[書評]西遊記(斉藤洋・広瀬弦)
ちょっと西遊記を読み直してみるかと思い、念頭には中野美代子訳の「西遊記」(参照)があった。が、自分の心のなかの西遊記は手塚版や夏目雅子とカトちゃんのとか、なにか心ワクワクする物語の回想が先立ち、知的な読み方より、楽しく読みたくなった。
すると昭和懐かし邱永漢・西遊記(参照)かとも思った。たしかこれは……これこれ、”毎日読む小説「西遊記」 : ほぼ日刊イトイ新聞”(参照)にある。復刻とどう違うのだろうか。
そういえば、手塚治虫の西遊記、つまり私とってはテレビ・アニメ版だが、あれには手塚自身の作品そのままではなかったようにも聞いたことがある、ジャングル大帝と同じように。アマゾンを見ると、元になったはずの「ぼくの孫悟空」(参照)がこれも復刻というのだろうか、あるにはある。調べてみると、私が子供の頃見たアニメは「悟空の大冒険」(参照)のようだ。ウィキペディアにも解説があった(参照)。
劇中の各キャラクターの"大げさな表現"は現在も評価が高いが、時代を先取りしすぎた部分もあり、4年間続いた「アトム」の後番組にもかかわらず、9ヶ月(39話)で放映を終了した。
一種の打ち切りだったのかと思い起こす。しかし、エンディングに向かって妖怪が合体していく感じは無性に面白かった。
![]() 西遊記 〈1〉天の巻 斉藤洋 広瀬弦 |
これはお子様向け作品なのだろうか。それはそうだ。なので子供向けにそれなりの配慮もある。だが、物語の緻密な計算や文章のうまさが実に際だつ。挿絵も美しい。これはちょっとすごいんじゃないかと、結局、今で出ているところまで、「〈1〉天の巻」(参照)、「〈2〉地の巻」(参照)、「〈3〉水の巻」(参照)、「〈4〉仙の巻」(参照)、「〈5〉宝の巻」(参照)と読み進め、新刊はまだかぁ、とか思うようになった。
たぶん、この本は一巻読んだら最後系の面白さだと思う。そして、ちょっとお勧めだけど、できたら最初の「〈1〉天の巻」をよく読んでおくといい。つまり、繰り返して読んでおくと、後の巻の含蓄が深まる。
とはいえ、最初、おもすれーとか読んでいながら、しかし、こういうのが昨今のファンタジー小説の手法のお手本みたいな応用なんだろうなと高をくくっていた。キャラとか戦闘シーンとか、話の連続性とか。私はこの分野に詳しくないので、読む人が読んだらテンプレとか思うのではないかと。
しかし、「〈4〉仙の巻」から「〈5〉宝の巻」に読み進むにつれ、私は考えを変えてきた。この作者、斉藤洋という人は、マジで西遊記の本質を描こうとしているんじゃないか、と思えてきたのだ。というのは、ある種の物語の理不尽さと作者の思索の展開が見られる。固い言い方になるのだが、私は、西遊記なんてゲテモノというかお好きな方のアレ、みたいに思え、まして仏教なんかとまるで関係ないと思っていた。せいぜいシンクレティズム(syncretism)と言ったところか、と。だから、むしろ世俗的な道教思想くらいに考えていたのだが、この斉藤洋・西遊記を読みながら、それは違うのかもしれない。まじで仏教なのかもしれない、と思えてきた。
そもそもが「斉天大聖」ということが道教の否定であり、この物語は道教がなぜ仏教の傾倒を持ったのかという道教批判の意味をもっているのかもしれない。というあたりで、この小説の主人公は観音菩薩なのかと思えた。
現代日本だと仏教についてはあーだこーだいろんなエロい人が五月蠅いほどいるのだが、そうした喧噪とは別に、中華世界の伝統的な仏教というものもある。斉天大聖と観音菩薩の弁証法のなかには確実にある種の仏教というものがあるのだ。
とはいえ、そんな私の印象などお構いなしに、これは、かなり面白いですよ。今の小学生で読めるとしたら、日本の小学生の学力はばっちりですよ。
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コメント
たまたま世代的に(?)マンガ版「ぼくの孫悟空」とアニメ版「悟空の大冒険」の両方に触れました。
マンガ版は本当に手塚治虫私家版というか、自身の思入れのままに描いたように感じられます。アニメ版は...元気あふれる生意気な孫悟空像でしたね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%9F%E7%A9%BA%E3%81%AE%E5%A4%A7%E5%86%92%E9%99%BA
wikipediaにもその辺のことがあるようですね。
ちなみに「3,2,1,0!どかん!」みたいな主題歌だいすきでした。
ネット動画全盛の今日ではちゃんとネット上で見れるみたいですね。
http://animebb.jp/production/mushipro/goku.aspx
投稿: ひでき | 2007.04.05 13:31
西遊記の10まだですか????
ずっと待ってるんです
投稿: ST | 2011.06.30 22:30