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2007.07.12

ジンバブエ情勢メモ

 過去ジンバブエについて言及したエントリとして「極東ブログ: お次はジンバブエとベラルーシかな」(参照)があるが、その後それほど触れてこなかった。この春の動乱の際に触れるべきだったのだが、全体の構図が今一つわからないでいた。現状でもどう書いていいのかわからないし、私など門外漢の書く問題でもないのではないかと思ったが、たまたまグーグルのブログ検索でジンバブエを検索したら別途書いたメモが上位にヒットし、反省した。とりあえずもう少し書くべきだろう。

cover
グレートジンバブウェ
東南アフリカの歴史世界
 もう一点、そう思った理由がある。2日NHK「知られざる文明への旅」で関口知宏が案内役によるグレート・ジンバブエ遺跡の番組を見たことだ。私はこの遺跡に関心をもっているので感銘を受けたのだが、逆にこの詩情豊かな番組を取り巻くジンバブエの現実を知っているので、いきり立つ感じもした。
 何がジンバブエの問題かというと、独裁制によって国家が事実上崩壊していることだ。傍証的に”ジンバブエ、経済崩壊 年間インフレ率4500%超 ムガベ政権に強まる批判”(読売2007.6.19)より。

 国民の8割は定職がなく、300万~500万人が、仕事を求めて南アフリカなど近隣諸国に渡っている。国内では外貨、燃料不足で長時間の停電や断水が頻発する。
 1米ドル(約120円)は、公定レートでは250ジンバブエ・ドルだが、闇市場では400倍の10万ジンバブエ・ドルに迫る。地元紙の報道によると、政府がまとめた5月時点の年間インフレ率は4530%に上った。

 食料の問題も深刻だ。5日付ReliefWeb”Zimbabwe rural areas run out of food”(参照)より。

The United Nations Food and Agriculture Organisation (FAO) and the World Food Programme (WFP) had issued an earlier warning last month that a third of Zimbabwe's 12 million people will face serious food shortages by early next year.
(国連食糧農業機関FAOと世界食糧計画WFPは、先月初期段階の警告として、ジンバブエ1200万人の3分の1が来年初頭に深刻な食糧不足に直面すると発表した。)

 原因は干魃と農政にある。構図は、JANJANで2月に掲載されたISP”南部アフリカ:雨期がもたらす恩恵”(参照)がわかりやすい。このあたりの事情は日本のブログの世界ではどう書くか戸惑うところだろう。私は戸惑う。なお、この問題は”Zimbabwe: Food a Political Tool?”(参照)という側面もある。

 深刻な食糧不足に苦しむ国のひとつである人口1300万のシンバブエは、かつて豊かな穀倉地帯だった。けれども、2000~2002年にロバート・ムガベ大統領が4,500人の白人農場経営者から土地を没収して土地を持たない黒人に分配して以来、収穫が落ち込んでいる。
 かつては白人の農場経営者たちがジンバブエの食糧の大半を生産していた。現在ジンバブエは1,000%の悪性インフレに襲われ、純食糧輸入国になっている。南アフリカ穀物情報サービスによると、先週ジンバブエは南アフリカ共和国から3,351トンの小麦を輸入した。

 ジンバブエの問題は、ある意味では単純で、独裁制がもたらした弊害であるし、現時点となってはそれにどう国際社会が対応していいか難しい。加えてこの問題が微妙なのは、1980年独立以降27年統治を続ける独裁者ムガベ大統領が83歳といいう高齢であることも関係しているだろう。キューバのカストロと同じく、そしてたぶん北朝鮮の金正日と同じく、近未来に死去するのだが、その時の実質的な危機に積極的に関与したい国はないだろう。
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When a Crocodile Eats the Sun
A Memoir of Africa
Peter Godwin
 ジンバブエに話を戻すと、そうはいってもこの混乱に国際社会は関与せざるえないわけで、関係も深く実際に流民を受けている南アフリカが重要なポジションにある(大半の電力を供給している)。つまり、南アのムベキ大統領の手腕が問われるし、彼も自覚はあるのだが、その期待を現実的には果たしていない、としか見えない。この背景が何らかの利権が絡んでごちゃごちゃしているようなのだが私には今一つわからない。
 ジンバブエと日本との関わりは薄いとも言えるといえば言えるかもしれないあたりが、今一つ日本でのこの問題への関心の薄さに対応しているのだろう。
 そういえば、ニューズウィーク日本版6・13(2007)に”失われたアフリカの故郷”というコラムで、ピーター・ゴッドウィン著「When a Crocodile Eats the Sun: A Memoir of Africa(ワニが太陽を食べるとき:アフリカの思い出)」が紹介されていた。ジンバブエを生まれ育った49歳の男の物語である。

 ゴッドウィンによれば、これは単にジンバブエに関する本ではなく、「故郷とは何か、アイデンティティーとは何か、そして家族の秘密についての物語であある。」。
 本書で明らかになる「家族の秘密」の一つが、彼の父親はイギリス出身ではなく、ポーランド出身のユダヤ人で、母親と妹をホロコースト(ユダヤ人大虐殺)で失っていたこと。父の子ども時代のつらい経験が、崩壊しかけたジンバブエから両親が離れようとしない理由にもなっている。

 私はここでちょっと変なことを思い出す。ネットなどではすっかりイザヤ・ベンダサンは山本七平の偽名という議論が多いが(実際に山本は共著者の一人であるが)、ベンダサンに模された人物は、父親がアフリカで雑貨商をしていたというふうに設定されている。共著者の一人、ホーレンスキーはウィーン生まれのユダヤ人だったが(参照)、ベンダサンの設定にはホーレンスキーの何か思い入れのようなものがあったのではないだろうか。まあ、これは「ちょっと変なことを思い出す」程度の話なので、野暮なツッコミはご勘弁を。

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コメント

『あふりかくじらの自由時間』
ジンバブエ共和国ハラレより、深夜のラジオ的アフリカ物書き。
2005年11月15日


>最近ではジンバブエ政府が強制収容した元白人経営の大農場まで譲渡している。中国の商売進出はものすごい勢いで、繊維製品に始まり安価な工業製品から戦闘機までジンバブエに持ってくる。現地の産業は、安い中国製品に圧倒され、深刻な打撃を受けている。

>当然、そこにある人道問題(食糧不足、クリーンアップ作戦によるホームレス問題など)を存在しないものとして、人道問題を指摘する西側諸国を植民地主義者と呼ぶこの国の政府は、その人道問題にはなんの関与もせず、ジンバブエから得られるものをここぞとばかりに持っていき、商売を進出させ現地の産業を押しつぶそうとする中国を「友好国」とする。

ここは、やはり中国にケツを持ってもらうしかないでしょう


投稿: msx | 2007.07.14 01:33

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