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2007.06.08

[書評]「語源で楽しむ英単語 その意外な関係を探る」(遠藤幸子)

 このところ受験英語みたいな本をいくつか買って酒のつまみ代わりに読んでいる。なかなか面白いものがある。受験英語なんて進歩もないだろうと思っていたが、そうでもなく良書っぽいのがあるのだなと気がついた。ただこの本「語源で楽しむ英単語 その意外な関係を探る(遠藤幸子)」(参照)については、受験英語の本ではないし、よくある語源でヴォキャブラリーを増やしましょうという類の本ではない。むしろ、孤独な大人の酒のつまみみたいな本だ。
 ネットの広告文ではこうまとめているが、ちょっと印象は違う。


 今や世界語になっている英語。その長い歴史の中、数奇な運命をたどって生き残ってきた英単語は数多くある。このような語は、実は同じ起源を持ちながら、今では似ても似つかない姿かたちに分かれてしまったものが多い。本書では、「手」「輝く」「上に」などの根源的な意味から生まれた英単語を紹介し、その驚きの結びつきと背景を俯瞰する。

 どこが違うかというと、この本は、まあ少しこの分野を勉強した人らならその手があったかと頷かれると思うが、印欧祖語から現代英語まで、びゅんびゅんと多少短絡的にだが話を繋げている。例えば、acid(酸)、acrobat(アクロバット)、heaven(天)を同一語根として繋げている。しかし、普通の辞書というか語源がしっかり書いてある辞書でも、この関係は、わかりづらい。わからないわけでもないが、とオンライン上のTheFreeDictionary(参照)を使うと。

  • acid  [From Latin acidus, sour, from acre, to be sour; see ak- in Indo-European roots.]
  • acrobat  [French acrobate, from Greek akrobats : akros, high; see acro- + bainein, bat-, to walk; see gw- in Indo-European roots.]
  • heaven  [Middle English heven, from Old English heofon; see ak- in Indo-European roots.]

 とあり、acrobatのacro-をさらに探ると[From Greek akros, extreme; see ak- in Indo-European roots.]とあるので、すべて印欧祖語のak-でつながることはわからないではない。ただ、普通英語学習者はそこまでしないし、普通の言語学者もこういうふうに連携して考察しない。理由は、派生は時代の層や系統図で離れるからだ。当然、辞書などでもこの例と同じように基本的に歴史的な一階層を分節するあたりで留める。
cover
語源で楽しむ英単語
その意外な関係を探る
遠藤幸子
 だが、本書ではこれをak-から全部軽いコラム口調で繋げてしまう。学術書や学習書ではないので別に問題ないし、なるほどねと思わせることがいろいろある。例えば、heavenがなぜak-から出てくるかというと、このakの「鋭利」という原義からアーチ型となり、そしてアーチ形状のドーム天井となる。私などは、なるほど西洋人の天界とは Sheltering Skyなのだなとか連想して微笑む。
 こんな感じで通常の語源解説書には掲載されていないかなりディープなレベルの話がこの本にはあるのだが、包括的ではなく、酒のつまみにむくような散発的な記述になっている。
 ちなみに、ak-からは、次の例が掲載されている。

ゲルマン語系
edge, hammer, heaven

ラテン語系
acid, acird, eager

ギリシア語系
acne, acrobat, oxalis, oxygen


 そして予想がつきやすいように、基本的な印欧祖語の話やGrimm's law(参照)などの話も入門程度についている。だが、私の読み飛ばしかもしれないが、Great Vowel Shift(参照)の話はない。古英語については別の著作で書かれているのだろうかというあたりで、昔学生のころ英文テキストで読んだ、ゲド戦記のネタ元みたいなBeowulf (参照)とか思い出した。
 本の話からそれるが先日6月に入り、水泳の帰りに木陰から天を見上げて、ふと"Sumer is icumen in"(参照)という古英語の歌が口をついた。学習参考書みたいな本を読んでいたり、学生時代みたいに水泳とかしているせいか、学生時代の記憶が想起しやすいのだろうか。そういえばと思ってYouTubeを見たら、掲載されていた。英国の夏は日本の夏とは違うが、鳥をまねた声の響きは初夏っぽい。

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コメント

受験参考書というと、昔からある骨太のものが懐古的にもてはやされることが少なくないようなんですが(英語では佐々木高政氏のものや英語標準問題精講など)、今の参考書で昔のものと比べて進歩しているようなものがあれば、新エントリとまではいかなくとも、どこかで書評、紹介、概観なりをして頂ければ個人的に興味深いのですが。

投稿: 通りすがり | 2007.06.08 19:38

http://www.shindan.co.jp/shindan/tosyo/sai.asp?selno=5456
http://www.shindan.co.jp/
医学用語・その批判的脱構築ってのがあって、ギリシア、ラテン、英語、ドイツ、オランダ、印欧祖語のバトルロワイヤル状態です。まあ医学外来語って元々そうなんですが。。。

投稿: ロンメル将軍 | 2007.06.10 21:02

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