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2007.04.03

[書評]マンガ音楽家ストーリー

 すでに五〇歳にもなって懐古するのもなんだが、大人になったなと思う機会はいろいろあるが、それでも一様に感慨にふけることがあるとすれば、大人買いをした後の自己嫌悪みたいなものだろう。そうひどい自己嫌悪っていうこともないことも多いのだけど。ってな前振りで、先日の大人買い報告。「マンガ音楽家ストーリー」全八巻。上達もしないが、ときおりキーボードを叩きつつ、お子様向け名曲もええもんだわいと思っていくうちに、意外と名作曲家の人生とか知らないことに気が付き……それにあの怖わーい音楽室の肖像画が懐かしく……てな次第。


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バッハ
 「 バッハ(岸田恋)」は無難に面白い。マンガがマンガっぽくてよい面もあるし。読んでいて、バッハって若いころもあったし、マンガだからそう思えたのか、けっこう過激な人だったなと思うようになった。インヴェンションとか聞いているとあるバッハのイメージを持つけど、実際にはけっこう諧謔精神もありまた柔軟な精神もあったのだろうと思う。この本はけっこうマジで学校の副読本にしていいのではないか。



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モーツァルト
 「モーツァルト(岸田恋)」は二巻目ということでバッハの延長みたいなのだろうけど、モーツアルト自身がどう描いていいのか研究がありすぎてちょっと難しい。コンスタンツェは当然出てくるが、アロイジアへの言及はなかった。お子様向けにはそう悪くはないのだろうけど。特に勧めない。




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ベートーベン
 「ベートーベン(加藤礼次朗)」もモーツアルトに似たところがある。なので、という感じ。作画が岸田恋から加藤礼次朗という人になったのだが、これが、なんつうか、ケロロ軍曹に出てくる宇宙刑事556みたいでなかなか面白かったっていうか、べたに子供時代のマンガを思い起こして、ワロタ。




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ショパン
 「ショパン(岸田恋)」だが、お子様向けにショパンの人生なんて説明できるのかと思ったが、サンドとかの話も含めて、おやっというくらい踏み込んでいた。まあ、現実の現代の中学生が読んでいるマンガはもうもうすごーいレベルなんでそれに比べれば微笑んでしまうかもだが。あと、ショパンという人は時代のなかにいたのだなというのがよくわかる。これは意外に佳作。



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シューベルト
 「シューベルト(朝舟里樹)」はへぇ、だった。シューベルトの生涯というのは早世くらいしか知らなかったので、なにかとへぇへぇと思って読んでしまった。今でいったらオタとか非モテとかいう感じの人だったのではないか。それといやはや知らなかったのだが死因は梅毒とのこと。この時代ってそうだったのだろうなといろいろ時代感覚を思ったのだが、ウィキペディアを見たら、「死因は後期梅毒であるともいわれているが、記録から見るとシューベルトは梅毒の第2期(発疹、脱毛など)止まりであったことがわかっており、症状(発熱、吐き気など)の記録から腸チフスと見るのが妥当であろう。シューベルト生誕200年の1997年には、改めて生涯の再確認が行われ、彼の梅毒罹患をテーマにした映画も公表された」とあった。


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シューマン
 「シューマン(志生野みゆき)」は印象薄い。シューマンというと、音楽を離れるならどうしてもクララのほうに関心が向くのだが、これも知らなかったのだが、梅毒でしたか、はぁ。当然、物語として見ていくとブラームスと混じってしまうのだが、そのあたりは、お子様っぽくまとめてある。




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ブラームス
 「ブラームス(葛城まどか)」の表紙があれですが、これはけっこう面白かったですよっていうか、ブラームスはマンガとして読むべき。若い美男子のブラームスというのはよいです。どうしてもブラームスというとあの怖い爺さん顔しか浮かばないのだけど、あれって生涯においてはほんのちょっとのことだったらしい。まずい写真ってことはないんだろうが、あれでイメージを固定されていたとは。



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バイエル
 「バイエル(加藤礼次朗)」はすごい珍本だった。実はこの大人買いで一番期待していたのはバイエルの生涯だった。これだけ馴染まれた音楽家なのに、ほぼなーんの情報もない。いったいどういう人だったのだろう。で、読んで唖然。この一冊だけは全部フィクションなのでした。創作というか。で、読んでいてもちろん、爆笑してしまうのだけど、芦塚陽二原作の思い入れと加藤礼次朗作画の暑苦しさが、ここれは!という絶妙のハーモニーを醸し出していて、これは竹熊先生も一読のことみたいな雰囲気ですよ。お子様に読ませてどうかわからないですが。


 大人買いで、馬鹿なことしちゃったかと思ったけど、マジで考えさせれたのは、こうした西洋近代の音楽家というのは西洋近代の歴史のなかにきちんと埋め込まれていたのだなということ。そして今回は触れないけど、同時代の科学者というのもこの音楽家と似たような位相にあった、というか、芸人だったのか、と。市民社会とブルジョワジーがどのように芸人的なものを産みだし、そしてその音楽や科学という知識がどう、近代人というのをでっちあげていったのか……とか考えさせられた。

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コメント

こういうの漫画喫茶に入ってるんですかねえ

投稿: ロックっ子 | 2007.04.03 10:08

音楽を漫画にするってすごいですよね。「のだめカンタービレ」とか。もう表紙を見ただけで立ち読みする気もまったくおきませんが、そういう本が出ていたことに感動です。今回ブルーオーシャン戦略とかわけのわかんないコンサル用語を使ってブログを書きましたが、人が書かないテーマの漫画・・・というのはかなりありそうですね。
ペ・ヨンジュン 通称ペ様あたりに ブラームスでも主演させるといいのではないか?と。
そんなあほらしい発想をさせていただきました。
全8巻完読は圧巻です。

投稿: りん! | 2007.04.03 12:46

バッハは通俗的な作品も多く残してますよ。コーヒー・カンタータなんか素晴らしい。
モーツァルトは作品化むずそう。普通の感性じゃ彼を捉える事が出来ない…。
ベートーベンはドラマ化するのは楽そうだけど、本当に面白いのはその裏なわけで…。誰か『最強伝説 黒沢』的なベートーベンの漫画を描いてくれないかしら?
ショパンは…ああやだもうサンドの事なんか考えたくない。
シューベルトは非モテ・孤男の心の友です。後期は特に。
シューマンは…シラネ
ブラームスはマジ貴公子。音楽家としてはかなり良い一生を送った方じゃないでしょうか?
バイエル…どうせやるんならツェルニー・ハノンもまとめて三本立てにすりゃ良かったのに。

ええ、音楽も科学も、その歴史を内部に持っている西洋近代というのは面白いですね。
自国の歴史や文化を学ぶ時にそういう情報にアクセス出来るというのは非常に恵まれてると思います。

投稿: e | 2007.04.03 13:13

時々、なぜ手塚治虫の遺作が「ルードヴィッヒ・B」なのか不思議に思えます。

投稿: ひでき | 2007.04.04 16:39

むかし「FMレコパル」という雑誌にでていた、音楽家を題材にした漫画にはやたらと感動した覚えが・・・。
って、今検索したら絶版ですね。「レコパル・ライブ・コミック」。
松本零士、石森正太郎、あたりが描いたのはどこかにあるはずだけど、どこにいったのかな。

投稿: seiuchi | 2007.04.04 17:23

小説ですが、ブラームスは森雅裕の「自由なれど孤独に」がお勧めです。
http://www.amazon.co.jp/%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%AA%E3%82%8C%E3%81%A9%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AB-%E6%A3%AE-%E9%9B%85%E8%A3%95/dp/4062081474/ref=sr_1_1/503-9371082-2955123?ie=UTF8&s=books&qid=1175686661&sr=1-1

投稿: てんてけ | 2007.04.04 20:39

手塚治虫がベートーヴェン完成させてたらなぁ…
ほんと残念

投稿: e | 2007.04.04 21:37

音楽家の伝記を映像化するのって難しいと感じます。

例えば映画の場合、意外と配役が「音」を決めてしまう。
まるで譜面と演奏の合致したイメージを骨格として、人相を復元するかのような……
法医学的な死者の再現にも似た試みが好まれている。

配役上の奇抜さが最終的には不思議と整合したと感じることも(私には)ありますが、あれはペルソナという奴の再現なのでしょうか?
当時代の人ではないのだから、奇妙な錯覚で済む話なのかもしれませんけど。

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.04.07 17:47

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