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2007.04.25

[書評]脳は意外とおバカである(コーデリア・ファイン )

 「脳は意外とおバカである(コーデリア・ファイン )」(参照)をなんとなく読んだ。翻訳がこなれていないとも思わないのだが、この手の日本語の類書は改行が多く日本人ライターによる甘口で通常読んでいるせいか、多少読みづらい感じがした。英国風のウィットとかもふふと微笑むにディレイがかかったりする。

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脳は意外とおバカである
コーデリア・ファイン
 話は日本語の標題がある意味よく表現しているように、脳というのは意外とおバカなものだなということだが、つまり、自分の脳というのはそれほど賢いものではない、というか、人間の脳は人間が想定しているほど賢くないということを、主に心理学的なファクツを元に叙述している。
 訳者後書きがなかなか上手な釣りになっていて、つまり本書を読むとこういうことがわかるのだそうだ。まあ、そうかな。

  • 病気のリスクがこれほど喧伝されているのに、なぜ禁煙できない人が多いのか。
  • なぜ不幸な被害者を責め、批判してしまうのか。
  • 別れたくない相手に「もう私を愛してないの?」と聞いてはいけない理由。
  • ある人が自分に対して敵対的な行動を取る本当の理由。
  • ダイエットが続かないのはなぜか。
  • どうすれば意志の力は鍛えられるか。
  • 性差別的広告は、本当に悪い影響を及ぼすのか。
  • 人種偏見がなくならないのはなぜか。

 うーむ、一読後、きちんと正解ができそうにないので、もう一度読み直してみるかなという感じもするし、これってなんとなく、「ダメな議論 論理思考で見抜く(飯田泰之)」(参照)と似てる感じもするが、論理思考のマシンである脳がこの程度のものだ、よって、ダメな議論は無くならないということを納得するのにもよいかも。
 本書はプレゼンテーターとかマーマーケッターとかマーライオンとかその手の人とっては使えるネタがいろいろあるかと思う。ちょっと補足すると、エピソードとしてのネタもそうだが、ドクター・トマベチ的にもなれそうな絢爛な用語も使えるったらない。レトロアクティブ・ペシミズムとかセルフ・ハンディキャッパーとかテラー・マネージメント・セオリーとかフェイディングアフエクトとかディパーソナリゼーションとかオニオンスープとかプライミングとかポジティブ・テスト・ストラテジーとかカプグラ・シンドームとかビリーフ・ポラリゼーションとかメンタル・バトラーとかアイロニカル・プロセス・セオリーとかハンドメイド・マトリョーシカとかシークレット・ディレクターとかとか。
 ただ、この手のマインド・ハック好きの人にとってはそれほどはっとするような話はない。基本的に実験心理学をベースにしているせいか理論の枠組みにそれほどバラエティもないのだから結論もそれほど新規ではありえず、どちらかというとどのくらい常識とコントラディクトリーでありコントロヴァーシャルであるかという、フツーの日本語話せってばみたいなものである。
 いや、一つだけ、考えさせる実験があった。「第7章 脳は意志薄弱」にあるのだが。ちょっと設定がややこしいのでよく読んでほしい。対照群は二つあり、まず一方には、あなたの性格では将来の孤独(絶望)が待ち受けると思い込ませる。

 ある実験では、人の気分を害する新しいテクニックを用いた。性格検査を学生に受けさせ、嘘の分析結果を本人に伝える。ある被験者には、将来、人から嫌われ、貧しく孤独な生活をおくるタイプの性格であると告げる。「今は友人や恋人がいるかもしれないけど、二〇歳代半ばには、みんな離れていきます。結婚も一回、ないしは何回かするかもしれませんが、短期間で終わります。結婚生活が三〇代まで続く可能性は低いでしょう」被験者からすると、一人寂しく暮らすアパートで、死後一週間たって腐りかけたところを家主に発見される言われたに等しい。

 これって言うまでもなく、現代日本の若い人、というよりいわゆる失われた世代の人々に対して、日本社会やメディアが説いていることに似ている。しかも、結婚一回できたらいいじゃんくらいな言い方が日本ではされる。
 さて、もう一群はこう。同じく、将来不運や事故が来ると信じ込ませる。

他の被験者には、違ったタイプの不幸に見舞われることを匂わせる。将来、非常に事故にあいやすく、手足をよく折ったり、何度も車に轢かれたりするだろうと予測する。言ってみれば、笑えないドタバタ人生が待っているということだ。

 かくして、二群に暗い将来を信じ込ませる。一方は将来孤独、一方はそれ以外の不幸がやってくると科学的を装って信じ込ませるわけだ。このエントリでは、前者を将来孤独群、後者を将来不幸群としておこう。
 実験は次の段階に進む。詳細は省略するが、ヘッドフォンによる聞き取り作業で注意力がどのくらいあるかという単純なテストだ。結果はどうかというと、将来不幸群のほうは注意力が維持されるのに対して、将来孤独群のほうは注意力が失われた。

孤独な人生をおくると予想を聞かされた被験者の出来はさんざんなものだった。

 著者は疑問を投げかける。

 将来、社会的に疎外される可能性があるという予測によって、なぜ注意力をコントロールできなくなるのか(そして違ったタイプの不幸ではそうならないのか)不思議に思った研究者たちは、孤独な将来を予測されて悲しい気分になったことで、意志の力が乱されたのではないかと考えた。ところが気分の評価をするための質問表(すべての被験者が、ヘッドホンをつける前に答えている)への回答では、将来の孤独に脅かされている被験者の気分は、他の被験者とそれほど変わらないことが示された。ということは、人から愛されない人生をおくると告げられたことで聴き取り作業に集中できなかったのは、気分が落ち込んだからだという理論は成立しない。

 気分が落ち込むと注力がなくなるというのではなく、将来孤独になるという意識が注意力を散失させるというのだ。むしろ、ある種の思考の合理的な結論なのだろうし、これが脳の正常な機能なのだろう。
 この本ではこの先、私にしてみると奇妙なチープトリックのような解決策を実験している。フーコー思想などを連想させるものがあり興味深いのだが、ここでは省略。
cover
A Mind of Its Own
Cordelia Fine
 基本的に本書は実験心理学をべースにしているのだが、「どうすれば意志の力は鍛えられるか」については、女性の著者の父親のエピソードが書かれているだけだ。たぶん、そこは洒落なんだろう。哲学者でもある彼女の父親は世俗のことや雑事に関心を持たないからその分意志をセーブして哲学を推進できたというのだ。
 あれ? ファインという有名な哲学者っていたか? その娘さん? というあたりで、コーデリア・ファイン(Cordelia Fine)という名前をあらためて見て、うひゃ、実の娘にCordeliaって付けるのは、さすが英国風の哲学者だなとうなった。

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コメント

>うひゃ、実の娘にCordeliaって付けるのは、
>さすが英国風の哲学者だなとうなった。


リア王ですね…(^^;
日本だと娘に夕顔とか名づけるような感覚でしょうか…。

投稿: kagami | 2007.04.25 13:34

この本を読んでいないのでかなりずれると思う。人間心理の盲点を付く本を読むのはかなり心地良い。裏切られる気持ちよさ。「ヤバイ経済学」でも良いし、「カイジ」「銀と金」(福本伸行)でも良い。心理戦最高。盲点とはほとんどの人は気づいていないけど、密かに気づいている人がいる。みんな気づいているけど、自分だけ気づいていない。知識として知ってはいたけど、本当の意味では理解していない。見てるけど見ていない。・・・などと考えられる。人が預金口座からお金を引き出すと言う行為は誰も知らない、しかし、自分だけは知っている暗証番号を使いお金を引き出す事。人が投資をするということは、何らかのリターンが期待できると判断される方法によって市場からお金を引き出す事。市場は人間心理の集まりのようなものなのだから、心理の盲点を付くと言う事は自分の口座からお金を引き出すかのように市場からお金を引き出すことを意味する。自動的に暗証番号(暗号)が、投資を行うときの基準と対応する。心理の盲点を付く知識は安定して需要があるにもかかわらず、投資やギャンブル、勝負事になると、相手の不正を逆手に取る、とか統計の歪みに注目し仮説を立て確率と照らし合わせながら暗黙の了解、秘密の方法を探していくと言うひとつのパターンにはまる。ヤバイ経済学もカイジも。たいした秘密もなく(秘密がないことが秘密)、投資と言うプラスサムゲームが淡々と行われているとしたら・・・それによって富める者はますます富み(ただ成長率やインデックスの上昇率とリンクしてるだけ)、結果的に特に変化がないものは相対的に貧しくなり、従って格差が広まっているとしたら・・・・(つまりそこには謎がない、あるゲームのルールにただ従ってるものと、投資は儲からないと信じてる変化しない者との差でしかない、と)。それが最大の盲点である・・・。

投稿: nakamuramiu | 2007.04.26 11:52

「フツーの日本語話せってばよ」(;´Д`)<絢爛な用語読みにくい

投稿: Cru | 2007.05.06 22:14

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