コムスン不正問題についてはブログで取り上げるのを控えていた。コムスンが悪いのは社会的に明白というところだろうか。水に落ちた犬はみんなで一緒になって叩かないとろくでもないことになる、ということは長いことブログを続けてきて学んだことの一つでもある。ただ、心にひっかかりはあった。世相のログを兼ねてこの問題にも少しだけメモ書きしておこう。
まず、なにが問題でいつから問題なのかということがひっかかっていた。そんなこと当たり前だろ的な空気が漂っているが、そのあたりを大手紙社説とかの概括を使って確認しておきたい。まず何が問題かだが八日付け朝日新聞社説”コムスン 処分逃れを許すな”(参照)より。話は厚労省の処分が決まったのはこうした悪があったからだといった文脈にある。
こんな処分を受けたのは、東京や岡山、青森などにある8事業所を開設する際、条件を満たすため、うその申請をしていたからだ。辞めたヘルパーを責任者としたり、他の事業所の職員の名義を使ったり、という具合である。
さらに、これらの事業所が取り消し処分となる直前に、自ら事業所の廃止を届け出て、処分を逃れていた。
つまり、(一)嘘の申請があった、(二)事業所取り消し処分前に廃止届けを出して逃げていた。
これらの不正に対して、朝日新聞はこう断罪する。
介護保険は40歳以上の人が払う保険料と、税金で運営されている。サービスを受ければ自己負担もある。その制度を食い物にする事業者は、トップ企業でも退場してもらわなければならない。
それはそうだろう。わかりやすい正義のようでもある。
だが、問題はこれだけではない。コムスンは厚労省からの処分を避けるために事業を丸ごと同資本系列に譲渡しようとした。それもまた問題だというのである。
不正がばれて処分を食らったら、事業を丸ごと身内の仲間に譲って継続を図る。こんな人を食ったようなやり方が許されるのだろうか。
訪問介護最大手のコムスンが、厚生労働省の処分を避けるためにとった事業譲渡が批判を呼んでいる。
これが八日の時点で、その後の流れとして、事業の譲渡先は別の会社ということになった。つまり、事実上、コムスンは完全撤退することになった。めでたしめでたし……なのか? まあ、これで清廉潔白正義の会社が譲渡を受ければ、めでたしというところなのだろう。が、疑問が沸く? 買うところあるんだろうか?
ちょっと率直に言ってみる、ないんじゃないだろうか?
そんなことはない、不正に手を染めずにきちんと介護ビジネスを展開しているところだってある……という話も聞く。たぶん、そうなんだろう。ただ、それが全国展開できる可能性として問われているのかと考えると、どうなんだろうか? 採算の取れる地域とそうでない地域があるのではないか。
というあたりで、疑問がトレースバックする。そもそもコムスンっていうのは、全国展開をしていた。儲け一辺倒ならそうすべきではない。コンビニの世界でもセブンイレブンは沖縄に手を出さない(ローソンとファミマが多い)。いや他の地域にも手を出さない。全国展開なんか考えてもいない。
逆にコムスンはなぜ全国展開を志向していたのかという疑問が沸いてくるし、ちょっと考えると、不正をすればなんとかなると思っていたということなのだろうか。そうかもしれない。そのあたりがわからない。あるいは、ある程度の不正は不利益地域展開とのバーターだったんじゃないだろうか。そして、厚労省もそのあたりは阿吽で認めていたんじゃないだろうか。
とか、ちょっと疑問が連鎖する。ちょっと陰謀論めいているだろうか。
もうちょっと疑問を進めたい。
私はこの介護問題についてNHKのクローズアップ現代などでぼんやり見たことがあるのだが、その時の印象では、これはビジネスとして成立する分野だろうか、ということと裁量幅が大きいなということだった。そして、そのあたりのクラウド内部にはいろいろご事情といったものがありそうだなとも思った。
今回のコムスン不正問題だが、どっから降って湧いたかというと、先の朝日新聞社説の「東京や岡山、青森などにある8事業所を開設する際」がそのあたりなのだが、スペシフィックにその時期をトレースすると、社会的に問題の芽が浮上したのは、昨年末、一二月二七日のコムスン株暴落(ストップ安)だった。その時のネタが「介護報酬を過大請求していた疑いがあるとの報道」だった。報道の元は東京都によるコムスン監査なのだが、この監査自体はそれ以前の一八日から実施されていた。読売新聞”コムスン、介護報酬を過大請求 都が事業所50か所を一斉監査”(2006.12.27)より。
都福祉保健局は今月18日から、同社が都内で展開している187か所の事業所のうち約50か所について、順次立ち入り検査(監査)を実施。複数の事業所で、こうした方法による過大請求の実態を確認した。サービスの実施計画を記した「訪問介護計画書」に不備があり、内容をチェックできない事業所もあったという。
都道府県による介護事業所への立ち入りは、通常は改善を促すための「実地指導」として行われる。都はこれまでに同社の事業所に実地指導をしたが、「問題はなかった」と回答するなどして従わなかったため、今回は行政処分も可能な「監査」に踏み切った。今後、各事業所から提出を受けた書類を分析するなどして、過大請求について本社から具体的な指示があったかどうかを調べる方針だ。
これが今回のコムスン不正の取りあえずの原点になりそうなのだが、事実関係を読み解くのが難しい。そう無理なく読み解ける部分だけ言うなら、東京都はコムスンの不正を以前から知っており、その指導にコムスンが従わないことに業を煮やしていた。そして堪忍袋の緒が切れたということなのだろう。
この時点で厚労省はどう動いたのか。実は動かない。その後、東京都が都下のコムスン事業所の不正を明らかにしたので、それに押された形で、花見も終わったしという時節に関わり始める。四月一〇日に全国一斉監査を通知し、翌日都道府県担当者を集めた「全国介護保険指導監督担当係長会議」で厚労省は指導をした程度。どうにも春の暢気な雰囲気だ。読売新聞”訪問介護問題 法令順守徹底、指導を要請/厚労省”(2007.4.11)より。
同省の中井孝之・介護保険指導室長は、東京都の事例以外にも、不正や運営基準違反などの報告が相次いでいることを指摘し、「法令順守を前提に、事業者指定されるということを、きちんと事業者に伝えて欲しい」と述べた。
また、10日に通知した全国一斉監査についても説明。今回、グッドウィル・グループの「コムスン」(東京都港区)が、指定段階から別の事業所の職員の名義を使って虚偽の申請をしていたことに触れ、「複数事務所を持っていれば、こういうことがあり得る。こういうやり方を放置することはできず、速やかな監査の実施をお願いしたい」と要請した。
校長先生の朝礼のお話のようにほのぼのとしている。
ジャーナリズムも厚労省と同じようにのんびりと後追いの雰囲気があった。読売新聞”介護大手3社の不正発覚 7兆円市場、甘い監視”(2007.4.11)より。
「コムスン」「ニチイ学館」「ジャパンケアサービス」の訪問介護大手3社で、介護報酬の不正請求が相次いでいたことが、東京都の調べで明るみに出た。介護保険を巡るビジネスは、いまや7兆円市場。訪問介護の分野にも企業が次々と参入し、行政側のチェックが追いつかない実態が浮き彫りになっている。
他ジャーナリズムも似たようなものだろうと思うが、ようするに「行政側のチェックが追いつかない」のが問題で、ジャーナリズムの問題ではなさげな暢気な雰囲気が漂っている。だが、そんなことがありうるのだろうか。同記事より。
◆指定取り消しや直前廃業459か所、氷山の一角? はびこる不正・過大受給
厚生労働省の集計によると、不正による指定取り消し処分や、指定取り消し直前に廃止届が提出されるなどした介護事業所は、介護保険制度が始まった2000年4月から昨年末までに、全国で計459か所に達している。
このうち、コムスンなどと同様、営利法人が運営する訪問介護事業所は139か所。サービス提供の水増しや無資格者による介護、虚偽の指定申請などが主な処分理由だ。
私はこの分野に詳しくないのだが、どうも実態は関係者ならわかっていたはずといった類にしか見えない。しかもこれって、コムスンだけの問題ではなく、この業態のある構造的な問題だったのではないか。そして、構造的な問題だということは、つまり厚労省のデザイン・ミスだったのではないか。制度が始まった二〇〇〇年時点でそうした雰囲気が感じられる。読売新聞”[現場から 介護保険スタート半年]〈中〉誤算(連載)=福岡”(2000.10.12)より。
制度の導入から半年がたち、コムスン、ニチイ学館といった大手各社も予想外の苦戦を強いられている。サービス利用の伸び悩みに加え、訪問介護の三類型(身体介護、家事援助、複合型)のうち、最も報酬が低い家事援助の割合が予想以上に高かったためだ。
コムスンは全国約千二百か所に事業所を設け、新制度の導入に備えたが、九月下旬には、当初の半分以下に規模を縮小する大リストラ計画を発表。九州事業部(福岡市南区)では、突然のリストラに反発した従業員が労組を結成し、会社との対決姿勢を強めるなど混乱が続いている。
県高齢者福祉課によると、十月一日現在の県内の在宅サービス事業所は二千三百四十三。コムスンの十事業所を含む三十二事業所が既に廃止届を提出しているが、「届け出をしないまま、休眠中の事業所もかなりの数に上る」というのが関係者の一致した見方だ。
無理をつっぱしっていたとしか見えないし、それが地方行政や厚労省側が無知だったとはとうてい思えない。
そしてその無理はようやく国政にまで重大な懸念となってきたのだろう。介護保険の総費用が、〇七年度予算で〇〇年度実績の二倍以上七・四兆円なった。どこかでカタストロフを起こす必要はあったのだろう。それをできるだけ厚労省が泥を被らないように犬を水に突き落とすという計もあるだろう。
厚労省はそういう筋書きだったのだろうか? どうもそうとも思えないほのぼのとした暢気さが春の終わりには感じられた。初夏に入ってから筋書きを変えたのではないだろうか。そして、ジャーナリズムも筋書きを変えたような感じがする。
さて、このカタストロフ、どこから崩落するか。
全国規模で展開したコムスンのことだから、採算性の合わない地方から崩壊するのである。いずれそこに回す国家のカネもないのだという普通の予想をコムスン叩きで覆ってしまえば、みんなが正義だ。そして正義も興行となれば相応の見料も必要。前口上はもちろん、「そもそも介護領域を民間にさせたのが間違いだ」だろう。厚労省の息のかかったお国ブランドでやるべきなのだこうした領域は……とかね。