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2007.06.01

事実婚夫婦の戸籍裁判、雑感

 この手の問題を扱うと誤解されてろくなことがないのでスルーしようかちょっと迷ったが、まあ同じく一日本人の庶民として思うことがないわけでもないし、というかいろいろ思い巡らすことがあるので、正直にブログに記しておこう。
 話のきっかけだが、日経新聞”子の住民票作成を命令・東京地裁、世田谷区に”(参照)によるとこうだ。


 婚姻届を出していない事実婚の夫婦らが、次女(2)の出生届が受理されず戸籍がないことを理由に住民票を作成しないのは違法だとして、東京都世田谷区に住民票作成などを求めた訴訟の判決が31日、東京地裁であった。大門匡裁判長は「住民票がないことによる社会生活での不利益は看過できない」として同区に住民票作成を命じた。

 詳細について気になることがいくつかあるが、後で触れたい。
 話を進める前に、これを言うのもごたごたの元かもしれないが、とりあえず私の基本的な考えとして、私は今回の判決を支持するという点を先に述べておきたい。
 受理されなかった理由についてはこの日経のニュースの記述からはよくわからない。時事”2007/05/31-18:20 子供の住民票作成を命令=「非嫡出」拒否で出生届不受理=東京地裁が初判断”(参照)を読むと微妙に違う。

東京都世田谷区に住む事実婚の夫婦と子供が、子供の出生届に「非嫡出子」との記載を拒否し、出生届を受理されなかった結果、住民票にも記載されないのは違法として、(後略)

 として非受理の理由は、「事実婚の夫婦と子供が、子供の出生届に「非嫡出子」との記載を拒否し」たことらしい。
 この点がわかるようなわからないところだ。まず最初の印象に過ぎないが、嫡出か非嫡出は日本の婚姻制度に対応しており、婚姻してなければ非嫡出子となるのはこの現状の日本の制度の枠組みではトートロジーに近いのではないか。私の印象の背景には、歴史的には、事実婚における女性とはいわゆるお妾さんになるはずで、お妾さんの子を嫡子にせよというのは、財産制度全般について日本社会の変革を前提にしないと難しいのではないかということがある。
 これに関連して思い出すのは、児童の権利に関する条約で、ネットを引くと国連の児童の権利に関する委員会の情報があり、こう述べられている(参照)。

B.肯定的要素
3. 委員会は,締約国による法改革の分野における努力に留意する。委員会は,嫡出でない子のための児童手当の権利を全ての未婚の母が持つことを保障することを目的とした1997年採択の児童福祉法改正及び1998年5月の決定を歓迎する。

 今回の判決もこれに沿っており、国際的に見ても今回の判決は妥当だろうと思う。関連して。

14. 委員会は,法律が,条約により規定された全ての理由に基づく差別,特に出生,言語及び障害に関する差別から児童を保護していないことを懸念する。委員会は,嫡出でない子の相続権が嫡出子の相続権の半分となることを規定している民法第900条第4項のように,差別を明示的に許容している法律条項,及び,公的文書における嫡出でない出生の記載について特に懸念する。委員会は,また,男児(18歳)とは異なる女児の婚姻最低年齢(16歳)を規定している民法の条項を懸念する。

 ここでは民法第900条第4項自体が問題視されている。この「懸念」について日本国がどう答えるべきかはそれなりの民主主義的な手順で応えていかなくてはならないと私などは思うので、それをジャンプして「公的文書における嫡出でない出生の記載」を司法的に解決すべきかよくわからないし、実際に今回の裁判はそれを問題視しているわけではない。
 いずれにせよ、私の認識としては、こうした問題は地方行政に裁量権があるし、戸籍の不備と住民票は切り離して考えられるものであり、実際には多くの地方行政においてそのような裁量が行使されていると思っていた。なので、今回の事態についていえば、ごく単純に地方行政の裁量権の問題ということであり、実際裁判判決もその点に対応している。このため訴訟では四〇万円の損害賠償請求があったが、判決では「区に注意義務違反はない」と退けられている。そのあたりで、この話は終わりではないかととりあえず考えていた。
 がその後、私は事態を多少誤解していたことに気がついた。失笑を買うかもしれないが、私はこの問題をなんとなく重婚または「お妾さん」の枠組みで見ていた。どうやらそうではなく、今回の訴訟者のカップルは重婚などの問題なく結婚をするならできる状態にあるが、結婚制度を支持しないということらしい。もちろん、結婚に国家を関与させないというのは欧州など先進自由主義国などで広くみられる傾向でもあるのでその点はわからないでもないのだが、今回の訴訟の背景に別姓問題にありそうだという点を知って、私は理解できず困惑してしまった。
 ネットでもう少し詳しいニュースを見つけたので触れておきたい。毎日新聞”住民票:東京地裁が世田谷区に作成命令 出生届不受理の子”(参照)である。判決後に東京・霞が関の司法記者クラブで会見があったらしい。

 菅原さんは、女性が男性の戸籍に入り姓が変わるのは平等でないと考え事実婚を選んだ。次女を「嫡出でない子」として届け出るのを拒んだのは、「生まれて最初の公的書類で、親が子を差別することになりかねない」との思いからだった。受理を求め最高裁まで争ったが、届け出の要件を満たしていないと退けられた。
 次女は児童手当や乳幼児医療費の支給は受けているが、住民票がないため別の申請が必要で支給が遅れた。予防接種は、手続きが1年半以上かかって公費で受けられなかったものもあった。
 判決には、非嫡出子(婚外子)を差別する現行制度への判断も望んだが、言及はなかった。だが、菅原さんは「判決は大きな前進。戸籍のない子も住民サービスを受けられるよう、各自治体が判決に従ってくれれば」と語った。

 まず繰り返しておきたいが、戸籍のない子でも住民サービスが受けられる地域社会の形成という点に私は賛成であるし、地方行政の裁量で可能であり、それは司法においても明確にされたと考える。
 困惑したのは、「女性が男性の戸籍に入り姓が変わるのは平等でないと考え事実婚」という点だ。そこがよくわからない。確か評論家の宮崎哲弥は妻の姓にしたと聞いたことがあるし、私も以前仕事の関係でそういう人がいた。もし女性の姓を変えることが問題なら、女性の姓に男性が変更すればよいのではないか。
 あるいは男性女性に限らず、姓そのものを変更することが間違いということなら、これはけっこうやっかいな問題になる。たとえば中華圏においては女性が姓を変えないのは歴史的に見れば女は借腹で血統に関係がないためである。なので親族と同じ墓に入ることができない。これらは文化伝統にも関わってくる部分があり、簡単には解けない。日本の戸籍というのも近代日本が古代幻想から生み出した奇妙な制度ではあるが、それなりの国家幻想の制度としてとりあえず成立している(戸籍法は戦後に廃棄されていない)。その是非の議論については訴訟の枠組みとは違うように思える(私個人の考えでは戸籍制度は不要)。ついでに言えば、日本人は名前を変更する権利もないが、「極東ブログ: Deed Poll(ディード・ポール)」(参照)で触れたように個人の名前そのものを根底から変更することを許す国家もある。
 あと率直に言って、訴訟を起こした菅原和之さん(42)夫妻に少し関心を持った。東京新聞”本人訴訟の父安堵 婚外子に住民票 事実婚の子 差別しないで”(参照)の記事がそこに焦点を当てていた。

 二十代で市民運動を始めた菅原さん。出会った「婚外子」の人たちの声は切実だった。「会社の面接で『へえー、私生児なんだ』とさげすみの目で見られた」「結婚の直前になって、相手の実家に戸籍を調べられて破談になった」…。
 国連の児童権利委員会は二〇〇四年、公的書類の「嫡出でない子」との記載を廃止するよう日本に勧告している。それも世田谷区に訴えたが認められず、最後の手段で提訴に踏み切った。
 弁護士費用が出せないため本人訴訟で闘った。膨大な資料を取り寄せ、徹夜で準備書面を書いたこともある。妻(38)は「あなたがやりたいのなら…」と見守った。

 今回の訴訟は市民運動の一環だったのだろうか。さらにネットを見ると、”ザ・選挙 -選挙情報-”(参照)の、”2003年04月20日告示 2003年04月27日投票世田谷区議会議員選挙”で次のようにあり、社民党員のようだ。

 菅原 和之 スガワラ カズユキ 38 男 社民 新 障害者ホームヘルパー

 今回の訴訟は、市民運動の一環で、かつ社民党員としての活動だったのだろうか。誤解されると困るが私はそれが悪いとはまるで思わない。ただ、もしそうならそのように社民党の政策や活動の一環として明示されてもよかったのではないか。そのほうが国家を変革する政策として多くの人にとって理解しやすいだろう。あるいはそれらと関係ないなら、関係ないことを明示されてもよかったのではないか。そのほうが国家が関わる政治の枠組みから離れることができ、より地域の問題として地域の人にとって理解しやすいだろうから。

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コメント

日本においては長谷川慶太郎が言うように、近代から戸主の保証金や担保責任が絡んでいる。伝統的家制度で婿入りするのも男子に責任を負わすのが目的。柔軟なのはむしろ日本である。改姓を拒むのは血に重きを置く中華的文化(中国や朝鮮・韓国・多少沖縄/中根千枝に詳しい)が色濃い。村上龍ではないが男は消費物である。

投稿: アカギ | 2007.06.01 20:49

日本民法
http://www.houko.com/00/01/M31/009.HTM#s4
第734条 直系血族又は3親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。

韓国民法
http://www.geocities.jp/koreanlaws/min3.html
第809条(同姓婚等の禁止)①同姓同本である血族の間では、婚姻することができない。
③男系血族の配偶者、夫の血族及びその他8親等以内の姻戚、又はこのような姻戚であった者の間では、婚姻することができない。

たぶん韓国人は日本の規定を見ただけで、慄き蔑むことでしょう。
イトコとでも結婚できるなどというのは、まさしく禽獣の証し。ハトコのハトコでないと結婚できないのが人間の証しなのです。

投稿: t_f | 2007.06.01 23:44

民法第900条4項は、そもそも財産は個人のものではなく、家のものであるという家制度を前提にしているのでしょう。
これを改正するには、夫の財産と妻の財産というものをきちんと分けることがまず必要でしょう。
「個人の尊厳と両性の本質的平等」という憲法と民法の原則に反する規定は探せばいろいろあるでしょうが、300日規定を改正したら道徳が乱れるなんてお馬鹿な大臣がいる限りは、とてもとてもというところですね。

投稿: かつ | 2007.06.02 12:49

この問題で分からないのはなぜ親は住民票が作れないと言われたのに、信条に反するけれども住民票がないと子供が困るだろうと考えず、なぜその場で印をつけなかったかということです。
とりあえず直したものを提出してから、修正前の出生届の受理が拒否されたことについて訴えるべきではないでしょうか。
判決が下る前までは、親が自分たちの思想を守るために子供を犠牲にしたという状況だったわけですよね。

投稿: 某 | 2007.06.02 14:02

>某さん
とりあえず提出してしまうと、裁判所に「『違法』な『処分』というものが存在しない」、と判断されて訴えてもいわゆる門前払いされてしまう恐れがある、というのも関係するのかな、と思いました。日本の行政訴訟制度がおかしいというべきかもしれません。

投稿: di | 2007.06.02 20:18

訴訟によって解決しようというやり方はどうかと・・・。裁判所に判断してもらうのではなく、有識者なり国会なりできちんと議論した上で、必要とあれば法改正すべきではないでしょうか。「 民 法 」なんですから。
あと、本来戸籍と住民票は一体であるべきで、自治体の裁量など認める必要はないと思います。国民全体でどっちがいいか決めればいい話で、地域によって取り扱いをバラバラにしてもメリットなんて何もありません。

投稿: | 2007.06.02 21:33

この件、私も「住民票作成はもっともだけど親御さんの行動はちょっと謎かも(もごもご)」のように感じました。
戸籍と住民票の関係についても、ほぼ同感です。↑の方の「本来戸籍と住民票は一体であるべき」というのは、「統治者」としての感覚としてはそうなんだろうねと思いますが、全然「べき」じゃないよねと思います。
というか、日常生活に必要なのは、納めた税金に見合う行政サービスを受ける→住民票で、戸籍が本当に必要な場面はパスポートを発給するかどうかだけじゃないのかなという気がします。あとは...徴兵ですかね、というのは悪い冗談ですが、いずれにしろ戸籍ってのは国家レベルの統制、管理のツールであって、国民が必要として生まれたツールじゃないと思ってます(かといって反対運動起こすほどの熱意はないのが庶民98号たるゆえん)。

投稿: 庶民98号 | 2007.06.03 23:36

戸籍制度が無くなってしまうと
相続人の確定作業が大変になりそうですね。
以前、被相続人の本籍地が樺太にあり
戸籍謄本が取れない為に相続人が確定できずに難儀しまして
戸籍が残っていればなぁと思ったものです。

まぁ諸外国に戸籍制度が無いという事は
それはそれで問題なく相続人が確定できるという事でしょうから
無ければ無いで構わないのかもしれませんね。

投稿: 小金井 | 2007.06.05 10:23

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