« [書評]「陰」と「陽」の経済学―我々はどのような不況と戦ってきたのか(リチャード・クー) | トップページ | 安藤百福、逝く »

2007.01.05

ブログと金銭的インセンティブの辺り

 どういうふうに書いたらいい話題なのかよくわからないが、気がかりなので書きながら考えてみたい。発端は、ブログBigBang”オーマイニュースを巡る匿名性の問題について(2)---小倉弁護士に答える/ 心苦しいが鳥越編集長には勇退をお奨めする。”(参照)を読んでいて思ったことだ。最初にお断りだがエントリの批判ではないし、オーマイニュースへの批判でもない。
 エントリの中心的な話題も、それはそれでとても重要なのだが、読後私はちょっと別の方向を考えていた。編集長が勇退する契機にはいろいろあるだろうが、一般的には経営状態である。雑誌なら編集長を変えることで刷新し売り上げを向上させたいものだ。そうした視点からすると、オーマイニュースと鳥越編集長の関係はどうなのだろうか。内容面で批判があるにせよ健全に運営されているのだろうか。つまり、利潤が上がり、投稿者=市民ジャーナリストに十分なキックバックが与えられているのだろうか。というあたりで、この問題がぼけてしまう。
 BigBangさんの該当エントリでもそういう印象を受けるのだが、参加型ジャーナリズムないしネットジャーナリズムが短期的な経営より重視されるようだ。その場合、経営戦略としてはどうなのだろうか。補助線的に言えば、ユーチューブなどは当初から売却のためのビジネスであり、おそらくグーグルを釣るためのビジネスであったのだろう。その観点からユーチューブの過去の経営を見ると最適化されているように見える。オーマイニュースもそうした中長期的な隠し球の経営戦略があるのだろうか。
 オーマイニュースの経営については同じくブログBigBang”「ゴミため」から投げつけられた毒饅頭----オーマイニュースは大丈夫なのか(1)”(参照)が詳しい。


ビジネスモデルとしては、広告モデルであることはもちろんだが、市民記者とその「係累」を中心にしてアクセスを稼ぐ構造であるため、市民記者の登録数が大きな鍵となる。韓国Ohmynewsでは登録数が4万人を超えている。日本法人が、当初から市民記者の登録数に過敏になっているのもこのためである。

その他に韓国では、日本法人ではまだ導入されていない、市民記者原稿料の“投げ銭(カンパ)”制度があって、1000ウォンから30000ウォン(116円~3495円/1ウォン=0.12円)を個人が寄付でき、その50%を手数料としてOhmynewsが取ることになっている。


 引用が長くなって申し訳ないがBigBangさんはこれをうまくまとめている。

要は単純化すればオーマイニュースのインカムは広告費であり、アウトは市民記者への原稿料、システム運用費、広告費等、その他事務所経費などであるが、常勤で抱える記者は既存のメディアに比べて相当少ないため、(韓国で現在40名程度とされている。常勤:非常勤(市民記者)の比率は1:1000にも達していることになる)固定費は相当少ないと予想される。また原稿料も、仮に試算として2,000円の原稿料を支払う記者が毎日50名発生したとしても、月額で300万円程度であるが、実際にはもっと少ないだろう。通常メディアで相当量を占めると思われる取材費は、市民記者の記事に関しては基本的に支払われないため、比重は少ない。かなり身軽な事業形態であることが予想される。

 もともと書き手の側へのキックバックが少ないビジネスモデルなのかもしれない。当然そのことから、カネを得たいと思う書き手にとってはオーマイニュースはインセンティブが少ないとも言えるのだろう。
 オーマイニュースの経営サイドから見れば、ベースは広告でありPV(ページビュー)獲得が運営の基本になるのだろうが、そのPV傾向についてはすでに諸処で指摘されているのでここでは割愛する。
 話を少し戻し、BigBangさんが指摘している「市民記者とその「係累」を中心にしてアクセスを稼ぐ構造」はどうだろうか。現在のオーマイニュースはその点から見ると経営のラインにあるのだろうか。この場合、一見さんのPVを増やさなくても仲間内の輪のようなものを広げていけば経営的に十分なモデルが仮定される。例えば、いわゆる「クチコミ」的なビジネスモデルなど。
 話が少し逸れて、一般的なブログとインセンティブの関係に移るが、この点ではブログ404 Blog Not Found”Amazonアソシエイト決算2006”(参照)が興味深かった。アマゾンによるアフィリエイト(アソシエイト)でかなりの売り上げがあるとのことだ。

まず驚くべきは、売り上げ増が未だに続いているということです。特に12月がすごくて、「クリスマス商戦」のおこぼれがこちらにも来たのではないかというほどで、第四四半期の売り上げの過半が12月単体でした。この一月だけで、2005年一年の倍近い売り上げを達成しました。

 金額ベースはわからないしそのあたりの推測は下品なので控えるとして、ブログとアフィリエイトによってかなりの収益を上げるモデルの先行例に見える。単純に言えば、ブログはよい書き手によって儲かるというインセンティブが確立したかのようだ。
 売るという観点からは、ブログ404 Blog Not Foundのdankogaiさんは次のようにまとめている。

著者blogでは自著はよく売れる
共著もまた然りです。特に私は単著よりも共著、しかも雑誌が多いのでこういう売れ方は嬉しいですね。

やはり好意的な書評の方がよく売れる
それが炸裂したのが、「神は沈黙する」と「はじめまして数学」だと思います。この二冊とも12月紹介なのに、この勢いですから。なお、ベスト40の紹介ではシリーズの各巻がばらけてますが、最初はその中で一番売れたもの(たいていシリーズ最初の巻)だけを順位にのせようと思った位です。集計の手間を考えてそれは断念しましたが。

書評は早いほどいい--が、早ければいいとは限らない
「早ければいいとは限らない」の例が、「渋滞学」です。これらはすでに他に書評も多く出ていて、本blogは完全に出遅れていました。


 自著は売れるという点は一般的なブロガーには当てはまらない。好意的な書評は一般的な営業的なセンスからでも納得的できる。できるだけ早い書評が有利というのは早押し合戦というか謹呈書勝ちみたいな印象も受けるが、dankogaiさんの指摘ではそれほど重要ではないとしている。要するに、良書をきちんと好意的に書評することが購入者のインセンティブとなると言えるのだが、だとすれば結局はブロガーの資質なり読書スタイルなりに還元されてしまい、一般的なビジネスモデルにはまだならない。
 もう一カ所の引用なのだが。

それでもまだ第三四半期に関しては、引用元記事で説明されているようにいくつかの要因も思い当たるのですが、第四四半期、特に12月に関しては「クリスマス商戦」ぐらいしか思い当たるフシがないのです。確かに「はじめまして数学」などのヒットが連発したのも事実ですが、他の本まで売れているのです。blog全体のアクセス数はさほど増減していないことを考えると、嬉しいを通り越して首を傾げてしまいます。

 これは興味深い現象なのだが、アマゾン側の要因はないのだろうか。関連のエントリは”Amazonからのお年玉”(参照)ではないかと思うが、よくわからない。繰り返すが、ブログに対してアフィリエイトが金銭的なインセンティブとなるビジネスモデルをアマゾン側が先行して進めているということはないだろうか。
 もう一点、ブログと書籍化による金銭インセンティブについて某人気日記をケースとして考えてみようかとも思ったが、無用な誤解を招きそうなので控えておこう。もともと書籍化の成功例はネットやブログというカテゴリーとは異なるようにも見える。
 全体の枠組みとしては「ウェブ人間論」(参照)にあるように広告業界のシフトだろう。梅田望夫さんによれば世界の広告市場は五十兆円であり、内ネットの広告は三兆円とのこと。その差から見ればネットの広告はこれからも成長できるし、そのカネはネットに流れこまざるをえないのだろう。
 この問題は広告側以外に流通側もある。少し古いがブログGoodpic”Amazonアフィリエイトの5%は超優良書店? リアルとネット書店の収益構造の分析”(参照)が興味深い。
 話が散漫になるが、年末二九日の日経記事”資生堂、ヘアケア市場のシェアで年間首位に”(参照)も関連して気になっていた。話は、資生堂が〇六年販売の「TSUBAKI(ツバキ)」のヒットより、ヘアケア市場で首位となったということなのだが、気になっていたのは広告とその効果のバランスだ。

資生堂は「ツバキ」の広告宣伝費にヘアケア分野として過去最大の50億円を投資。「ツバキ」の初年度の出荷額目標は100億円だが、大幅に上回り180億円に達する勢い。「ツバキ」としては初の追加商品となる「美髪ヘアマスク」を来年3月に発売し、拡販に取り組む。

 広告に五〇億円。当初売り上げ目標がその倍だったとのこと。一商品でこれだけ大きな市場が当初から想定されているので広告の初期投入費用が大きいのは理解できる。
 全体の商品市場からすると、このような商品の広告についてはネットの出番はないのかもしれない。だがネットの広告費と対価が見合う市場はロングテール的に存在しているなら、現状よりもう少しブログやネットへカネの流れが起きてもよさそうだ。
 すでにアマゾンがなにか進行させているのか、ダークホースのような一極が出てくるのか、全体的なベースアップになるのか、よくわからない。なんにも起きないのかもしれないし。

|

« [書評]「陰」と「陽」の経済学―我々はどのような不況と戦ってきたのか(リチャード・クー) | トップページ | 安藤百福、逝く »

「ネット」カテゴリの記事

コメント

書かれていらっしゃる事象のすべてがバイラルマーケットが批判された昨年のネット事情を捨象していらっしゃるようです。

オーマイニュースも、弾さんも、バイラルマーケッティングのひとつといえないでしょうか…。

短期的には、スポンサー利得・管理者利得の情報発信が利益を生み出すとしても、長期的にはそのような情報の価値が幻だったことが、明らかになっていく。

それがインターネット的であるし、そのような方向に変化していくのが、これからの時代。

良品はバイラルなどせずに売れていくし、利益もあげていくものだと思っておりますが…。

ありがとうございました。

投稿: スポンタ | 2007.01.05 14:20

この間は、ぶしつけなコメントを書いてしまい、失礼いたしました。

テレビよりネットに向う時間が多くなって、ふと思ったことですが、広告企業はネットユーザーを稼がせてくれるより、その画面に滑り込んで、儲けることを狙っているのだな・・・と。
もちろん、いま稼いでいるネットユーザーもいるのでしょうが。
私なんか、パソコン知識・技能がとても低いので、稼げるようになる前に、企業に吸い取られてしまうようになるのではないかしら。。。

投稿: うみおくれクラブ | 2007.01.05 20:11

今日のエントリーは又、非常に興味深い。というのは新春のTSUBAKIへの言及から、某企業の事を思い出したからです。

YAHOOやブログの広告で一時期頻繁に出てきた、ナバホ族シャンプーのことを覚えておられる方も多かろうと思います。TSUBAKIの非常に鮮やかな新春のCMを見るにつれ、その対極ともいえる非常に暑苦しく感じるあのネット広告によってどのくらいの顧客を獲得できたのか、非常に疑問を感じます。「ネットの広告費と対価が見合う市場はロングテール的に存在している」か否かこの例を見る限り否定的だと私は考えます。

投稿: F.Nakajima | 2007.01.05 23:12

後もう一つ、私はamazonを書籍検索のデータベースとしては利用していますが、90%以上をリアル店舗ないしは古本屋にて購入しています。

私はamazonのレビュー・新聞の書評など他人の情報を信頼していません。スポンタさんが顧客に対して「あなたは映像を見るプロ」だと発言するのなら、私は「文読みのプロ」です。例えばこのエントリーのレビューを1分15秒で読みきることができますし、新書なら30p程度を2分半(大抵の新書の第一章はこのくらいのページ数です。)見ることによって著者(情報発信者)のスキルがどのくらいか見分けがつきます。この1分/3000-最速5000文字の速読能力とそれに付随している知識・認識のFlame of Referenceこそ私のアイデンティティです。但しそれをもってしても、あなたのブログは私には何を書いているのか全く理解できないのです。

投稿: F.Nakajima | 2007.01.05 23:54

F.Nakajimaさま

私が顧客に対して言うのは、「顧客が素人として蔑められる立場ではない」ということです。
それは、「消費者・顧客・ネット者・受信者が、エージェントやエスタブリッシュ・発信者よりも、低い立場ではない」と等価です。

私は、自らの経験と能力がひとつの価値観に過ぎぬと伝えることで、業者と顧客がフラットになろうという意図で、その発言をします。
自分を誇ることは、ネット同様、ビジネスにおいても良好なコミュニケーションを妨げるものです。

私は、読者の理解を強制することは意図しません。
このコメント欄での指摘についても、さまざまな考え方があるということを指摘したいだけであって、管理者との対話が実現すればいいなぁ…。
と熱望してのこと。

今回も一切の対話が成立しないことは、極めて残念であるし、自らを反省する次第です。また、はてなでは対話がなされないることを知るにいたり、ブログというものの性格も変わってきていると感じます。

もし、ご不満があるなら、私のブログのコメント欄でお待ちしております。

管理者様、エントリーに関係ない書き込みをしまして、失礼いたしました。
ありがとうございました。

投稿: スポンタ | 2007.01.06 07:07

しっかし、初年度の出荷額目標100億円の商品に広告宣伝費を50億円を投入って、それじゃ「ツバキ」の製造原価っていったいいくらなの。
イメージ優先で大量消費に誘導するのって、すごく不誠実な印象を受けるのは私だけでしょうか。

投稿: | 2007.01.06 15:04

>初年度の出荷額目標100億円の商品に広告宣伝費を50億円を投入って、それじゃ「ツバキ」の製造原価っていったいいくらなの。

マーケティングの初歩として、新製品を売り出すときはシェアを取るのが何よりも優先されますから、初年度の収支を無視して(つまりたとえ赤字になるとしても)広告費を最大限投入するのが基本です。
毎年々々広告費を50億も投入するわけじゃありません。(もっとも資生堂としては次期主力ブランドとして売上が今のペースで増えるなら現在の広告出稿数を維持する可能性も否定できませんけど)

投稿: F.Nakajima | 2007.01.06 20:21

 なんかまあ、頑張りや?

投稿: ハナ毛 | 2007.01.08 05:25

殿様にあぐらかいてたトコが泡食ってら。
電通辞めて漫才師とか。

投稿: きりかぶ | 2007.01.12 23:20

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ブログと金銭的インセンティブの辺り:

» [ネット] 極東ブログには書籍化をお願いしたい。 [けろやん。メモ]
■ブログと金銭的インセンティブの辺り 批判ではなく感想文。このエントリは、前半をつらつらと書きながら、脳裏をかすめていた後半を書いたエントリと思われる。そして、その結語*1は、 だがネットの広告費と対価が見合う市場はロングテール的に存在しているなら、現状より... [続きを読む]

受信: 2007.01.14 12:27

« [書評]「陰」と「陽」の経済学―我々はどのような不況と戦ってきたのか(リチャード・クー) | トップページ | 安藤百福、逝く »