誰が「赤ちゃんポスト」という名前を付けたのだろう? そしてマスコミはなぜこの名称を続けているのだろう?
誰が「赤ちゃんポスト」という名前を付けたのだろう? そしてマスコミはなぜこの名称を続けているのだろう? すごく単純な問題かもしれないが、ざっと調べた範囲では名称の由来はわからなかったし、なぜマスコミがこの名称をそのまま使い続けているのかもわからなかった。どうにも変な気分がするので、些細なブログだけど問題提起しておこう。あるいは単純明快な答えがコメントでいただけたら幸い。
ネットを見ると同様な疑問を持っている人が多数いる。新聞などにも投書があったらしい。三月一〇日付け産経新聞”【風】「赤ちゃんポスト」の名称に反対”(参照・キャッシュ参照)ではこう。
「赤ちゃんポスト」の名称について、大阪府阪南市の70代の男性から意見が寄せられた。
《貴紙では「ポスト」の表記は中止していただけませんか。命の誕生を経験した親御さんが、赤ちゃんを手放す悲しみを思いますと、「ポスト」の文字を見るたびに「命の尊厳とは何だろう」と思わず涙が出てまいります》
別の方から届いたはがきにも《「ポスト」と紙上で言われると、軽薄な感じで嫌な気がします》とあった。赤ちゃんを「荷物」のように連想させてしまうのかもしれない。
設置を計画している熊本市の慈恵病院は「こうのとりのゆりかご」と呼んでいる。子供を運んでくる鳥、という西洋の言い伝えにちなみ、大切な命を守りたいという願いをこめている。
理事長の蓮田太二さんによると、発祥の地であるドイツでは、ベビー・クラッペ(Baby Klappe)と呼ばれていた。クラッペとは、扉を開閉するときの擬音語なので「赤ちゃんの扉」といった訳語になる。ほかに「赤ちゃんの巣」の意味でベビー・ネスト(Baby Nest)なども使われていたが、「ポスト」という呼び方は聞かなかったという。
ちなみに産経の結論はこう。
名称を再考する余地はあるように思える。だが、「ゆりかご」では親がわが子を手放すという本質を隠してしまうだろうし、親が赤ちゃんを引き取ることもできる仕組みなのだから「捨て子箱」でも違う気がする。
賛成にしても反対にしても、ここまで反響を呼ぶのは「赤ちゃんポスト」という名称があったからだと思う。もう少し、みなさんとこの問題を考えていきたいので、当面は「赤ちゃんポスト」と呼ばせてほしい。(康)
率直に言いますね、これ、すげー不愉快です、私。何が「本質を隠してしまう」だよ。本質は社会が育児を引き受けるということだよ。「捨て子箱」の発想ってどうよ、と。しかし、それはさておくとして、反響を呼んだからこれで使っていきましょうっていうのが、そもそもまるで納得できないのだが。
話戻って。
慈恵病院が当初「赤ちゃんポスト」と呼んでいたのだろうか。そのあたりも少し調べてみたがわからなかった。市保健所申請時の名称だろうか。だとしてそれは申請側の名称だったのだろうか。
また「こうのとりのゆりかご」という正式名称があるのになぜマスコミは使わないのだろう。記事では固有名詞ではなく一般名詞だからということか。しかし、他に類例はないのだし、そのままでいいのではないか。
あるいは、ドイツとかすでに実施している国で、「赤ちゃんポスト」と呼ばれていたのか? これも少し調べてみたのだが、上の投書にあるように、類例はなさそうだ。
ウィキペディアを見ると、「赤ちゃんポスト」(参照)でべたに項目がある。私のウィキペディアへの感覚からいうとこういうとき、項目見出しに使うのであればなんらかの由来の説明があるべきなのだが、読むに、それがない。微妙にずれた話がある。
慈恵病院での名称は「こうのとりのゆりかご」。同病院が参考にしたドイツではBabyklappe と呼ばれている。英語の Baby とドイツ語の Klappe を合わせた単語である。Klappe とは“パッチと音がして閉まる扉蓋”を意味している。もう一つの呼び名として Babywiege がある。Wiege とはゆりかごを指す。共にドイツ語本来の赤ちゃんを意味する Saugling を用いないで、英語であるところに微妙な心理が伺える。
英語とドイツ語の項目も見たが、ポストに相当する説明はなく、どうも日本独自の表現臭い感じがする。
わからない。いつから、「赤ちゃんポスト」という言葉があるのだろう。疑問が元に戻るだけだ。
新聞のアーカイブをサーチしてみると、少しだけ手がかりっぽい情報があった。〇三年七月一五日付け読売新聞”[世界の社会保障]ドイツ 増える「捨て子箱」に賛否”にすでに「赤ちゃんポスト」という言葉がある。
ベルリン南西部の閑静な住宅街。ウァルトフリーデ病院の入り口脇にある「ゆりかご」の矢印に従って、裏庭を抜けると、やがて産婦人科棟の外壁に埋め込まれた郵便ポストのようなものが現れる。
ふたを開けると、〈困った母親たちへ〉と書かれた紙片が訴える。〈開閉は一度きり。でも、自分で育てようと思い直せば、いいえ、親だと名乗り出たくない場合でも、一度、我々に連絡をください〉
それは、「赤ちゃんポスト」とか「ゆりかご」と呼ばれる“捨て子箱”。箱に入れられた赤ちゃんは病院で育てられ、八週間以内に親が引き取りに来なければ、養子縁組の手続きがとられる。
フランスやオーストリアと異なり、ドイツでは、生みの親が子供の出生を届け出ない「匿名出産」は違法だ。捨て子箱には違法行為を支援する側面がある。だが、ハンブルクやベルリンなど大都市で数年前に誕生した捨て子箱は、今やほぼ全ドイツに広がり、確認できるだけで六十を超えた。
率直に言いますね、この文章、すげー不気味です、私。なぜ、「それは、「赤ちゃんポスト」とか「ゆりかご」と呼ばれる“捨て子箱”」なんて表現ができちゃったのだろう? そして、「ハンブルクやベルリンなど大都市で数年前に誕生した捨て子箱は」と、文脈の次の登場では”捨て子箱”の引用符が消えてしまうのはなぜなんだろう。
この文章さらに最初に戻って「郵便ポストのようなものが現れる」とあるのだが、これって、そう思ったから「赤ちゃんポスト」という造語にしたのか、あるいは、「赤ちゃんポスト」という言葉があったから、「郵便ポストのようなものが現れる」という文章の切り出しにしたのか。たぶん、後者なんだろうと思うが(それは日本人の感覚からは郵便ポストには見えないはず)。
もう一か所引用する。
ウァルトフリーデ病院では、捨て子箱を設置した二〇〇〇年九月以来、こっそり置かれた赤ん坊をはじめ、計三十四人が匿名出産でこの世に生を受けた。
同病院で匿名出産の相談を受けるガブリエレ・シュタングルさんによると、産んだ赤ちゃんを殺したり捨てたりする動機は、本人の一時的精神錯乱や貧困、未成熟だけではない。そこにはレイプや近親相姦(そうかん)といった社会の病的現象が暗い影を落としている。ベルリン市の推計では、娘の四人に一人、息子の十人に一人が家庭内で何らかの性的虐待を受けているという。
「乳児殺しは年間四十件以上報告されているが、それは氷山の一角。病んだ社会で何ができるのかを考えた末に、私たちは匿名出産に応じ、『ゆりかご』も設けたのです」と、シュタングルさん。「産んだ赤ちゃんを切り刻んでトイレに流した母親を私は何人も知っている。そのように葬り去られる可能性のある命を助けることが、どうして悪いのですか?」
シュタングルさんは、「私たちは匿名出産に応じ、『ゆりかご』も設けたのです」と「ゆりかご」と言っているのに、なぜそれを考察できなかったのだろう。
しかし、そう記者に詰問できる立場に私もないのだろうとは思う。〇三年時点ではこうした文章が新聞に掲載されて、特に問題も起きていないし、その時点では私も異和感を感じなかったかもしれない。
とはいえ、最初の疑問に戻って、誰が「赤ちゃんポスト」という名前を付けたのだろう? そしてマスコミはなぜこの名称を続けているのだろう? それがまるでわからない。なぜそれが簡単にわからないのかも奇っ怪だし、その経緯が知りたい。それと、私の意見としてはその名称を止めるべきだ。当面「こうのとりのゆりかご」のままでよいと思う。あるいは、「ベイビーハッチ」としてもよいと思う。それは私たちの社会にとって新しい存在なのだから、しばらくは新しい呼び名でもよいだろうという意味だ。
追記
捨て犬のための「わんわんポスト」の連想かもしれないという指摘があった。
⇒幸せの鐘が鳴り響き僕(r - 赤ちゃんポストの恐怖
最近ではこんなのがわんわんポストと称されているのでひょっとしたら最近の人は知らないかもしれないので、一応解説しておくとかつて有ったわんわんポストとは決して上記のような「かわいい犬の形をした郵便受け」ではなく、飼えなくなった、あるいは飼いきれない程産まれた仔犬を捨てる為の「犬捨て箱」の事である。
さらに連想だが、白ポストがこうした命名センスの起源かもしれない。
⇒白ポスト - Wikipedia
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コメント
finalventさん(でいいのかな?)はじめまして
「赤ちゃんポスト」は誰がつけたかわかりませんが
、少なくともマスコミが使い続けたのは確かですね。
ちなみに地元紙の熊本日日新聞では、
「こうのとりゆりかご(赤ちゃんポスト)」
という表記に後から改めました。
熊本日日新聞の記事はここにまとめてあります。参考までに
http://kumanichi.com/feature/yurikago/
ドイツの取材記事んもあります。
投稿: 名無しですが | 2007.05.02 10:43
「赤ちゃんポスト」の呼称は「円ブリオ基金センター」というNPOが製作したビデオ
「赤ちゃんポスト-ドイツと日本の取り組み」が基になって広まったようです。
http://homepage2.nifty.com/embryo/videokaisetu.htm
http://www.sankei.co.jp/kyouiku/kosodate/070426/ksd070426000.htm
投稿: freerider1923 | 2007.05.02 11:46
うろ覚えなんですがこの制度を私がはじめて見聞きしたのは結構以前のテレビ番組「世界まる見えテレビ特捜部」でした。
世界のテレビ番組の一部を面白おかしく紹介する番組で「ドイツには赤ちゃんを入れるポストがある!?」のようなバラエティらしいキャッチコピーで紹介していたと思います。
ネットにその感想などが残ってないか検索してみましたが最近のニュースが厚くて見つからなかったので時期は特定できません。
投稿: papepo | 2007.05.02 11:50
ちょくちょく見に来させてもらってます。
ポストの社会的な役割はともかくとして、一義的にみたら
やっぱり捨て子箱なんじゃないでしょうか?結果的に
社会が引き受けることになるけれど。
麻薬をドラッグ、売春をエンジョコウサイとか呼ぶのと
あまり変わらないように感じるのですが。
投稿: N2 | 2007.05.02 12:29
日本で赤ちゃんを大切にする道徳観が広まったのっていつ頃からなんだろ。
生類哀れみの令には犬や馬と同列で赤子が記載されているから、
それ以降なんだろうけど。
武士や公家が廃止されて、その文化が民間に流出した頃からなのかな。
投稿: うps | 2007.05.02 13:12
どうも、ダストシューターやレンタルビデオの返却BOXを思い浮かべるんですよね。
投稿: 無粋な人 | 2007.05.02 13:50
社会的な役割なんて、捨てられた当の赤ん坊からすればどうでもいいよな。卑怯な欺瞞。
投稿: 率直に言って | 2007.05.02 14:22
これって外国人の捨て子ポストにならないか不安なんだが。熊本あたりじゃ大丈夫なんでしょうか?
投稿: jomo | 2007.05.02 16:06
なんでそこで外国人が出てくるの?
投稿: ん? | 2007.05.03 00:03
「赤ちゃんポスト」について、無知な finalvent にコメントしておく。
1.名称が気に入らないのならヨリ好ましい代替名称を提案せよ。
2.米国では Baby drop box、drop-off box、drop-off window など、考え方によってはもっと凄い名称が使われている。
(あまりに不愉快だったので思わずコメント)
投稿: (あまりに不愉快だったので思わずコメント) | 2007.05.03 01:55
結局のところ「社会が育てる」という概念について、世の人はあまり信用していないのだろうと。現在の運用がどうなのかは知りませんが、本読むとしばしば戦災孤児の悲惨な生活はでてきますし、養子にしてもシンデレラとか。
投稿: な | 2007.05.03 02:42
マスコミ関係者としては、ニュースも含め、視聴率があがりさえすれば良い。ただし、報道表現に対して、社会からバッシングを受けない範囲で、センセーショナルにする。そういう意味では、最高のネーミングですね。社会の一部の善人や国語学者、病院関係者の気持ちなど、どうでも良いのです。視聴率があがり、話題になり、プロデューサーが、処分されず、スポンサーに喜ばれれば、この世界は、金メダルもの。マスコミとしては、良い名前を、マスコミのコピーライターが作ったものだと、喜んでいます。所詮、やらせでも、ばれなければ、OK。視聴率、スポンサーが、お客様であり、国民世論など、それこそ社会問題にさえならなければ、しばらく経てば、みんな忘れてくれる。これが、日本国民の習性って、熟知してますからね。
マスコミ的には、最高のネーミングです。早く、第1号の赤ちゃんが、ポストに、入らないか。スクープ待ちですよね。ニュース、ワイドショーネタとして、最高なネタですから。。。。
投稿: マスコミ人の常識です。 | 2007.05.03 05:06
100歩ムーンウォークして「こうのとりのゆりかご」を利用する親の
行為を「子捨て」と言い換えることに同意することはできても、
運用する病院の意図を「(ポストに入れることでの)赤ちゃんのモノ化」
であるとするのには同意できませんね。
どこから見ても自己防衛が出来ず、逃げ場のない人間を避難させる
救助行為じゃないですか。
テメーら自分で新聞書いてるんだから酷い始末のされ方をする嬰児
が常にいることを知らないわけがないだろうと。それこそいいネタに
しているじゃないか。
>社会的な役割なんて、捨てられた当の赤ん坊からすればどうでもいいよな。卑怯な欺瞞。
こんなこと言えるようなお上品な記者がいるのか知りませんがね。
センセーショナリズム大いに結構、とまでは言いませんがマスコミは
経済活動をしているのだから刺激的に書きたいのでしょう。
しかしそれはお花畑、左巻きのような被害の少ない(ゼロではないですが)
方向でやってほしいものです。
これでは弱い立場にあるものに一方的に危害を加えているようなものですね。
投稿: | 2007.05.05 00:17
>被害の少ない(ゼロではないですが)
「自分は」が抜けていますよ
投稿: 無粋な人 | 2007.05.07 12:41
こうのとりのゆりかごに捨てられた赤ちゃんは、即座に警察に通報されて孤児院へと渡されてゆく。
このシステムを考えると郵便ポストに葉書を入れると自動的に郵便局へ収集されるシステムと実に良く似ている。
システム面を見ると「赤ちゃんポスト」は的を得た呼び方だと思う。
投稿: | 2007.05.07 14:06
誕生した新たな命を皆で引き受けるのは、人間本来の当たり前の姿。
名称が「赤ちゃんポスト」だろうが「こうのとりのゆりかご」だろうが、今のままでは誰も利用できないことは明らか。
マスコミも世論も、一日も早くこの問題から関心がそれ、一人でも多くの命が救われることを願う。
投稿: 二児の母 | 2007.05.10 14:49
「赤ちゃんゴミ箱」でいいだろ。
馬鹿な親達の育児放棄助長行為に「こうのとりのゆりがご」なんてゆるい名前付けて子捨てを美化しようとしてるのがあまりにも馬鹿馬鹿しい。
親は子供をゴミ箱に捨てると言う罪を被り一生悩まされるべきだ。
投稿: | 2007.05.15 17:38
ここに入れられた子供がまともに育たなかったらそれは私や貴方達(あえて国や社会とは言わぬ方がよいと思われます)がいかにくだらない存在であるかを証明することになるでしょう。
ゴミだと思えばゴミのような大人に、宝だと思えば宝のような大人になることでしょう。
こういったものが作られたことで問われているのは私や貴方達の資質であると思われます。
投稿: | 2007.05.18 01:50
finalventさん、はじめまして。
名称の由来についての考察をありがとうございました。
ネット掲示板で賛否両論が分かれている「赤ちゃんポスト」ですが、私の印象では表面的なマスメディア報道だけをもとに身勝手に発言して命を語った気になっている人が多いです。私自身、ネットを通じてではありますが、調べられることは調べています。その結果、マスメディア報道だけに頼っていたのではわからないことが多いという実感に至りました。
赤ちゃんポストについて調べ、思考をすると、賛成反対の結論に達するのは容易ではなく、自分は反対ではないが、かといって積極的に賛成するには時間が必要だ、というのが正直な感想です。
マスコミネタならネタでいいです。でも、早く大衆の興味が失せていってほしい。
慈恵病院の取り組みが一時の大衆心理で台無しにされてほしくないと願っています。
投稿: さぼてん | 2007.05.18 14:27
本当に、なぜ「赤ちゃんポスト」という名称を使い続けるのかが疑問です。マスコミも、あまりそちらの方面での議論をしていません。マスコミがまずやめるべきだと思います。
ポストは物を投函するものです。人間の赤ちゃんを投げ込むものではありません。
折角「こうのとりのゆりかご」という名前があるのだからそう呼べばいいと思います。
まあ、このことを喚起させるには「明日ママがいない」は良いドラマだったかもしれませんが、みな気づいたでしょうから、少なくともあだな表現等は修正して放送して欲しいものです。
このような設定でなければ視聴率が取れないととしたら、なかなか残念な世の中ではあります。
施設で普通に幸せな人を、かわいそうと思うことで、自分より「かわいそうな人」がいることを喜んでいるとしか思えない、レベルの低さを感じるからです。
そもそも、別にかわいそうな人でもないだろうし、なぜ、取り上げたのか、ということです。
施設に預ける親にだって、そうしなけりゃならない事情のある人もいるだろうから。。。
必ずしも、施設に預けることを悪とする必要は無いです。
投稿: 仁田綾子 | 2014.02.03 20:32