[書評]石油の隠された貌(エリック・ローラン)
石油関連の問題をジャーナリスティックにまとめた本で、この分野の専門家による書籍ではない。この分野への関心と多少の基礎知識がないと退屈にも思える歴史の話もたらたらと続く。が、ここは考えようで、歴史好きにはこたえられない面白さがある。例えば、ドイツはなぜロシア侵攻したのか。石油を求めてというあたりは、他の地政学的な背景からそうかもしれないと思わせるものがある。
石油の隠された貌 エリック・ローラン |
例えば、こんなことは常識かと思うのだが。
私たちは、聞けば正気を失うような脆弱で、はかない世界に住んでいる。例を一つ挙げよう。世界の先進工業国が消費する石油の半分はホルムズ海峡を通過して運ばれている。この海峡は奇しくも「欧米の頸動脈」と異名をとっている。ここは一方がイラン沿岸、他方がオマーン沿岸に挟まれ、数キロメートルの幅しか無い。ここでタンカーが一隻、沈むか攻撃を受ければ海上交通はストップし、石油の供給は攪乱し市場は狂乱するだろう。
へぇとか言うようならこの本を読んだほうがいいだろう。当然だが、「欧米の頸動脈」は日本の頸動脈でもある。というか世界市場の頸動脈なのだが、逆にこう疑問を持つだろう、なぜこれが安全に守られているのか。イランがちょっとちょっかいするか威嚇すればすごく効果的になるのではないか。しかし、現在のイランはそこは手を出さない。イランがこのことに無知であるわけではないことは歴史を調べればすぐにわかる。では、国際チンピラというかテロ集団がここで何かしかけるかというと、そういう話も聞かない。静かなものでニュースもない、わけはない、今年の1月9日ここで川崎汽船の原油タンカー「最上川」と米軍の原子力潜水艦「ニューポート・ニューズ」が接触事故を起こした。なんでここに米軍がいたのかといえば、いる相応の理由があるわけだ。そして多分特措法がらみの自衛隊の活動もこの一環なのだろうと推測するが。
ついでに日本の命運は実際には台湾と一心同体なのだが、それは米軍が関わっていることで中国とも一体になってしまっている。
国防問題が専門のマー・シャオチュアン教授は、中国政府首脳と変わらぬ悪夢に取り憑かれている。中国は十年前の七倍に当たる七百万バレルの石油を毎日消費している。そして間もなく、必要な石油の六割を輸入するようになる。石油を積載したタンカーをホルムズ海峡から上海までの一万二千キロメートルの長い航海が待っている。もし台湾に危機が訪れたとしたら、このすべての海域に配備された米艦隊が即座に輸送ルートを断ち、石油の道が途絶えてしまうだろう。
日本のようにキンタマどこに落としたっけ国家ではない威厳面子の大国中国がこの状態を看過できるわけがない。しかも、台湾統一は「悲願」だろうし。というわけで、悲願達成を目指して、ついでに日本をグリップするために、パキスタンに港湾整備、ビルマにパイプライン敷設とかいろいろやっている。まあ、そんなこんな。
本書に話を戻すと、もっとも重要な主張は、世界の石油を握っているは結局サウジだということだが、そのサウジの石油は早晩枯渇するということ。確かにそれはあり得ることかもしれない。余談だが、一昨日クローズアップ現代でオイルマネーの番組があり、現地UAEに資本投下されるようになった、というしょーもないストーリーを展開していた。たぶん、今日も引き続きあるのだろうが、がというのは、オイルマネーの問題は基本的にはサウジのため込んだ膨大なカネであり、その大半がドル化しちゃってどうしようということだ。それでもユーロの比率は上がっているらしい。
サウジが枯渇しても(枯渇はしないだろうが)、ロシアはどうかというと、本書はロシアの石油は実はサウジの代替にはならない大したことないというのだ。これも、もしかするとそうかもしれないし、百歩譲ってもシベリアにパイプラインを引くだけの採算に見合うのかわからない。
そういう意味で好意的に見るなら、石油枯渇はないにせよ、石油の恒常的な高値は避けられないというのはあるし、それは避けられないのだからしかたがない。日本にしてみれば高くても買えればいいのだし、その泥沼に持ち込めば省エネ技術によって日本はまた世界に強みを持つことになる。というか、そういう戦略を取ってよいのではないかとも思える。
陰謀論的な想定が沸くのは、本書にはこんな話もあるからだ。アマゾンにある釣り文句を引用しよう。
「1973年のオイルショックは、産油国と国際石油資本との了解による操作だった」「米国は、ソビエト連邦崩壊を引き起こすためにサウジ石油を武器に使った」 これら世論を巧妙に欺いてきた石油の謎を明らかにする。
この二点なのだが、私も案外そうなんじゃないかと思いつつある。
この延長に今回のイラク戦争の話があり、本書での分析は、概ね、チェイニーがサウジを守るためだったとしている、つまり、「極東ブログ: チョムスキーとチェイニーと」(参照)の見解に近い。ただし、本書ではキルクーク油田の問題にはほとんど触れていない。また、国連石油食料交換プログラムの背後にあったフランスとロシアの動きにも触れていない。触れていないといえば、まったく触れてないわけでもないが、スーダンと中国との関わりにもあまり考察はない。意外なことに、米国が実際には中東石油にそれほど依存していない事実についても意図的なのか触れてない。
世界を動かす石油戦略 石井彰、藤和彦 |
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コメント
ロシアは石油無機起源説に基づいて技術を蓄積させてきたので、深々度から石油を無尽蔵に掘り出せる技術力があるそうです。
石油が枯渇すると言うのは、その時点での商業ベースで採算の取れる油田に限った話だそうで、現在のように石油価格の値上がりもやむなしと言う状態が続くのであれば、石油はいくらでもあるとのことでした。
実は、私、ロシアの石油会社の零細株主だったりします。
投稿: のんべえ | 2007.09.09 16:55
すごいくさいババアの乞食
これはホントに愛情込めて言うけど早めに
詫びいれないと僕は
(以下略。ヒント飛び○り・笑)
ネットでディスられてるらしい
んですね(笑)
全てエネルゲンにして
ユダヤとニダヤの日本分割統治計画
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/mineyama/seapower.html
http://www.araiart.jp/copro302a.html
http://www.araiart.jp/725.html
投稿: 幽霊会社 | 2007.09.09 19:52
石油が値上がりすれば、オイルシェールとかが引き合うようになるし、石炭液化も実用的になります。実は石炭の埋蔵量は石油に比べて膨大で、かつ遍く存在してるため国土の大きい米中は何れも大量に資源もってますが、ご存知のように中国は露天掘りできる鉱脈掘り尽くして輸入国に転落してしまいました。
日本の採鉱技術をもってすれば中国からまだまだ掘れるでしょうが。
石炭液化や公害対策以外にも日本の技術を中国に戦略的に展開する余地はまだある、と。
一方、アメリカは戦略的に石炭を温存する考えのようで、むしろ原油枯渇を望んでいる、という話も。
投稿: ■□ himorogi / neon □■ | 2007.09.10 09:26
「陰謀仮説」に敏感な地学の先生である小生には、大変勉強になりました。お前が、不勉強なだけじゃ、といわれそうですが。石油30年枯渇説は、30年前から(50年前から?)言われている、ということは教えているのですが、…
> 陰謀論的な想定が沸くのは、本書にはこんな話もあるからだ。
> アマゾンにある釣り文句を引用しよう。
…
に釣られて読むかもしれません。
投稿: SeaMount | 2007.09.10 16:28