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2007.05.29

松岡利勝農水相自殺、雑感

 松岡利勝農水相自殺について。ブログとして世の中の話題を無名の庶民である自分の心に浮かぶところから記しておくという以上の話はない。まず、哀悼の意を表したい。
 私が昨日ニュースを聞いたおりにはまだ生死が不明であったようだ。経緯は、午前10時ごろまで彼は宿舎の室内で秘書と話をしていたが、その後、出かける予定なのに現れず、午後零時18分ごろ秘書と警護の警察官が部屋を訪れ、意識不明の農相を発見したとのこと。死亡が確認されたのが午後2時頃らしい。すでに本人の意識はなく苦しいという感覚もないのかもしれないが、人はなかなか死ねないものだなという思いと、なぜ人は縊死を思うのだろうかと、しばし考え込んだ。類似の要人事件のようにまた陰謀論が起こるかとも思ったが、遺書がすでに8点発見されており、その筋はなさそうだ。
 死亡が確認されていないまでも、一報を聞いたときの私の最初の印象は、まあ率直に言えば、日本の恥だ、ということと、残された家族が不憫だ、ということだった。その合い混じった奇妙な感覚には彼の名前への思い入れがある。というのは、国家の名誉みたいなものをふと連想してしまったからだ。
 「なぜ利勝」で「勝利」ではないのだろうか、それでも「勝利」のヴァリエーションだろうなと思っていた。戦中にはこの名前が少なくないし、その名前を付けられた人は戦後世界で微妙な思いを抱いて生きてきたものだ。時代と名前の引きずりの類似には昭和の昭坊がある。こうしたことは特に指摘されなければある年代以上には常識でも、ある年代以下にはぷっつりと通じなくなる。なお、彦野利勝のようにそうした背景を想像しなくてもよい時代も訪れる。
 松岡農水相の生年月日は1945年2月25日。都市部では敗色が濃くなる時期で、この時期に「利勝」という名前が付くのはよほど田舎であろうか。歴史上の有名人には土井利勝がいるがその由来もなさそうだ。経歴のサマリーをウィキペディアに借りる。


農家に生まれる。熊本県立済々黌高等学校、鳥取大学農学部林学科を卒業し、1969年に農林水産省に入省。大臣官房企画課、天塩営林署長、国土庁山村豪雪地帯振興課課長補佐などをつとめる。1988年、林野庁広報官を最後に退官し、1990年の第39回衆議院議員総選挙に旧熊本1区から無所属で立候補。

 農家の生まれで農学部を出て農水省に入るという、農業が人生の課題のような人でもあったようだ。官僚から政治家への転向は四〇代半ばということで、そのあたりをどう読むべきかは微妙だ。それほど娑婆気のあった人でもないのだろうし、その後の政治家としての活動をざっと見ても、どちらかといえば農業問題の専門家という印象がある。政治家をきれいに辞めていたら大学の先生でもしそうなタイプなのではないか。
 経歴を見ていると永岡洋治と同じく亀井派を裏切ったようにも見える。またそうしたことを含めて、私は彼を取り巻くスキャンダルについては関心もなく知らない。むしろナントカ還元水騒ぎのとき、よくメディアやネットがそれをネタに安倍政権を叩くものだなと呆れて引いていた。が、たぶん彼が自殺に至る背景は、すでにメディアで言われているように緑資源機構に関わる問題があるのだろう。
 ただ、死ぬものかなとは思う。この点、率直に言うのだが、彼は一種の鬱病だったのではないだろうか。つまり、政治の文脈もあるだろうが、一義的には精神の病ではないかという感じがする。私は五〇歳にもなるのでそれなりにこりゃもう死ぬか生きてられないかと思うことも人並み程度にはあったが、そういう人並みもなく六〇歳を過ぎる人も世の中にはおり、その歳で人生の絶望というのは精神抗体不足もあるのか、いやいやその年代になると今の私などからは思いがけないほど重たいものがあるのか。後者かもしれないなと思うので、それほど自死を責めるわけにもいかない。だが大人というものは、残る人のことを配慮してできるだけ自殺などするものではない。老兵は消えていくのがよろしい。
 本人の意識のなかで自殺の理由付けはどのような理路を辿っていたのかには、まったく興味がないというわけではない。そこに政治的な疑惑も関連しているだろうから、という点において無関心であれとも言い難い。
 では単純になぜ自殺したのだろうか? もちろんわからないのだが、推理小説のように考えるなら、ヒントは本人が残しているはずだ。遺書を読むことができないが、報道されている「内情は家内がよく知っており、全部託している。家内がどこに何があるかを知っているので探さないで下さい」という部分が心に残る。
 まず私は個人的な思いが先に立った。この遺書の言葉は、妻への残酷な甘えの響きがあると思う。妻が自殺を了解してくれると思い込んだ孤独な男がいる。私にはまずもってそれが耐えられない。しかし、それもある愛情なのかもしれない。
 故人が家捜しされることを恐れていたことは確かだろうし、であれば、そこに何か捜されることを拒むものがあるのだろう。この遺された言葉はそのあたりの、微妙な駆け引きについての誰かへのメッセージであろう。であれば、この事件はどこかに落とし所が想定されており、彼の死もその絵のなかに嵌っていたのだろう。
 野党や反安倍の勢力はこの事件を政局にもっていきたいのだろうが、悲しいかな、この詰め将棋、松岡利勝農水相が一手分だけ勝っていたのではないか。ただ、そんな勝利に人間としてなんの意味があるのか。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

>私が昨日ニュースを聞いたおりにはまだ生死が不明であったようだが、発見されたのが午後零時18分ごろとのこと。経緯は、秘書と警護の警察官が部屋を訪れ意識不明農相を発見したとのことだ。そして死亡が確認されたのが翌日の2時頃らしい。

ん? 経緯が…。
最後に人と会ったのが昨日の10時過ぎ、発見が同日12時すぎ、死亡確認が14時ごろだと思いますが…。

投稿: | 2007.05.29 10:37

要は死亡確認が同日14時ってこと。

投稿: 通りすがり | 2007.05.29 10:59

かつて盟友だった鈴木宗男氏のWeb日記の5/28のところにこんな記述がありますね。何故ムネオ氏はこんなことを書いたのか気になります。

> 今となっては24日夜、熊本の地元の人が出てきたので会食につきあって欲しいと早くから言われていた会合でゆっくり話したのが最期となってしまった。その時私は松岡大臣に「明日決算行政監視委員会で私が質問するから、国民に心からのお詫びをしたらどうか。法律にのっとっている、法律に基づいてきちんとやっていますと説明しても、国民は理解していない。ここは国民に土下座し、説明責任が果たされていませんでしたと率直に謝った方がいい」と進言したら、力無く「鈴木先生、有難いお話ですが今は黙っていた方がいいと国対からの、上からの指示なのです。それに従うしかないんです」と、弱気な言いぶりだった。私はなお、「これからも何かにつけこの話は続くので、早く国民に正直に説明した方が良いと思うよ」と重ねて話すと、「そこまで言ってくれるのは鈴木先生だけです」と、にっこり微笑んでくれた事を想い出す。
> どうして自ら命を絶ったのか。ご本人しかわからぬ事である。第三者が詮索するのは避けるべきだ。

ムネオ日記 2007年5月
http://www.muneo.gr.jp/html/diary200705.html

投稿: Baatarism | 2007.05.29 12:22

報道されている時系列は~、5月28日(月)午前10時の段階で、秘書と赤坂議員宿舎の自室で打合せ
→その後出かける予定が、自室から出てこない→正午すぎ《5月28日(月)午後0時18分》秘書とSPが自室に入ったところ、頸吊りした状態で発見→救急車で新宿の慶応病院に搬送《この時点で心肺停止状態》
→5月28日(月)午後2時、医師から死亡が正式に確認される
~といったところでしょうか…。
http://www.asahi.com/special/070528/TKY200705280175.html

なにか微妙にタイムラグがあるのが気になるところではありますが…。

投稿: ういうい | 2007.05.29 15:44

ご指摘ありがとうございます。事件経緯を書き改めました。

投稿: finalvent | 2007.05.29 15:56

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007052900193

で、こっちもの様で。

投稿: 無粋な人 | 2007.05.29 16:29

たしかに松岡氏の目はうつ病患者さんの特有のうつろな目をしています。
(目の焦点がゆれるボーとしている状態)
 
小泉首相はじめ精神的に病を抱えている人たちは、政治家の世界にも多いです。
 
発作的に自殺したわけではなさそうですが、彼の胃に残された薬剤成分が気になります。
 
2ちゃんねるに松岡農相の自殺2日前に事件を予見していた書き込みが
http://anond.hatelabo.jp/20070529105309


投稿: 裏があるような | 2007.05.29 19:00

5月病が非科学的なら、気候の変わり目ならお気に召すかな。
自覚症状なくとも、体に負荷がかかっていることはある。
肝臓なんか悪くなっても気もつかん。女よりストレスに弱いと思っとけ。
一族郎党皆殺しでもあるまいに。中島敦読んでも自殺すんな。

投稿: わすれた | 2007.05.29 20:46

> 「内情は家内がよく知っており、全部託している。
> 家内がどこに何があるかを知っているので探さないで下さい」
> という部分が心に残る。

 この件なのですが当初の報道の中では奥様が「何を」知っておられるのか、という部分が伏せられていたために様々な憶測を読んだ部分があろうかと思いますし、文学的な忖度すら可能になったきらいがあります。ただ、以下のような記事も出ておりましたのでご存じかもしれませんが紹介を。

> ◇(発見者のために書かれたとみられるもの)
>
>  家族への手紙は、女房が分かるところにありますので、ぜひ探さないで下さい。
>  女房が来るまでは、どこにも触れないで下さい。

・毎日新聞「松岡農相自殺:遺書8通残す 「国民の皆様」宛てなど判明」
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20070529k0000e040076000c.html

 個人的には、6通の封書と便箋一枚ずつの2通を加えて、8つもの遺書を書きながら、家族宛が無いのはどうにも不思議だなと思っておりました。あまりにあからさまなほのめかしを残す不自然さもひっかかっており、このような文脈であれば腑に落ちないでもないと感じました。その家族宛に何が書かれているのかまでは最早知る由もありませんし、finalventさんの仰るとおり便箋にも別の意味が込められているのかもしれません。

 ここでなお陰謀論めいた組み替えを行うなら2つの見方が可能ではあります。(1)当初発表の段階で、なんの変哲もない文章のキーワードが伏せられていたのは偶然か。関係者に揺さぶりをかけようとした意図があったのかどうか(2つめの自殺はそれが裏目に出た?)(2)今回判明した内容ってホントにホント?

投稿: i-330 | 2007.05.29 22:46

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070529#cで述べさせて頂いたが、“腐った暴力に媚び、取り込まれた無様”でしかない、ということを識ってもらいたい、この国の人々に。

投稿: rice_shower | 2007.05.30 01:50

こんにちは。
>陰謀論が起こるかとも思ったが、
これから、
週刊誌が書き立てて、
週刊誌関係者はウホウホだと思いますよ。

投稿: けろやん。 | 2007.05.30 05:49

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