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2007.07.19

[書評]タンタンのコンゴ探検(エルジェ作)

 日本では報道されているかわからないが、欧米圏のニュースを見ていると、「タンタンのコンゴ探検(エルジェ作)」(参照)問題は今日になってもまだ収まっていないようだ。問題? 
 英国政府機関の人種平等委員会(CRE:Commission for Racial Equality)(参照)がエルジェ作「タンタンのコンゴ探検」が人種差別だと声明を出し、書店は販売方法について見直しを進めている。出版停止という事態ではなく、成人向けということになりそうだ。さらに、この問題は米国にまで波及し、およそ英米圏に広がりを見せている。動物虐待との非難もあるようだ。
 当初の報道にある識者の意見としては大げさではないかということだったが、しばらく収まるようすもない。日本のジャーナリズムはだんまりなのか、それとも期待の新ジャーナリズム、ウイニーが何かを明らかにするのか。
 CREの声明は”CRE statement on the children's book 'Tintin In The Congo'”(参照)にある。12日の日付だ。試訳を添えておこう。


A hundred years ago it was common to see negative stereotypes of black people. Books contained images of 'savages', and some white people considered black people to be intellectually and socially inferior.
(百年前なら黒人について否定的なステレオタイプの見解が一般的だった。書籍には野蛮人の挿絵があり、黒人というのは知的に社会的に劣るものだと考える白人もいた。)

Most people would assume that those days are behind us, and that we now live in a more accepting society. Yet here we are in 2007 with high street book shops selling 'Tintin In The Congo'. This book contains imagery and words of hideous racial prejudice, where the 'savage natives' look like monkeys and talk like imbeciles.
(多くの人はそれは過ぎ去った年月だし、私たちは心開いた社会に暮らしているとも思いたいだろう。しかし、私たちがいるこの2007年に中心街の書店が「タンタンのコンゴ探検」を販売している。この本には胸くそ悪い人種偏見の絵画と文章が含まれており、「野蛮な土人」は猿のように見えるしバカのように語られている。)

Whichever way you look at it, the content of this book is blatantly racist. High street shops, and indeed any shops, ought to think very carefully about whether they ought to be selling and displaying it.
(どう見ても、この本の内容は露骨な人種差別主義者である。中心街の書店であれ、どの書店であれ、この本をどのように販売したり陳列するか注意深く配慮すべきだ。)

Yes, it was written a long time ago, but this certainly does not make it acceptable. This is potentially highly offensive to a great number of people.
(なるほど、この本が書かれたのは昔のことだ。しかし、確実にこれは受け入れることのできないものなのだ。この本は、潜在的に多くの人を侮蔑的に攻撃しうるものだ。)

It beggars belief that in this day and age that any shop would think it acceptable to sell and display 'Tintin In The Congo.'
(今日この時代に「タンタンのコンゴ探検」を販売し陳列してもよいとみなす書店が存在することは信じがたい。)

The only place that it might be acceptable for this to be displayed would be in a museum, with a big sign saying 'old fashioned, racist claptrap'.
(唯一この本が置かれてしかるべき場所があるとすればそれは博物館の中だろう。そしてこう標識されるべきだ、「古くさい、人種差別主義者の戯言」。)


 BBCでの報道例には”Bid to ban 'racist' Tintin book”(参照)などがある。
 ところで、そんな古い絵本というかマンガ本と言ってもいいだろう本が、なぜ今更に話題になるのだろうか。スピルバーグの映画化か。いや、今更に話題になることは他にもなにかと多いものだが、それにしてもなぜという疑問はわくかもしれない。
 しかし、「タンタンのコンゴ探検」の問題はかつてから識者にはよく知られたものだった。2004年漫棚通信”タンタンはコンゴで何をしたのか”(参照)が詳しい。本文が長いので多少長く引用したい。

 アマゾン書店が日本にまだないころ、わたしはアメリカのアマゾン(amazon.co.jpじゃなくてamazon.comの方ですね)に直接洋書を注文していた時期がありました。フランス語版の「TINTIN AU CONGO」を注文するとアメリカのアマゾンには在庫がないので、ヨーロッパから大西洋を渡りアメリカ経由で日本にやってくるのですが、それにしても時間がかかりすぎる。途中でアマゾンからメールがありました。フランス(ベルギーだったかも)に注文をいれたが、この本はアメリカに輸出してはいけないことになっているのだが本当にかまわないのかという問い合わせがあって、手続きが遅れている、という内容でした。結局手にはいりましたが、フランス語ですしねえ、わたし読めませんし。ただ、単純な話なので、絵を見るだけでもだいたいわかるものです。
 フランス語版で「TINTIN AU CONGO」。英語版なら「TINTIN IN THE CONGO」。日本語でタイトルを記すなら「タンタンのコンゴ探検」(小野耕世の訳したタイトルに準じてます)。おそらく日本語に訳されることのないであろう作品です。フランス語版や英語版のタンタン(CASTERMANやLITTLE, BROWN)も、日本の福音館書店版とほぼ同じ版形のものが多いのですが、裏表紙には発売されているタンタンシリーズの一覧が載っています。ところが、フランス語版では全22作ですが、英語版では21作。「TINTIN IN THE CONGO」は存在しません。実はスペイン語版やイタリア語版でも読める「タンタンのコンゴ探検」は、米英では読めない本なのです。(正確にいうとカラー版じゃなくて白黒オリジナル版ならば英語でも読めるのですが。)

 同記事にもあるが白黒の原典については英米共に復刻されたが、子どもが読んでもよい一般向けのカラー版はこの時点でも英米では販売されていない。理由はやはり黒人差別問題である。
 米国および英国アマゾンを調べると、現在では販売されている。二種類あり、Publisher: EGMONT CHILDREN'S (September 5, 2005) とPublisher: Little, Brown Young Readers (September 1, 2007) とのことだ。後者については、予約ということだろう。CREとしては一年ほどの検討があったのかもしれない。
 ついでに英米圏の読者評を読んでいると、この版は改訂されているとある

This is the edited version!!, May 25, 2007
By Sami (Florida) - See all my reviews

The book is not faithful to the first colored edition as it is supposed to be. This is the edited version where the exploding Rhino was replaced with more P.C. drawings.
(この本は想定されている最初のカラー版に忠実ではない。これは改訂が加えられており、サイ狩りについてはよりPC的な描画に置き換えられている。)


 ということなので手元の日本版を見ると、なるほど、日本版のほうも書き換えられているような印象を受ける。そのあたりどうなのだろうか。と、書いたように私もこの機会に「タンタンのコンゴ探検(エルジェ作)」(参照)を読み返してみた。
 日本語版については今年の1月31日に福音館書店から出版されている。いきさつについて無視はしていない。「読者の皆さんへ」として冒頭に説明がある。一部を引用する。

 さて、この本には、皆さんにぜひとも知っておいてほしい二つの問題が含まれています。
 一つは、コンゴの人々の描き方です。つまり、「無知」で「野蛮」で「迷信深い」アフリカの人々を、文明人である自分たちがが指導し救ってやっているのだという西欧中心の考えです。当時はタンタンの作者エルジェですら、そのような風潮から自由ではありませんでした。今、この本を読んで、皆さんにこのような植民地時代の歴史的な背景をも考えていただけたらうれしく思います。
 もう一つは、これも今では考えられないことですが、タンタンが動物たちを次々と銃で撃つシーンがあります。当時は、こんなことが一種のスポーツのように行われていたのです。野生動物の保護が叫ばれる以前のことです。自然界に対する身勝手な行為の一つとして記憶されるべきだと思います。

 出版社としてはそうした反面教師としての側面を強調しているのだが、本文中にはどこがどうなのかという示唆は含まれていない。どう読むかは読者に任されている。
 また「大人になってから読んでほしい訳者あとがき」がある。これも一部引用しよう。

 描かれた主題のせいで『コンゴ探検』は長いこと、良い子には読ませたくない本とみなされてきました。それは表面的すぎる評価です。この本を危険なものと感じるのは、私たち自身の中に、かつての宗主国と同じ「オリエンタリズム」の視線、非西洋的なものを劣ったものと感じる歪んだ眼差しがひそんでいるからにほかなりません。植民地主義も人種差別もしらない子供の目には、この本はまったく違ったものと映るでしょう。

 以上がこの問題に触れた訳者の後書きだが、出版社も近い考えにある見てよいのだろう。
 日本の教育現場ではどう扱われることになるのかわからないが、福音館書店と同じ立場に立つだろうか。
 本文の一部を以下に画像として引用したい。あえてきれいにスキャンしなかった。

 このエントリに書影を載せるべきか迷った。日米アマゾンともに書影の掲載を避けているようにも思える。CREもこの本を販売するなとは言っていないが、販売方法に工夫してほしいということはある。

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コメント

>古くさい、人種差別主義者の戯言
これを言った人は、自分が差別を糾弾している一方で百年前の白人の野蛮性を差別している、という事実に気づいていないんですね。黒人差別がいけないというなら、過去人差別もやめなければなりませんよね。

投稿: MH | 2007.07.19 17:04

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 finalventさんが『タンタンのコンゴ探検』について勉強になるエントリーを書かれていた。  http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/07/post_f37b.html  タンタンの冒険シリーズは、僕は『青い蓮』しか読んでいないが、ここでもコンゴの「土人」風描写はな... [続きを読む]

受信: 2007.07.22 23:20

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