朝鮮総連ビル売却、緒方重威元公安調査庁長官問題メモ
気乗りのしない話題だし私なんかに真相に迫れるはずもないが、朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)中央本部のビルと敷地が、緒方重威元公安調査庁長官(七三)を代表取締役とする投資顧問会社に売却されそうになった件について、自分なりのメモを記しておこう。
まずシンプルに何が問題なのか。一般向けに書かれた十五日付朝日新聞社説”総連本部売却―取引にも捜査にも驚いた”(参照)を借りる。
公安調査庁といえば、暴力的な活動をする恐れのある団体の調査が主な仕事だ。朝鮮総連も対象とされる。監視する側の元トップが、監視される側と土地取引をしていたわけだ。
さらに驚いたことに、東京地検特捜部がすかさず元長官の自宅などを捜索した。所有権移転の登記に偽装の疑いがあるというのだ。
ここでの朝日新聞的な問題点をまとめると、(一)危険性のある団体を監視する機関の元トップがその団体と金銭取引をしていた、(二)取引に偽装の疑いがある、の二点ということになる。
一点目の問題については朝日新聞の説明だけ聞いていると違法性があるとも言えないように思える。では二点が問題かというと常識的に考えてもそういう話でもあるまい。この先、朝日新聞社説は、朝鮮総連ビルが競売されることを避けるためだろうという話を説明している。ただ、そこが私などにはわかりづらい。
この点は朝日新聞より一日早く論じた十四日付け読売新聞社説”元公安庁長官 朝鮮総連との取引は論外だ”(参照)がわかりやすい。
しかし、今の時点で朝鮮総連が保有資産を売却すること自体、極めて問題のある行為と言わざるを得ない。
在日朝鮮人系の計16の朝銀信用組合が1990年代後半以降、相次いで破綻(はたん)した。各信組が架空名義などを使って朝鮮総連に融資し、焦げ付いた額は約628億円に上り、整理回収機構が返還を求めて総連を提訴していた。
その判決が来週18日に東京地裁で言い渡されることになっている。
同機構は旧経営陣などに対する刑事告訴・告発や損害賠償請求の訴えを起こしてきた。そうした裁判の中で、朝鮮総連が朝銀信組を長年にわたって私物化していた実態がわかっている。朝銀信組の破綻は、朝鮮総連に対する乱脈融資が大きな要因だった。
しかも、朝銀信組には、預金者保護などの名目で総額1兆円以上の公的資金が投入された。朝鮮総連からの債権の回収に全力を挙げるのは当然である。
判決を前に、敗訴に備えた取引だったとすれば悪質だ。本部の明け渡しや将来の競売を逃れる意図はなかったのか。同機構の活動を妨害することにもなる。
つまり、朝鮮総連が保有資産を売却すること自体が問題なのだ、と。
明日十八日の東京地裁判決で、朝鮮総連から債権が回収される公算は大きい。その時、朝鮮総連ビルの競売を避けるために。話のわかるスジに売却したのではないか。
そうなのだろう。つまり、緒方重威元公安調査庁長官は、朝鮮総連の拠点を守りたかったというのが、この事件のある意味でマクロ的な意味なのだろうし、同社説では次のように、緒方の言葉を伝えている。
元長官は、「在日朝鮮人が中央本部で活動している現実を踏まえ、在日朝鮮人の権利擁護のために行った。北朝鮮を利するつもりはない」と説明している。
弁明は十三日付け朝日新聞記事”資金調達難航、断念の可能性も”(参照)が詳しい。
引き受けた理由については「総連は違法行為をし、日本に迷惑をかけている。だが中央本部は実質的に北朝鮮の大使館の機能を持ち、在日朝鮮人の権利保護の機能も果たしている。大使館を分解して追い出せば在日のよりどころはなくなり、棄民になってしまう」「満州(現中国東北部)から必死に引き揚げ、祖国を強く感じたことを思い出し、自分の琴線に触れた」などと語った。
十五日付け産経新聞産経抄では次の一言を伝えている。
緒方氏は会見で、「いずれ歴史が私のしたことを分かってくれる」と言うばかり。小欄が歴史からくみ取るのは、北朝鮮が繰り出す謀略に、日本の対応が甘すぎたという反省ばかりなのだが。
緒方重威元公安調査庁長官は今回の行動になぜだか信念をもっていたと見ていいだろうし、率直に言って、私の印象だが老人惚けの一種なのではないか。
だが、巨額なカネのからむ件でもあり、緒方の信条とか惚けとかで済む話ではない。この点は先の朝日新聞社説の(二)の問題点の補足が詳しい。
元長官に売ったのは、競売されることを避けようとしたからだ。それ自体に違法性はないが、問題は本当に売買が成立していたか疑わしいことだ。移転登記がされたのに、実際の支払いは済んでいなかった。外から見れば、売買を装ったと言われても仕方があるまい。
こんな方法を取ったのは、実際に資金を出す人の強い意向だった。判決前に受け取るめどが立っていた。判決前に調達できなければ登記は元に戻す。これが、元長官に取得を頼んだ総連側代理人の土屋公献・元日弁連会長の説明だ。
しかし、土屋氏も認めるように、金を受け取る前に移転登記をするのは異例のことだ。
土屋氏は出資者とは面識もないという。出資者とどこまで具体的な合意ができていたのかもはっきりしない。
ポイントは二つある。(一)緒方重威元公安調査庁長官を表向きたてて実際のカネを出す人が誰なのか現時点で不明。(二)このスキームを実際上実行したのは土屋公献・元日弁連会長(八四)であること。
言い方が卑近すぎるが、黒幕は誰なのか? 候補は三人。
一人目。緒方重威元公安調査庁長官か。信条的には関わっているが黒幕ではなさそうだ。というか惚け臭い。なお、このご老体の親族にその後問題が出てはいるが。
一人目。土屋公献・元日弁連会長か、黒幕の可能性は高いが、オモテに出てくるだけ強い関係者の一人という書き割りかもしれない。というかさらに惚け臭い。
三人目は謎の出資者だ。単純に考えてこれが黒幕なのだろうし、当然朝鮮総連の関係者であろう。しかし、先の朝日新聞記事にもあったように、資金調達は転けている。大惚けなのか、この黒幕。
私の印象では、日本国家の中枢が北朝鮮やその日本国内組織的な朝鮮総連に籠絡されているというより、偉すぎるけど惚け老人たちのスラップスティックのように見える。というか、元からそんなカネ出せるはずだったのか?
いや、出せると目論んだスキーマだったら、そのカネはどういう絵のなかにあったのだろうか。
ところで、今回のこの件、どういう経緯で浮上したのだろうか。そのあたりがよくわからない。政権側だろうか。あるいは、北朝鮮やその日本国内組織的な朝鮮総連側の内紛だろうか。一三日付け統一日報”朝鮮総連 中央本部を売却 揺れる在日朝鮮人社会”(参照)を見る限り、「朝鮮総連の内部関係者もほとんど事実を知らされてはいない」ようだ。そうなんじゃないだろうか。すごい組織だなというかすごいリーダーシップ。これが絵の通りだったらもっとすごかったのだけど。
余談だけど、公安調査庁は、略すと、「公安庁」「公調」「PSIA」。法務省の外局(参照)。調査活動をする組織であって逮捕権はない。これに対して、いわゆる「公安」は公安警察を指すことが多い。こちらはウィキペディアによると。
公安警察(こうあんけいさつ、英:security police)とは、公共の安全と秩序、すなわち「公安」を維持することを目的とする警察の捜査部門の総称。
両者の違いの詳しい説明もある。
法務省外局である公安調査庁(公安庁、公調)とは、捜査対象が重複するためにライバル関係にあると言われる。その一方、内閣情報調査室や防衛省情報本部(特に電波部)などの幹部の多くは、警察(キャリア職員)からの出向者である。
公安警察は、事件解決や対象の継続的な監視を目的としており、収集した情報を首相官邸や関係省庁等に提供することはほとんどない。一方公安調査庁は、政策の判断材料となるように情報を分析・評価し、首相官邸や関係省庁等に提供する点で違いがある。例えば、同じ北朝鮮情報を扱うにしても、公安警察が日本国内の工作員の存在という違法行為の把握を第一目標とするのに対し、公安調査庁は北朝鮮本国の政治・経済情勢の把握を優先する。公安警察には逮捕権等が付与され、公安調査庁に与えられていないのはこのためである。
一見、同様の活動をしているかに見える両機関であるが、収集した後の情報の扱い方によって、公安警察は捜査機関、公安調査庁は情報機関に分類される。
今回の件の浮上についてはよくわかんないが、安倍政権側からの公安調査庁へのお灸だったのではないか。お灸とか言っても、現代語じゃないけど。
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コメント
『安倍政権側からの公安調査庁へのお灸だったのではないか』。お灸ですか。トラックバックさせて頂きます。ミケ
投稿: 屋根の上のミケ | 2007.06.17 17:19
頼む、許して。モウシマセン・・・。
投稿: 大木幸一 | 2007.06.17 17:48
>安倍政権側からの公安調査庁へのお灸だったのではないか。
とは、赤旗による、自衛隊「情報保全隊」のスッパ抜きを打ち消すものという意味で、だから西山記者を見捨てた毎日が先陣を切ってるのでしょうか?
そして自民党の傀儡機関「総連」はうまうまと『北朝鮮へのエクソダス』の完遂に乗ってしまうのでしょう。
朝銀への公金注入は自民党政策でした。美味しく分け合ったと聞いてます。
投稿: katute | 2007.06.19 13:45