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2007.07.23

トルコ総選挙、雑感

 トルコ問題については日本に識者も多いがマスメディアを通してはわかりづらい。私はそうした識者のうちには入らないが、湾岸戦争からイラク戦争にかけての国際情勢でトルコはとても重要な位置にあり、今後も重要な問題を含んでいると考えるので、とりあえず今回の総選挙について言及しておく(逸する可能性が高いように思えるのでなおさら)。なお、当ブログでの関連エントリは「極東ブログ: トルコのEU加盟問題近況メモ」(参照)であるが、この間の情勢についての言及が欠けてしまった。
 総選挙の結果だが、日本時間8時42分スタンプの共同”イスラム系与党が過半数 トルコ総選挙”(参照)より。


政教分離を国是とするトルコの国会(1院制、定数550)総選挙は22日即日開票され、トルコの民間テレビNTVの集計によると、開票率約97%の段階でイスラム色の強い与党、公正発展党(AKP)が過半数の約340議席を獲得、単独での政権維持が決まった。2002年の前回選挙で議席を失った極右、民族主義者行動党(MHP)は約70議席を獲得、躍進した。

 AKPの優位は予想されたことなので意外性はなく、ニュース・バリューとしては「過半数の約340議席を獲得」という、ほぼ確定数にある。
 ニュースではこの先、政教分離の共和人民党(CHP)が148議席から約35議席減らしたことを伝え、「イスラム化か政教分離の堅持かの選択を国民に迫ったCHPなど世俗派の戦略は失敗」と述べている。ニュース報道の視点として間違っているわけではない、というのもそこが一つの争点でもあった。ただ、共同のニュースではAKP議席数の意味について過半数という以上には踏み込んでいない。
 昨日の東京新聞”イスラム系与党勝利へ トルコ総選挙 大統領単独選出は困難”(参照)は、AKP単独で大統領選出ができないという点を強調していた。言うまでもなく、背景には、AKPが今年に入ってセゼル大統領任期満了でギュル外相を大統領候補に推し、大統領選の第一回投票に持ち込んだものの、憲法裁判所は投票を無効とした、ということがある。経緯はウィキペディアの「大統領選挙 : アブドゥラー・ギュル」(参照)に詳しく、間違いではないがやや書き方に偏りが感じられる。いずれにせよ、今回の選挙でAKPの独走は抑制される。
 共同では触れていないが、今回の選挙では、民族主義者行動党(MHP)が躍進し約70議席を獲得したが、5時18分タイムスタンプのNHKの報道はこの点にかなり踏み込んでいた。「トルコ総選挙 右翼政党が躍進」(参照)より。

トルコ国内では分離独立を目指す少数民族クルド人の武装組織によるテロや攻撃が急増しており、「民族主義者行動党」は、この武装組織がイラク北部のクルド人自治区に拠点を置いて軍事支援を受けているとしてイラクへの軍事作戦が必要だと訴え、躍進につながったとみられます。

 このあとNHKも触れているが、政教分離・近代化の推進でもあり、ある意味これまでクルド弾圧を担ってきた軍部も対クルド政策では同調しており、現状、すでにイラク国境に20万人規模の部隊を展開している。NHKは「トルコ軍によるイラク侵攻の可能性はさらに高まるのではないかという見方が出ています」としている。ここまで踏み込みましたかという印象だ。示唆したのは内藤さんかな。
 このあたりからトルコの今後のバランスが見えてくるのだが、AKPがある意味少し弱体化した反面、連立でどう政策が動くが難しくなりつつある。基本の構図としては、アタチュルク主義(近代化)、穏健イスラム派、民族主義という3つの軸があるにせよ、ある意味で責任主体が明確ではなくなりつつある。
 国外の視点としては19日付けフィナンシャルタイムズ”A contest to decide Turkey's future”(参照)が概括的、かつ示唆的ではあるのだが、多少違和感を残す。基本の構図としてはAKPを支持しようというものではあるだろう。EU問題から見て穏健に考えるとそういうところかもしれないが、EU的な冷ややかさも感じられる。

In 2002, the AKP got two thirds of the seats on one third of the votes. A more proportional result would be healthier: for a compromise candidate as president; for democratic balance in which all sides openly articulate their fears and hopes; and for Turks to remind themselves what they have shown the world - that Islam and democracy are perfectly compatible.
(2002年では、AKPは1/3の投票によって議席の2/3を得た。今回のバランスの取れた結果はより健全になるだろう。つまり、大統領選候補についての妥協、国内世論の脅威と希望をオープンに表明する民主主義的なバランス、イスラム宗教と民主主義が完全に両立するというトルコ国民の自己イメージについてもよい結果だろう。)

 そうかもしれないがこういう欧米からの言われかたはトルコの人には、どの勢力であるによ、またかよという感じはあるだろう。

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コメント

失礼します。

末文の「まかよ」は「またかよ」のタイプミスでしょうか?
もし違ったら、ゴメンなさい。
ただ折角のエントリの締めでタイプミスだとしたら勿体無いと感じましたので、僭越ながらコメントをさせていただきました。

勘違いでしたら、当コメントは削除してください。
それでは。

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.07.23 15:59

夢応の鯉魚さん、ご指摘ありがとうございました。修正しました。

投稿: finalvent | 2007.07.23 16:26

「アタルチュク主義」も「アタチュルク主義」のタイプミスですかね。

投稿: 月弓 | 2007.07.23 23:57

夢応の月弓さん、ご指摘ありがとうございました。修正しました。

投稿: finalvent | 2007.07.24 01:40

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