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2007.08.08

核兵器使用を巡る米国大統領選の一コマ

 6月末日の久間元防衛相の「しょうがない」発言は国内で話題になった。しょうがないならディアボロ・ジンジャーでも飲めというお勧めも間に合わぬ内に彼は消えた。が、あの時の発言をちょっと振り返ってみる。同日の朝日新聞記事”久間防衛相、講演で「原爆投下、しょうがない」”(参照)より。


 久間氏は「我が国の防衛について」と題した講演で、東西冷戦下で米国と安全保障条約締結を選択した日本の防衛政策の正当性を説明する際、原爆投下に言及した。
 久間氏は「米国を恨むつもりはないが、勝ち戦と分かっていながら、原爆まで使う必要があったのかという思いが今でもしている」としつつ、「国際情勢とか戦後の占領状態からいくと、そういうこと(原爆投下)も選択肢としてはありうる」と語った。

 ここで振り返ってみたいのは、久間の認識として「あの時、原爆使用という選択肢はあり得た」ということがあるとして、では、「これからも国際情勢によって、原爆使用という選択肢はあり得るだろうか?」
 この問いに久間は、もうのんびりと「あり得る」と答えるのではないだろうか。では、日本人の世論はどう答えるのだろうか? 少なくとも、久間をバッシングしてきたマスコミはなんと答えるのだろう。
 なんとなくだが、「いかなる国際情勢であっても原爆の使用は許せない」と語るのではないだろうか。しかし、それってもし語ったとしても、日本国内向けのポーズなんだなとがっくりしたのが、先日のクリントン発言だった。
 記事はAPの孫引きで共同でも流したが、まず3日付毎日新聞記事”米国:オバマ上院議員…対テロ戦争で核兵器使わぬ”(参照)を引いてみる。

 来年の米大統領選で民主党指名の獲得を目指すバラク・オバマ上院議員(45)は2日、対テロ戦争で核兵器を使用しない意向を明らかにした。AP通信に語った。ブッシュ政権は先制核攻撃を含め戦域・戦術核兵器の使用を排除しない核戦略を取っており、対抗する狙いがあるとみられる。
 オバマ氏は、アフガニスタンやパキスタンでの国際テロ組織アルカイダ撲滅を目的とした核兵器使用について「いかなる状況であれ、核兵器を使用することは深刻な誤りだ」と述べ、核兵器使用は「選択肢にはない」と明言した。戦術核の使用についても同様だ、と答えた。

 外信の基本として「AP通信に語った」というのはどうだろうか。間違っているというのではないが、少し疑問がある。が、先に進むとして、記事では概要として、「ブッシュ政権は先制核攻撃を含め戦域・戦術核兵器の使用を排除しない核戦略を取っており、対抗する狙いがあるとみられる」とした。一見合っているかのようだが、このまとめでいいのだろうか。
 具体的にはオバマは核兵器を使用しないと宣言したに等しいというのはとりあえず事実としてもよい。
 この発言に対して、クリントンが対抗の発言をした。

 オバマ氏の「核不使用」発言について、ライバルのヒラリー・クリントン上院議員(59)は「大統領は核兵器の使用や不使用についての議論には慎重であるべきだし、発言も慎重であるべきだ」とけん制した。

 クリントンも民主党なので、この発言は、この時点で、ブッシュ政権と民主党が核戦略において必ずしも対立してないことを意味していることになるはずなので、先の概要は少し外しているだろう。
 記事は「両氏の論戦は次第に緊張感が高まっている」と結び、当のクリントン発言については言及していない。クリントンが言ったことは、米国は民主党でも核兵器を使う可能性はあるということなのに。つまり、久間発言の含みと同じとも言える。
 共同ではブッシュ政権との対立といった概要はなく、ある意味でベタな事実を伝えているのだが、多少印象が違うかもしれない。3日付”今度は核兵器論争 オバマ、クリントン氏 ”(参照)より。

これにかみついたのがクリントン氏。同日の記者会見で「大統領は核兵器使用の是非を論じることに常に慎重でなければならない」と指摘。「冷戦以降、歴代大統領は核抑止によって平和を維持してきた」などと述べ、オバマ氏との見解の差をアピールした。

 クリントンは、核は有効であるという信念を持っていることがここから伺える。
 さてその後、このニュースは国内から消えた。核兵器に敏感な日本人なら、この論争を米国民がどう受け止めたかが気になるところだが。
 どうだったのだろうか。
 推測できるのは、今日付のCNN”ヒラリー氏、オバマ氏との差を広げる 米世論調査”(参照)だ。

調査は3-5日、民主党寄りの有権者490人を対象に実施された。その結果、ヒラリー氏の支持率は48%と、3週間前の前回調査から2%上昇。オバマ氏は26%で前回から2%下落し、ヒラリー氏の差が22ポイントに開いた。3番手のジョン・エドワーズ元上院議員は12%。


民主党支持者や民主党寄りの無党派層は、テロ対策やイラク政策などでヒラリー議員の方を好感している。

 クリントンによる核兵器支持とも取れる発言の影響について直接的な言及はないものの、概ね米国民に支持されていると見てよいのではないか。
 ところで当のニュースはどういうものだったのだろうか。3日付けロサンゼルス・タイムズ”Nuclear reaction to Obama's remarks”(参照)からはメディアを介した対話だったように受け止められる。

New York Sen. Clinton smiled Thursday when she was read Obama's comments during a Capitol Hill news conference.
(ニューヨーク・クリントン上院議員は木曜日、キャピトル・ヒルズでのニュース会議でのコメントを読み、微笑んだ。)

"I think that presidents should be very careful at all times in discussing the use or non-use of nuclear weapons," she said.
(「大統領たる者は核兵器使用の是非を論じることに常に慎重でなければならないと私は考える」と彼女は言った。

"And I don't believe that any president should make any blanket statements with respect to the use or non-use of nuclear weapons. But I think we'll leave it at that, because I don't know the circumstances in which he was responding."
(「いかなる大統領であれ核兵器使用是非について十把一絡げの発言をなすべきではないと私は確信している。とはいえこの問題に深入りするのは避けたい、というのも私は彼の回答がどのような状況でなされたか知らないからだ。)


 どちらかというと米国のジャーナリズムが釣りをして、オバマが釣れてクリントンが余裕で交わしたということのようだ。
 その意味で、大した話題でもないと言えるかもしれないし、およそ核兵器使用の是非など門前払いになるくらい米国の世論は強いということかもしれない。これはもう、しょうが……(沈黙)。

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2007.08.07

井上「かなお」(Inouye Kanao)って知った?

 私は知らなかった。ある意味でありふれた名前なので同姓同名のかたも多数いらっしゃると思うが、この井上「かなお」(Inouye Kanao)は戦争犯罪者である。犯罪者だから悪いに決まっているという非論理的な冗談はさておき、私は彼を知らなかったし、「Inouye」は「井上」以外はないだろうと思うのでこの姓を当てるが、私としては今でもなおその正しい日本名を知らない。
 ネットをざっと調べた範囲では日本語の情報もないようだ。が、おそらく研究に値する人間だろうと思うし、私は興味を引かれた。そんな有名人、歴史に関心を持つ人なら当たり前に知っていることだということもかもしれない。そうであれば、コメント欄などで情報をいただけたらと思う。
 私が、井上「かなお」(Inouye Kanao)を知ったのは最近のニュースからである。現在の英語版のグーグル・ニュースで検索しても典型的なニュースが3点ヒットする(参照)が、ようは、最悪のカナダ人は誰か?という投票で上位ノミネートされたらしい。
 もちろん最悪のカナダ人といったら言うまでもなくピエール・トルドー(参照)に決まっているじゃないかという冗談のような結果から、さてはこのリスト作成祭も冗談かというとそうではない。ニュースとしては”Trudeau tops a worst Canadians list”(参照)があり、ここに井上「かなお」(Inouye Kanao)が現れる。


The history panel's list included prime ministers John Diefenbaker and Sir John A. Macdonald; military leaders John Reiffenstein and Sam Hughes; notorious Japanese army torturer Inouye Kanao, a.k.a. "The Kamloops Kid";
(悪名高き日本人軍拷問者井上かなお、カムループス・キッドとして知られているあいつだ)

 「カムループス・キッド」という名前なら、「ははぁ、あいつだな」とわかるものだろうか。私にはわからない。どうも私だけが無知ということでもないような印象も受けるのは、”Vancouver Forum - The Kamloops Kid”(参照)にgというハンドルでこういうコメントがあるからだ。

g Posted - 9/16/2006 4:08:42 AM
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I grew up in Kamloops and had never heard this story, I wonder why
it's a sad story
(私はカムループスで育ったけどそんな話聞いたことない。なぜだろう。がっくりくる話なのに。)

 このフォーラム、つまり掲示板にはカムループス・キッドの概略が掲載されてはいる。

Remember the Kamloops Kid? For those that dont he was a Canadian of Japanese origin who grew up in kamloops in the 30s. He suffered alot of racist taunts and beatings from the locals so when WW2 broke out he fled to Japan and became a POW camp officer. When the Japs took Hong Kong and captured alot of allied prisoners, he singled out the Canadians for special treatment. Because of his hatred towards the they gave him the name Kamloops kid. The moral of this episode is bigotry breeds hatred so dont let history repeat itself.
(カムループス・キッドのことは忘れてないよね。日系のカナダ人で30年代にカムループスで育った。彼は人種差別の愚弄に苦しみ、その地域で迫害され、その後、第二次世界大戦勃発で日本に逃げ、戦争捕虜担当の将校になった。ジャップ(日本人)が香港を取り、連合軍犯罪者を捕獲したとき、彼はカナダ人を特別に扱った。彼が向けた憎しみゆえに、彼らは彼のことをカムループス・キッドと呼んだ。この話の倫理性は、敵対感情が憎しみを育てるということ。こういう歴史を繰り返すべきじゃない。)

 口語なのでよくわからない部分があるし、この情報が正確ではないのかもしれない。他の情報を見ると、井上かなおは、カナダ人を選び出して拷問を科してしていたようだ。死者は最低でも8人にのぼり、戦後彼は戦犯として処刑されたらしい。
 歴史考察の上で気になるのは、彼は何人だったのだろうか(つまり国籍はどこ?)、ということだ。そのあたりのきちんとした情報がわからない。日本兵なのだから日本人に違いないという議論は粗雑かもしれないのは、彼がカナダ国籍を保持していただろうからだ。また処刑に際して、カナダ政府はどう関与していのだろうか。そのあたりはどういう扱いになっているのだろうか。
 今回の最悪のカナダ人というネタからは、おそらくカナダ人としての認識されている側面もあるのかもしれないし、いくつかネットを探ると、この件について日本政府はどう考えているのかという提起もある。私としては、歴史家は彼をどう扱っているのか気になる。
 ”The Fighting 44s”というサイトに、2006年4月17日付けで、井上かなおについて興味深いコラム”Responsibility”(参照)が掲載されているのだが、そこに次の言及がある。

I read a story in the Globe and Mail about a Canadian veteran who was captured when Hong Kong fell to the Japanese in 1942.
(私は、グローブ・アンド・メール紙で、1942年日本人による香港陥落で捕獲されたカナダ老兵について読んだ。)

 これと先のフォーラムなどから察するに、昨年あたりグローブ・アンド・メール紙で井上かなおが「発掘」されたのかもしれない。
 同コラムは非常に興味深いが、あえてこのエントリでは触れないでおこうと思う。日本の戦争は、現在の日本のメディアでは、日本がアジアを侵略したという枠組みで語られることが多いが、あの戦争は日本と連合国の戦争であり、それゆえに、カナダやオーストラリアなのの視点も存在する。そうした全体像のなかであの戦争がどう見えるのか、そういう全体象の構築のなかに井上かなおというピースが収まるのかもしれない。

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