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2007.04.14

手水といえばバケツのようにぶら下がっていたアレ、ぶら下げ手水

 高校三年生を対象とした〇五年一一月の全国一斉学力テスト(教育課程実施状況調査)の結果が公表された。いろいろな見方があるだろうが、率直に言って、見方によっていろいろ言えば言えるというくらいの結果だったように思う。というか、私は関心を持たなかったのだが、国語の問題の話を読んでいて、アレっと思ったことがあった。一三日付け時事通信出版局”4分の3が「拝啓」書けず=学力テスト”(参照)より。


【国語】手紙の書き出しの「拝啓」が漢字で書けたのは全体の4分の1。「手水(てうづ)」を現代仮名遣いで書かせる問題も、正解の「ちょうず」が想定正答率65%の半分に満たなかった。「しつど」の漢字書き取りや「未読」のように「未」で始まる熟語を2つ書かせる問いでは、想定を10ポイント以上上回った。

 「拝啓」の漢字が書けても「敬具」との対応を知らなかったら意味ないし、そんな決まりは社会人になって要があれば何かを真似すればいい。これは社会儀礼の問題であって学力とは関係ないだろう。まあ、それはどうでもいいのだが、「手水(てうづ)」を現代仮名遣いで書かせるというのは、へぇと思った。「ちょうず」が正答だとして、さて、この問題と解答に、高校生に何の意味があるのだろう。
 手水を「ちょうず」と読むという知識は社会人にとってどういう意味があるのだろうか。神社参拝や茶の作法くらいなものか。と思いつつ、歌がクチをつく。

梅が枝の手水鉢
叩いてお金が出るならば
若しも御金が出た時は
その時や身請をそれたのむ

 野暮な解説はしないとして、そういえばこの手水鉢というのはいわゆる手水鉢なのだが、というところで、アレを思い出した。アレアレ。遊女の連想で幇間を思い出し、そういえば悠玄亭玉介「幇間の遺言」(参照)にもあった。

 さっき、ご不浄の話が出たろ。お客様もご不浄に行くよな。その時、あたしたち、たいこもちもついていく。どうしてか、わかる? おしっこしたいからじゃないよ。お客様はご不浄に立つと、不思議とふと我に返るんだ。前を出しながら、小便をジャーッとしてる時に、「ああ、明日はあの仕事をしなけりゃいけないな」とか「いま頃、子供は寝たかな?」とか、必ず仕事のこととか、家庭のこととかの思いがよぎるんだ。
 そうなると、座敷に戻っても、なんだかそれまでのようには騒げない。「じゃ、ぼちぼち引き上げるとするか」ってことになりやすい。
 そうなったらおしまいだから、あたしたちがついていくんだよ。で、外で手拭いなんかを持ちながら、声をかけるんだ。え、手拭い? 昔はね、ご不浄の外に水の入った「手洗い」がぶるさがっててね。それを下から押すと水が垂れてくるんだ。その水で手を洗う。その手を拭くために、手拭いが必要なんだよ。いまでいうおしぼりだね。

 アレというのは、この手洗いの器具なのだが、玉介はその機能でただ「手洗い」と呼んでいるがアレもたしか、私の記憶では手水と呼んでいた。ただ、ちょっと確かではない。
cover
幇間の遺言
悠玄亭玉介
小田豊二
 アレに手水以外の呼び名があったか。アレもまた機能として手水と呼ばれていたのか。さて、どうだったか。
 こういうときネットで「アレ」とか検索できない。手水で検索しても、高校生の学力テストみたいな無粋な答えしか出てこない。でもいろいろ検索したところ、面白かった。
 ”佛大通信Vol.490 鷹陵の栞”(参照)でもアレの正式名が気になっている話があった。

 お風呂のお湯も、沸かしてしまえばそれっきりで、今のようにじゃあじゃあと湯口から出てくることもなかった。沸かしたお湯を大切に水で割って体を洗っていたのである。もちろん、シャワーなんかありはしない。銭湯にだってなかった。便所もぽっちゃん便所であるから、水は大切にされていた。手水(ちょうず)にも、バケツの底に突起をつけたようなものが吊るされているだけだった。(あれは、何という名前なのだろう? ご存知の方、教えてください)その突起を押すと、中のパッキンがずれて水がチョロチョロ出てくる仕掛けになっているのである。多分、バケツいっぱいで家族が一日は手を洗えたことだろう。いったい今は、一日に昔の何倍、ひょっとしたら何十倍水を使っているのだろう?

 ”落語書き帳面”という掲示板(参照)でも、アレが気になっている話があった。

3312 定吉とん **** 2003/03/28(FRI)16:13:14
なっつかし~~ ^o^
そうそう、忘れてましたわ。
ほんで手ぬぐい(タオルとちゃうのんよ)がそばにかかってるねん。
この手洗い用バケツ、よう考えてありますね。自動的に一定の水が出るんですから。

218.42.24.239/Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; MSIE 5.5; Windows ME) Opera 7.03 [ja]

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3311 仮隠居 HOME 2003/03/28(FRI)14:50:12
言い換え
お便所に関しては言い換えの言葉ホント多いですね。思いつくまま、雪隠、閑所、ご不浄、厠、高野、はばかり、お手洗い、おちょうず、WC、ウォーター・クロゼット、ダブル・シー、化粧室、洗面所、トイレ、TOTO……

手水鉢のある家ってのはかなり豪邸でしょう、瓢箪山で住んでいた家では便所は庭に面した廊下の突き当たりにあって、用を足したあと縁側のガラス戸を開けて軒下に吊ってある水入れの下のポッチリを押して手を洗ってました。手拭も一緒に吊ったぁったなぁ。あの水入れの正式名称なんて言うんでしょうね? もちろん便所は雪隠(せんち)壷を埋め込んだ汲み取り式でした。

懐かしい水入れの写真↓
http://hasu.ojiji.net/sonota/tanku.jpg
http://hasu.ojiji.net/sonota/tanku2.jpg

220.38.192.26/Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows 98; Win 9x 4.90; Q312461)


 リンク先にすでに写真はない。
 探していくと、え?という情報があった。レトロおじ散歩”第5回 青梅商店街<その2>の巻”(参照)より。

 さて最後は、ちょっと博物館を通り越した反対側にある金物店だ。もともと鍛冶屋さんの販売所だったせいか、時が止まったような店だ。30年前までは鍛冶場もここにあったが、マンションなどが立ち並び始めると、朝早くからトンテンカンと槌打つ音が響くので別のところに移した。売っているものを広い店内から探して挙げてみようか。「豆炒り」「ねずみとり」「花柄の柄のおたま」「荒神ぼーき(小学校の時にげた箱掃除で使ったやつ)」「じょうご」「ひしゃく」「火箸」「桐製の蠅帳(風通しの良い食器保管庫)」「ハエたたき」「兵式飯蓋」「ぎんなん割り」「カルメラ焼き」など懐かしいものがズラリ。昔、物干し竿が竹だったときに、ビニールのカバーをして、お湯で収縮させたが、そのカバーもまだ売っている。一番懐かしいのは「手水」だ。和式便所から出たときに手を洗う道具で、バケツを逆さまにしたような容器の下部に蛇口があり、そこを手で押すと水がチョロチョロでてくるもの。いまはプラスチック製で1800円。

 「いま」とあるが〇七年四月の今でもあるのだろうか。一八〇〇円というのはちと高いような気がするが、考えてみると、水が貴重な生活文化ではアレはけっこう便利なものである。
 いろいろアレのことを考えつつ、自分のなかでは「ぶら下げ手水」ってことに暫定的にしたい気もするが、アレ、案外世界のあちこちで使っているってことはないだろうか。


追記
 エントリを書いてから関連情報がわかってきたので追記。

まるで美術工芸品のような吊り手水(手洗器)参照


 名称は「衛生手洗器」「自動手洗器」「中治(ちゅうじ)式自洗器」「完全衛生生活栓(せん)」などがあります。


 この手洗器なるものが手水鉢(ちょうずばち)の代用品として初めて登場したのは明治の終わりごろで、金属製の桶(おけ)型が主流でした。明治40年3月15日付けの「東京金物新報」に「本器は前に汚れたる手の触れたる処(ところ)へ清めたる手の触るる如(ごと)きことなき実に不潔を清むるの主意に背かざる特色を有せり」とうたい、特許476号というイラスト付きの宣伝が掲載されています。
 さらに面白いことには売り出したのが「旭組電気」という電話機や電鈴ボタンを扱っていた会社で、その仕掛けのノウハウが生かされてのアイデア商品になったようです。

これは、なに? 手水器(ちょうずき)?(参照PDF

手洗器、吊り手洗器ともいう。手水器の言い方は少数派。『日本国語大辞典第二版』には、「てみずき」「てあらいき」ともに掲載していない。林丈二著『型録・ちょっと昔の生活雑貨』(晶文社、1998)に「手洗器」の解説がある。


 さて、この手水鉢の代用品として明治末年頃から普及していくのが、「手洗器」である。明治40 年ごろの新聞広告には、「改良洗器」とか、「自動手洗器」、「中治式自洗器」、「燈火兼用温水手洗器」、「完全衛生生活栓(一名衛生洗浄器)」などがみえる。旭組電気商店が特許を持っている画期的商品として広告が打たれている。ただし、他の新聞にも「寺田商会」や「アサヒ屋」なども同様に特許を持っていると広告しているので事情は定かではない。


 1933 年から3年半日本に滞在し、桂離宮を世界に紹介したことで知られるドイツの建築家ブルノー・タウトはその著書『日本の家屋と生活』(雄鶏社)のスケッチのなかにも吊り手洗器が描かれており、戦前から戦後の昭和30 年代まで一般的に使用されていた。

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コメント

「おこがましい」ことを申し上げちゃいますと、
ある翁に教わりましたが、「烏滸がましい」、「尾籠がましい」、「痴がましい」と、大陸の少数民族のことがウザクなり、
ビロウになり、痴呆になる移り変わりがあったようです。
今となっては「ウォシュレットがましい」こと。

投稿: 都市に棲む山姥 | 2007.04.14 19:02

名称は皆さん気になっているようで
http://ueki.biz/195.html
>そのまんま「手洗い器」「吊り手洗器」と呼ばれるそうで
>特別な固有名詞はないようです

カンボジアでも使われるようになるのかしら

投稿: 倫敦橋 | 2007.04.14 21:48

倫敦橋さん、コメントありがとうございます。名称については、そのようですね(エントリを書いたあとでわかりました)。

投稿: finalvent | 2007.04.14 22:07

「古道具」をキーワードに追加してググって、そこで止まってしまってた w
明治末のハイテク商品だったとは、ちょっとビックリ。 もっと古いと思ってた。
衛生とか科学技術が前向きに語られていた時代の産物ですね。

投稿: 倫敦橋 | 2007.04.15 00:21

金属バケツの方のは、
確か成瀬巳喜男監督の映画で見た記憶があります。
また「吊り手洗い器」自体は溝口健二監督の遊郭モノでも見た記憶が(アレは瓶だったような気がします)。

そういえば、
映画版『隠し剣鬼の爪』の緒方拳が暗殺される段で、折り良く独りになる展開に彼が小用を済ませる場面がありましたが、
その時「吊り手洗い器」を使ってたような……

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.04.15 16:34

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受信: 2007.07.18 19:34

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