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2007.06.23

[書評]催眠誘導の極意(林貞年)

 催眠術にそれほど関心があるわけではないのだが、昨今のマスメディアのヒステリー的な状況やブログの状況などを見ていて、これは一種の集団催眠的な現象ではないのかと思い、つらつらと思い出したようにこのところ催眠術関係の本をいくつか読んだ。

cover
催眠誘導の極意
 このジャンルの本は、本として読むと奇妙なフカシが多い。しかし、実際には手品・奇術と同じで実技技能的な側面も強く、全体がくだらないと捨てるべき領域ではない。また、なんとなく子どもたちの世界で時折というか周期的に集団催眠現象みたいなことが起きるのも不思議なのだが、最近そういう背景があるのかもしれないニュースにその背景が見えづらくなってきた。
 他、NLPの、と言っていいのかエリクソン関連の翻訳書が増えてきているのもなぜかと訝しく思ったり、フロイトについて物思いにふけったり(フロイトはコカインと催眠術から精神分析を打ち立てた)という関心からも催眠術の本を読んだのだが、たまたま手にした「催眠誘導の極意 成功率アップ!「瞬間催眠術」もかけられる (林貞年)」(参照)とその前著「催眠術のかけ方 初心者からプロまで今日から使える(林貞年)」(参照)が非常に面白かった。長年疑問に思ったことがいくつも氷解した。と同時にこの術師林貞年という人はどういう人なのか関心を持ち、さらに「カリスマが教える本物の技術 スーパー・ベーシック催眠導入(林貞年)」(参照)も読んだのだが、私は催眠術を習得したいわけでもないので、そうした技術には関心が持てなかった。
 普通の読書人対象でも前二書は読んで興味深い書籍だろう。催眠術というものに一般の人が抱いている誤解や偏見などもクリアされる。術師林貞年の理性的な解説に共感する部分も多いだろう。私などからすると、エリクソンについての次の見解は貴重だった。おそらくNLPを含めてよいと思うが催眠術の世界についてこう語られている。

 この世界では話が飛躍していくのは珍しいことではありません。エリクソン博士の催眠にしても、広めているのはエリクソン博士ではなく、多くのお弟子さんたちです。話が飛躍していないとは言えないでしょう。このカリスマ性を帯びた催眠に魅せられた者たちがテクニックをバブル化していることも確かです。
 私はエリクソン博士を尊敬している人間のひとりです。悲しいのは、エリクソン催眠に便乗して、ありもしないテクニックを理論的な説明で、さも受講を受けて練習さえすれば誰でも人を操れるように宣伝することです。
 「現代催眠はどんな人でも催眠に入れてしまい、言葉ひとつで思うがままに操れる」――そんな、ありもしない魔術を追いかけている人が増えているのも事実です。催眠はその人の中にあるものを引き出す技術です。その人の心に沿った催眠だけが成功するのです。

 前著のほうだが禁煙と催眠術の関係で面白いエピソードもあった。話は、この著者ではない別の術師がテレビで禁煙の催眠を実施したことだが。

(前略)この番組の中で、トラウマをもった女性に年齢退行を施した後、スタッフの人が被験者になって「タバコがまずくなる! 吸おうとしても絶対に吸えない!」と暗示されたのです。ここまでならテレビでよくやる催眠なので、私ば漠然と見ていました。
cover
催眠術のかけ方
 問題はその後です。白衣を着たまま、征服欲に満ちた顔で、デスクの上に足を組み、まずそうな顔をしてタバコを吸っているスタッフに「タバコをやめたいなら、この暗示は解かずに、このままにしておいてやる」と、スタッフの顔を指さしながら言ったのです。
 このような催眠家を人に紹介できるでしょうか? 私はこのとき頭に血が上るのがハッキリ分かりました。医者であり、催眠療法家という肩書きは、精神的な悩みをもつ人たちの心を引きつけて離さないでしょう。それだけの威光を持った人がなぜ、間違った催眠を見せるのでしょうか? 実は、催眠だけで禁煙するのは不可能に近い。

 正しい指摘だと私は思った。
 私はかなりの嫌煙家なのだが、禁煙というのはマクロ的には人口比率的にある一定以上減らすことは不可能ではないかと思うし、たしかそうした研究を見たことがある。ミクロとしては禁煙が実現する率は低いだろうし、指導法も確立していないのではないかとも思う。
 著者が「催眠だけで禁煙するのは不可能に近い」とするのは、喫煙が単に行動的な習慣だけではなく神経に作用するニコチンという実体性にある。別の言い方をすれば、人によってはニコチンパッチなどを含めた総合的なメディケアが必要だろう。
 話は尻切れトンボになるが、この二著について、ドクター・苫米地の一連の著作にほのめかされている部分がクリアになったり、時折考察するある事件の内情への推理の補助にもなったりもした。よく読むと冒頭の問題意識、つまり、マスメディアやネットの催眠術的な仕組みを考える上でのヒントもあった。


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コメント

テレビで見た範疇ですと、最初の命令とあとで出した命令の区切りがない、というのがトリックかな、と。対象者は始めから終わりまで命令を聞いて行動してるだけなのだけど、視聴者にはまるで催眠が行われているように見える。

投稿: cybebob:-) | 2007.06.23 13:15

子どもたちの世界で時折というか周期的に集団催眠現象みたいなことが起きるのも不思議<というのはどういうのを指しているのでしょうか。「海辺のカフカ」しか思い浮かびませんでした。

投稿: okitemon | 2007.06.23 16:29

ほのめかすと、催眠があいまいになって、
強いストレスを被験者に与えるようですよ。
催眠状態に入っていても、
わかりやすい命令でないといけない。
本来、催眠とはストレスを解消してくれるはずのものが、
知らず知らず強いストレスの連続になって、
当然、ヒステリーにはなるはずです。

そもそも、リーダーシップの言葉というのは、
単純明快で、聞いた側が選択しやすいものです。
選択できなくしてしまいがちなリーダーが多いことから、
半強制的な言質をさけることで、
聞いた側が選択できるかというと、
なにをいっているかわからないわけだから、
結局は、選択できないわけです。

愛国心とか、美しい日本とかは、
ほのめかしです。
その上、この言葉には選択の余地がまるでありません。
もし、国民一人一人が拳銃をもっていたら、
いつでも引き金を引くことになるはずです。
逆に現代は拳銃をもっていないわけですから、
身近な年金問題には、急がなくてもいいのに…
ということです。

催眠では、本人が望まないことは一切しません。
同じように、ハッキリとブログで、
「おまえら、さっさか寝ろ!」といっても、
本人が望んでいない限りしません。
それに、何度も繰り返して言わなければ、
反感をもたれることもありません。
せいぜい、「うるせーー!」とハテブにかかれておしまいです。

ほのめかされて、怒っている人は、
選択を迷って失敗し、その連続が特定の人から続くわけですから…
本来、ブログなら、選択しやすくするヒントを積み重ねるならとにかく、
迷う連続になっていれば…

ちなみに、ユーザーサポートのコツは、
問い合わせに対して、正しい答えをいったり、
あるいは、中立の立場で、正しい答えをいうのも避けたり、
ではなく、
問い合わせの人の迷っている点を、ほどいてあげられれば、
自分で答えを見つけて、納得されることが多いはずです。

最悪は、迷ったままとか、さらに迷わせるとかですね。

なにも、迷いたいためにブログを読んでいる人は少ないはずですし、
結局、自分にとって、何一つ、役立たなかった、
人生上の心配につながってしまった、
迷いが深くなってしまったら、
さて、これを、すべて読者個人の責任といっても、
結果は、黙って去っていくだけでなく、
ということになるのかもしれませんね。

迷いにつながるようなことは、しないほうが?

投稿: 石川 毅 | 2007.06.23 18:50

ついでに、BBSもブログも、
なぜ、迷わせるようにしむけるのでしょうね?

「リンゴは赤い」で終わりなことを、
「リンゴは赤くないかもしれない。」と長々とやるわけです。

「催眠術は無害とこの本に書いてあった」が、
「どうやら、催眠術にはまだまた不可解なことがあるらしい、さて?」とか。

せめて、ブロッガーらしく、
では、明日、催眠術を受けにいってきまーーすと、明るく行かない?
こっちの方が、不思議です。
このエントリーを読んだだけの人は、
催眠術の謎が深まるばかりで、
で、苦痛のあまり、
ここに書いたある本を買ってしまうという、
新しいマーケティングなのでしょうか?

なんか、村祭りにくる見世物小屋の「ヘビ女」みたいですね?
笑ってかえる客ばかりならいいのですが?

投稿: 石川 毅 | 2007.06.23 19:05

いやあ、集団催眠ですか。専門性へのゆらぎかと思いましたよ。インターネットをやるほど専門家の見識が信じられなくなるという、不信に陥った人々は保留しながらとにかくディテールを攻撃していく。すると傍からは狂騒的に感じられる。
その上ネットでは専門家が権威を構築できない。皆狂いますね。
といった実感はあります。

投稿: | 2007.06.24 02:19

催眠誘導に関しての情報、とてもためになりました。ありがとうございました。

投稿: セシル | 2010.11.22 09:51

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