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2007.08.07

井上「かなお」(Inouye Kanao)って知った?

 私は知らなかった。ある意味でありふれた名前なので同姓同名のかたも多数いらっしゃると思うが、この井上「かなお」(Inouye Kanao)は戦争犯罪者である。犯罪者だから悪いに決まっているという非論理的な冗談はさておき、私は彼を知らなかったし、「Inouye」は「井上」以外はないだろうと思うのでこの姓を当てるが、私としては今でもなおその正しい日本名を知らない。
 ネットをざっと調べた範囲では日本語の情報もないようだ。が、おそらく研究に値する人間だろうと思うし、私は興味を引かれた。そんな有名人、歴史に関心を持つ人なら当たり前に知っていることだということもかもしれない。そうであれば、コメント欄などで情報をいただけたらと思う。
 私が、井上「かなお」(Inouye Kanao)を知ったのは最近のニュースからである。現在の英語版のグーグル・ニュースで検索しても典型的なニュースが3点ヒットする(参照)が、ようは、最悪のカナダ人は誰か?という投票で上位ノミネートされたらしい。
 もちろん最悪のカナダ人といったら言うまでもなくピエール・トルドー(参照)に決まっているじゃないかという冗談のような結果から、さてはこのリスト作成祭も冗談かというとそうではない。ニュースとしては”Trudeau tops a worst Canadians list”(参照)があり、ここに井上「かなお」(Inouye Kanao)が現れる。


The history panel's list included prime ministers John Diefenbaker and Sir John A. Macdonald; military leaders John Reiffenstein and Sam Hughes; notorious Japanese army torturer Inouye Kanao, a.k.a. "The Kamloops Kid";
(悪名高き日本人軍拷問者井上かなお、カムループス・キッドとして知られているあいつだ)

 「カムループス・キッド」という名前なら、「ははぁ、あいつだな」とわかるものだろうか。私にはわからない。どうも私だけが無知ということでもないような印象も受けるのは、”Vancouver Forum - The Kamloops Kid”(参照)にgというハンドルでこういうコメントがあるからだ。

g Posted - 9/16/2006 4:08:42 AM
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I grew up in Kamloops and had never heard this story, I wonder why
it's a sad story
(私はカムループスで育ったけどそんな話聞いたことない。なぜだろう。がっくりくる話なのに。)

 このフォーラム、つまり掲示板にはカムループス・キッドの概略が掲載されてはいる。

Remember the Kamloops Kid? For those that dont he was a Canadian of Japanese origin who grew up in kamloops in the 30s. He suffered alot of racist taunts and beatings from the locals so when WW2 broke out he fled to Japan and became a POW camp officer. When the Japs took Hong Kong and captured alot of allied prisoners, he singled out the Canadians for special treatment. Because of his hatred towards the they gave him the name Kamloops kid. The moral of this episode is bigotry breeds hatred so dont let history repeat itself.
(カムループス・キッドのことは忘れてないよね。日系のカナダ人で30年代にカムループスで育った。彼は人種差別の愚弄に苦しみ、その地域で迫害され、その後、第二次世界大戦勃発で日本に逃げ、戦争捕虜担当の将校になった。ジャップ(日本人)が香港を取り、連合軍犯罪者を捕獲したとき、彼はカナダ人を特別に扱った。彼が向けた憎しみゆえに、彼らは彼のことをカムループス・キッドと呼んだ。この話の倫理性は、敵対感情が憎しみを育てるということ。こういう歴史を繰り返すべきじゃない。)

 口語なのでよくわからない部分があるし、この情報が正確ではないのかもしれない。他の情報を見ると、井上かなおは、カナダ人を選び出して拷問を科してしていたようだ。死者は最低でも8人にのぼり、戦後彼は戦犯として処刑されたらしい。
 歴史考察の上で気になるのは、彼は何人だったのだろうか(つまり国籍はどこ?)、ということだ。そのあたりのきちんとした情報がわからない。日本兵なのだから日本人に違いないという議論は粗雑かもしれないのは、彼がカナダ国籍を保持していただろうからだ。また処刑に際して、カナダ政府はどう関与していのだろうか。そのあたりはどういう扱いになっているのだろうか。
 今回の最悪のカナダ人というネタからは、おそらくカナダ人としての認識されている側面もあるのかもしれないし、いくつかネットを探ると、この件について日本政府はどう考えているのかという提起もある。私としては、歴史家は彼をどう扱っているのか気になる。
 ”The Fighting 44s”というサイトに、2006年4月17日付けで、井上かなおについて興味深いコラム”Responsibility”(参照)が掲載されているのだが、そこに次の言及がある。

I read a story in the Globe and Mail about a Canadian veteran who was captured when Hong Kong fell to the Japanese in 1942.
(私は、グローブ・アンド・メール紙で、1942年日本人による香港陥落で捕獲されたカナダ老兵について読んだ。)

 これと先のフォーラムなどから察するに、昨年あたりグローブ・アンド・メール紙で井上かなおが「発掘」されたのかもしれない。
 同コラムは非常に興味深いが、あえてこのエントリでは触れないでおこうと思う。日本の戦争は、現在の日本のメディアでは、日本がアジアを侵略したという枠組みで語られることが多いが、あの戦争は日本と連合国の戦争であり、それゆえに、カナダやオーストラリアなのの視点も存在する。そうした全体像のなかであの戦争がどう見えるのか、そういう全体象の構築のなかに井上かなおというピースが収まるのかもしれない。

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コメント

Never Forgotten - The Story of the Taiwan POW's
http://www.powtaiwan.org/index.html
http://www.powtaiwan.org/links.html

Burma Star Association - War Against Japan - Burma Campaign
http://www.burmastar.org.uk/
Part Played by the Chinese Canadians
http://www.burmastar.org.uk/chincan1.htm
Chinese Canadian Military Museum Home Page
http://www.ccmms.ca/

Force_136
http://en.wikipedia.org/wiki/Force_136

BACKGROUND OF THE PRESIDENTIAL UNIT CITATION
FOR THE MILITARY INTELLIGENCE SERVICE (MIS)
http://www.cbi-history.com/part_vi_puc_mis.html

U.S. Army Special Operations in World War II
http://www.army.mil/cmh-pg/books/wwii/70-42/70-42c.htm
Special Operations in the China-Burma-India Theater
http://www.army.mil/cmh-pg/books/wwii/70-42/70-425.html

Japanese American Veterans Association
http://www.javadc.org/main.htm

OSS Detachment 303
http://www.javadc.org/morimitsu%20-%20delayed%20recognition%20in%20the%20cbi%20theater.htm

WWII MIS veterans + Nisei in Military Intelligence Hall of Fame
http://www.javadc.org/index3.htm


投稿: msx | 2007.08.07 23:24

MSX様が多くの情報を提供されているので、もう充分かと思いますが、2つほど、Amazonでも買える文献を。

http://books.google.com/books?hl=en&lr=&id=nWymRTzz1ncC&oi=fnd&pg=PR9&dq=Inouye+Kanao&ots=RNEyhfcItU&sig=iWZkMoipnK1vp1gRKBCsjdifbhA

http://muse.jhu.edu/login?uri=/journals/journal_of_the_history_of_medicine_and_allied_sciences/v057/57.2fabbri.html

↑上記の『Long Night's Journey into Day: Prisoners of War in Hong Kong and Japan, 1941-1945』

以上、2点は、比較的、新しい研究ですが、この中に、裏切りものの、捕虜監視、及び、日本語、通訳者として、出てきます。

ただ、上記2点は、歴史考察なのですが、主に、戦争捕虜の扱いが、どのようなものであったのかというところに、視角を当てている感じですね。ですので、「井上かなお」たる、人物像にせまるものではありません。

情報不足、勉強不足で、申し訳ありません。

投稿: forrestal | 2007.08.08 02:25

Remo Fabbri - Long Night's Journey into Day: Prisoners of War
the traitorous interpreter Kanao Inouye
 ↓
Project MUSE
http://muse.jhu.edu/login?uri=/journals/journal_of_the_history_of_medicine_and_allied_sciences/v057/57.2fabbri.html

International Relations
Inouye Kanao,. sentenced. to. death. by. a. British. Military. Court in. Hong. Kong. for. assaulting
 ↓
International Relations -- Sign In Page
http://ire.sagepub.com/cgi/reprint/6/1/311.pdf

The Historical Experience of British War Crimes Courts in the Far East, 1946-1948
Pritchard International Relations.1978; 6: 311-326

どちらも登録しないと読めません

投稿: msx | 2007.08.08 20:23

日本と連合国の戦争?
枢軸国(日本、ドイツ、イタリア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、フィンランド、タイ、ヴィシー・フランス)と連合国(ソ連、中国、キューバ、南アフリカ、英国、米国、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、チェコスロバキア、ユーゴスラビア、ギリシャ、デンマーク、ノルウェー、ポーランド、オーストラリア、ニュージーランド、エジプト、カナダ、ドミニカ、メキシコ、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、サルバドル、ニカラグア、コスタリカ、パナマ、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチン、チリ、イラン、イラク、シリア、トルコ、サウジアラビア、エチオピア、リベリア、(自由フランス:厳密には国家でなく抵抗運動))の戦争の間違いでは。

投稿: kk | 2007.08.19 08:58

Kanao Inouye氏の人物像が解るものではありませんが、彼に関する史料があります。よろしければご連絡ください。デジカメで撮った文書の一部(香港当局に逮捕された時のもの)を提供します。

投稿: 通りすがりの歴史研究者 | 2009.02.02 15:42

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