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2007.12.06

みんなでプーチンを呼び捨てにする昨今

 ロシア下院選挙について大手紙の社説が揃ったが、面白くなかった。もともとロシア下院選挙自体がつまらないから、そんなものとも言えるのかもしれないが、日本のジャーナリズムは反露というか嫌露という印象を受ける。そういえば、先日のクローズアップ現代で解説の大学の先生がプーチンプーチンと呼び捨にしていた。他国の大統領ではそういうこともないのではないか。日本のジャーナリズムは対ロシアとなると拙い感情面が出ているようだ。大手紙社説を順繰りに眺めてみよう。
 まず読売新聞社説”ロシア下院選 退任後の基盤固めたプーチン”(参照)だが、旧ソ連時代のような冷戦的な構図を描いて日本のスタンスを問うといった雰囲気だった。


 選挙結果を受け、プーチン大統領は、従来路線を継続、発展させながら、大国ロシアの真の復活を目指すだろう。その際、対外的に強硬姿勢を取る誘惑にかられる機会も増えるのではないか。
 プーチン大統領は下院選の直前、欧州通常戦力(CFE)条約の履行停止に関するロシア国内法に署名した。プーチン政権は、米国のミサイル防衛システムの東欧配備への対抗措置として、条約停止の発動をちらつかせていた。

 読売社説は識者が書いているのかわからないが、ミサイル防衛についてはプーチン大統領側から別所に基地を作ろうという提案を対米的にしている。プーチン大統領は冷戦的な構図を避けたいという対応もとっている。
 産経新聞社説”ロシア下院選 対露外交を練り直す時だ”(参照)は北方領土問題を持ち出していた。それとこの社説、「プーチン氏」を連発している。

ロシア下院選挙は予想通り、プーチン大統領の翼賛与党である「統一ロシア」が圧勝した。プーチン体制の盤石化は今後さらに進むことが確実で、北方領土問題を抱える日本は、対露戦略の練り直しを迫られよう。

 エネルギー問題のほうが近未来的な問題のようにも思うが、北方領土を持ち出さないと産経っぽくないのだろうか。

 北方領土問題では、「日本は、ロシア(ソ連)を第二次大戦の勝者だと認めよ」という強硬姿勢を強めるロシアを交渉の席に再び座らせるのは至難の業だ。しかし、これまでの歴史が示しているように必ず再びチャンスはやってくる。
 そのために、プーチン氏とのパイプづくりはもちろん、ウクライナやグルジアなど親欧米国となったロシア周辺国との関係強化に努めることも、肝要ではないか。

 この件ついては、ムネオ日記の指摘のほうが参考になる。”2007年12月3日(月) : 鈴木宗男ランド ブログ by宗援会 宗男日記から”(参照)より。

 ロシア下院選挙でプーチン与党が圧倒的勝利で3分の2の議席を獲得すると言われている。プーチン大統領の影響力がこれまで以上に強まるだろう。
 平成12年9月、プーチン大統領が来日し、会談した際「2期目に入れば力が増す。領土問題で今はあまり無理を言わないでほしい」と言われたことを想い出しながら、2期目のプーチン大統領に日本としてのメッセージ、シグナルを送れなかった外交を悔やむものである。
 一息ついて、間をおいてプーチン大統領の再登板もあるのかと思うが、どんな人が次期大統領になろうとも、プーチンを抜きにしてのロシアはない。対ロ外交が外務官僚の不作為、やる気のなさで領土問題が停滞していることは嘆かわしいことである。

 次、日経社説”プーチン後もプーチン体制のロシア”(参照)はとらえどころがない。

 政治的には米欧諸国などから強権的と批判される手法を駆使しながらクレムリン中心主義を続ける。外交ではロシアの独自性を前面に押し出し、米欧との冷たい関係をいとわないだろう。
 下院選が終わりロシアの政治の焦点はプーチン大統領が誰を後継大統領に指名するのか、さらにどのような地位に就くかという問題に移った。大統領候補としてはズプコフ首相、イワノフ、メドベージェフ両第一副首相が有力だ。プーチン大統領が退任した後に就く地位については首相、統一ロシア党首、下院議長など様々な説が流れている。
 下院選には右派勢力同盟、ヤブロコといったリベラル政党も参加したが得票率は低く、前回同様に議席を出せなかった。これら有力リベラル政党は相互に不信感が強く一つにまとまれないできた。このままでは今後も国政に全く影響力を持ち得ないだろう。

 とくに社説といった内容でもない。
 毎日新聞社説”ロシア 独裁と独善へ向かわぬよう”(参照)は拙かった。社内にロシアについて識者がいないのだろうか。

 まさに「プーチン氏のための選挙」だった。ロシア下院選は、プーチン大統領が率いる政党「統一ロシア」が圧倒的な強さを見せ、定数の3分の2を上回る議席を獲得した。これだけの議席があれば、憲法改正も大統領弾劾も思いのままだ。プーチン氏は「院政」への強力なカードを手にしたのである。
 他の与党系政党の獲得議席を合わせると、「プーチン支持派」は全体の9割近くに上る。主要国としては異様ともいえる権力の集中ぶりだ。欧米を中心に選挙の公正さへの疑問もくすぶっている。この際、プーチン政権は、欧米などが指摘する疑問に、率直に答えるべきだろう。

 基本的なことがわかっていないようだ。どこがわかっていないのか。この点については、NHKKおはようコラム”ロシア下院議会選挙”(参照)がわかりやすい。

 ただ私はプーチン一色と言う強引な選挙戦の中でどれだけの人が統一ロシアつまり大統領に投票しなかったかという点に注目してみました。
 まず投票率です。前回より8パーセント増えて63パーセント、逆に言いますと選挙を棄権した人は全有権者の37パーセントに上っています。
 今回政権側は各地の知事を総動員して投票率を上げることに必死になるとともにプーチン大統領自身もテレビ演説で投票を呼びかけました。
 民族共和国では投票率100パーセント近いと言う異常な事態も起きています。
 しかしこんな選挙には付いていけないという声がモスクワなど都市部を中心に多く、棄権は形を変えた批判票との指摘もあります。
 圧勝したとは言っても統一ロシアに投票した人は有権者全体で見ますとおよそ40パーセントです。棄権した人、他の党に入れた人を合わせますと実は有権者の60パーセントほどの人が統一ロシアに投票しなかったわけです。
 圧勝したプーチン大統領もそのことは忘れるべきではないと思います。

 ロシアの全体像がから見れば六割がプーチン大統領支持というわけではない。そのあたりにロシアの実態に接近するヒントがある。
 真打ちはどうか。朝日新聞社説”ロシア下院選 「プーチン王朝」への予感”(参照)が面白い。表題を見ていると先日の中国軍艦歓迎光臨を掲げたお仲間の毎日新聞と同じようなレベルかなと思いつつよく読むと微妙なところを突いている。

 いまのロシアには、プーチン氏がトップにいることで、さまざまな利権や権力を争う勢力の均衡が保たれている面がある。民主主義を多少ねじ曲げてでもプーチン氏の影響力を残し、秩序を温存する。そんな思惑が現体制を支える諸勢力には共通するのかもしれない。
 任期や選挙などに縛られずにプーチン体制の継続を目指すとすれば、それは「王朝」に近くなる。いかにロシア流とはいえ、民主主義とはほど遠い。

 この二段落が実は噛み合っていない。複数執筆者の思惑がねじれているのかもしれない。もちろん文章としては最後は「プーチン皇帝の王朝」だろうという下品な腐しにすぎないだが、前段とは噛み合っていない。単純な話、王朝というのは、「さまざまな利権や権力を争う勢力の均衡」の「思惑」で成り立つのだろうか? もちろん、そういうケースもあるだろうが、基本的に王朝は王権の強さから維持される。そして、日本のジャーナリズムはそうした強大な王権がロシアに誕生するのは民主主義としていかがなものか、みたいに非難しているのだ。妥当なのだろうか。
 その妥当性において重要なのは、朝日新聞社説が指摘する「さまざまな利権や権力を争う勢力の均衡」にある。
 この問題を今週の日本版ニューズウィーク記事”クレムリン 知られざる内部分裂”がすっきりと扱っていた。話を端折るが、プーチン大統領という蓋が外れれば、ロンドンを舞台に展開した奇っ怪な事件がロシア全土に広まるだろう。

 12月2日に投票が行われた下院選は、プーチンの与党・統一ロシアが圧勝する見通しだが、ロシア政治の実権を握るのは議会ではない。クレムリンとその周辺だ。
 来年3月にプーチン大統領の任期切れを控え、クレムリンの各派閥は経済利権の維持と、自分たちの身の安全の確保に必死だ。
 「大統領の庇護を失ったら、命の危険にさらされる高級官僚は大勢いる」と、あるクレムリンの元高官は指摘する。

 そして内部は明確ではないが分裂しているし、プーチン大統領もそれなりの忍耐を強いられる。

 ただし、派閥間の線引きは必ずしも明確ではない。まず外交面では、イリーゴリ・セチン、ウラジスラフ・スルコフ両大統領府副長官、ニコライ・パトルシェフFSB長官など、強いロシアをめざす孤立主義派がいる。
 プーチン大統領の反米的な発言の多くは、このグループが脚本を書いている。

 そして、対するグローバル派が存在する。

 これに対してアレクセイ・クドリン副首相兼財務相、セルゲイ・ラブロフ外相などのグローバル派は、ロシアも国際化が進む世界に適応すべきだと考えている。

 単純に言えば、ロシアの内部にグローバル派を維持させるには当面プーチン大統領を維持するしか道はない。
 日本のジャーナリズムはプーチン大統領が強権だとして批判するが、彼はその権力をもってベネズエラのチャベス大統領のような愚行はしていない。

 しかし前出の元クレムリン高官によれば、プーチンは終身独裁者になるつもりなどないという。「ロシアを軍事政権で統治するのは無理だし、後継大統領を背後から操るわけにもいかないと(プーチン)はわかっている」

 たぶん、そういうことなんだろう。

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コメント

こんばんは。領土の問題は重要ですが優先順位を思えばそうですよね。忘れてないよ~と言うか、もれなく付いてきます的なのが新聞の良い点?と言えばそんな感じなのではありすが。
ミサイル防衛に関しては大判振る舞い出来ない米国的にアゼルバイジャンに、より安定したポーランドに重要固定基地を置いたほうが一石何鳥にもなり嫌なのだと思うのですが、だからこそロシアは嫌がってるのですがそれでベラルーシに短距離のミサイル配備に動かれるとそれこそ不安定ぽくなりう~むと言った感じです。ドイツがロシアと仲良しなのでポーランドとしてはあってもいいかな感はもしかしたら有るとは思います。

投稿: abekoji | 2007.12.06 23:53

>そして、対するグルーバル派が存在する。

失礼。やはり、何か間抜けに感じてしまって……勿体無いように感じます。
「グローバル」に直した方が良いのではないでしょうか。

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.12.07 15:54

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投稿: himorogi | 2007.12.08 13:46

日経新聞12月4日付朝刊には、ロシア下院選の結果につき、『識者の見方』の欄に「ややリベラルな方向へ」と題して、下斗米伸夫・法政大教授の意見が載っています。文中のシロビキとは、治安・国防機関職員と出身者だけでなく、徴税警察関係者も含みます。

最近のロシア政局は(連邦保安局など情報機関を中心とする)「シロビキ(強硬派)」の力が強くなりすぎていた。だが今回の下院選で、これまで政権内の勢力バランスを重視してきたプーチン大統領自らが候補者名簿の第一位になった与党・統一ロシアが高い得票率を獲得。狙い通りシロビキへの流れに歯止めをかけることにある程度成功した。プーチン政権の今後の動きは予断を許さないが、経済政策でも再国有化を目指す動きをけん制し、ややリベラルな方向に進む可能性がある。地方代表で構成する上院のミロノフ議長が党首の「公正なロシア」が善戦したことも注目される。地方の力を下院に反映させたい大統領の意向が働いたといえる。

投稿: tokuryu | 2007.12.08 21:30

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