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2007.07.03

東京大気汚染訴訟、雑感

 東京大気汚染訴訟についてちょっと心にひっかかることがあるので簡単に書いておきたい。まず、東京大気汚染訴訟についてだが、二日付け読売新聞”東京大気汚染訴訟 原告、和解受諾を回答”(参照)を借りる。


 自動車の排ガスで健康被害を受けたとして、東京都内のぜんそく患者らが国や都、自動車メーカーなどに損害賠償を求めた東京大気汚染訴訟の控訴審で、原告側は2日午前、東京高裁の和解案を受け入れるとの書面を同高裁に提出した。メーカー7社も同日午後、受諾を高裁に伝え、共同見解を発表する。これにより、訴訟の全当事者が和解に合意。訴訟は提訴から11年を経て、全面決着する。

 つまり、都、国、首都高速道路会社は既に和解案を受諾しているが、これに今回メーカー七社も加わった。
 また、和解案と国については。

 同高裁が提示した和解案は、〈1〉ぜんそく患者のための医療費助成制度の創設〈2〉公害対策の実施〈3〉メーカー7社による計12億円の解決金支払い――という内容。
 医療費助成制度について、国は当初、資金負担を拒否していたが、安倍首相の政治決断で60億円の拠出が決まった。また、解決金については、原告、メーカー双方で最後まで折り合いが付かなかったが、原告団は、医療費助成制度や公害対策の実現により、原告以外の患者も広く恩恵を受けられることなどを理由に、受諾を決めた

 国ついては、安倍首相の政治決断が重要だった。
 新聞各紙の社説としては今日の読売新聞では”大気汚染訴訟 和解を環境改善につなげたい”(参照)、また毎日新聞では”大気訴訟和解 企業も国も重い責任負った”(参照)があるが、両者ともにこの和解を高く評価していると理解してよいだろう。
 大手紙では、日経はこの間の社説では触れていない。朝日新聞は先月二十五日付けの社説”大気汚染訴訟―高裁の和解勧告を生かせ”で前もって触れている。
 産経も今日この問題を社説”大気汚染訴訟 評価したい和解での解決”(参照)で扱っているのだが、他紙と少し異なる指摘がある。

 とくに医療費助成制度の創設は、石原慎太郎都知事が、国に強力に要請したもので国、都など当事者がそれぞれ資金負担することになっている。原告側は、解決金の額には不満を示したものの、同助成制度を高く評価、これが和解案受諾の要因となった。

 和解の重要なキーに医療費助成制度の創設があり、この発案は石原都知事によるという点を産経は重視している。
 エントリ冒頭、心にひっかかるとしたは、この問題における石原都知事の政治的決断の評価についてだ。率直に言うと、この東京大気汚染訴訟の和解を決定づけたのは、石原慎太郎都知事の政治手腕であり、その点をきちんと評価すべきなのではないか、そう私は思った。
 ただ、これも率直に言うのだが、マスコミやネットの空気では、石原都知事をバッシングこそすれ、評価するという意見をあまり見かけない。今回の件でも、そうした例なのだろうかと疑問に思った。あるいは、石原都知事は右派であり産経も右派だから、今日の社説で好意的に取り上げたにすぎないということなのだろうか。
 私の率直な意見は、石原都知事がどのようなイデオロギーを持っていても、今回の件においての政治的な決断は評価されるべきだし、それをきちんと評価することで、他の行政の長がこの件で学ぶことができるのではないかということだ。
 ただ、こういう意見をブログで言うと、お前は石原シンパだろうという批判になるのだろうか。そういう予感はするので、口ごもってしまう。私は石原都知事の支持者でもなければ前回の都知事選で彼に投票もしてない。それ(石原都知事のイデオロギー的な見解)とこれ(東京大気汚染訴訟でのリーダシップ)は別だろうと思うだけなのだ。
 もっとも、今回の件について、石原都知事の功と理解するのは間違っていて、別の背景があるのかもしれない。むしろ、そうであれば、誰がこの問題を評価すべき今日の和解に導いたのか、それをどこかで的確にまとめるほうがよいのではないか、それは今後の日本の市民社会に有益なのことなのではないか。そのあたりの言論が、どうも私には見えてこない。
 少し今回の問題を、石原都知事の文脈で振り返りたい。まず、00年12月2日の読売新聞”[青空を]尼崎公害訴訟和解(下)追い詰められた国 石原都政“反乱”より。

 一九九六年に提訴された「東京大気汚染訴訟」は、国と都などに汚染物質の排出差し止めと約百十七億円の損害賠償などを求めて係争中。記者会見で、石原知事は「(大気汚染は)東京は尼崎よりもひどい。全部、国の不作為だ。裁判に負けて賠償金を払わなければならなくなったら、国を訴える」とまで言い切った。
 尼崎訴訟の和解にも「行政が車両規制をできるだけ早期にすると約束しても、なかなかそうはいかないんじゃないか」と国への根深い不信をのぞかせた。
 こうした都の強硬な姿勢に、環境庁大気保全局の桜井康好企画課長は「汚染のひどい所が進んだ施策を取るのは当然」と言う。だが、〈独走〉する石原都政に警戒と不快感を示す幹部は多く、「反乱」と呼ぶ声も。

 ここには、国の不作為に対して都というローカルな行政から強く異を唱える行政の長としての石原都知事の意志があるように思える。
 02年10月24日読売新聞”東京大気汚染訴訟29日判決 車メーカーの責任問えるか 未認定患者も原告団に”の記事は、今振り返ると、やや意外ともいえる印象を私は持つ。記事は、同月29日の東京地裁における「東京大気汚染訴訟」判決を前に、判決を予想してして書かれたものだ。

 判決後に、もう一つ注目されるのは、ディーゼル車規制に積極的な石原都知事の動向だ。
 知事は国の対策を強く批判しており、スタンスは原告に近い。判決が原告に軍配を上げた場合、「都は控訴を断念するのでは」と、原告側は期待する。


 こうした姿勢が「控訴断念」の推測を呼ぶ根拠だが、都庁内では否定的な空気も強い。先月から関係部署が集まり、判決後の対応を協議しているが、「責任を認めることは、賠償など様々な問題が生じる」(環境局幹部)と慎重論が大勢だ。「最終的には知事の判断次第」という状況になっている。

 この時期の空気を回顧するに、石原都知事の主導で都が控訴を断念するかどうかは、マスメディア側からは明確に読めていなかった。むしろ、否定的なトーンが感じられる。
 しかし、結果は、石原都知事の言葉をそのまま借りれば、「控訴はしません。国の対応を見ていると、心情的には私も原告団に加わりたいくらい」ということだった。そして、「行政の対応がこれまで不十分であった点を重く受け止め、心からおわび申し上げます」と石原都知事は明確な謝罪をした。
 国は当然といっていいだろうが控訴した。これに対して、石原都知事は国に翻意を促していた。02年11月9日読売新聞”東京大気汚染訴訟で国が控訴 石原都知事、小泉首相に取り下げ要請”より。

都の石原慎太郎知事は八日、官邸で小泉首相と会い、東京大気汚染訴訟で東京地裁から損害賠償の支払いを命じられた国と首都高速道路公団が控訴したことについて、取り下げを要請した。石原知事が持参した要求書によると、「大気汚染をここまで放置した国の責任を自ら認め、控訴を取り下げるよう要請する」としている。

 安倍首相になってからもこの件についての石原都知事の行動は変わらず、ついに安倍首相を動かしたと言ってもいいだろう。5月31日読売新聞”東京大気汚染訴訟 国60億円拠出「大きな壁クリア」 原告団と都が歓迎”では、30日の石原都知事と安倍首相の対談に触れこう記している。

 この日夕、石原慎太郎知事と会談した安倍首相は「長い間、ぜんそくに苦しんでこられた方々のことを思えば、早期に解決しなければならないと思う。私の判断で決断した」と語った。

 それが本当なら、安倍首相もまたリーダシップして決断したのだろうし、それらを評価してよいように思える。
 以上でこのエントリのコアの話は終わりなのだが、参院選が近づき、安倍首相バッシングのような空気も醸し出される中、あたかも安倍首相支援のようなエントリを書くなよバカみたいな気後れ感もある。また、私がこれで安倍首相支持派のように誤解されてもなといううんざり感もある。
 ただ、それとこれとは違うだろと思う。石原でなくても安倍でなくてもいい、都という大きな地域行政と国の行政の責任者が、大気汚染の原告を理解し決断した教訓として正しく評価されるべきだとだけ思う。

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コメント

おいらも迷惑なので、金欲しい。
この国は、ごね得なのだな。おれもごねよう。

投稿: nuke | 2007.07.03 23:56

上海に行けばわかる。
東京は努力している。
携帯なのでまんどくせですが、東京の大気は石原都政のお陰か相当フレッシュです。
中国からヤバい空気が流れてくる現状こそ危険。

投稿: のし | 2007.07.04 01:42

それでも大阪の水はまずくて東京の空気は汚いとなってうんざり感もある。

投稿: 無粋な人 | 2007.07.04 10:17

東京の地の生活者は環境に対してとても敏感、散人さんとか東京の生活とは縁のなかった人は鈍感。

環境問題への言及は安倍首相の最後の政治的切り札。新聞で首相の環境への言及があれば支持率はさっくりと上がる。

投稿: cyberbob:-) | 2007.07.04 13:52

石原知事は杉花粉対策にも、けっこう力を入れていたように記憶。
彼の信条に「健康な肉体に、健全な精神」というのが有るのじゃないかな?

投稿: 倫敦橋 | 2007.07.05 16:05

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