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2007.03.02

民法七七二条を巡る愚考

 先日、民法七七二条の離婚後三百日以内に生まれた子の扱いを理由に、新しい夫の子として戸籍登録ができない乳児に対し、足立区が特例で住民票を作成したというニュースがあった。例えば、”「300日規定」で戸籍ない乳児に住民票 足立区が特例”(参照)など。


 「離婚後300日以内に誕生した子は前夫の子」とする民法の規定により、戸籍に登録されていない東京都足立区の乳児に対し、同区が住民票を作成していたことが27日、分かった。住民票がない状態では、児童手当を受けられないなどの不利益が生じることを考慮し、区が住民基本台帳法を根拠に、特例として認めた。

 私が気になったのはニュースの発生経路だった。朝日新聞によると二七日わかったとしているが、出生届を出そうとしてトラブルが発生したのは一三日である。その二週間にどのような経緯があったのだろうか。時事によると(参照)「28日までに分かった」と一日朝日新聞に遅れた。足立区が二七日に公式発表でもしたのだろうか。
 気になるのは、二五日に関連の電話相談のイベントがあったことだ。朝日新聞”民法の「離婚後300日」規定、電話相談に切実な声”(参照)より。

 家族法に詳しい弁護士らが25日、離婚後300日以内に生まれた子は「前夫の子」と推定する民法772条の規定をめぐって電話相談を実施した。


 相談は18件で、うち13件が女性。報道や国会で取り上げられるまで規定を知らなかったという人が、ほとんどだった。

 全国相談なのだろうか、全件数が一八というのも少ないような気がする。そしてこの相談は足立区のケースと関係していたのだろうか。関係したとする報道はないのだが。
 テレビユー福島”離婚後300日問題弁護士無料相談 ”(参照)ではこう。

この無料相談は、民法の問題に取り組む東京の市民団体が主催したもので、25日は6人の女性弁護士がおよそ3時間にわたって数十件の相談を受けました。

 実施は三時間だったらしい。どのように相談者に知らせれていたのだろうか。どうも経緯がよくわからない。
 さらに関連として二七日の読売新聞”離婚「300日」規定の苦悩”(参照)にはこうある。

 この「300日問題」に悩む女性を支援するNPO団体「親子法改正研究会」(大阪市)は先月、法務省に法改正などを求める要望書を提出した。別のNGOが今月25日、無料の電話相談を実施したところ、これから出産予定の女性だけでなく、前妻の子供の名前が自分の戸籍に記載されてしまったことに悩む男性からの相談もあったという。
 事態を重く見た法務省も実態調査と救済策の検討を始めた。

 「事態を重く見た法務省」という流れもよくわからない。大手紙の社説としては二七日毎日新聞”嫡出推定 時代変化に応じた見直しを”(参照)がある。

 「結婚から200日後、離婚から300日以内に生まれた子は夫婦の嫡出子と推定する」との趣旨の民法772条をめぐり、実情にそぐわず弊害が生じているとの指摘が相次いでいる。国会での議論も始まり、安倍晋三首相も検討する方針を表明した。

 「相次いでいる」の背景がやはりはっきりしない。なお、「安倍晋三首相も検討する方針を表明した」は、二三日の衆院予算委員会集中審議での、自民党野田聖子氏への答弁によるもの。
 ところで話はずれるのだが、今回問題になったのは、「離婚から300日以内に生まれた子」の問題なのだが、毎日新聞社説にあるようにこの法律は「結婚から200日後」にも規定している。つまり、「夫婦の嫡出子と推定する」には、結婚から二百日経っていないといけない。当然、できちゃった婚の子はそう推定されないことになる。同社説は「それにしても、結婚、出産という重要な規定なのに、周知徹底されていない現実に驚く」とびっくらしているのだが、できちゃった婚のほうはご存じでしたか?
 と、実はこれは問題にならない。できちゃった婚は事実上まったく問題ない。結論だけいうと民法のこの規定は空文になっている。ならなんで「離婚から300日」がそうならないかという問題があるなのだが、その問題には突っ込まず「結婚から200日後」の話に移る。
 民法七七二条の「結婚から200日後」が空文になっている由来は難しいといえば難しい。私も勘違いしているかもしれないと思うので、無知をデバッグする意味でもちょっと書いておきたい。
 ネットを見渡すとこの話題はあまり見当たらない。探し方が悪いのかもしれない。重要なのは「鳥取県米子市の行政書士今田重治の日記」のエントリ”死後懐胎子は他人(その5)”(参照)の脱線部分の話である。できちゃった婚について。

(同棲中のカップルや いわゆる「できちゃった婚」で、概ね妊娠5か月位以降に婚姻届を提出した場合には、婚姻の成立の日から200日以内に出産を迎える事になります。)

この場合に生まれた子については、本来は「非嫡出子」として出生届をしてその旨の戸籍の記載をした上で(母と既に婚姻中である)父が認知をすることによって嫡出子の身分を得て(民法789条2項・認知準正)戸籍の記載を変更するか、父が胎児認知(民法783条1項)をしておいて嫡出子として出生届をするということになる筈です。


 これが現状認められている。法改正もなくそうなっている。余談だが、現状ではできちゃった婚は全体の四分の一も占めるのではなかったか。
 ところで、このできちゃった婚はオッケーの経緯なのだがこうだ。昭和一五年の話になる。

 大審院は、「内縁の妻が、内縁関係の継続中その夫により懐胎し、適法に婚姻をした後に出生した子は、たとえ婚姻の届出とその出生との間に200日の期間を存しない場合でも、出生と同時に嫡出子の身分を有する。」(昭和15年1月23日 大審院民事連合部 民集19巻1号54頁)とし、
 又、婚姻届出後149日後に分娩した子につき「母の夫との父子関係を否定するには、嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えによる。」(昭和15年9月20日 大審院 民集19巻18号1596頁)としました。
 これを受けて司法省は、戸籍取り扱い実務において、婚姻届出の後に妻の産んだ子は、「非嫡出子出生届」を選択して届出た場合を除き、「嫡出子出生届」によって戸籍に直接「嫡出子」として記載する取り扱いをする様にしました。
 これは、非嫡出子出生届と認知届(準正の手続き)を併せて簡略化した手続きと言えます。

 わかるようなわかんないような話だが、いずれにせよ、できちゃった婚が問題にならないのは、これが背景になっているようだ。
 なんでこんなことが戦前に問題になったのかなのだが、現代から考えると、そりゃ昔だってできちゃった婚だったからでしょ、のようにも思われるが、そうでもない。同日記ではこう説明されている。

 戦前の日本では、「子無きは、去る」などとされ、祝言の後、懐胎して母体が安定期に入って流産の虞が小さくなってから(極端な場合、子の出生届の直前に)婚姻届を出す事も多かったので、出生当初から(胎児認知などという七面倒くさい事はせず、当然に)嫡出子として届出をしたいと言う国民の意思に合致しませんでした。

 この説明だと、家の跡継ぎがほぼ確定というか確定してから婚姻届が出るため、二百日規定に合わなくなるので法律を変えずに運用で変えてしまったということになる。
 ここでちょっと気になるのだが、というか今回この話をおさらいして気が付いたのだが、大審院の扱いではこれは「内縁の妻」についての規定なのだ。ということはお妾さんか?とかふと思うが、ようするに婚姻前でもおセックスの関係があると内縁ということになるという意味なのだろう。お妾さんにも影響しそうだが。
 でだ、先の説明では「戦前の日本では」ということで一挙に「戦前」でまとめられているのだが、これはどう考えても昭和一五年との関係があるでしょう、というのは、こうした日本の跡継ぎ制度はそれ以前から問題になっていたはずだからだ。
 とすると、昭和一五年とこの二百日規定なのだが、先日の朝のラジオでは出征との関係で説明していた。その説明では昭和一五年七月三〇日としていたので、子細は異なるのかもしれない。で、私が誤解しているかもしれないが、出征した夫に夫が知らないうちに子供が生まれてもその夫の子にできるという配慮ということなのだろうか。
 そういう話であればいやちょっと面白い歴史の裏話というか苦笑もできないし面白いですむ話でもない。
 さらに話がずれていくのだが、いずれにせよ戦時の法の運用の影響とかでできちゃった婚の問題は完全にクリアかというとまだちょっと変な話がある。こうした子供の場合、出生後何年後でも「親子関係不存在の訴え」によって父子関係を否定出来るらしい。そういうケースがあるのかわからないが。

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コメント

300日問題を取り上げたニュース記事での事例における幾つかの出産例は、前夫との離婚成立前の性的交渉によるものでしたよ。

投稿: Luca | 2007.03.02 21:05

嫡出子については
「推定される嫡出子」
「推定されない嫡出子」の2パターンがあります。
民法の条文が古いのはご指摘の通りです。
上記2つの言葉で検索されると理解が深まるかもしれません。

投稿: 通りすがり | 2007.03.03 00:04

結局は法曹家不足。もっとイギリスぐらいとは言わず、弁護士人数を増やすべき。競争がない法曹界は既得権だらけ。法解釈論的な学問は詰め込み教育と合致してるね。馬鹿を生む体質。どんどん冤罪や犯罪は増加するよ。世のヒトへ。これからは国を信用するなです。厭世的なことの主張ではなく、メディアや様様なツールを通して既得権益や権威には疑いの目を持ちましょうや!そんなに優秀ではないよ彼らは。

投稿: アカギ | 2007.03.03 08:11

嫡子は父(自身も含めた、当主)殺し願望の客体とも言えますから、
「しくじったか? 俺(私)」感を人生に察知する契機が何時かで、認知(するか、させるか)の心胆が決まる。

それは、ヘーゲルさんの仰る「両親の死」の自覚(もしくは逃避)への「怖れ(畏れ)」から惹起されるものでもあるんでしょうね。

揉める訳です。

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.03.03 16:43

Lucaさん!
僕もそう思ってました。
まずちゃんと手続きしてからする事しろと言いたいですね。
離婚もしてないのに中田氏してるんじゃねーよwww
そんな人は苦労して裁判をして処理する方が良い。
そんな脳足りんの人の為に法律は変えないでね安倍ちん

投稿: やっと同じ意見の人みっけ | 2007.03.06 11:56

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