小沢民主党辞任問題で些細な床屋談義でもしてみるか
小沢民主党辞任がらみのウラについて少し素人の推測をしてみよう。あくまで一線踏み出した推測に過ぎないのでご関心のあるかたは適当に、つまり床屋談義程度に受け止めてほしい。
今回のどたばた騒ぎには、福田と小沢に加えて、読売新聞という大きなプレーヤーが介在した。もちろんその背景の勢力も存在する。昨日の小沢の辞任発言では、朝日と日経以外という限定で日本のジャーナリズムに向けた怒りが含まれていた。なぜ朝日と日経なのか。怒りの対象として読売を名指ししなかった点も興味深い。詳しく見ていくと日経なども読売のフカシをフォローしており、報道に慎重だったのは朝日とNHKであったようにも見える。もちろん小沢の勘違いはあるかもしれないし、それほど考慮した名指しではなかったかもしれない。だが昨今の新聞再編成で、読売を基軸として朝日と日経が連合していく流れで見ると、そこに朝日と日経が追従していく姿勢に釘を刺したかったのかもしれない。
読売のフカシだが、二段階構えになっていた。第一段は大連立を求めたのは小沢だという話。密談内の流れとしてそういう展開がなかったとは断言できないが、「極東ブログ: 自民党・民主党の大連立? はあ?」(参照)で見たように、従来から自民党側にその流れがあったことから考えれば、これはその勢力と読売の合作による誘導だろう。第二弾は今朝の読売新聞に上がっていた小沢副総理密約と民主党の閣僚送り込みがある。が、これは第一弾の変奏に過ぎない。
当然、今回マスメディアをワッチしてきた人々の疑念は読売の報道姿勢に向かう。そこで、今朝の一面で赤座弘一政治部長署名で”小沢氏は真実を語れ”(参照)で反論が掲載されたが、一読すればわかるが、まるで反論にもなっていない。
民主党の小沢代表は4日の記者会見で、辞任表明に続けて報道機関への批判を展開した。「私の方から党首会談を呼びかけたとか、私が自民、民主両党の連立を持ちかけた」などの報道は「全くの事実無根だ」というのだ。
党首会談は小沢氏の方から持ちかけたもので、「大連立」構想も小沢氏の提案だった、といった点は読売新聞も報道した。小沢氏の批判がこれを指すのであれば、「事実無根」などと批判されるいわれは全くない。
いずれも首相周辺をはじめ多くの関係者が証言しており、確実な裏付けを取ったうえでの報道だ。
確実な裏付けとは自民党の一派であろう。確実であるためには、当人や他方の勢力からの検証も必要になる。一方が不利になる謀略に加担するのを避けるのはジャーナリズムの基本だ。その後ろめたさからこう続く。
小沢氏は「どの報道機関からも取材を受けたことはない」とも反論している。しかし、「大連立」について、小沢氏は「考えていない」と記者団に答えていた。党首会談後も、そのやり取りをほとんど明らかにしようとしなかった。
反論以前に話が噛み合っていない。
だが、このフカシ話が仮に本当だったと仮定してみよう。するとどうなるか。福田総理がリークしたということになる。つまり、読売は、福田が小沢との密談をリークしていたと報道しているに等しい。であれば、それは福田の策略だったのか? つまり小沢を陥れる罠であったと。
私はそこで吹き出す。その可能性はないと言っていいだろう。福田は安倍元総理と同じように、新テロ特措法案の問題が課題であり、小沢を陥れることがメリットをもたらすわけはない。福田には安倍元総理と同じように真摯な心情があったと思われる。
小沢の辞任騒ぎから一夜明け、関心はもっぱら民主党と小沢に向かっているように見えるのも不思議だ。というのは密談には、読売のフカシより強力な福田側の爆弾発言が仕組まれているのに、あたかも看過されているからだ。少なくとも自民党はなぜこれを問題視しないのか。福田による爆弾発言は小沢の昨日の辞任の言葉に含まれている。
そのポイントは、1、国際平和協力に関する自衛隊の海外派遣は、国連安保理、もしくは国連総会の決議によって設立、あるいは認められた国連の活動に参加することに限る。したがって特定の国の軍事作戦については、わが国は支援活動をしない。2、新テロ特措法案は、できれば通してほしいが、両党が連立し、新しい協力態勢を確立することを最優先と考えているので、連立が成立するならば、あえてこの法案の成立にこだわることはしない。福田総理は、その2点を確約された。
福田は、ここで自衛隊の海外派遣は国連のグリップに限定し、新テロ特措法案を持ち出さない、と言っている。私には、これが自民党にとって爆弾発言でないことが不思議に思える。小沢が民主党で不信任の扱いを受ける以上に、福田が自民党で不信任扱いされない理由がわからない。自民党というのは、こういう政策をのむ政党だったのか?
もちろん密談が破談した現在、福田はこの考えを撤回している。今日付のロイター”小沢代表の辞意表明に驚き、今後の民主との協議は白紙=首相”(参照)より。
小沢代表は4日の会見で、党首会談において福田首相が、国際平和協力に関する自衛隊の海外派遣は、国連安全保障理事会もしくは国連総会の決議によって設立、認められた国連の活動に限ると安全保障政策の転換を確約したと述べた。
この点について福田首相は「そういう話もあった」と認めながらも、「国連決議が出れば、何でもかんでもやることになるのか、よく詰めなければならない。国会でも議論しなければならず、時間がかかる」とした。
さらに、党首会談において、連立政権が実現するならば新テロ特措法(給油新法)の成立にはこだわらないと首相が発言したとされる点については「(給油新法を)何とか可決してほしい。インド洋における給油活動は国際協力の一環として是非やりたい」と給油新法の成立に全力をあげる姿勢を示した。
すでに態度を豹変させているもものの、福田は、自衛隊の海外派遣は国連グリップにすることと新テロ特措法案無効を模索していたことは否定しなかった。
そもそも福田は、2001年のテロ特措法成立時点で、現行法の「周辺事態」の拡張解釈で派遣を急ぐ防衛庁に対して、外務省の立場から新法案成立によって握りつぶした当の本人である。単純に言えば、テロ特措法を作ったのが福田であり、その心情は「周辺事態」を無定型に拡張していく日本の国防の在り方に懸念を強く抱いていたからだ。では福田は自身が作ったに等しいテロ特措法でよしとしていたかだが、そうではないだろう。その限定的な構造や、対防衛庁としてあの時点ではやむなしとしていただけではないか。
福田が懸念したのは「周辺事態」の拡大解釈だった。というところで、なぜ誰も疑問に思わないのだろうか。いや誰もが思ってもそれほど強い意見となって出てこないということなのだろうか。端的に言えば、福田のこの心情の背景にあるのは中国への配慮だ。そして、親中政治家という点で、福田と小沢は共通するし、まさに今回の対談の隠れたテーマは親中的な背景における対中国の国家戦略ではなかったか。もちろん、この問題は現存する日米軍事同盟との関係を持つ。
ここで読売のフカシなど爽快に忘れて密談のコアを思い出してもらいたい。「自衛隊の海外派遣は国連のグリップに限定し、新テロ特措法案を持ち出さない」という国策で誰が一番喜ぶか? どの国がそれを一番望むか? 中国であることは明白だ。
福田と小沢は対中戦略では共通の認識を持つ同士だとすら言える。とすれば、別の密約が潜んでいたのではないだろうかと疑問が沸く。
このあたりの臭いは、今朝の産経新聞社説”大連立論 まず国益ありきが前提 民主党は成熟政党に脱皮を”(参照)でも感じ取っているようだ。
詳細は発表されていないが、党首会談では自衛隊の海外派遣のあり方を普遍的に定める恒久法に関し、首相と小沢氏との間で大きな歩み寄りが生じた可能性がある。
それ自体はきわめて有意義だが、十分な説明がなされないまま、ストレートに大連立論につなげようとすることにも無理があろう。
産経の暢気な口調からすれば産経一流の国益的な流れで読んでいるように思われる。私はこれは対中戦略の枠組みではないかと思う。
ここで今回の小沢辞任について中国はどう見ているのかが気になる。昨日の共同は”「新たなパイプ」期待外れ 中国、政局行方に関心”(参照)として報道している。非常に重要だと思われるのであえて全文引用したい。
民主党の小沢一郎代表が4日、辞任を表明したことについて、中国は小沢氏に対し、日中関係での新たなパイプとしての期待感もあっただけに、国営通信、新華社が同日、至急電で速報するなど高い関心を示した。今後は日本政局の行方を注視していく方針だ。
小沢氏は、先月の中国共産党大会で政治局常務委員となり、胡錦濤指導部入りを果たした李克強氏と極めて親交が深い。李氏は小沢氏の岩手県奥州市の自宅にホームステイしたこともあるほどだ。
先の党大会では、日本政界との太いパイプを誇った曽慶紅国家副主席が常務委員から引退。中国側には、胡国家主席に続く第5世代指導者の有力候補の1人である李氏と小沢氏との関係を、日中関係改善のために活用したい思惑もあった。
誰がこのように「期待はずれ」というストーリーを流したのか不思議にも思えるが、いずれにせよ、李克強と小沢には太いパイプがある。この意味するところは、”極東ブログ: 中国共産党大会人事の不安”(参照)が参考になるだろう。簡単に言えば、北京の胡錦濤はその権力の後継として李克強を選んでいたが、今回の共産党大会で上海閥の習近平に負け形になった。すると、小沢の失脚で李克強はさらにしょっぱい目に合うということだろうか。
外務省のチャイナスクールと福田のつながりは深いが、これは中国の権力構造とどう関わっているのだろうか。また、実質北京の東京代理人的にも思えるほど心情シンパ的報道をする朝日新聞の関係はどうだろうか。現状では、朝日側からはどちらかと言えば小沢を支持するがゆえの失望で福田にも期待をつないでいるといった曖昧な印象がある。そのあたりが北京側の心情なのだろうか。
私の中国人観にすぎないが、中国人はこの程度の失脚で一度信頼した人の信頼を失うことはない。胡錦濤と李克強は小沢の復権をある意味で確信しているし、そのサポートも行うだろう。
私は今回の件では当初、小沢さんご苦労様でした感があり、小沢もがんばってもここまでかと思っていた。だが、たぶんまた小沢を中心として激震が続くのではないかと思うようになった。それを期待すべきかどうかはわからないにせよ。
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コメント
finalventさん、こんばんは、
先日、雑誌の記事で村瀬信也さんという方が書かれた論文を読みました。
あたりまえっちゃあたりまえですが、憲法9条は「戦争及び国際紛争解決の手段」として「武力行使」を否定しているだけで、個別的自衛権はもとより集団的自衛権を否定するものではないと書いていらっしゃいました。そうとらえると「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたい」とある前文との整合性もすっきりすると思います。また、「戦争及び国際紛争解決の手段」としての兵器である核や空母、戦略爆撃機などは持たないこと原則として守るべきだる、と。
今回の小沢さんの辞任は二重三重に「国防」という意識を持った決意だったのだと感じます。
その足をひっぱる奴に安楽死を、とも。
投稿: ひでき | 2007.11.05 18:08
何やってるのかわからないけど、多くの人が注目する人ってたまにいる。みんなが口々に、あいつはこんな奴だ、とか、あんな奴相手にするな、とか、あいつは凄い、とか言ってる。人気に陰りが出始めると、あれは結局何だったんだろうな、とか言われる。みんなが、「興味ないよ、もう」とか言い出した頃、考えてみようかな。私は。
投稿: itf | 2007.11.05 19:38
>テロ特措法を作ったのが福田であり、その心情は「周辺事態」を無定型に拡張していく日本の国防の在り方に懸念を強く抱いていたからだ。
これ、どういう意味かよく分かりません。テロ特措法がなぜ「周辺事態の拡張解釈」を抑止することになるんすか? 全然別問題にしか見えませんけど。
投稿: 佐藤秀 | 2007.11.05 23:05
>佐藤秀さん
インド洋での活動に周辺事態法を適用せずに特措法で対処したという前例があれば「周辺事態」の解釈に一定の歯止めをかけることになる、という意味っていう普通の理解じゃダメなんすかね。
投稿: ただの人 | 2007.11.05 23:42
インド洋が周辺なんて初耳だよ。そんな議論あったんですか?
投稿: 佐藤秀 | 2007.11.06 07:37
インド洋のことに限っていえば、地理的な日本の「周辺」というよりも、国益(主にアメリカ。ついで日本ww)に関わる「周辺」というか、そんな感じでは?
原油のこととかは、もちろんあるんでしょうが。
投稿: フィガロ | 2007.11.06 11:10
>佐藤秀さん
確実なソースじゃないですが、
http://pranj.org/Workshop/2001/workshop102501.htm
を読むと、finalventさんが仰っていることと適合的です。僕の記憶でもそうですけど。
投稿: ただの人2 | 2007.11.06 23:10
周辺事態法は911が起きた直前に成立してるんで連想して考えられただけだよ。拡大解釈も何も性質が違うんだから中国は最初から関係ないよ。拡大解釈したって中国がインド洋で何かやらかすわけでもないから関係ゼロ。
投稿: 佐藤秀 | 2007.11.07 10:05