パキスタン情勢、微妙なムシャラフ大統領の位置
全体構図が今一つ読めないのだが、このあたりでパキスタン情勢についてメモがてらエントリを書いておいたほうがよさそうな感じがする。そう思ったきっかけはワジリスタン情勢だ。国内ニュースでは共同”武装勢力と戦闘、30人死亡 パキスタン部族地域”(参照)がある。
パキスタン軍報道官は20日、アフガニスタン国境に近い北西部部族地域の南ワジリスタン地区で、地元部族とウズベク人中心の武装勢力による戦闘があり、約30人が死亡したことを明らかにした。国際テロ組織アルカーイダに関係する武装勢力とみられる。
日本だと一部の奇妙な情報発信のせいなのか、アルカイダを米国が創作したフィクションのように捉えるむきもあり、ましてブログで扱ってもそういうヘンテコな意見に混ざってしまいがちなので、書くのがおっくうになる。が、気を取り直す。
同ニュースにもあるが、今回の戦闘はその前日に始まっており、襲撃されたのは学校バス。死者に子供二人が含まれている。この手の学校を狙うテロはイラクなどでも多い。六日も戦闘があり一五人が死亡。テロの規模としてはそれほど大きくないとも言えるのかもしれないが、アルカイダやタリバンの活動と見てよいので、問題の根は深い。
ワジリスタンについてはウィキペディアに「ワジリスタン戦争」(参照)の項目があるが情報は薄い。英語の”2004-2006 Waziristan conflict”(参照)は充実している。国内のネットを見回すと、「船橋洋一の世界ブリーフィング」の一六日付け”イラクに加え対テロでも負け戦の米国。次の焦点はパキスタン・ワジリスタン”(参照)があった。毎度ええ塩梅の船橋洋一らしい筆致だがウィキペディアよりはわかりやすいだろう。重要点の一つはこれだ。
パキスタンのムシャラフ政権は2004年以後、この地域一帯で、タリバーンとアルカイダの残党の掃討作戦を進めてきたが、結局のところ失敗した。
その間、パキスタン政府軍の掃討作戦で、多くの住民が命を失い、家を壊された。何千という住民が移住させられた。彼らの中央政府に対する恨みつらみは深く、それがタリバーンとアルカイダへの共感を生む土壌となっている。
このため、2006年9月にはムシャラフ政権と北ワジリスタンの部族との間で協定が結ばれた。イスラム宗教政党などの親タリバーン勢力が裏で仲介した。
これによって、拘束されていたタリバーン兵士の釈放、取り上げた武器の返却、治安検問所の撤去、外国のテロ勢力の滞在許可(ただし、武装行動をしないという条件をつける)などが決まった。
親タリバーン勢力は民兵を新規に募集し、訓練し、武装させることが自由にできるようになった。
まず、ムシャラフ大統領の失策がある。失策と取り敢えず言っていいだろう。これでタリバンが勢力を盛り返す兆しを見せるが昨年の秋。これが直接的にはアフガン問題にも波及しているし、米国ブッシュ政権も危機認識を持っているらしく、先月末のチェイニー米副大統領のパキスタン訪問になる。ニュースとしてはCNN”チェイニー米副大統領、パキスタンを電撃訪問”(参照)がある。電撃だったのかはよくわからない。CNNでは米国がムシャラフ大統領にタリバン掃討作戦の強化を求めたとしている。表向きはそうだろう。関連はCNN(ロイター)”米大統領、パキスタンに警告へ 支援カットの可能性示唆”(参照)。
ブッシュ米大統領は近く、ムシャラフ・パキスタン大統領に、国際テロ組織アルカイダなどに対する掃討作戦が今後も滞れば、米国からの支援が削減される可能性があるとの警告を発する構えだ。25日付の米紙ニューヨークタイムズが伝えた。
ただ米国の内情もあり、このあたりの全体構図が読みづらい。
民主党主導の米下院は最近、対パキスタン支援の継続には同国が掃討作戦に全力を尽くすことを条件とするよう求める法案を可決。上院でも、パキスタン政府に圧力をかける手段が検討されている。パキスタンは経済、軍事、麻薬取り締まりなどの分野で、米国から年間約8億5000万ドルの支援を受けている。米議会関係者によれば、下院の法案によって影響を受ける額は、このうち約3億5000万ドルに上る。
パキスタンではここでもう一つ大きな情勢の変化がある。ムシャラフ政権が揺れている。ニュースは”大統領、都合の悪い?最高裁長官を処分 司法界は猛反発 パキスタン ”(参照)。
パキスタンのムシャラフ大統領が今月上旬、政権に厳しい判断を示してきたチョードリー最高裁長官の職務を差し止めた。これに反発して数人の判事が「司法の独立が侵害された」と辞表を提出。司法界を中心とした大規模な抗議行動が連日繰り広げられており、ムシャラフ政権を大きく揺さぶっている。
単純に言えば、クーデターで政権を取ったムシャラフ大統領の正当性というのは危うい。議会からも司法からもノーが出そうな可能性もある。民主化の暴動も発生している。
しかし、長官に対する職務差し止めは司法界から予想外の反発を招いた。各地で抗議デモを行っていた司法関係者が警官隊と衝突し、16日にはイスラマバードで衝突の様子を取材していた民間テレビ局に警官隊が突入して局の施設に被害を与え、一部の番組が差し止められた。
民主化というのが唯一の正義なら民主化を支援すればよいということになるが、このあたりの米国の動きもはっきりとしない。どちらかといえば、ムシャラフ大統領支持のようにも見える。
よくわからないのがフィナンシャルタイムズの社説”Saving Pakistan before it is too late ”(参照)だ。民主化を推進せよというのだ。
The decision by Pervez Musharraf, Pakistan’s president, to sack unceremoniously Iftikhar Chaudhary, the chief justice of the Supreme Court, has tipped the country into a dangerously unpredictable crisis. But the subsequent, violent street clashes between baton-wielding police and besuited barristers are fast expanding into a broad-based, democratic movement against his regime. That this movement succeeds is now more important than what happens to the Generalissimo.
その思想の背景はパキスタン内の右派勢力の危険性の認識がある。
The spread of the religious right in Pakistan is a greater strategic threat than the revival of the Taliban in Afghanistan. Stopping that spread is in any case part of the key to dealing with the Taliban and al-Qaeda, which has regrouped just inside Pakistan’s lawless western frontier.
だが、どう考えてもパキスタンに民主主義が早期に実現できるわけない。とすれば、今使えるのはムシャラフ大統領ということになる。それでいいとは思わないのだが。
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