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2007.05.22

米国のクレジットカードの話

 米国のクレジットカードの話。私よりもたーんと詳しいかたがいらっしゃるでしょうが、19日付けの、ニューヨークタイムズ”Couple Learn the High Price of Easy Credit(ご夫妻は簡易なクレジットカードが高くつくことを学んだ)”(参照・要登録)という記事が、なんとなく心に引っかかっていたのでその話題を少し。
 記事は、モーラリング夫妻(と読むのか、Moellering)の話。夫39歳、妻40歳。幼い子どもがいる。結婚は04年。そのご夫妻が話が記事のきっかけなっている。


Ms. Moellering, and her husband, Mark, 39, earn average salaries for their age (together about $66,000 a year), live in an average-priced home and have an average cost of living. But like many other households these days, they have found that their day-to-day economic life has come to depend not just on how much they earn or spend, but also on how well they shuffle what they owe among a broad array of credit cards, home equity loans and other lines of credit.
(モーラリング夫人と39歳の夫マークは彼らの年齢では平均的な収入を得ている。二人合わせて年収800万円ほど。暮らしている家も普通の価格だし、生活費も普通。しかし、現代の他の家庭が多くそうであるように、日々の家計は収入と支出に拠っているというより、いかにして多岐にわたるクレジットカードや、住宅担保ローン、そのほかの借金を使い回すかに拠っている。)

 このあたり、たぶん微妙に日本人にはわかりにくいのではないかと思った。というのと、当初この記事の概要をポッドキャスティングで聞いたとき、貧困より問題みたいな含みを感じて、へぇと思ったのだった。もう少し引用を続ける。

Behind closed doors, the decisions families like the Moellerings make about their debt --- when to pay it off, when to shuffle it to lower-interest sources and when to let it revolve and build --- can determine how much their salaries are worth. Like many others, the Moellerings have run up avoidable penalties and occasionally spent themselves into more debt or higher interest rates, even as they have tried to juggle other balances to bring down their monthly payments.
(モーラリング家が負債についてこっそりと下した決断、つまり何時清算期限を延期するか、何時低金利のものに混ぜるか、何時リヴォルヴとビルドにするか、それらが給与の価値を決めている。他の家庭も同様にモーラリング家も、回避可能なペナルティに近づいているし、時にはより多くの借金をしたり、高金利に手を出したりする。まるで各種の月払いのバランスを取るためにジャグリングしてきたような状態だ。)

 というわけで当面の問題は、やりくりということになってはいるのだが、日本語でいう「やりくり」とは違う。こうした状況に普通の家庭が置かれるようになったのは、80年代以降のことといった言及もあるが、結論を先にいうと、日本もこれからこうふうになるのだろう。
 もう一カ所だけ引用する。

“It's a whole change in what we consider normal now,” said Vanessa G. Perry, an assistant professor of marketing at the George Washington University School of Business. “Not only has the total amount people borrow increased, but the number of instruments we borrow on has increased. An average family has a mortgage, home equity loan, various credit cards, a car loan, maybe a student loan.”
(ジョージ・ワシントン大学ビジネス校のペリー準教授によると、「現状は我々が正常だと見なせる全体が変化している」とのこと。さらに、「人々の借金の総額が増えたのではなく、借金の手法が増えたのです。普通の家庭なら、不動産担保貸付、住宅担保ローン、各種のクレジットカード、自動車ローン、学生ローンなどが選べます。」)

 話を自分なりに整理すると、というか普通の日本人からは見えてないだろう部分を自分なり補うと、まず当面の問題は、米国人は借金しまくりの手法がたんとある。特に、持ち家をベースに借金できるし、借金には金利がいろいろあるので借り換えなどのやりくりができる。そして、どうやら普通の家庭だと社会的ステータスの関連でクレジットカードで借金しないといけない雰囲気になっている(追記 そうでもないとのコメントをいただきました)。さらに、これらの借金は大半がリヴォルヴィングなので、月毎の支払いと借金の全体像の関連が取りづらい(これは借金が多岐にわたることにも関係)。さらにさらに、こうした支払いが日本みたいに自動引き落としになってない。
 このあたりの話、これだけブログがあるんだから少し身近に見えないものかと見回すと、いくつか参考になる話があった。
 ブログ「アメリカでがんばりましょう」の「クレジットカードが変わった」(参照)という03年のエントリより。

クレジットカードはアメリカでは借金として考えられています。日本と違って申し込み時に銀行口座を教える必要も無く、支払いも毎月何日に銀行口座引き落としなんてことは普通できません。なので、貸すほうは踏みたおされないように厳しい審査をしてきます。

審査で重要視されることは、日本のように定職についてるかじゃなく、これまでの借金歴。クレジットヒストリと呼ばれるこの借金歴は信用ある会社(例えば Equifax, Experian, Fico (Fair Isaac)といった会社が大手) が国民背番号である Social Security Number (通称 SSN) を使って全米の人の借金情報を管理して、これまでの統計からクレジットスコアというもので数値化します。この数値をもとに発行会社がこの人にクレジットカードを作ってもよい(=お金を貸してもよい)かを判断するわけです。


 これに関連して以前NHKの海外ドキュメンタリーかなにかで見たのだけど、クレジットスコアが金利に関係している。つまり、スコアを落とすと金利が上がる。でも、リヴォルヴィングなので知らぬは当人で、泥沼。
 ブログ「On Off and Beyond」の「クレジットカード支払い怖い」(参照)のエントリも日本人ならではの感想が共感できる。

アメリカで働き、生きていくために最も重要なものは:

1)ビザ
2)クレジットヒストリー

この二つさえあれば何とでもなる。前者はまぁ当たり前だが、後者は、住宅ローンの借り入れでもチェックされるし、賃貸でも大家さんからのチェックが入る。就職するときも勤め先からチェックされる。お金を盛大に借りて、盛大に使うとどんどん点数が上がるのだが、クレジットカードを作るのにもヒストリーがいるので、最初は「にわとりたまご問題」に悩むこととなる。つまり、ヒストリーが無いからカードが作れず、カードが無いからヒストリーができない、という・・・。(これについては、限度額相応の現金を預託しておいてカードを作るという手があるのだが。)

とにかく、クレジットヒストリーは、アメリカで生きていくための人間としての点数みたいなもんで、とにかく、これがないと人生いろいろ大変なのである。


 皮肉な含み無く日本人だなと思うのは、「限度額相応の現金を預託しておいてカードを作る」と考えてしまう点だ(追記 コメントいただきました。移民の場合この手しかとれないとこのこと)。米国だと金利は生き物なので、借金をうまく使いこなせるのがマネー技能になっている。
 先にちょろっと書いたけど、日本もこういうクレジット地獄といった時代になるのだろうと思うし、産業界というか金融界というかジャパン・アドミニストレーターズは望んでいるのだろう。
 格差とか相対的貧困とかの議論が日本では盛んだが、実質はそういうのをスルーしてこういうシステムが日本社会に埋め込まれるようになるのだろう。
 いや、そうでもないかな。税金も引き落としの日本人だしな、もうちょっと違った地獄がプランされるのかも。

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「社会」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。引用どうもです。

>普通の家庭だと社会的ステータスの関連でクレジットカードで借金しないといけない雰囲気になっている

そんなことないですよー。クレジットカードの借金は、最も金利の高い最悪の借金です。人によって、時には金利が30%を越すこともあります。でも、借りやすいので、ついつい使い込んじゃう、ということのようです。

クレジットカードの借金が複数ある場合は、まとめて家の抵当に基づく借金(Second Mortgage)に変えるのがよいとされています。

ちなみに、数年前のデータですが、アメリカでも2割強の家庭がクレジットカードを持っておらず、3割強の家庭がクレジットカードを持っていても毎月全額返済している、とのことで、別にみんながみんなクレジットカード借金を抱えているわけでもありません。。。。

>「限度額相応の現金を預託しておいてカードを作る」と考えてしまう点だ。米国だと金利は生き物なので、借金をうまく使いこなせるのがマネー技能になっている。

うふふ、アメリカに行ったばかりでクレジットヒストリーがないと借金もできないのでクレジットカードも作れないんです。来たばかりの移民がすぐ作れるのがこの「預託型カード」。「預託した現金より限度額が低い」という「バカにしとんのか、おのれ」みたいなカードを作って、地道にクレジットヒストリーを築き上げないとならないのでした。(最近、日本のクレジット履歴を元に発行してくれるPremio Cardなるものができたので、皆さんそれを作っているようです。私が来た頃はなかったのでした)。

投稿: chika watanabe | 2007.05.22 14:14

渡辺さん、貴重なコメントありがとうございました。ご指摘について簡単にエントリに追記しました。

インターネットによって米国の生活が近くに見えるようでいて、具体的な実生活の部分まではなかなか見えないものだなと思います。また、いろいろご示唆ください。

投稿: finalvent | 2007.05.22 16:49

デポジットを預けてカードを作り、それを使いまくってヒストリーを溜める、という以外にも、公共料金や電話・携帯電話の料金をこつこつと払い続けることでも多少のヒストリーは溜まるようです。最初に預けるお金も確保できない場合は、そこからはじめることになるかと思います。

もちろん、請求書が何かの間違いで届かずに支払いが遅れても、クレジットに傷はつきます。なので自分で毎月ちゃんと払ったか確認しておかないといけません。

投稿: 秋元 | 2007.05.22 18:54

クレジットヒストリーは、相当する日本語は「信用情報」かと思います。
http://ja.wikipedia.org/wiki/信用情報
借金歴と捉えることもできますが、意味合いとしてはやはり、支払い能力がどれだけ信用できるか、の指標ということになるかと思います。個人的には、支払い実績、と言い換えた方がしっくりくると思っています。

アメリカに渡った当初の実績ゼロの状態からヒストリを貯めるためには、挙げられているように、預託型のクレジットカード(Secured Card)を使うか、地道に公共料金の支払いによって実績を貯めていくしかありません。

ただ最近は日本人の場合ならば、Premio 以外にも、Premio が JAL と提携しているのに対して、ANA も日本での実績を元にしたドル建てクレジットカードの発行をしていまして(ANA Card U.S.A.)、アメリカでのクレジットヒストリーの構築はだいぶ楽になっているようです。

ちなみにアメリカ人のクレジットカードの使い方ですが、自分の周囲の友人達を見回してみますと、watanabe さんが紹介していますように、月ごとにしっかり支払っている場合が多いようです。後払い(借金)にするため、というよりは、クレジットヒストリーを貯めて将来の金利を下げるために積極的にカードを使うのだと話してくれました。

投稿: T. Y. | 2007.05.23 01:49

アメリカと日本はちがうという先入見にもとづいて書くと、こういう恥さらしな記事になる。世間知らずのアホめ。

投稿: hamster | 2007.05.23 02:12

「アメリカでがんばりましょう」のHiroです。

「借金歴」という書き方はたしかに正しくなかったですね。自分の中でCredit = 借金 というイメージができてしまっていました。

さて、アメリカ人と借金の関係は最近よく話題になります。今のアメリカ経済の好調は国民の借金で成り立っているといった話とか。

watanabe さんが Second Morgage のことを書いてましたが、不動産価値の上昇をアテにして住宅ローンにツケちゃえばいいやという楽観的な考えと、finalvent さんがまとめられたように借金をうながすような巧みなクレジットカードの仕組みが、この背景にあるような気がします。

そうして借金をしていった人たちが行きすぎてしまったり、金利の上昇で債務超過に落ち入ったりして、ニューヨークタイムズの記事のような人がぼちぼち目立ちだしているといった感じでしょうか。

そうそう。セキュアカードは私も渡米時に作りましたが、解約したときには預けたお金に利子がついて返ってきました。ヘンなところがしっかりしているのもアメリカらしいですね。

投稿: Hiro@amegan | 2007.05.23 05:26

すごく初歩的な質問だと思いますが、日本人が日本国内で作って持っていったクレジットカードだと、何か問題があるんでしょうか?使えない店が多いとか、金利が上がるとか、或いはクレジットヒストリーが貯まらないとか?

投稿: とおりすがり | 2007.05.23 08:52

日本のカードだとクレジットヒストリが溜まりません。
使えることは使えます(ちょっと為替レートが悪いですが)。

クレジットヒストリーを良くするには上でT.Y.さんがおっしゃてるように、
毎月けっこう使ってきちんと支払いをするのがよいようです。
ですので、まともな社会人ならカードの借金を貯めるような真似はしないでしょう。

>カードを作る
私の場合は渡米したときは学生だったので学生用のカードが作れました。
社会人だとその点が大変ですよね。

投稿: akira | 2007.05.24 03:14

電鉄会社の急ぎっぷりとか見りゃ、いずれ地域通貨類は壊滅するでしょ。

投稿: わすれた | 2007.05.25 22:17

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