ポーランドのミサイル防衛メモ
明日〇七年一月一日からEU(欧州連合)にルーマニアとブルガリアが新規加盟する。EUはこれで二七カ国体制となり、人口規模としては約五億人となる。ちなみに、米国が三億人。EUも米国に対抗できるブロック経済となったか。
のっけから余談にそれてしまうが、中国の人口は十三億人。私のような昭和三十年代生まれの世代からすると戦後の中国は人口爆発のような印象を持ちがちだが実際には人口の増加率は低下しており、おそらく早晩頭打ちになるだろう。富裕層や中間層も生まれつつあるので、アバウト過ぎる言い方だが、そうした層の経済力をEUや米国に換算すると二億人くらいなものだろか。いずれにせよ日本を抜いていく。
EUと米国はシニョリッジ(通貨発行益)ではないが貨幣コントロールができる。ユーロとドルの貨幣の強さがどうなるか。対立するのか。私はよくわからないが、ざっくりとしたところユーロにはドルに対抗する力はなさそうに思える。
世界経済のプレーヤーとして日本はEU、米国、中国に比べて相対的に弱体化していくので、そのブロック化のどこにつくかという岐路もあるかのようだが、実際には円はドルと同じなので、選択肢はないのだろう。この点については実質中国もその類なので、米国帝国というのはそうしばらくは揺らがないのではないか。
それ以外の国といえば一応英国があり、問題を孕みつつも繁栄している。インド、インドネシア、また格段に落ちるがオーストラリア、台湾などがこうした大きな経済ブロックに翻弄されるのだろう。おっと、重要なプレーヤーがいた。ロシアである。ロシアの人口は一億人強。EUとも米国とも対立している。
大局的に見ると、EUがイスラム圏となるように、ロシアは中国に飲まれることになるのだろうが、そのあたりの大局こそもっとも嫌われるものだ。先日NHK番組でプーチン親衛隊的な組織について見たのだが、ちょっと意外に思えたのは、愛国心の文脈で若い女性は子供を産もうみたいな動きがあることだった。ロシアのナショナリズムは出産の奨励に向かっているのかと思った。
話が散漫になってきたが、国際的な状況について、特に経済的な利害の問題についてはこのブロック間の関係が軸になるのだろう。それにべたに軍事が付随してくる。ということろで、ルーマニアとブルガリアのEU加盟の話に戻ると、EUは対立するロシアに接近した形で拡大することになる。
これにべたな軍事問題がどう連動するのかなのだが、このブログを開始した三年くらい前はボナパルトEUみたいな構想からポストNATOの流れでEU軍かとも思えたが、その流れは消えた。意外にもこの流れのなかでけっこうなキープレーヤーだったのがポーランドだった。有志連合ではスペイン、イタリアに続き、米国側についた。
とはいえ米側べったりではありえないポーランドは〇四年にEUに加盟。この時点の加盟人口の大半はポーランドだった。ポーランドをEUに取り込むというのは、ロシアが猛反対したように、EUと米国によるべたな対ロ戦略でもあり、この動向はれいのオレンジ革命とやらのスラップスティックにも結合していたようだ。が、この動向はすでに大きく挫折したと見ていいだろう。単的に言えばロシアの勝ち。
一一月二四日ヘルシンキで開催されたEUとロシア首脳会議ではパートナーシップ協定が決裂。理由は、ポーランドの反対で欧州委員会が会議当日までに同協定の交渉権限を得られなかったとされている(参照)。そこでポーランドが反対した理由なのだが、ネットを見たら、日経ビジネス”ロシアとEUの関係がぎくしゃくしている理由 (門倉 貴史の「BRICsの素顔」”(参照)が扱っていて、農業問題だとしている。正しいのだろうが、もう少し離れてみるとポーランドの地政学的な意味が気になる。
EU憲法がぽしゃり、フランスが親米化し、ドイツが保守化し、という流れで、ポーランドの位置も微妙になってくるのだが、全体構図としてはNATOに戻るような傾向を示した。簡単に言えば、ポーランドは米国のミサイル防衛システムに組み込まれる。
この話自体はすでに昨年の時点で出ており、ブログの世界ではカワセミの世界情勢ブログ”ミサイル防衛の欧州配備”(参照)でふれている。
ハワイ沖で米国のイージス艦Lake Erieが初めてミサイルから分離後の弾頭を撃墜することに成功したと報じられている。(参照)重要な進展だが、米国内では多くのステップの一つに過ぎないと考えられているのか扱いは大きくないようだ。むしろ欧州配備に向けたニュースに関心が集まっているようだ。(参照2)今日は軽く触れておきたい。
欧州に対する攻撃の防衛のため、ポーランドにミサイル防衛のための基地を設け、主として中東やアフリカからの攻撃を防ぐことが検討されているらしい。大陸間弾道弾に近い中距離ミサイルが主なターゲットと見られるが、もう少し短距離のミサイルについてはイタリアやスペインも想定にあるようだ。
カワセミさんはここの時点では「中東やアフリカからの攻撃を防ぐ」としているが、すでに名目はイランということになってきている。しかし、対イランのはずがないと見て、ロシアは反発している。二二日付けRosBusinessConsulting”Russia opposes US missile base plans in Poland ”(参照)より。
RBC, 22.12.2006, St. Petersburg 16:05:38.
Moscow objects to US plans to install its third missile defense shield in Poland, Russian Deputy PM and Defense Minister Sergei Ivanov said at the launch of a new radar system in the Leningrad region today.
In the minister's opinion, there is no political or military sense in the establishment of yet another missile defense center by the US. Commenting on statements that the system was being designed to intercept intercontinental ballistic missiles from countries like Iran and North Korea, Ivanov assured that neither of these states had similar missiles.
中国も関心をもっているのだろう。二三日付けCRI”米国、欧州でミサイル防衛システム設置の意向を表明”(参照)より。
アメリカミサイル防衛局のヘンリー・オベリング局長はこのほど、チェコのメディアのインタビューに応え、「ヨーロッパでミサイル防衛システムを配置することによって、アメリカの全般的な防衛システムはその安定性を強化できるだけでなく、ヨーロッパの同盟国の安全をも確保することができる」と述べました。
報道によりますと、アメリカはいま、NATO・北大西洋条約機構の加盟国であるチェコやポーランドと協商し、この二ヶ国でそれぞれミサイル防衛ライダーシステムとミサイル迎撃システムを設置しようとしているということです。
確か英国にも配備されるはず。
ただ、対ロというならこの程度のミサイル防衛システムは機能しない。現状は政治的な象徴性しかないだろう。いずれにせよ、イランはダシである。北朝鮮がそうであるように。
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コメント
>いずれにせよ、イランはダシである。北朝鮮がそうであるように。
まあ、ぶっちゃけそういうことなんだけどさ。出汁と分かって敢えて乗ってみるのも面白い。>北朝鮮。無責任な言い方になるけど、誰か(何か)死ねば、その後の混乱を多少覚悟すれば、次からは狙われなくなる。覇権国家の感性って近所のガキ大将みたいなもんで、一旦喧嘩して「キャン」言わせたら、それ以上は深追いしないもんでしょう。日本が、まさにそれなんだし。
そこで日本だって、さ。自前でモノを言えるような空気作るのに5,60年掛かってるけどさ。一応やるだけやって、泣きでも見ればいい。そこで身の程弁えないと。弁えないことそのものが更に大きな悲劇を生むでしょうよ。それが洗礼ってもんかと。
戦争するだのしないだのって、最終的には経済ですよ。損得勘定。損得勘定やって多少なりとも利アリと判断したら、それ以外のリスクは被ってでも突撃するもんさね。それができる・敢えてやるのが覇権国家ってもんだ。
投稿: ハナ毛 | 2006.12.31 12:50
覇権主義は時代遅れですよ? ってことに最後に気付くのはアメリカですよ。んだから俺とか何度も何度も言ってる。「パワーゲームに勝者は居ない」って。
アメリカが本当に賢ければ、最後の大敗の前に、キチンと回避する。
ただ、アメリカは今の今まで何度も何度も失意の底から立ち直って繁栄を享受してるから。嘗ては世界の頂点を極めてるから。それだけ振幅の差があれば、ちょっと、自力で立ち直るのは、難しいかもしんない。
アメリカが心の底から大コケするときは、いつか来るから。私や弁当先生が生きているうちは無いかも知れんけど。そんとき「しょうがねえな」って言ってやれることが、それが日本の役割だと思うけどね。
そういうのを、さ。「負けて勝つ」「負けるが勝ち」って言うんじゃないの? 知らんけど。
投稿: ハナ毛 | 2006.12.31 12:56
メイフラワーの国がマッチョ道を突っ走っているわけだが、有志連合だとか「他人の話も聴けよ」という感じは、国内事情からも出てくるだろうね。
でなければ、ある種の人物はたとえ非常に優秀でも、米国は非常に生き辛い所になるだろうね。
本年はお世話になりました。
良いお年を。
投稿: トリル | 2006.12.31 19:22
一つの政策はしばしば複数の目的を持ち、関係諸国の様々な思惑から決定されるものですがこれもその典型かもしれませんね。欧州諸国は比較的長弾道のミサイル防衛に関してはあまり賛成していなかったのですが、もはや随分昔のような気もします。東欧周辺の核拡散可能性も今は潜在的ですが何かの保険は必要であり、その一環とも言えるでしょう。
イランに関しては様々なオプションを残して置かなければならず、完全に名目だけとも言い難いような。イスラエルも変数として大き過ぎます。もっとも実際は欧州そのものがそうなのでしょうが。
投稿: カワセミ | 2006.12.31 21:44
ロシア軍には既にS-300とS-400という長距離対空ミサイルに、弾道弾迎撃を目的としたモデル(イスラエルのミサイル防衛システム「アロー2」に匹敵する)を用意しており、S-300については中国軍も保有している。その上でNATOのMDに反対しているのだから、どうかしている。
>ただ、対ロというならこの程度のミサイル防衛システムは機能しない。
現状では確かに。ただし米ミサイル防衛局はGBIの迎撃弾頭のマルチプル化を計画しており、これが1個の迎撃弾頭が僅か5kgというもので、これを多数積み込むようならデコイやMIRVでの突破が困難になる恐れがあります。
>もう少し短距離のミサイルについてはイタリアやスペインも想定にあるようだ。
アメリカ・ドイツ・イタリアで共同開発中のMEADSは、実は中身はパトリオットPAC3なんです。当然、対弾道ミサイル迎撃能力を備えています。
投稿: JSF | 2007.01.03 15:08