[書評]マネーはこう動く-知識ゼロでわかる実践・経済学(藤巻健史)
藤巻さん、ユーロも外したしサブプライムも外したなあ。おそらく内容は「極東ブログ: [書評]藤巻健史の5年後にお金持ちになる「資産運用」入門」(参照)と同じだろう。これは読む必要はないか、と実は素通りだった。「マネーはこう動く 知識ゼロでわかる実践・経済学(藤巻健史)」(参照)である。
マネーはこう動く 知識ゼロでわかる実践・経済学 藤巻健史 |
本稿を執筆している九月十八日現在、サブプライムローンの問題が騒がれ、日米の株価が落ちたため、それまで絶好調だった本の売り上げが鈍り、「話が違うじゃないか」という読者のお叱りも受けた。しかし率直に申し上げて、私の判断はいまも変わっていない。
へぇ。と思って、早速買って読んでみた。副題に「知識ゼロでわかる実践・経済学」とあるように、前半は経済学的な話が比較的わかりやすく書かれていてちょっと退屈かな、いやこういう基礎はしっかり復習しておくといいかな、ああ、そうだそうだとか思って読み進めた。中学生だと難しいかもしれないけど、高校生くらいならこの本を読んでおくといいと思うなとか、ふんふん読み進めた。
「比較的わかりやすく」と留保したのは、信用創造のあたりで、具体的な数値をはめた例を示して書かれているのだけど、例えば。
通常はベースマネーが増えると、この信用創造というメカニズムを数字手、マネーサプライが増えます。100万円入れると---この例では準備率は10%だから---理論上は1000円のマネーサプライが増えることになります。理論上はベースマネーの増加書ける1/準備率という式でマネーサプライの増加が起こるのです。
経済学に親しんだ人なら頭に等比数列がすぐ浮かぶのだろうし、それほど難しい式でもないし、ケインズの乗数なんかと同じ発想なんだけど、ちょっとためらう人もいるかなと思った。他にもそういう箇所がいくつかある。値段と金利の関係などもそうかもしれない。なので、この1ランク下の解説書とかあってもいいかもしれない。それってなんだろとか少し思った。
藤巻は経済学者ではなく現場の人なので、もろに現在の経済状況に立ち向かうところが面白いし、経済学者にすると突飛な発想でも、私など素人にはほぉと思うことは多い。ブログの風景の関連で言えば、リフレ政策に関係するあたりだ。藤巻はある種自動的に資産インフレになるだろうと見ている。その理路も面白いのだが、ほぇと思ったのは、ネットのリフレ派さんは「日銀っておバカ?」みたいな議論が多いように思えるけど、藤巻はむしろ日銀の行動を合目的に見ているしそれなりに評価もしているようだった。その結果がなるほどという線を描いている。
先日の「極東ブログ: [書評]スタバではグランデを買え! 価格と生活の経済学 (吉本佳生)」(参照)でもそうなのだが、後半に入ると、ぐっとトーンが変わった印象を受ける。特に為替の議論からだ。
私は経済学を知らないので外しているかもしれないが、為替の変動について妥当な経済学の理論は存在しないはずだ。そして本書でもごく基本の経済の仕組みは踏まえているものの、このあたりからかなり実践家としての藤巻の意見がずかずかと入り込む。それが面白いといえば面白いのだが、経済学の基礎を学ぶという点からはそれてきている。別の言い方をするとこれもネットのリフレ派さんに多いように思うのだけど、経済学に忠実でも実践的な示唆はなく理論の理解の審級に拘泥してしまう、といったことは藤巻にはない。
ただなんともわからないなと思うのは、キャリートレードとかの解説だ。
最近のトピックで、キャリートレードという言葉がよく出てきます。「キャリートレードが増えている」とか、「キャリートレードを解消する」とかよく聞きます。しかしこれがまたウソなのです。
として実務経験からヘッジファンドはキャリートレードをせずドルの先物買いをするという話になる。説得力はあるのだが、こういう話はどう判断してよいのかよくわからない。
個人的な関心事としては、中国経済の未来について知りたかったのだが、本書ではほとんど言及がない。多少のクラッシュはあっても、10年スパンで中国経済の膨張が続くと見ているというふうな印象を受ける。ただそれでも、藤巻は米国ドルの優位をがんと説いているので、その配置から中国経済の今後を見るとどうなのかとは思った。そういうことろが知りたい。
藤巻のいうように日本にモデレートな資産インフレが起きるかどうか。その判断はモデレートなのでその兆候が見えてからでもいいかもしれない。私としては、ごく悲観的に、日本経済がこのまま現状硬直化してぐずぐずとして、10年したらこんなちっぽけな国家になってしまいましたとさとなるような気がするが、先日の「極東ブログ: 円天の詐欺ってどういうことだったのだろう」(参照)の事件が暗示するかもしれないように、カネはあるところにはあるので、浮かれ気分が世相を覆うと、カネ回りがよくなってということはあるのかもしれない。
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コメント
学者は暗黙裡に予測を避けるので、必然的に、理論や政策に行かざるを得ない。投資家は、予測の前では誰もが平等である事に、しびれつつ、楽しんでるので、文章が投機的になる。そのため予測が外れるときは派手に外れる。学者は間違いを避ける事に全力を注ぐ。学者の仮想敵は自分の支持する理論に反論する人たちで、投資家は現実なのだろう。現実と戦う投資家が偉いという事にならないことに注意しなければならない。やはり学者の経済のメカニズムを説明しつくそうという姿勢が、理解するための基本となるべきだろう。一部のリフレ派が、日銀が悪い、構造改革主義者は間違ってる、格差問題は構造改革とは関係ない、といった理論の単純化に走らないことを望む。
投稿: itf | 2007.10.29 11:21