安倍首相辞任で思い出すこと
安倍首相辞任の印象について、ごく簡単にであれ、書いておくべきだろうと思う、というくらいの話だが。
なぜ、安倍首相が突然辞任したかについては、一部予想が当たったとかいう話もあるのかもしれないが、大勢にとっては突然の出来事で、殿様の時もそうだったが、お坊ちゃんもやるなという感じだろう。私は、当初健康の問題かなと思ったし、一部では遺産相続のカネがらみのスキャンダルかという噂もある。ようするに、なぜ安倍首相が辞任したのかはミステリーといった趣向になる。
こういうときは、話をシンプルに考え直すのが私のクセなので、ちょっと別件の忙しさが一息ついたので、緊急会見の全文(参照)を読み直してみた。案外べたに辞任の理由が書いてあるのに、みんな気がつかないということもある。これは全文コピーしてもいいだろうし、後になって、えっと小泉政権の後に1年短命の政権あったよね、ああ、これこれだよね、のために。
本日、総理の職を辞するべきと決意をいたしました。
7月の29日、参議院の選挙が、結果が出たわけですが、大変厳しい結果でございました。しかし厳しい結果を受けて、この改革を止めてはならない、また戦後レジームからの脱却、その方向性を変えてはならないとの決意で続投を決意をしたわけであります。今日まで全力で取り組んできたところであります。
そしてまた先般、シドニーにおきまして、テロとの戦い、国際社会から期待されているこの活動を、そして高い評価をされているこの活動を中断することがあってはならない、なんとしても継続をしていかなければならないと、このように申しあげました。国際社会への貢献、これは私が申し上げている、主張する外交の中核でございます。この政策は何としてもやり遂げていく責任が私にはある、この思いの中で、私は、中断しないために全力を尽くしていく、職を賭していく、というお話をいたしました。そして、私は、職に決してしがみつくものでもない、と申し上げたわけであります。そしてそのためには、あらゆる努力をしなければいけない。環境づくりについても、努力をしなければいけない、一身を投げ打つ覚悟で、全力で努力すべきだと考えてまいりました。
本日、小沢党首に党首会談を申し入れ、私の率直な思いと考えを伝えようと。残念ながら、党首会談については実質的に断られてしまったわけであります。先般、小沢代表は民意を受けていないと、このような批判もしたわけでございますが、大変残念でございました。今後、このテロとの戦いを継続させる上において、私はどうすべきか、むしろこれは局面を転換しなければならない。新たな総理のもとで、テロとの戦いを継続をしていく、それを目指すべきではないだろうか。きたる国連総会にも、新しい総理が行くことが、むしろ局面を変えていくためにはいいのではないか。
また、改革を進めていく、その決意で続投し、そして内閣改造を行ったわけでございますが、今の状況でなかなか、国民の支持、信頼の上において力強く政策を前に進めていくことは困難な状況であると。ここは自らがけじめをつけることによって、局面を打開をしなければいけない。そう判断するに至ったわけでございます。
先ほど、党の五役に対しまして私の考え、決意をお伝えをいたしました。そしてこのうえは、政治の空白を生まないように、なるべく早く次の総裁を決めてもらいたい、本日からその作業に入ってもらいたいと指示をいたしました。私としましても、私自身の決断が先に伸びることによってですね、今国会において、困難が大きくなると。その判断から、決断はなるべく早く行わなければならないと、そう判断したところでございます。
私からは以上であります。
最後の一言につい渡辺久美子の声を想像してしまうが、読み直してみると、今日辞任したのは、ようするに小沢一郎民主党党首との会談が断られたからだ、ということだ。つまり、そういうことだ。
もちろん、小沢側からは、正式な会談の申し入れなんかないという回答が出ている。これは奇っ怪ということではなくて、安倍元首相側からの会談というのは、そもそも正式な会談ではなく、密談しよーぜということだった。
もう本土の人間は10年前のあの密談を忘れているかもしれないが、今回の事態は、かつて1997年4月3日、沖縄基地問題の一つ土地収用手続きの問題について、当時の新進党小沢党首と自民党橋本首相がビール片手に密談したことを思い出させる。1997年4月5日沖縄タイムス「冷めゆく“沖縄熱”」(参照)より。
●首相の焦り
沖縄問題にかかわってきた政府高官は、特措法改正が国会を通過するのを機に、中央の“沖縄熱”が一挙に引くだろうと予測する。法改正により県収用委員会の審理中は「暫定使用」が認められ、政府を悩ませてきた不法占拠の恐れがなくなるからだ。
橋本首相は「法改正ができなければ訪米できない」と漏らしてきた。米軍用地問題と同様、普天間飛行場の移設・返還の行方が不透明な中、首相は国家間公約の実施能力を問われかねず、24日の日米首脳会談を前に政府側は焦りを募らせていた。
3日の橋本首相と、新進党の小沢一郎党首との会談で、新進党の同意を得て法改正成立が確実となった。5月14日を乗り越える「その場しのぎ」との批判が新進党などから強く出されていたが、会談で「日米安保条約の履行は国が責任を持つ」ことで合意した。法改正をきっかけに、国の防衛に関しては政府が責任を持って行えるような新たな法整備に「自進連合」で取り組む下地が整ったといえよう。
「沖縄国会」は、2人の会談を境に関心が法改正論議や振興策から、保保連合、自社さ主導といった政局の枠組みへと一気に動いた。
あのとき、小沢が現在のように橋本に門前払いを食らわせていたら、もしかすると、今回の安倍元首相のように、橋本の首も飛んでいたかもしれない。当時の問題もまた、特措法に関係し、「日米安保条約の履行は国が責任を持つ」ということだった。今回安倍の首を飛ばしたのも、安保ではないにせよ、同じ構図だ。そして、違った結果になった。何が小沢を変えたかを書く必要もないだろう。
巷ではすでに麻生総理誕生かワクテカ状態になっている。が、この流れで見れば、本質的な問題は、テロ特措法を小沢がどう捌くかにかかっている。かつての橋本密談の落とし所を思い返せば、今回どんな落とし所があるかも予想が付くとも言えるし、20年来の小沢構想が火を噴くかもしれない。たぶん、後者なのだろう。その意味に、現状の寄り合い所帯の民主党が耐えられるとも思えない。この問題は、難しい。
あと、ちょっと補足めいた話だが、個人的には平沼赳夫自民党復党の時点で、自民党オワタと私は思った。終わっているのに首相がいるのは変な光景でもあるなとも思ったが、終わったのは小泉自民党であって昔の自民党はこんなものだった。それと、「極東ブログ: 2007年参院選、雑感」(参照)で、「大企業の活動は円安によって好調だ。なので、経済政策面で安倍続投というのは無言に概ね支持されているのではないか」としたが、与謝野が復活したあたりで、これもオワタになったのだろう。
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コメント
初めまして、こんばんは。
夜分遅くに失礼します。
読ませていただきました。
ついよみふけってしまいました。
それほどに大変勉強になります。
橋本さんと小沢さんの密談を例に持ってくるとは…
小沢さんがこれからどうするか?
恐らく暫し静観だとは思いますが、
出方次第では、日本の外交に新たな問題が生まれる事に…
それが良いか悪いかは別として、
民主党がどこまで小沢さんについていけるか?
ここが、自民党が見極めるべき焦点になりそうですね。
投稿: ノープラン | 2007.09.13 02:48
日本オワタ\(^o^)/にならなければ良いですね
投稿: 心太 | 2007.09.13 03:31
>小沢さんがこれからどうするか?
小沢さんの政治手法からして、今晩は大車輪で自民党切り崩しに動いてるんではなかろうか?
民主党が政権を取れるなら特措法なんていくらでも延長するでしょうからね。
投稿: 木村 | 2007.09.13 04:01
誰がやったってどっちみち首相の荷が重過ぎるんでしょう。
そういう意味では日本オワタとも言えなくもない。
投稿: cyberbob:-) | 2007.09.13 08:03
私はむしろ、麻生―与謝野ラインに仕切られてやる気なくしたんじゃないかという見方の方が説得力あるような。
http://tameike.net/comments.htm#new
つまり、安倍ちゃんとしては、麻生の奇手でつじつま合っても筋通らないのが嫌なんだよ、俺は!というところでは。
投稿: ■□ himorogi / neon □■ | 2007.09.13 11:57
つまり安陪さんには小沢との密談が決裂した事で、テロ特措法が期限までに成立しないという確信が出来たって事か。
どっち道成立しないのなら、自分が辞めてそのせいで期限切れという形にもっていった方がまだまし、という計算なのかな。
あのまま国会を開いてたら、なし崩し的に民主党にポイントを稼がれてただけだからやるだけ無駄だったかもね。
安陪さんも気力体力が充実してれば粘る気にもなったかもしれないけど、みるからにして体調悪そうだったたし。
投稿: Op. | 2007.09.13 16:17
「ロッキード陰謀論」みたいな話にならなきゃ良いですけどねえ、小沢さん。
投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.09.13 18:07
郵政民営化凍結は どうなったの?
投稿: | 2007.09.14 09:31
そこまで小沢氏が固執し、旧社会党系寄りになるのは、
裏を返せば、民主党も分裂を恐れていると言う事
のような。
ただ、それ以上の米国との密約があるが故に
お人形さんとしての福田氏が圧倒的に支持されている
んじゃないかなと見ていますが。
投稿: 通りすがり | 2007.09.22 05:30