国家と首相の給料
国家と首相の給料とか言っても大した話ではない。シンガポールのリー・シェンロン首相の給料が、日本の安倍晋三首相の六倍の二億四千四〇〇万円という些細なネタ。そんだけの話。あはは、って笑えるくらい軽い話だ。ちなみに主要国の首相の給料っていうのはこんな感じ。
- 日本 安倍晋三首相 三千九五六万円
- ドイツ メルケル首相 四千二〇〇万円
- 英国 ブレア首相 四千四〇〇万円
- 米国 ブッシュ大統領 四千七〇〇万円。
日本の首相なんて質素なものじゃんと思ったら、韓国は二千六〇〇万円くらい。国力の比率でいうとそんなものかというか、そうしてみるとブッシュ大統領が格安か。
メディアでの話としては産経新聞”シンガポール首相の給与、主要国で突出”(参照)が詳しい。
発端は4月9日のシンガポール政府発表だった。首相だけではない。閣僚級の年間給与も前年比約33%アップの160万シンガポールドル(約1億2500万円)にするという。メディア管理が行き届いていて、デモも集会も許可制という同国内でもさすがにインターネットに批判が寄せられた。
パリ発行の国際紙、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(電子版)は「これは給与ではない、腐敗だ」との激越な見出しを付けて、この件を報道。米ホワイトハウスは「ブッシュ大統領の給与は40万ドル(約4700万円)だ」と大統領の給与額を改めて確認し、ブッシュ政権高官が「私もシンガポールに移住する」と匿名で皮肉った。
産経新聞もまた暢気に皮肉な記事を書いているのだが、この問題に対する国際社会の視線というか温度差というのがなんとも微妙。呆れているというか、強権国家への皮肉なのか。私としてはなんとなく華僑資本や中国への脅威論も隠れているような印象も持つ。べたな話、米国匿名高官の皮肉なコメントだが、皮肉じゃなくてマジでシンガポールには今ぞくぞくと世界のインテリジェンスがおカネにつられてやってきているようだ。その意味で、ちゃんとした政策で機能しているじゃんか、とも言えそうだ。
同記事にもあるが、シンガポール首相の給与が高いのは突然ではなく「建国の父のリー・クアンユー氏が1994年に、弁護士や銀行家など6つの職業の収入に閣僚の給与を連動させる制度を導入した」ということによる。問題はむしろ首相というより閣僚の問題であって、そのくらいのカネださないと人材を政治に向けさせるに忍びないというご事情がある。
というご事情ってなんだ? なのだが、このあたりがなんとも微妙。実際のところ、リー・シェンロンはそんなにカネが欲しいわけでもなし、これだけ貰っていても、首相というのをビジネスで見るなら割に合わないし、「極東ブログ: 李下に龍を顕す」(参照)でも少し触れたが、病気もしたから人生の終わりも見据えている人だろう。ということで、この大金というのは、リー・クアンユー爺さんの思惑ということでもあるのだが、その思惑っていうのはなんなのだろう。
日本ではというか日本のブログの世界ではブッシュはアホとか言わないとコメント欄にネガコメ旅団の通りすがりさんがデデデ大王のように必ずやってくるみたいだが、ブッシュ大統領とかも国力に比してみれば質素なものではないのか。もっとも彼の場合は、ユナイデッド・ステーツ・オブ・テキサスの諸事情もあるにはあるのだろう。それでも、主要国からは突出しているわけでもない。
米紙ボストン・グローブ(電子版)によると、米トップ350企業の最高経営責任者(CEO)の平均年収は、1160万ドルにまで上昇しており、ブッシュ大統領の給与のざっと30倍である。
米国の場合、大統領ということの名誉がそれ自体の価値だろうし、たぶん、日本でもそういう類型の国家なのだろう。という対比で見るなら、シンガポールには政治家そのものが名誉という価値がないということでもあるのだろう。このあたり、それって中国人的な発想なのかわかりかねる部分がある。
ネタはその程度なのだが、この件で、矢面に立っているのは、このカネ釣り機構を創出したリー・クアンユー爺さんその人であるようだ。日経”シンガポール首相、年収が米大統領の5倍”(参照)によるとこんなことを言っているらしい、っていうか、なぜ爺が前面に出てくる?
リー顧問相は引き上げについて、優秀な人材を集めるのに有効とした上で「(指導者が)くるくる入れ替わるような政府になれば、国民の資産は消え、住宅の価値も数分の1になる」と強調した。
爺さんご活発なのはカネだけではない。ロイター”Singapore's Lee Kuan Yew questions homosexuality ban”(参照)とかだともっと微妙な緩和も打ち出している、っていうか、それも人材を寄せるためだろうかとか思ってしまうが。
April 22, 2007
SINGAPORE (Reuters) - Singapore's powerful former prime minister Lee Kuan Yew, acknowledging the view that some people are genetically destined to be homosexual, has questioned the city-state's ban on sex between men.
これもまたグローバル化ってことでしょうかね。
ただ、たぶん、どんなに賢人が粉骨してがんばってもシンガポールはいつか歴史の彼方に消えるんじゃないかなという感じはする。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>ただ、たぶん、どんなに賢人が粉骨してがんばってもシンガ
>ポールはいつか歴史の彼方に消えるんじゃないかなという感じ
>はする。
最近よくシンガポールのあの政治システムがアジア各国に与えてる悪影響てなことを考えます。
投稿: Apllood | 2007.05.03 17:32
よく言われるんですがシンガポールは、もし儒教的伝統が残る世界としてくくるならありえないくらい腐敗の少ない社会だそうですよね。
腐敗根絶社会の基盤としての政治家の高級、という面はありませんかね。
シンガポールがちょっと凄いのは「優秀な学力が必要だから皆に猛勉強させる」とか「優秀な学者を一本釣りして研究させる」とか、ある種の臆面の無さだと思います。
真似したくないけど、これで成功すればそれはそれで見事かなあと。
投稿: gryphon | 2007.05.03 23:35