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2007.09.20

シリアを巡る怪事件メモ

 シリアを巡る怪事件が続くのか、そういう報道が続くというだけのことなのか。いずれにせよここでもう一つフォローしていかないと、今後が見通せないことになりそうなので、ざっくりと気になるところをメモしておこう。
 まずファクト。また、レバノンで反シリア政治家が暗殺された。今日付CNN”反シリア派議員らが爆弾で死亡 レバノン”(参照)より。


 レバノンの首都ベイルート東部のキリスト教地区で19日午後5時頃、爆弾による大規模な爆発があり、反シリア派政党「フェランヘ党」でキリスト教マロン派のアントワーヌ・ガネム国会議員と、少なくともその他4人が死亡した。レバノン政府高官が語った。
 ガネム議員を標的とした攻撃とみられている。議会ではマロン派からの大統領選出が予定されているが、その前にこうした事件が起きたことについて、社会党のワリド・ジュンブラッド議員は「血塗られたメッセージ」とコメントした。議会で多数派のキリスト教勢力の議席数は69から68に減少し、「自由な大統領」を選出するうえで足かせとなる恐れが指摘されている。

 レバノンについて基礎知識のある人ならなぜこういう記事になっているかは理解できるだろうが、とりあえずウィキペディアで補足。「レバノン 政治」(参照)より。

憲法により、宗派ごとに政治権力を分散する体制が取られており、国会の議員数も各宗派人口数に応じて定められている。キリスト教マロン派は34人、イスラム教スンナ派は27人、イスラム教シーア派は27人などである。大統領はマロン派、首相はスンナ派、国会議長はシーア派から選出されるのが慣例となっている。

 レバノンでは宗派別の政治家の構成がそのまま国政に反映する仕組みになっている。
 今回の事件は、「極東ブログ: レバノン、ジュマイエル産業相暗殺を巡って」(参照)で触れたジュマイエル産業相暗殺を想起させるし、大枠の構図は変わらないだろう。さらにその背景には、「極東ブログ: レバノン大統領選挙がシリアの内政干渉で消える」(参照)がある。とはいえ、シリアがこれらの暗殺に直接関与しているかについては、依然よくわからない。
 今回の暗殺事件は、一昨日エントリ「極東ブログ: イスラエルによるシリア空爆からシリアと北朝鮮の核コネクション報道のメモ」(参照)の騒ぎの過程で起きたのも気になる。シリアという以外の文脈があるのか、これもわからない。
 イスラエルの空爆についても依然核との関連は明確ではない。が、北朝鮮との関連は19日付けCNN「北朝鮮出港の船舶のシリア到着確認、ミサイル関連材料か」(参照)で色濃くなっている。

米国防総省当局者は18日、北朝鮮を出港、シリアへ向かっていた船舶数隻を過去数週間、追跡し続け、一部は既にシリアへ到着した事実をつかんでいることを明らかにした。米軍、諜報(ちょうほう)機関の情報としている。


 その上で、入手した情報によると、運ばれていたのはミサイルもしくは固形燃料ロケット技術に使われる金属の可能性が高いとしている。また、北朝鮮からの船舶がいったんイランで荷下ろしし、シリアに陸路輸送した可能性もあるとしている。
 ただ、北朝鮮からシリアへ輸出されたのが、ミサイル関連の金属だったとしても、イスラエルの安全保障上、懸念すべき問題としている。

 核関連よりミサイル関連であるとすれば、いっそう「極東ブログ: 北朝鮮竜川駅爆破とシリアの関連」(参照)が問題になると思われるのだが、ジャーナリズムでの言及はまるで見かけない。なぜなのだろうか。
 シリア関連でもう一点気になる報道がある。シリアにおける化学兵器開発の疑惑だ。19日付けの時事”シリア化学兵器開発にイランが協力=7月の爆発事故で判明―英軍事専門誌”(参照)より。

26日付の英軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー最新号は、化学兵器開発に使われているシリアの秘密軍事施設で2カ月前に爆発事故が起き、死者の中にイラン人技術者がいたと報じた。

 当初火災として報じられたがという文脈で。

 しかし、同ウィークリーはシリア国防関係筋の話として、スカッドCミサイルにマスタードガスを搭載する実験中に爆発が起きたと指摘。ミサイル製造施設内で燃料に引火し、(神経ガスのVX、サリンやびらん性のマスタードガスを含む)化学物質が貯蔵施設内外に撒き散らされたと伝えた。死者の中にはイラン人技術者数十人が含まれ、このほかのイラン人技術者も防護服に守られていなかった身体部分に化学物質によるやけどを負い、重傷という。

 ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーの記事は、イスラエル空爆から続く一連のシリアの事件を想定して出てきたものではないので、シリアの動向について考察する上で独立した資料になりうる。当然ながら、スカッドCミサイルからは北朝鮮が連想される。ウィキペディアの同項目より(参照)。

朝鮮民主主義人民共和国は1975年から1980年代の間にエジプトから2基のスカッドCを購入し、分解調査して独力で生産する能力を獲得した。このスカッドは後に性能向上が図られ、射程1,000km以上のノドンと呼ばれるミサイルに発展した。朝鮮民主主義人民共和国製のスカッドとノドンは輸出が確認されており、イエメンなどが保有している。またミサイルと技術資料をセットで中東諸国へ売却しており、結果としてイラクのアル・フセイン、パキスタンのガウリ、イランのシャハブ、シリア、リビアの独自改良型等の多くのミサイルを生み出した。

 もしここでシリアと北朝鮮がリンケージし、しかも、サリンが関連しているとなると、事件の構図からは奇妙な想像に及ばざるをえない。
 わからないことが多いのだが、確実性の高い事も多くなっている。私としては、やはり、竜川駅爆破事件が気になるし、この一連について中国が無知であるとも思えない。悲劇的な事件を期待するものではないが、なんらかの次の事件が発生したときミッシングピースがつながる可能性はある。
 もう一点、シリアを取り巻く大枠の問題がある。これは陰謀論として語りたいわけではないのだが、どうも全体構図に関連していると思えるのでメモしておきたい。サウジとシリアの関係だ。今号(9・26)のニューズウィークPeiscape「サウジが望むシリア政権交代」に簡素ながら露骨に書かれている。サウジアラビアはアラブの地にアラブ以外の旗を掲げさせてはいけないというアブドラ国王の言葉に続けて。

 しかし、そのサウジがここにきてひそかにシリアの政権交代を望んでいるとの見方が中東専門家の間で広まっている。


 中東地域は今、アメリカ寄りのスンニ派と、イラン寄りのシーア派に分裂しつつある。親米路線のサウジやヨルダンのスンニ派がイラクやレバノンを支配下に置くことを懸念している。サウジがシリアとぎくしゃくしているのも、シリアがシーア派のイランと同盟を結んでいるからだ。

 この短い言及の背景は日本では報道されていないようだが、このところサウジとシリアの最近の外交上のぎくしゃくしたことがあった。また、「アメリカ寄りのスンニ派」には、イラク内のスンニ派も包括しつつあるのだが、これも日本ではあまり報道されていないようだ。
 気になるのはこの対立が、スンニ派対シーア派という宗教の次元なのか、スンニ派国家対シーア派国家という国家群の次元なのか、あるいはサウジ対イランという露骨な特定国家対立の構図なのか、わかりづらい。もともと明確に区別できないことかもしれないが、どうも宗教的な対立が根深いようにも思われる。
 ここで、某国際ニュース解説みたいなお話を展開する趣味はないが、先月のクリスチャンサイエンスモニターで”Anti-Saudi tide rises in Iraq”(参照)記事が連想される。8月の、シーア派によるカジミヤの聖廟での反スンニ派デモンストレーションに関連して。

The Saudi backlash is being fueled by Iraqi media reports and Shiite leaders' condemnations of apparent fatwas, religious rulings by Saudi muftis calling for the destruction of Shiite shrines in Iraq.
(サウジへの反動は、イラク・メディアのニュースとシーア派指導者によるファトワの形をとった宣言によって強まった。このファトワはサウジのムフティによる、イラク内シーア派寺院の破壊を求める宗教法である。)

But some Saudi Arabian analysts say this is a way for Baghdad's pro-Iranian leaders to steer attention away from Tehran's involvement in Iraq and toward its Sunni neighbors. In spite of questions about their authenticity, the fatwas are stirring up much of the Shiite community and is indeed coloring this year's pilgrimage.
(しかし、この話は、バグダッド内の親イラン指導者が、イラクへのイラン関与から、スンニ派諸国へ関心をそらすためだ、と見るサウジアラビアのアナリストもいる。確実性が疑問視されるにもかかわらず、このファトワはシーア派社会を混乱させ、今回の巡礼を特徴付けることになった。)


 このファトワはデマであろうが、デマによる反応はあったし、それはシーア派によるサウジへの敵意でもあった。記事でも触れているが、米国による誘導という見方も成立つかもしれないが、それによる米国のメリットは想定しづらい。

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コメント

>米国による誘導という見方も成立かもしれないが、それによる米国のメリットは想定しづらい。

 あるかないかで言えばあるでしょうけど、メリットの想定という面から言えば、無くても(当面見えなくても)やることはある、としか言いようがないのでは。
 意外と損得勘定抜きの義理人情だったりするかもしれませんね。

投稿: 渡辺裕 | 2007.09.20 20:44

モサドとCIAが暗躍してるのだけは想像できた。

年末にドーハラウンド合意。その後日本でテロ。北朝鮮戦争勃発、てな流れでゴー。

投稿: cyberbob:-) | 2007.09.21 07:46

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