきりと見えてくることで、いわばパッケージのアプリケーションのような輪郭も与えられる。そしてそれは他のパッケージと並列されるというイメージもある。
 このイメージを敗訴に追い打ちをかけるようにEUは事実上出していた。というのは厳密にはEUから出たのではなく、その独立系シンクタンクとなるグローバル化研究所(Globalisation Institute)が、”Unbundling Microsoft Windows”(参照PDF)を打ち出した。


This paper’s recommendation is that the European Commission should require all desktop and laptop computers sold within the EU to be sold without operating systems.
(デスクトップ型コンピュータとラップトップ型コンピュータはEU内においては基本ソフトを抜いた状態で販売されるべく、欧州委員会が規制するよう、本稿は推奨する。)

 この提言の日時がよくわからないのだがPDF文書では9月20日となっており、事実上マイクロソフト敗訴と並んだスケジュールになっていたことがわかる。
 ジャーナリズムでの扱いは、ワシントンポストにも転載されたPCワールドの”Stop Preloading Windows, Business Think Tank Says”(参照)が簡素にまとまっている。次の点も興味深い。

The report is gaining attention partly because the Globalisation Institute usually advocates a hands-off approach to business regulation. It researches and develops policy options that are sometimes championed by politicians.
(このレポートが注目された理由の一つは、グローバル化研究所は通常ビジネスの規制には手心を加えるからである。同研究所はしばしば政治家に指導されて政治オプションを調査・開発する。)

 私が文脈を読み違えているのでなければ今回は異例だったということなのだろう。
 この報道だが、ワシントンポストを含め欧米では一応取り上げれたのだが、日本国内では今回の判決からしてそうなのだがあまりフォローされていないように思える。と調べ直すと、マイコミジャーナル「欧州では全PCをOS非搭載で販売すべし! シンクタンクが欧州委員会へ提言」(参照)があり、ファクツの線はきれいにまとまっている。

 同シンクタンクは、現在、EU域内のほぼ全てのPC販売店で、Windowsを搭載するPCが圧倒的シェアで販売ラインナップに並んでいる実態を憂慮。PCを購入したいと考える人に対しては、Windowsのソフトウェアライセンス料金を支払って、Windowsが搭載されたPCを購入する選択肢以外は用意されていない状況が当然のこととして受け入れられているものの、今回の提案が実施されるならば、無料または低価格の他のOSを導入する人が大幅に増加すると分析している。
 OS市場での競争促進によって、Windowsの圧倒的シェアの前に、新規参入が困難だった他の数々のOSにもチャンスが訪れ、技術革新が進むメリットは大きいとされている。また、これまで欧州企業がWindows購入のために支払っていた膨大なコスト削減につながり、欧州経済の発展にも寄与することになるとの判断が示されている。

 いくつか疑問点が自然に浮かぶのではないか。たとえば、マッキントッシュはどうか? この点についてはビジネス・ウィーク”Think Tank Calls for 'Naked' PCs”(参照)に示唆がある。

He said the institute's analysis excluded Apple's OS X because the Mac is a "premium, niche product, like a Bang & Olufsen television, which is difficult to justify in the business world outside of the publishing sector".
(グローバル化研究所所長によれば、この研究所の調査にはアップルのOS Xは含まれていないとのことだ。マッキントッシュは、プレミアムでニッチな製品であり、バング&オルフセンのテレビのようなものだ。この手の製品は、出版部門を除き、公平化の対象にしずらい。)

 マックはコモディティではないがウィンドウズはコモディティだろということのようだ。
 その先から考えるなら、マイクロソフトとしては、コモディティのラインをできるだけ拡大した地点で、EUについては基本ソフトから事実上撤退するしかないだろう。
 私はこんな疑問ももった。グローバル化研究所の言い分が正しいのはアプリケーションが社会的に正規化というか、適応可能な状態が想定されるからであって、その状態の意味はなんだろうか?
 私のようにパソコンを長く使ってきた者にしてみると、ウィンドズの登場はアプリケーションに統一プラットフォームを与える市場形成の点でプラスの要素だったなという思いが強い。しかし、現在、グーグルがMITなどと共同で推進しようとしている100ドルパソコンもだが、ようするに基本の通信機能と、世界にただ一つのCPUみたいなイメージでアプリケーションは保証できそうにも思える。という比喩は反って誤解されやすいか。
 別の言い方をすれば、ウィンドウズなんてなくてもいいでしょっていう世界でしょ、っていうことだ。
 技術的にはすでに世界はそういう水準にあるのかもしれないが、ちょっと微妙な違和感は残る。

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2007.10.05

欧州裁判におけるマイクロソフト敗訴について

 難しい話題なんだがこれも気になるところを書いてみよう。話は先月の17日、独禁法違反の訴訟について欧州第一審裁判所でマイクロソフトが敗訴したというニュースだ。単純な話、私は意味が掴みきれなかった。というか、以前の経緯が少しわかるのでなおさら、今回の敗訴の意味が難しい。
 その後、半月が経つのだが、このニュースの意味が依然よくわからない。産経新聞と組んだマイクロソフトだからということみたいな背景でもないのは明白だとしても、それほどニュースになっているふうでもない。日本ではあまり関係ない話なのか。すっきりとしたまとめにはならないだろうが、どう込み入っているのかくらいはブログのエントリにしておこう。
 まずファクツの整理からだが、同日の朝日新聞記事”マイクロソフト敗訴 独禁法違反事件で欧州第一審裁”(参照)は日本での報道でも無難なほうだろう。


 米マイクロソフト(MS)の欧州連合(EU)独占禁止法違反事件について、欧州第一審裁判所は17日、MSに約800億円の制裁金を科した欧州委員会の決定を支持し、MSの訴えを退ける判決を言い渡した。基本ソフト「ウィンドウズ」の独占的地位をMSが乱用していると認めた。独禁法違反に厳しい対応をとる欧州委の姿勢に弾みがつくのは確実だ。

 引用が長くなるが、このあたりはただのファクツの部類なので続ける。

 EUの行政機関である欧州委は04年3月、MSに対し(1)ライバルのソフト会社にウィンドウズについての必要な情報を提供していない(2)映像・音楽再生ソフト「メディア・プレーヤー」を抱き合わせ販売し、他社の参入を拒んだ、としてEU競争法(独禁法)違反と認定。4億9700万ユーロ(約800億円)の制裁金を科した。MSがこれを不満として提訴した。

 ファクツの部類と言ったものの、今回の判決がこのようにまとまるものかというのは実はそれほどクリアとも言えないかもしれない。
 今回のニュースの元になるのは、「MSに約800億円の制裁金を科した欧州委員会の決定」なのだがこの話が記事にはない。それはなんだったか。
 CNETが当時の記事をまだ公開しているので助かる(こういうところ新聞社サイトも見習ってほしいな)。”マイクロソフトへの制裁金、史上最高の6億1300万ドルに--EU裁定下る(2004/03/25)”(参照)より。

 欧州連合(EU)は現地時間24日、長期にわたって争ってきたMicrosoftの独禁法違反をめぐる訴訟に関する裁定を言い渡し、ヨーロッパにおけるこの種の訴訟では過去最高額となる、6億1300万ドルの制裁金支払いを同社に対して命じた。
 European Competition CommissionerのMario Montiは、Microsoftがサーバソフトウェア市場での公正な競争に必要な情報をライバル各社に提供せず、またWindowsの提供に関してもWindows Media Playerのバンドルを条件にして競争を妨げた、との判断を下した。

 一応そういうことなのだが、この記事に含まれていないが、私の記憶ではこれはリアルプレイヤーがらみの話だった。いずれにせよ、一つの焦点はウィンドウズ・メディア・プレーヤーだった。
 そしてこの2004年の時点でのマイクロソフトの対応は、対抗するということだった。

 一方、Microsoftはこの裁定に対する控訴の方針を重ねて強調した。Microsoftの法律顧問、Brad Smithは電話会議の中で、欧州連合の上級裁判所に当たる第一審裁判所の名を挙げながら、「この判断の再審を求めてEuropean Court of First Instanceに控訴する」と語った。

 つまり、このEuropean Court of First Instanceが今回の欧州第一審裁判所ということなのだが、が、というのはこの3年間の間に挟むべきことがある。マイクロソフトはEUの決定に従わなかったとみなされた。2006年のコンピュータワールドの記事”欧州委員会、マイクロソフトに制裁金3億5,700万ドルを追徴 ”(参照)が参考になる。

 欧州委員会は7月12日、2004年3月に裁定を下した競争法違反に関する決定に従わなかったとして、マイクロソフトに2億8,050万ユーロ(3億5,700万ドル)の制裁金を追徴すると発表した。
 マイクロソフトはすでに、同決定に基づいて4億9,700万ユーロの制裁金を支払っている。欧州委員会はその際に、マイクロソフトがPC用OS市場で独占に近い状態にあることを利用して、ワークグループ・サーバOSやメディア・プレイヤなどの市場で特選的な立場を確保したとする事実認定を行った。

 実は、2004年の判決以降、2006年のこの措置で、私としては問題の様相が少し見えてきた感じがした。つまり、EUが何をマイクロソフトに求めているかということだ。ウィンドウズ・メディア・プレーヤーだけの問題ではないのだ。

 また欧州委員会は、メディア・プレイヤを搭載しないバージョンのWindows XPをリリースするとともに、サーバ製品で使われている通信プロトコルの詳細な技術情報を競合他社にも提供するよう命じた。
 7月12日に発表された決定は、詳細な技術情報を適宜提供しなかったことに対するものであり、マイクロソフトが今後も命令に従わなかった場合、制裁金は日額300万ユーロの割合で加算されるという。

 問題の焦点は「詳細な技術情報を適宜提供」の部分にあると取りあえず見てもいいのではないかと私は思う。それと、この過程で私は問題の様相が少し見えてきた感じがしたと書いたが案外、マイクロソフトも別段裁判テクニックではなく、同じように困惑していたのかもしれない。ニーリー・クロエス欧州連合競争管理官の伝聞になるがこうあった。

  クロエス氏は、「欧州委員会が何を求めているのかわからなかったというマイクロソフトの主張は受け入れられない。われわれの要求ははっきりしていた。同社が提供した資料は、われわれの要求をまったく満たしていない」と指摘する。

 そして先月の欧州第一審裁判所の判決に次のようにつながる。

 一方、マイクロソフトは、今回の決定への対応とは別に、競争法違反の判断自体について控訴している。ルクセンブルクにある欧州第1審裁判所は、4月末にこの控訴を受理しており、2004年3月の決定について検討作業を行っている。

 それから約1年後に今回の敗訴になった。敗訴を受けての談話”欧州第一審裁判所判決に関するマイクロソフトの談話”(参照)からはマイクロソフトの困惑が読み取れないでもない。またこの談話ではマイクロソフトが欧州でのシェアを進めることが欧州のメリットになる点も強調されているようだが、むしろそこで欧州側にぶつかるものがありそうだ。18日の日経新聞記事”マイクロソフト独禁法問題、欧州委員「シェア低下期待」 ”(参照)より。

 米マイクロソフトの独禁法違反に絡んで、クルス欧州委員(競争政策担当)の発言が波紋を呼んでいる。17日の記者会見で「(マイクロソフトの)市場シェアの著しい低下に期待する」と語った。公正な企業間競争の条件を整える独禁当局が特定企業のシェア低下を求めた格好で、中立性を欠くという批判が集まりそうだ。

 そのあたりはEUの本音なのかもしれない。いや、普通はそう考えるだろう。
 さて、これで今回の欧州第一審裁判所判決に至ったわけだが、その前にこの司法の仕組みはどうなっているのだろうか? ベースとなるのは、欧州共同体競争法だ。ウィキペディアの同項目(参照)より。

欧州共同体競争法(おうしゅうきょうどうたいきょうそうほう)は、欧州連合 (EU) 域内における大企業や国家などの経済主体による市場に対する圧力を規制する法体系。競争法はアメリカ合衆国では反トラスト法、日本では私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)がこれに相当するが、EC競争法、EU競争法などとも称されるこの法体系はEUにおいて重要とされる政策分野とされ、域内市場の成功を確保し、これはすなわち国境線という障害のないヨーロッパにおいて労働者、商品、サービス、資本を自由に流れさせることを意味する。

 単純に言えばEU全体で適用される独禁法だが、と言ってみて、すげー巨大なもんだなとあらためて驚く。
 この下位の項目に「優越性と独占」がありここでマイクロソフトのケースへの言及がある。

またある商品に別の商品とあわせて販売することも不正とされ、これは消費者の選択肢を狭め競合相手の販売経路を奪うこととされる。この事例に挙げられるのはマイクロソフトと欧州委員会の間での紛争があり[22]、Microsoft WindowsプラットフォームにWindows Media Playerをバンドルしていたことに対して4億9700万ユーロの制裁金の支払いを命じた。

 これだけ読むと当たり前のことじゃないかと思えるのだが、ではEU外ではどうなのかということと、実際にそれを禁じるというとき、現代のIT技術の現場に何が起きるかというのはそう簡単ではない。
 次にその権限なのだが欧州委員会にある。

EU競争法を執行する権限を持つのは欧州委員会であり、運輸のような一部部門における政府補助はさまざまな部局が担当しているが、一般的に担当するのは競争総局である。2004年5月1日、EU競争法による取り締まりの機会を増やす目的で、反トラストに関する法制度の権限が各国の公正競争管轄庁や裁判所に分散化された。

 ここから欧州第一審裁判所への手順が私にはよくわからないのだが、欧州第一審裁判所についてはウィキペディアに簡素な解説項目がある(参照)。

欧州第一審裁判所(おうしゅうだいいっしんさいばんしょ、独:Europaisches Gericht erster Instanz、仏:Tribunal de premiere instance des Communautes europeennes)は、1989年に設立された欧州連合(EU)の裁判所。欧州司法裁判所に併設されており、特定の分野に関する紛争の第1審を行い、控訴された場合は案件を欧州司法裁判所に送る。


第一審裁判所の設立によって2審制が導入され、第一審裁判所で扱われた案件はすべて欧州司法裁判所に上訴することができるが、このときは法律の解釈のみが争点となる。

 マイクロソフトは今後どうなるのだろうか。今回、私にとって意外だったのは先の朝日新聞記事にあるビスタへの言及だった。

EUの裁判は二審制で、MSは欧州司法裁判所に控訴できる。一方、EU競争法では、違反が繰り返された場合に制裁金を倍増できる規定があり、欧州委はMSへの制裁金を10億ユーロ近くに引き上げる可能性がある。新基本ソフト「ビスタ」が競争法違反に問われることも考えられる。

 2004年の訴訟が「ビスタ」にまで影響するものだろうか。この部分の指摘は朝日新聞のフカシなのだろうか。なんとなくだが、流れをまとめてみると、EUはマジだぜっぽいので、あり得ないことではないだろう。というか、そのあたりも焦点のようでもあり、冒頭に戻るが、わからないなという印象になった。
 この点、コンピュータワールドの今回の記事も示唆深い。”マイクロソフト、欧州委との反トラスト法違反控訴審で敗訴”(参照)より。まず、この記事によると、多分に米国側の視点という偏向もあるのではないかと想像されるが、敗訴を想定していなかったようだ。

 今回の判決は多くの関係者にとって驚きだった。欧州で2番目に高位の裁判所である第1審裁判所は、同裁判における2つの主要ポイントについて、欧州の反トラスト法を担当する規制担当官を全面的に支持したからだ。大方の予想では、複合的な評決になると思われていた。

 今後の出方についてのマイクロソフト側の発言もある。

 マイクロソフトの主席顧問弁護士であるブラッド・スミス氏は、「判決には失望している」と語ったが、欧州司法裁判所に上訴するかどうかは未定だとして言及を避けた。上訴したとしても、先の判決を覆すことは難しく、単に法解釈をめぐる議論に終始する可能性が高いからだ。

 この点については、ウィキペディアでの解説と整合があり、見通しとしても正しいだろう。つまり敗訴決定。ただ、判決を覆すことが難しいということよりも、この判決のスコープのほうが問題になってきている。

 「17日の判決は、Windows OSに各種アプリケーションをバンドルするというマイクロソフトの戦略に影響を及ぼすだろう」と同氏は述べている。

 ここではビスタへの言及はない。だが、ビスタでもアプリケーション・バンドルは依然続いている。バンドルという手法が、技術開示の要請とともにクローズアップされている。
 話を米国での受け止めの一例に移す。同日付けでAFPに興味深い記事があった。問題はマイクロソフトだけではないとする反発だ。”マイクロソフトへのEU独禁法違反判決に米業界が一斉反発”(参照)より。

 業界団体Association for Competitive Technology(ACT)のJonathan Zuck会長は、判決について「知的財産権保護を不確定なものとした。大小に関わらず全ハイテク企業にとっての暗黒時代の幕開けだ」と非難する。
 米ロビー団体Citizens Against Government WasteとTaxpayers’ Allianceも、「判決は全世界における技術革新の流れに歯止めをかけるものだ」とする共同声明を発表した。
 全米商工会議所(US Chamber of Commerce)は、独禁法への対応が多様化することで多国籍企業の戦略が困難になるのではと懸念する。

 米穀業界での受け止めのポイントはバンドルというより、IT技術情報の開示の決定権をEUが持つことへの反発として理解していいように思う。が、私のそういう受け止め方でよいのか、あまり確信はない。
 つまり問題は何なのか。
 先の今回のコンピューターワールドの記事は、EU側の業界団体ECISの弁護士トーマス・ビンジの発言で締めている。

 ビンジ氏は、この判決がすべての成功企業にとって脅威になるのではないかという懸念に対し、マイクロソフトの場合は超独占企業という点で、きわめてまれなケースにすぎないと反論する。
 「裁判所の支持を取り付けたことで、欧州委員会は他のITベンダーに対しても法的措置を講じられるようになった。グーグルが検索市場を独占している点やダブルクリックを買収する計画についても何らかの対策がありうるが、マイクロソフトのケースとは細かな部分でだいぶ異なる。マイクロソフトの敗訴が本当に大きな影響を及ぼすのは、マイクロソフトに対してだけだ」

 この問題は、マイクロソフトという特定企業の問題なのだろうか。それとも情報技術産業の根幹に関わることなのか、あるいは、米国と欧州という大きな共同体間の齟齬なのだろうか。
 これまで米国においてマイクロソフトという一企業が同種の問題を抱えつつも切り抜けてきたということは、明確に欧州対米国という対立の構図も含まれていると見ていいだろう。その場合、どう考えたらいいのか。欧州が正しいのか、米国が正しいのか。あるいは共存できるのか?
 この件について、ニューズウィーク日本版(10・10)のPerscopeに、考えようによってはぞっとする記事があった。表題が物語るだろう、”米国ルールはもう通用せず”。多少荒っぽい話ではあるが大筋は正しいのだろう。

 経済だけでなく、法制度の分野でもアメリカは力を失いつつあるようだ。先ごろ、欧州委員会による独占禁止法違反の判断を不服とするマイクロソフトの訴えを、欧州司法裁判所が退けたのがその証拠だ。
 独禁法の生みの親はアメリカだが、今回、EU(欧州連合)の裁定が米ソフトウエア企業の世界市場支配を制止することになる。また、ヨーロッパは独禁法を巡る裁判の場としての地位も確立。カリフォルニアに本社を置くアドビシステムズは、マイクロソフトに対する訴えをブリュッセルで起こした。


 専門家によれば、アメリカのサブプライム問題で損害を受けた欧州の人々は、裁判をアメリカ以外で起こそうとしている。苦労するのはマイクロソフトの弁護団だけではないようだ。

 EU内の市場であれば、その利害の判定については、EUな俺様が強いんだぜということなのだろう。
 そんなことが可能なのは、EUがある一定の市場規模を持っているからであって、そうした俺様的正義は囲い込みできる市場の規模によるのではないか。なんだかグレートゲームみたいだ。
 話が荒っぽくなってきたが、日本の立ち位置についてはどうなる? いや、あまりに些細なことなので、別段コメントを要さないだろう。


追記(2007.10.23)
 マイクロソフトは上訴しないことでこの裁判はEUの勝訴に終わった。
 ⇒asahi.com:米マイクロソフト、独禁法違反で上訴せず EU勝利 - 国際


 米マイクロソフト(MS)による欧州連合(EU)独占禁止法違反事件で、EU欧州委員会は22日、MSがライバル社に技術情報を提供するなどEUの求めに従うことで合意したと発表した。MSもこの日、この件に関して欧州司法裁判所に上訴しないことを明らかにした。EUとMSの係争は04年から続いていたが、EU側の勝利で収束する。

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2007.10.04

円天の詐欺ってどういうことだったのだろう

 素朴な疑問シリーズ。というわけでもないし、べたな詐欺でしょ、こんなのに引っかかる人いるよな、くらいの印象しかなく、あまり関心もなかったのだが、円天事件、少し考えてみて、なんだかよくわからないことが多い。それでもどうでもいい事件なんじゃないかと思っていたら、被害額が一千億円とかいう話を聞いた。え?そんなに規模がでかいの、と驚いた。あるいは私がボケているだけで大した額ではない?
 一千億円とかいうニュースの例としては、東京新聞”L&G本社など捜索 出資法違反疑い 被害1000億円にも”(参照)がある。


 全国の会員約五万人から「協力金」名目で少なくとも五百億円超を集めたとされるが、今年に入り配当を停止し返金にも応じておらず、最終的な被害額は一千億円前後に達する可能性もある。捜査本部は集めた資金を協力金の配当に回す自転車操業の末、資金繰りに行き詰まったとみており、詐欺容疑での立件も視野に全容解明を急ぐ。

 5万人で500億円ということは、一人頭100万円。それで5万人というとそれほど大きな規模でもないような気がする。一千億円といっても総勢で10万人くらい。小さな小さなはてな村の郊外を含めたくらい。私の身の回り半径2クリックくらいでは円天なんて聞いたこともない。日本全体からするとそれほどでもない。でも比較に豊田商事事件を思い出すと(参照)、「被害者数は数万人、被害総額は2000億円近い」とのことだから、あの規模の半分くらいの事件か。その間のインフレ率を考えに入れると……いや、あまりあのころから日本経済変わってない、20年も前なのに。日本ってずっと停滞しているような。いやいやそれでもバブルを跨いでいるかなと関心がそれていく。
 話を戻して何の犯罪かというと、「詐欺容疑での立件も視野に」とあるので、最終的には当局は詐欺事件というふうに持ち込みたいのだろうが、切り口はというと「出資法違反(預かり金禁止)の疑い」らしい。こういうしょっぴきの手順って普通なんだろうか。というのと、こういうのって出資法違反なのか? と疑問に思うのは、当初ニュースを聞いたとき、カネがそんなに増えるわけないじゃん、バカみたいな話にひっかかる人が多いもんだという印象があったからだ。
 どのように出資法違反なのか。

 調べでは、L&Gは二〇〇一年ごろから一口百万円の協力金を募集。「三カ月で9%の配当が得られる」と年利36%の高利と元本保証をうたい、不特定多数の会員から違法に出資金を募っていた疑いが持たれている。

 そんなの虫のいい話あるわけないじゃん的常識は置いといて、べたに今回の状況を見ると、「3か月で9%の配当+年利36%の高利+元本保証」が仮にガチだったら、別になんの問題もない。疑問なのは、それって納期っていうか、その期日が来て初めて、嘘じゃんこれとなるはずなのだが、そうでもないらしい点だ。現実は、元本保証のほうのカネ返せが社会問題になってきたから、じゃってことでしょっぴいたっぽい。という理解でいいのか、このニュースがよくわからない。
 いずれにせよ「3か月で9%の配当+年利36%の高利+元本保証」ってあり得ないでしょというのが常識なんで、常識外れの人がしょっぱい目に遭うのは自由社会の自由の一部みたいなもので風船乗って夢の世界に逝った人もいた。本人の自由、ということなのかやや微妙だが。
 こんなの普通に考えれば詐欺でしょ。なのに一千億円の被害に膨れるまでほっておかれたという背景のほうが知りたい。とネットをざっと眺めると、5月ごろから、これはやっぱりタイーホでしょみたいな噂がある。そして半年近く経って国も動いたということなのだろうか。だいたいタイーホでしょという噂があってそのくらいのディレイがあるものだ、とすればあっちの件もワクテカかとかつい思うけど、まあ未来は夢のなか♪
 話がそれるが、ここまで悪徳商法が放置されたのは、どうしょっぴくかにテクニカルな問題があったということか、それほど大した事件でもないと国は見ていたか、ということなのだろう。
 話は冒頭に戻るのだが、カップラーメン食いながらぼうっと考えていて、他にもよくわかんないことがあるなと思った。
 この事件、どうも地方で問題になっているっぽい。

東京や静岡、沖縄などでは返金を求める訴訟が起こされ、一部で会員側勝訴の判決が出ている。

 東京は地方じゃないでしょは取りあえず置いておいて、なぜ静岡と沖縄なんだろ。我が第二の故郷沖縄の情報を見ていたら、9月23日沖縄タイムス社説”L&G、事実上破たん/配当停止 県内も被害”(参照)で取り上げられていた。

宜野湾市に営業所がある東京都の健康品販売会社「株式会社エル・アンド・ジー(L&G)」が、高利配当で出資を募って今年二月ごろから配当を停止させ、元金の返還にも応じなくなっていることが二十二日までに分かった。出資法違反の疑いが強く、被害は県内を含めて全国で明らかになっている。

 この社説からは沖縄だからという線は見えないには見えないのだけど、なんとなく雰囲気が想像できる感じがする。事件が全国規模というのはそうなんだろうけど、都市部というよりこの事件は地方というものの特性と関係があるのでは?
 もう一つわかんないのは、詐欺にあった人が、どちらかというと高齢者で、なんでそんなのにカネをつぎ込んでしまったのだろうか。というか、全体的に見れば、その層にこんな詐欺に注ぎ込めるカネがだぶついていたのだろうとしか思えない。やっぱりカネって、けっこう庶民に余っているんじゃないか、というか、余っているところには余っているというのが正確だろうけど。
 さらに、どうもこの円天というのは電子マネーで携帯電話から使うらしい。ということは、地方とか高齢層の人が携帯電話でショッピングとかしていたのだろうか。えー?
 いろいろ、わかんないなと思っているうちに与太まで思いついた。
 「3か月で9%の配当+年利36%の高利+元本保証」って、リアル円で考えるからありえないけど、円天という通貨で考えれば、「あかり世界」政府がシニョリッジというか通貨発行権限を持っていたわけだし、インタゲ自由自在だから、案外可能だったのではないか。いやもちろん、この奇っ怪なうたい文句が円天だからOKとかいうことが言いたいわけではない。あくまで与太話。
 ちょっと考えると面白いんでカップ麺食っている間だけ考えてみたが、通貨も自由だし、市場の製品まで支配できるというか、べたに商品価格まで思い通りに統制できるんだから、外部のリアル円とから遮断すれば、「あかり世界」政府側に物凄い利益が流れ込むようなしかけもできそうに思える。というか、そういう理念が「あかり世界」ということだったのだろう。
 顰蹙の与太話はそのくらいだが、カップ麺が底をついたむなしさで秋天を見上げるに、でも、この与太話ってドルの世界と本質的に違うのか? あるいはダイヤモンドの価格とか、石油市場の構造とか、そういうのと類似モデルなんじゃないか、とちと思った。むずかしそうなので、考えるのをやめた。

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2007.10.03

フジモリ元大統領のペルー送還メモ

 フジモリ元大統領のペルー送還について、率直なところ、わからないなと思っていた。わからないポイントを絞ると、二点ある。一点目は、他国に亡命した大統領を本国送還できるのだろうか、ということ。実際にこのケースではできたのだから、できるに違いないのだが、その理由は、チリの現政権とペルーの現政権の関係性をベースにしている特例ではないのか。であれば、それは国際慣例のようなものからは逸脱するのではないか。
 もう一点は、フジモリ元大統領には日本国籍があるはずでこのような送還を日本国は許すのだろうか。いや、許す許さない以前に日本国はこうした問題にどういう視点を持っているのだろうか?
 もうちょっと率直に言うと、この問題をブログで触れると不要に誤解されてもういやだなというのはあったし、黙っていようと思っていたのだが、日本版ニューズウィーク(10・10)のPerscope「強制送還されたフジモリの誤算」と「元独裁者たち、覚悟せよ」という関連記事があり、一点目については、一読なるほどそういうことかと思った。そのあたりから簡単にメモ書きしておきたい。なお、後者のコラムは米国MSNサイトの同誌記事”The End of Impunity”(参照)で英語で読むことができる。日付は10月8日なのでもう一か月も前のものだ。
 フジモリと限らず一般的に、亡命した独裁者は本国の司法で捌かれることがないと、私は思っていた。慣例かあるいは外交官についてのウィーン条約のような背景があるのではないかとなんとなく思っていた。
 例えば、イラク戦争開始の際、ブッシュ米大統領はイラク元フセイン大統領に亡命のオプションを与えていた。他にも、ふと思い出すのだが、GHQが天皇に接する前の想定シナリオとして天皇が亡命を言い出す可能性があったと聞く。いずれにせよ、独裁者が亡命することで事実上の免罪をするというのは、よくあることだ。日本隣国の独裁者もそういう末路の想定がある。なので、フジモリ・ケースに限って本国送還とはなぜなのだろうと疑問に思ったわけだが、コラムのほうを読むと私の素朴な疑問はそれほど外しているというものでもなかったようだ。


 69歳のフジモリは、有罪になれば残りの人生を刑務所で過ごす可能性が高い。だが判決がどうなろうと、フジモリをペルーに引き渡すというチリの決断は、すでに国際刑事裁判の世界に波紋を起こしている。

 ということで、波紋はあったらしい。やはりそうか、と思ったが、日本にはそういう波紋はないのか私が知らないのかあまり聞かなかった。
 コラムを読み進めると、フジモリ・ケースは、国際司法の見解としては特例ではないと言えるらしい。

 実はフジモリの本国送還は、世界の司法の潮流に沿った最新の事例に過ぎない。かつての独裁者や軍幹部が法の裁きを免れることがむずかしくなってきているのだ。

 ということで特例ではないのだという解説が続く。だがその解説は私にはこれも率直に言ってそれほど説得力を感じない。というのは、ピノチェット・ケースについてこう触れられているからだ。

最終的にはトニー・ブレア前首相が、健康上の理由でピノチェットを本国に送還する決定を下したため、イギリスで彼を追訴することはできなかった。
 それでも英上院は、他国の元国家元首がもつ不逮捕特権は本国で重大な人権侵害を行った場合には適用されないと判断。長年の司法の慣行を覆した。

 翻訳に問題があると言いたいわけではなく、用語として、元国家元首がもつとする「不逮捕特権」の部分が気になるので原文を添える。

While the attempt to prosecute him was ultimately blocked by then Prime Minister Tony Blair's decision to send the retired general back home on medical grounds, a House of Lords ruling overturned the longstanding judicial practice of granting former chiefs of state immunity from detention in foreign nations for serious abuses perpetrated at home.

 「元国家元首がもつ不逮捕特権」の部分については、"immunity from detention..."というように文脈で表現されている。追記 なお、私はこの部分で最初"state immunity"(国家免責)という用語があるかのように理解したが、コメント欄のご指摘を受けて変更した。
 くどいけど、ここを整理すると、フジモリ本国送還は、やはり元国家元首の免責に関わる問題であるということと、にも関わらず、「重大な人権侵害(serious abuses perpetrated)」の場合は適用されない、ということだ。
 話を先に進める。私があまり説得を感じない部分だ。
 英国におけるピノチェット・ケースの場合、法的には英国で捌かれる対象の可能性があり、また上院では「重大な人権侵害(serious abuses perpetrated)」と実際上認定されたに等しいのだが、フジモリ・ケースではどうなのか。チリとペルーの関係で見るなら、チリ側に、英国におけるピノチェットのような判定はあっただろう。それは了解しやすい。問題は、日本との関わりだ。
 日本はフジモリ元大統領について国家としてそうした認定はしていない。しかも彼は日本国籍をもっているはずなので、日本国憲法による保護があるのではないか。そのあたりがわからない。
 つまり、疑問の一点目は理解できたが、二点目はどうも腑に落ちないなと思う。
 それだけのこと。くどいけど、以上書いたのは、別にフジモリ擁護とかそういう政治的な文脈ではなく、単純な疑問だなというだけのこと。なので、単純にコメントなどですっきりした回答が得られたら(外務省のこのページを読めとか)、この疑問は、それでお終い。

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2007.09.30

キルクークを併合してクルディスタンが独立するまであと二歩くらい

 不安を煽るようなエントリもどうかと思うが、これは刻々とやばい道に進み出していると思えるので今の時点で簡単にエントリを起こしておこう。イラク問題だが、朝日新聞のように大義だけを他人事のように暢気に論じて済ませるわけにはいかない難問、つまり、クルド問題だ。
 例によって日本では報道されているのかよくわからないし、事態はそれほど問題でもないという判断なのか、このニュースをブロックする要素でもあるのか。話は、イラク北部キルクーク域内のアラブ人が補償金を得て帰還するということ。なぜそれがやばいのかは順を追って説明するが、まず事実から。27日付AFP”Thousands of Iraqi Arabs paid to leave Kirkuk”(参照)より。


Thousands of Iraqi Arabs have accepted financial compensation to leave the northern city of Kirkuk, which leaders of the autonomous Kurdish region are seeking to control, a minister said Thursday.
(クルド自治区の指導者が統治を求めている北部都市キルクークだが、そこから数千人のイラク・アラブ人が退去するための財政的な補償を受け取った、と大臣が語った。)

 またロイターでは”Iraqi Arab families ready to leave Kirkuk-minister”(参照)がある。
 すでに述べたように、この補償によるアラブ人の追い出しはすでに決まっていたいことだった。冗談抜きで4月1日読売新聞記事”イラク首相、キルクーク入植アラブ人の退去に補償金 クルド人帰還へ新政策”より。

イラクの旧フセイン政権が北部の産油拠点キルクークからクルド人を強制退去させ、イスラム教シーア派などアラブ人を入植させた「アラブ化政策」をめぐり、マリキ首相(シーア派)は、アラブ人入植者の帰郷とクルド人避難民の帰還を促す新政策を実施することを決めた。

 しかし4月の時点では記事の話ははこう続いていたものだった。

ただ、帰郷は入植者の自主判断に任されていることから実効性に乏しいとみられ、クルド人勢力は反発しており、シーア派とクルド人勢力が中枢を占めるマリキ政権の分裂要因にもなりかねない。

 だが、その実効性が濃くなってきた。
 補足がてらにこの背景だが、アラブ人のキルクーク入植はフセインよってなされたものだった。

 キルクークはタミム県の県都で、アルビル、スレイマニヤ、ドホークの北部3県を領域とするクルド自治区の外に位置する。キルクークでは、1960年代に発足した旧バース党政権が石油利権確保とクルド民族運動封殺の狙いから、クルド人約30万人を強制退去。代わりにイラク南部からシーア派信徒を中心にアラブ人約20万人が入植した。現在もアラブ人入植者の多くが居住し、クルド人約10万人が依然、自治区内を中心に避難生活を続けている。

 このクルド人への弾圧では、「極東ブログ: イラク・フセイン元大統領死刑判決について大手紙社説への違和感」(参照)で触れたが「アンファル作戦」も特記されるべきだろう。
 この4月時点の読売新聞記事では触れていないが、フセインは同時にこの地の国営石油会社の要員をアラブ人に差し替え、事実上石油利権をフセイン下に直轄にしようとした。
 キルクーク自体は、現状、「クルド自治区の外に」あるのだが、ここから、アラブ人を追い出し、クルド人を帰還させるということは、この石油利権を含めて、クルド自治区が事実上独立することを意味する。
 このクルドの動向への反発が、2007 Kirkuk bombings(参照)つまり、今年7月の大規模テロの背景となる。ウィキペディアの日本版には記載がないので、7月17日読売新聞記事”連続車爆弾86人死亡 クルド人標的/イラク北部”より。

 ロイター通信によると、イラク北部の産油都市キルクークで16日、爆発物を仕掛けたトラックが爆発、近くにいた市民ら少なくとも85人が死亡、約180人が負傷した。
 爆発は市内のクルド人主要政党「クルド愛国同盟」(PUK)事務所の防護壁付近で起き、周囲の建物や多数の車両が大破。運行中のバスが炎上し、乗客らも犠牲となった。倒壊した建物内に取り残されている市民もいるとみられ、死傷者はさらに増える恐れがある。

 話を先の甘い見通しだった4月の記事に戻す。

 05年10月承認のイラク憲法で、避難民の帰還権と自治区編入をめぐる住民投票の今年中の実施を盛り込むことに成功した。だが、住民投票実施は、アラブ人入植者退去という「正常化」が前提と憲法に定められている。実際に退去が進まなければ、自治区編入に道を開く住民投票の実現が、一層不透明になるのは確実だ。

 つまりこれが「正常化」に動き出したので、いよいよクルドの独立が秒読みとまではいかないせよ、着実に進み始めた。
 なにをもたらすのか。7月の内藤正典-中東・西欧マンスリー”トルコ総選挙とイラク情勢~中東情勢激変へのターニングポイントか?”(参照)が示唆深い。話は7月時点のトルコによるPKK(クルド労働者党)掃討だった。幸いこの時点の危機はとりあえず回避されたのだが、危機のシナリオはむしろ、クルド側の問題深化による新しい展開がありえるかもしれない。

 (前略)トルコ軍のテロリスト掃討作戦には、北イラク深部への侵攻が視野に入っていることになる。想定しうる一つのターゲットはキルクークである。ここでは、12月にも住民投票で、帰属をクルド地域とするのか、アラブ・スンニー派地域とするのかをめぐる住民投票が実施される予定である。
 その結果、多数を占めるクルド人の票によって、キルクークがクルド領側に帰属することになると、同地域のトルクメン系住民(トルコ側はシンパシーを示している)の存在を無視したものとなりトルコ国内に反発が強まる。また、クルド地域が、南のスンニー派・シーア派地域とのあいだに実施的に国境線を引いてしまうことになるので、これは、イラクを統一国家として維持するという周辺国との合意を破ることになる。
 クルド自治区が独立色を強め、キルクークまでをクルド領とすれば、イラク再建は悪夢となる。最後まで安定していたクルド地域に対して、スンニー派過激勢力の攻撃が強化され、テロのターゲットはこれまでのシーア派からクルドに向かう。同時に、クルドの独立は、シーア派および隣国イランも容認しない。イランは、国境線変更を断固として拒否する姿勢を崩していない。
 そしてトルコ軍は、このタイミングになると、本格的な軍事作戦を展開し、キルクークの制圧を含めた作戦行動にでる可能性が高まる。

 当然、米国はこの問題を視野においている。
 ソースを見つけるのが手間なので記憶によるが、民主党のオバマ大統領候補が米軍のイラク撤退をぶちあげたとき、同候補ヒラリーは用心深く北部クルドでの駐留が必要になるかもしれないと言及していた。
 楽観的に言えば、キルクークのアラブ人が補償金による撤去で合意したということは、アラブ・スンニーの対立を弱める兆候かもしれない。しかし、いずれにせよ、クルドが独立の声を上げるのは来年を待たない可能性がある。

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