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2007.03.20

フセイン時代より良くなったという最新イラク世論調査

 最初にお断りしておいたほうがいいだろう。私は今のイラクがフセイン時代より良くなったとこのエントリで主張したいわけではない。イラク戦争の是非についてもこのエントリでは触れない。では何のエントリかというと、イラクの状況認識というのは難しいものだという感慨くらいなものである。
 話のきっかけは、フセイン時代より良くなったという最新イラク世論調査についてだ。日本ではもしかすると報道されないかと思っていたのだがそうでもなかった。時事”半数が「生活良くなった」=フセイン時代より「今」選ぶ-イラク世論調査”(参照)に出てきた。


 英世論調査機関オピニオン・リサーチ・ビジネスが2月にイラク全土の国民を対象に行った調査によると、フセイン政権時代の生活の方が良かったとの回答は26%にとどまり、現マリキ政権下の方が良いとの回答が49%に達した。

 この結果についての私の率直な印象は……いやなかなか率直になれないものがあったというのが率直なところだ。楽観論も強いのか、統計が操作的なんじゃないのか、日本にメディアで伝えられているテロは意外にローカルか、もともとイラクはシーア派が多いのでマリキ政権支持に決まっているか、などなど。
 英米圏ではこのニュースは、そういう見方もあるのかくらいであったり、解説があったりする。
 イラク情勢の理解は難しい。単純なところで言えば、クルド地域の治安は回復に向かっている。もっともこのあたりの情報にも微妙なものがあるのだが。例えば、先月の話だがクルド三州(エルビル県・スレイマニア県・ドホーク県)に限って日本外務省は「退避勧告」から「渡航延期」に変更した。朝日新聞”イラク・クルド地域の危険度を「渡航延期」に緩和 イラク情勢特集”(参照)などでも報道された。最新の情報は「イラク:治安情勢」(参照)であろうか。先日NHKで見たクルド地域の映像では安定した市民生活が伺えた。
 報道ではあまり指摘されていないようだが、クルド地域には現在世界各国から原油ビジネスの関係者が来訪しているという現実もある。こういう言い方をしてはいけないのかもしれないのだが、経済的に見るならイラクのメリットは原油であり、その大半は北部と南部に集結している。北部が安定すれば問題の大半は終わったというか未来に向かう。南部についてもシーア派が安定すればそれなりに終わる。中部のバグダッドは経済的なメリットは乏しい、とも言えるかもしれない、と曖昧にしか言えない。
 話を戻して、オピニオン・リサーチ・ビジネスのこの結果だが、まったく逆の最新情報にもある。BBC”Pessimism 'growing among Iraqis'”(参照)だ。

Less than 40% of those polled said things were good in their lives, compared to 71% two years ago.

生活面において事態が好調であると投票した人は、二年前の七一パーセントに比較すると、四〇パーセント以下だった。


 オピニオン・リサーチ・ビジネスの結果とは逆に見える。二年前というのは戦争前とも言えないが、いずれ標題どおり悲観的な結果ではある。
 これに続いてこうもあるのも興味深い。

However, a majority of those questioned said that, despite daily violence, they did not believe Iraq was in a state of civil war.

とはいえ、回答者の大半は、日々の暴力にかかわらず、イラクは内戦状態であると確信を持っているわけではない。


 外部から見ると内戦かと見えるが大半のイラク人はそう考えていないというのは、示唆的である。
 統計について、オピニオン・リサーチ・ビジネスのBBCとの差異をどう考えるか。EURSOCというサイトに関連して”Polls Apart”(参照)という考察があった。ふーんといった感じではある。関心がある人は読んでみるといいかもしれない。私としては、CNSNEWS.COMの”Better or Worse in Iraq? Depends on the Poll”(参照)に注目した。

The poll involving USA Today, the BBC, etc., was conducted between Feb. 25 and March 5.

The London Sunday Times poll, conducted by Opinion Research Business, was conducted a bit earlier, from Feb. 10-22.

USAトデーやBBCの調査は二月二五日から三月五日になされた。オピニオン・リサーチ・ビジネスが実施したロンドン・サンデー・タイムズの調査はそれより少し早く、二月一〇日から二二日である。


 調査の時期が微妙に違う。オピニオン・リサーチ・ビジネスの調査時期は、米国による増派の話題の期待があったかもしれないとも示唆されている。もっともそうであれば、米国の撤退とも関連しているはずだが、そのあたりは両調査からは読みにくい。最終的な撤退に異存のあるイラク国民はないだろうし、早期撤退といってもその時期の見定めは難しい。ただ、概ね、治安回復後に撤退してほしいという傾向はありそうだ。先のBBCでも。

However, only 35% said foreign troops should leave Iraq now. A further 63% said they should go only after security has improved.

しかしながら、現在外国軍の撤退支持は三五パーセントであり、六三パーセントは治安回復後以外はないとしている。


 余談だが、米国民主党による、米軍イラク撤退議論は、言い方は悪いが、大半はフカシっぽい。なぜなら、本当に撤退させるなら、議会が派兵の予算を切ればいいからだ。このことは戦時の日本についても同じことで、こうした問題の最終的な責任は国会にある。

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コメント

日本でも「格差社会」といって、さも上と下がひらいているような錯覚をさえる報道がなされていますが、生活保護世帯の増加!等結局 貧乏な人が増えているだけじゃないか!格差社会じゃなくて 底辺が広がっているだけの社会ではないか?と突っ込みたくなりますね。実際にまわりでお金持ちになった人は(単なる下流にいるだけかもしれませんが)
ぜんぜんいません。
認識としてはそんな感じなのですが、ヒルズな人たちが取り上げられたりして、報道は格差にフォーカス。変な感じです。
報道により 複数のメディアを使っても西側のみでは判断のしようがないです。
アラブ語でも勉強しておけばよかった。アラブ圏でのメディア(あるかどうかも知りません)はどう報道しているのでしょう?
データもとらず、アラーの声に耳を傾けているのでしょうかねえ。。

投稿: りん! | 2007.03.20 16:08

善導なんて、
盗んだバイクで走り出されちゃったら、長い午後を覚悟しないといけませんよね。

投稿: 夢応の鯉魚 | 2007.03.20 16:55

すごく勉強になりました。いろいろ。
んで最近、ある種のタイプの人間(このエントリのはじめにバリアを張られた対象の人達とかですよ)には、いくつかのパターンで思考が止まったりゆがんだりするポイントがあって、みたいなことがはっきり解ってきて、いや、まあでも勉強になりますw。
フセインは最低ですもんねw。なんていうか、民主主義ってつかえねえですよ。独裁させろよ俺にって思う。国をw

投稿: marco11 | 2007.03.20 20:08

>先日NHKで見たクルド地域の映像では安定した市民生活が伺えた。

NHK海外ネットワークで2回ほどクルドの治安状況のレポートがありましたね。おおむね安定しているそうで、経済も順調、イラクからの独立を夢みているクルド人もいるとか。
この人たちがイラク戦争をどう評価しているのか気になります。

投稿: hagakurekakugo | 2007.03.21 00:25

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