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2007.10.03

フジモリ元大統領のペルー送還メモ

 フジモリ元大統領のペルー送還について、率直なところ、わからないなと思っていた。わからないポイントを絞ると、二点ある。一点目は、他国に亡命した大統領を本国送還できるのだろうか、ということ。実際にこのケースではできたのだから、できるに違いないのだが、その理由は、チリの現政権とペルーの現政権の関係性をベースにしている特例ではないのか。であれば、それは国際慣例のようなものからは逸脱するのではないか。
 もう一点は、フジモリ元大統領には日本国籍があるはずでこのような送還を日本国は許すのだろうか。いや、許す許さない以前に日本国はこうした問題にどういう視点を持っているのだろうか?
 もうちょっと率直に言うと、この問題をブログで触れると不要に誤解されてもういやだなというのはあったし、黙っていようと思っていたのだが、日本版ニューズウィーク(10・10)のPerscope「強制送還されたフジモリの誤算」と「元独裁者たち、覚悟せよ」という関連記事があり、一点目については、一読なるほどそういうことかと思った。そのあたりから簡単にメモ書きしておきたい。なお、後者のコラムは米国MSNサイトの同誌記事”The End of Impunity”(参照)で英語で読むことができる。日付は10月8日なのでもう一か月も前のものだ。
 フジモリと限らず一般的に、亡命した独裁者は本国の司法で捌かれることがないと、私は思っていた。慣例かあるいは外交官についてのウィーン条約のような背景があるのではないかとなんとなく思っていた。
 例えば、イラク戦争開始の際、ブッシュ米大統領はイラク元フセイン大統領に亡命のオプションを与えていた。他にも、ふと思い出すのだが、GHQが天皇に接する前の想定シナリオとして天皇が亡命を言い出す可能性があったと聞く。いずれにせよ、独裁者が亡命することで事実上の免罪をするというのは、よくあることだ。日本隣国の独裁者もそういう末路の想定がある。なので、フジモリ・ケースに限って本国送還とはなぜなのだろうと疑問に思ったわけだが、コラムのほうを読むと私の素朴な疑問はそれほど外しているというものでもなかったようだ。


 69歳のフジモリは、有罪になれば残りの人生を刑務所で過ごす可能性が高い。だが判決がどうなろうと、フジモリをペルーに引き渡すというチリの決断は、すでに国際刑事裁判の世界に波紋を起こしている。

 ということで、波紋はあったらしい。やはりそうか、と思ったが、日本にはそういう波紋はないのか私が知らないのかあまり聞かなかった。
 コラムを読み進めると、フジモリ・ケースは、国際司法の見解としては特例ではないと言えるらしい。

 実はフジモリの本国送還は、世界の司法の潮流に沿った最新の事例に過ぎない。かつての独裁者や軍幹部が法の裁きを免れることがむずかしくなってきているのだ。

 ということで特例ではないのだという解説が続く。だがその解説は私にはこれも率直に言ってそれほど説得力を感じない。というのは、ピノチェット・ケースについてこう触れられているからだ。

最終的にはトニー・ブレア前首相が、健康上の理由でピノチェットを本国に送還する決定を下したため、イギリスで彼を追訴することはできなかった。
 それでも英上院は、他国の元国家元首がもつ不逮捕特権は本国で重大な人権侵害を行った場合には適用されないと判断。長年の司法の慣行を覆した。

 翻訳に問題があると言いたいわけではなく、用語として、元国家元首がもつとする「不逮捕特権」の部分が気になるので原文を添える。

While the attempt to prosecute him was ultimately blocked by then Prime Minister Tony Blair's decision to send the retired general back home on medical grounds, a House of Lords ruling overturned the longstanding judicial practice of granting former chiefs of state immunity from detention in foreign nations for serious abuses perpetrated at home.

 「元国家元首がもつ不逮捕特権」の部分については、"immunity from detention..."というように文脈で表現されている。追記 なお、私はこの部分で最初"state immunity"(国家免責)という用語があるかのように理解したが、コメント欄のご指摘を受けて変更した。
 くどいけど、ここを整理すると、フジモリ本国送還は、やはり元国家元首の免責に関わる問題であるということと、にも関わらず、「重大な人権侵害(serious abuses perpetrated)」の場合は適用されない、ということだ。
 話を先に進める。私があまり説得を感じない部分だ。
 英国におけるピノチェット・ケースの場合、法的には英国で捌かれる対象の可能性があり、また上院では「重大な人権侵害(serious abuses perpetrated)」と実際上認定されたに等しいのだが、フジモリ・ケースではどうなのか。チリとペルーの関係で見るなら、チリ側に、英国におけるピノチェットのような判定はあっただろう。それは了解しやすい。問題は、日本との関わりだ。
 日本はフジモリ元大統領について国家としてそうした認定はしていない。しかも彼は日本国籍をもっているはずなので、日本国憲法による保護があるのではないか。そのあたりがわからない。
 つまり、疑問の一点目は理解できたが、二点目はどうも腑に落ちないなと思う。
 それだけのこと。くどいけど、以上書いたのは、別にフジモリ擁護とかそういう政治的な文脈ではなく、単純な疑問だなというだけのこと。なので、単純にコメントなどですっきりした回答が得られたら(外務省のこのページを読めとか)、この疑問は、それでお終い。

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コメント

はじめまして。

ちょっと訳語で気になったのですが、state immunity ではなく、former chiefs of state immunity (of detention) でひとくくりかな、と(偶にみられる head-of-state immunity みたいな)。すると、翻訳でまあ大体OKとも思うのですが、どうでしょうか?

投稿: かしわ | 2007.10.04 09:52

ありゃりゃ。誤字訂正です。
immunity of じゃなくて、immunity from でした。

投稿: かしわ | 2007.10.04 10:00

通りすがりですが、たまたま目に入ったので
grant (V) former chiefs of state (O)immunity from detention (O)
元国家元首に(O)+不逮捕特権を(O)+与える(V)

ということで、state とimmunity は、ひとつながりではないのでは?

でも、興味深く読ませていただきました

投稿: プー | 2007.10.04 15:25

かしわさん、プーさん、ご指摘ありがとうごじいました。特にプーのご指摘が正しいように思われます。該当部分のエントリを修正しました。

投稿: finalvent | 2007.10.04 20:33

それはどうも(笑)

ちなみに、翻訳がまあ大体OKというのは、immunity from detentionが不逮捕特権と必ずしもイコールではないということなんですが...
それからピノシェのケースはスペインを混ぜて語らないとちょっと...しかしスペインを語るとフジモリ氏のケースと比較がうまく出来ないし...

なんて色々いっても、釈迦に説法って感じですね。

投稿: かしわ | 2007.10.04 23:11

仮定のケースを考えてみました。

日本国籍しかもっていない山田太郎(仮名)がペルーでなんらかの凶悪犯罪を犯した後で日本に逃げてきたとします。

当然ペルー政府は日本政府に引渡しを求めるわけですが、日本政府は「犯罪人引渡し条約」がないからということで拒否します。

ところが、突然山田氏は、飛行機でチリに入国し、インターポールに国際手配されていたためチリ警察に逮捕されてしまいました。

ペルー政府はチリ政府に山田氏の引渡しを求め、チリ政府はチリ最高裁判所の判決を受け、山田氏をペルー政府に引渡し、山田氏はペルーの裁判を受けることとなりました。

さて、この場合ですが、日本政府がチリやペルーでできることは、ウィーン条約に基づく領事面接による支援だけではないでしょうか?少なくともペルーに引き渡すな、という根拠はないのではないでしょうか?外国で犯罪を犯したとされる人間を自分の国民だから引き渡せ、と仮に言えるのでれば、領事面接権などはいらないでしょうし・・・

おまけにフジモリ容疑者の場合は、ペルー国籍があるわけですね。

投稿: 山一 | 2007.10.05 23:35

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