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2006.12.30

[書評]エコノミストは信用できるか(東谷暁)

 首相の諮問機関、政府税制調査会の会長を本間正明が辞任し、その後釜には税調委員伊藤元重東大大学院教授が噂されていた。私は安倍政権というのは実質リフレ政策というかインタゲ政策というか、いずれにせよ強制的にインフレを起こす金融政策に舵を切るんじゃないかと予想していたので、これもスケジュール通りなのかなと内心少し思っていた。そうか、マジ看板でリフレか。
 ついでに、日本の失われた十年とはなんだったのだろう、そういえばバブルっていうのも結局なんだったのだろう、と、自分が生きていた時代が歴史になっていくヴィジョンに捕らわれ、この歴史をどう見ていいのか少し戸惑った。そんなのある程度自分の考えがまとまっているかと思ったが、案外そうでもなかった。ニューズウィーク日本語版は創刊からずっと読んでいるが、クルーグマンが札を刷れといってから十年経つなと懐かしく思った。

cover
エコノミストは
信用できるか
 税調だが伊藤教授は固辞し、香西泰日本経済研究センター特別研究顧問が内定した。おやという感じがした。考えようによっては税制が問題であって金融政策ではないから、このポジションにリフレ派というわけもないのかもしれない。ネットのリフレ派さんたちもあまり関心ないようでもあった。
 それにしても香西泰かと、思い出したのが本書「エコノミストは信用できるか」(参照)である。二年前の本だ。当時、名立たるエコノミストをジャーナリスティックに撫で斬りした論考は当初文藝春秋だったかで読み、その後この新書で読んだ。新刊書時点に読んで、ふーんと思ったが率直なところ私はよくわからなかった。手法としては面白いし、エコノミストというのはこういうふうに見えるものだろうなと思った。気になったのは、エコノミストに意見の一貫性と言われてもその意見の奥行きのような部分は個々の引用からはわからないのではないかということと、自分は日本経済はリチャード・クーの見立てでいいと思っていたので、こういう評価もあるのかということだった。
 読み返してみて面白かった。意外というくらいバブルや不良債権の経済学的な意味をスルーしているのが爽快でもあった。そういえば、文藝春秋に載っていた東谷暁の郵政民営化議論はけっこう変なしろものだったなというのも思い出した。ちょっとしたエンタテイメントなのだ。出てくるエコノミストもキャラの描き方として見ないとな。
 そんななかで香西泰は格段に軽い感じのペーソス・キャラで描かれていて含蓄があった。本書のまとめではこう。

香西氏が多くの仕事をしてきたことは間違いない。しかし、あまりにも辻褄合わせの発言が多くはなかったかだろうか。八〇年代バブルを見誤り、九〇年代アメリカの動向を見抜けず、IT革命に肩入れし、「仮説」によって構造改革を支持し、不要債権処理でも最悪の方法を答申した。日本経済新聞系のシンクタンクの長を続け、日本経済新聞と同じ誤謬の道を歩んだのだろう。別の研究機関、たとえば大学などで活動していた場合は、別の香西氏がいた気がして惜しまれる(合計=六〇点 九九年=B3 〇一年Ba3)。

 評者の思い入れが同情的なのは、実際に団体の長となるにはそんなものという了解があるのだろう。たぶん、税調でもそういうことが期待されているに違いない。めでたしめでたし。
 本書を読み返しながら、今の時点で考えると、IT革命騒動の六章と不良債権処理の七章については、前者は昨今のウェブ2・0論、後者は地方自治体破綻とだぶって読める部分があり、本書のようにこの問題を済んだこととして歴史の外側から冷やっと見ているのも違うかなとも思った。
 いずれにせよ、安倍政権下ではマジ看板でリフレ政策もインタゲ政策もないのだろう。永遠にいざなぎ超えを続けていくなだらかな坂道が続くのだろうか。しかし、来年からは二〇〇七年「問題」が起きる。失われた十年に取り残され、排除された人々の数が日本社会の中心部に移動しつつあるのと対照的に、潤沢な一部の老人たちが社会活動や投資を活発にやってくれるようになるのだ。ふふふ。

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コメント

>排除された人々の数が日本社会の中心部に移動しつつあるのと対照的に、潤沢な一部の老人たちが社会活動や投資を活発にやってくれるようになるのだ。ふふふ。

 やるヤツが出るかどうかは分かりませんけど、脅し・暴力・抑圧・詭弁等。そういう類の闘争が行われるでしょうね。オレオレ詐欺なんかは、前哨戦に過ぎない。これからですよ。持つもの持たざるものの格差戦争が激化するのは。ふふふ。

投稿: ハナ毛 | 2006.12.30 13:55

S/N比が高い、とは、シグナルがノイズよりも大きくなることです。
s/N比が低い、とは、この逆でノイズのほうがシグナルよりも大きくなることです。

S/N比が上がると、情報の質は高くなります。
S/N比が下がると、情報の質は低くなります。

逆だと思います。

投稿: | 2006.12.30 19:06

欧米流経済学の二番煎じだから論理の訓練と知識の取得にはいい。エネルギー供給問題が根本にあるのは確かで、アメリカの屋台骨として組み入れられるカッコイイ教育をうけた連中が加担した。金満機関投資家は勤勉な日本人ありがとうとほくそ笑んでいるのでは。早々に自前の思想を・・・宜しく!

投稿: アカギ | 2006.12.31 09:11

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