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2007.12.28

ブット暗殺、雑感

 昨晩ふと海外ニュースを見るとブット殺害で騒ぎ出しているので、国内ニュースを見るとまだ死亡確定ではなかった。日本時間では深夜になったので報道社の担当対応が薄いのだろうか、このまま明日を迎えるかと思い、とりあえずTwitterに一言書いたらら、ばたばたと国内報道が出た。
 ブットの暗殺には驚いた。先日の帰国時の大規模テロで多く支持者を殺害され、彼女自身は奇跡的に生き延びたとはいえ死の覚悟はできていただろう。が、警戒態勢もある程度できていただろうし、殺害予告は報道されていた。そもそもブットのお膳立てをした米国がなんらかのセキュリティ警告をしているのではないかと私は思っていた。なので、ここまで酷い事態になるとは想定していなかった。
 ブットの暗殺で核保有国パキスタンはどうなるか。誰が今回の暗殺の黒幕か。そうした疑問が当然起きる。特に、ブログのように陰謀論が好まれるメディアだと黒幕論が跋扈するのはしかたがない。そうした関心をむげに否定する前に、いつもながら利害の構図を考えてみた。不謹慎な話だが、ブットの殺害で利益を得るのは誰か。話を単純にすると、一般的には今回の殺害の首謀者はイスラム教原理主義のテロ組織であろうと見られるだろう。が、ムシャラフ大統領はどのくらいそのメリットを享受するか。
 ムシャラフ側のメリットを昨晩ぼんやりと考えてみた。自分の結論から言えば、メリットはあるだろう。ただそれは政敵を排除するといった稚拙なものでもないし、彼自身の直接的な関与というものでもないだろう。メリットは以前同様国内の権力と米国や中国の支持のバランスを取るのにそれもまた都合がよいということだ。そしてこのメリットは、不謹慎な話が続くのだが、概ねパキスタンの現状の延長としての安定に貢献してしまうだろう。ムーディーズについてのロイター記事を見ると”パキスタン格付け、ブット元首相暗殺後も変わらない見通し=ムーディーズ”(参照)と表題からもわかるが。


 ムーディーズのソブリンアナリストは「これらの政治的出来事が政策の枠組みや海外からの経済援助に直接的な悪影響を及ぼさない限り、パキスタンの基本的な格付けが現時点で影響されることはない」と指摘。その上で「(経済)政策の枠組みに対するリスクバランスは引き続き不透明となるが、これはネガティブアウトルックに反映されている」と述べた。

 これも単純な話、中国は少し眉をひそめるくらいでむしろブットに好感をもっていないだろうから外交的には微動だにしないし、米国も従来どおりムシャラフ支持になるだろう。ただし米国は大統領選挙でパキスタン北部空爆を主張しているオバマなどが支持されるようになると空気は変わる。
 ではブットの殺害は歴史の一つの挿話に過ぎないことになるのか。パキスタンの民主化をどう考えるか。それはもちろん大きな問題だが、スコープの取り方が別扱いになるだろうし、国際的にはパキスタンの核が先行的な課題になる。
 もう少し短いスコープで見る。つまり、すでに「極東ブログ: パキスタン情勢、微妙なムシャラフ大統領の位置」(参照)、「極東ブログ: パキスタン・モスク籠城事件、雑感」(参照)、「極東ブログ: ブット帰国後のパキスタン情勢メモ」(参照)で見てきた流れで見ることになるが、そもそもブットの帰国は英米を中心とした国家側のお膳立てであり、ブットとムシャラフには密約があった。そのあたり、先週の日本版ニューズウィーク”ブットとムシャラフ独占激白(Two Leaders, On a Collision Course)”(12・26)で、背景には触れていないものの密約を公言している。インタビューは12月初旬である。

――ムシャラフは首相の3選禁止規定を撤廃し、あなたの首相復帰に道を開くとみられているが……
 アラブ首長国連邦での会談で私にそう言った。それを受けて、私たちは秘密協定を結んだ。

 メディアなどからはブットによるムシャラフの批判が聞こえてくるものの、この秘密協定は依然二人の間で生きていたと見ていいだろう。おそらくブットのセキュリティについてもそのあたりから僅かに脇の甘さもあったのかもしれない。

――10月に帰国したとき、暗殺を恐れる気持ちはあったか。
(警告は)あったが、私は単なる脅しだと思っていた。過激派は以前にも私を殺そうとしたことがあるが、まさかカメラの行列の前でやるとは思わなかった。

 問題はムシャラフ側で、彼自身がこの協定を覆すためにブットを葬ったかだが、ムシャラフという人の受け身的な動向とバランス感覚を見ている限り、その筋はないだろう。自分の手は汚さないタイプでもあり、それが逆にやっかいな状況を招いてきた。
 ムシャラフ側とし見れば、ブット暗殺に傾く分子はあっただろう。ブットはかなりディープな状況認識を語っている。もちろん彼女が置かれた状況、つまり父ブット大統領の殺害への怨恨感もあるだろうが。

問題の根は、ジアウル・ハク元大統領にある。ハクはパキスタン国内にムジャヒディン(アフガニスタンのイスラム系武装勢力)の支援体制を作り上げた。与党もその体制の一部だ。
 彼らはイスラム過激派に対する支援の中核となり、過激派の友人になった。30年前から続く絆を今さら断ち切れるだろうか。

 問題の根幹はここにあるとまで言ってよいか私にはわからない。それでもムシャラフ側は過激派勢力とつながっているし、やや放言めくのだが、今回のブット暗殺はムシャラフへの脅しの意味合いもあるだろう。そうでなくても彼は軍服を脱ぐことにためらっていた。
 ブットの暗殺によって1月に予定されていた総選挙の動向が危うくなりつつある。が、この構図もブットが暗殺されたからというより複雑な背景がある。シャリフ側の問題が大きいように思えるからだ。
 つまり、総選挙の点においてはブットとムシャラフは近い立場にいた。選挙ボイコットを推進していたのはシャリフ派の一部であり、今回のブット暗殺によってその勢力も息づくことになる。
 現時点で1月の選挙が実施されるかは不明だ。実施されたとしても形骸的なものだろうし、シャリフ派やその背景にある力がどう現在の権力バランスに影響するのかが気になる。
 これも酷い言い方になるのだが、パキスタン情勢は、民主化という文脈より、ムシャラフの綱渡り的なバランスに対してシャリフの背景となる国際的な動向に注視すべきなのだろう。

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コメント

失礼します。僭越ながら、目に付きましたので添削をしてみました。

>――ムシャラフは首相の3選禁止規定を撤廃し、あたの首相復帰に道を開くとみられているが……

>――ムシャラフは首相の3選禁止規定を撤廃し、あなたの首相復帰に道を開くとみられているが……

氏の文意に適った訂正かと存じますが、いかがでしょうか?

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.12.28 15:11

 「あたの首相復帰」って、なんだか北斗の件みたいでパチンコ風味ですね。世紀末救世主に助けて貰わないと駄目なんですかね?

投稿: 渡辺裕 | 2007.12.29 23:23

「あたの首相復帰」って、なんだか北斗の件みたいでパチンコ風味ですね。世紀末救世主に助けて貰わないと駄目なんですかね?・・・

お前・・・馬鹿だなあ!!・・・

投稿: geo | 2007.12.30 00:05

何度も読んだのですが
頭が弱くいまいちわかりません...


ブット元首相はなぜ殺されたのでしょうか

また殺した人たちは
何の目的に殺したのでしょうか

簡単に教えてください

投稿: ABC | 2007.12.30 01:15

「極東ブログ: パキスタン情勢、微妙なムシャラフ大統領の位置」、
「極東ブログ: パキスタン・モスク籠城事件、雑感」、
「極東ブログ: ブット帰国後のパキスタン情勢メモ」、
「ブット暗殺、雑感」
を参考に(!?)させていただいて、おちゃらけを書きました。


>「れ」のつもりで書き出したのが、クレームがついて、隣国へ送り込むために国軍がもともと支援してきた「ね」が、帰国してきた元首相を襲撃してしまった。「れ」の国も「ね」には手を焼いてるのだから、はやく武装解除すべき。

「れ」の国ってのは、インド・合衆国と対峙してるあの国のつもりです。

われながら、わけわかんないな。

投稿: haineko2003 | 2007.12.30 11:32

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