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2006.11.09

ラムちゃん、バイっちゃ

 ラムズフェルド国防長官が辞任することになった。中間選挙で共和党が敗北したことによる事実上の解任である。事ここに至ると、ブッシュ大統領もというかチェイニー副大統領もラムズフェルドをかばいきれないというのはあるだろうし、この成り行きは想定外というほどでもないだろう。中間選挙とはこういう傾向を持つものだし、与党敗北についてもともと米政府と議会の関係が伝統に戻ったというか平時に戻ったわけで、してみるとこれまでの議会の状態が事実上戦時だったのだなと再確認する。
 朝日新聞の社説などでは早々に大義なきイラク戦争そのものが間違いであり、米軍はイラクから撤退せよというふうな論調で飛ばしていたが、実際のところ米民主党もこれまでみたいになんでもフカシの状態から政治責任の主体となったわけで、イラク問題への対処にそう大きな変更はないだろうというか、アフガニスタン統治のミスをベタに繰り返すわけもない。
 民主党寄りに見えるニューヨーク・タイムズはなにか言うかなと思って社説を眺めてみると、”Rumsfeld's Departure”(参照)があり、標題を私の世代の言葉で訳すと……「ラムちゃん、バイっちゃ」といったところか。
 それほど刺激的な内容ではないが、なかなかよい社説だった。というか、ラムズフェルドというレスラー(それは若いころ確かに)をよくとらえていた。彼は冷戦時の軍をいかに縮小すべきかということに心を砕いた男だった。が、もちろん、失敗はしたのだが。


Before he presided over the Iraq invasion, Mr. Rumsfeld promised that as secretary of defense he was going to transform America’s military so it was prepared to fight the conflicts of the 21st century. Mr. Bush has cited the progress being made on that front as one of the reasons he wants Mr. Rumsfeld to stay. But -- in a familiar pattern for this administration -- the changes have been more rhetorical than real.
(試訳)
イラクに侵攻する前のことだが、ラムズフェルド氏は国防長官として、米軍を再編成し、二十一世紀型紛争に対応できるようにしようとした。ブッシュ氏はラムズフェルドが閣僚に残る理由としてその進展を掲げていたものだった。しかし、この政府の常として、変化というのは現実的というより言葉の上だけのことに過ぎなかった。


Truly transforming the military would have meant trading in expensive cold war weaponry, like attack submarines and stealth fighters, for pilotless drones, swifter ships and lighter, more mobile ground forces. Mr. Rumsfeld never had the interest -- or the political will -- to take on that fight. Instead, he bought peace with Congress and the military brass by holding down the size of ground forces in order to continue paying the ballooning cost of unnecessary weaponry. He created a smaller, more mobile force that was too small to successfully pacify Iraq
(試訳)
軍再編成が本来意味していたものは、冷戦時の過剰な軍費をやめることだった。例えば、攻撃用潜水艦やステルス戦闘機といったものを、無人飛行機、高速船、軽量で動きやすい陸上兵器といったものに変えることだった。ラムズフェルド氏はそのための政争には関心を持たないか、政治的な意志を持たなかった。代わりに、議会や軍官僚と協調し、不必要ともいえるほど軍費を膨張させ続けるために地上部隊を縮小した。彼は小規模で機動力の高い軍を作ろうとしたが、小さくなりすぎて、イラク統治を成功させることができなかった。

 そういうことだよな、ラムちゃん、と思う。
 日本のジャーナリズムの多くは、イラク戦争自体が間違っていたからイラクの混乱が今日ありその原因はラムズフェルドという軍事の責任者にあるのだとしているが、米国の世論はむしろイラク統治のまずさを問題にしている。というか、統治における米兵の死を問題としている。そして、なぜイラク統治がまずかったかといえば、ニューヨークタイムズは、地上軍が小規模過ぎたからだというのだ。
 昨今の経済学では軍需によって景気回復はしないということになっているのだったか。ただ、ラムズフェルドが冷戦後の軍産共同体と向き合ったとき、彼のビジョンはある説得力を持っていたのだろうし、ファースト・トライアルのケースが最悪だったのかもしれないともちょっと好意的には思う。というのは、イラク統治以外にも、冷戦後世界と軍事には残された問題があり、それにはなんらかのビジョンが必要になることは確かだから。

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コメント

>「ラムちゃん、バイっちゃ」といったところか。

 明日から最終残飯に格下げ。世代を超えて死ね。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.09 19:15

>標題を私の世代の言葉で訳すと

 世代的に駄目なのかもしれんね。根本的にアウトでしょ。先頭打者初球側頭部デッドボール死傷事件後没収試合後世論沸騰後プロ野球衰亡後満を持して消滅、みたいな。

 あってはならないミステイクって感じ?

投稿: ハナ毛 | 2006.11.09 19:52


現在のあまりに革新的な、高機動力の即応部隊をその都度派遣し、相手に一発与えてノックアウトしさえすれば、後はその国は民主化するので、すぐに撤退することが出来る、というネオコンの理想をそのまま形にしたような部隊編成はコレでおしまいです。おそらく今後の部隊思想は、機動力を犠牲にしてでも長期間前線に配置しても損耗しないというタフネスさを要求してくるでしょう。つまり、必要最小限ではなく、損耗しても補える程度の数を拠点に配置するという形になるはずです。

コレが何を意味するか。ずいぶんあっさりした物言いですが、これで沖縄駐留軍などの米軍再編問題ももう一度やり直し、ということになるでしょう。


投稿: F.Nakajima | 2006.11.09 22:10

後、まだ、"State of denial" を読む機会がないのですが、あれだけ固執したラムズフェルドの首をあっさり切ったということは、おそらくブッシュとスタッフの間では今回の選挙結果がどうなるかある程度予測がついた頃(多分10月になるかならないか)に今回の選挙結果にたいする対応策が出来ていた、と思います。ラムズフェルドに因果を含ませて責任を取って辞めてもらうことによって、政権の最大の弱点をまず消すのが手始めで、その後ペロシ院内総務の出方を伺っている、と言うところでしょう。

上院は今回の選挙で今後6年間、相当がんばらないと過半数奪回は難しい数字になってしまいました。下院はまだ2年後にはひっくり返す可能性はあるでしょうが。
ブッシュは多分共和党有力者から、最悪でも大統領の座を民主党に明け渡して完全野党に転落することだけは避けるよう、釘を刺されているはずです。

投稿: F.Nakajima | 2006.11.09 22:31

 秦の李信・王翦の故事に近いもんがあるね。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.10 07:43

>日本のジャーナリズムの多くは、イラク戦争自体が間違っていたからイラクの混乱が今日あり

そもそもイラク戦争自体が間違っていたという論調は、たしかに日本でよく見かけますね。でも、さすがに「間違った戦争だから、統治に失敗した」というアホな論調は見たことがありません。その理屈ですと「統治に成功したならば、その戦争は正当化される」ということになります。日本のマスコミがそんなことを本当に書いています?朝日かな?ちょっと信じられないのですが・・・。「イラク戦争そのものが間違いである。ゆえに米軍は撤退せよ」という主張は見かけますけれども。

投稿: 戦争に大義がないから統治に失敗した? | 2006.11.10 10:18

↑だって所詮「ラムちゃん」だもん。残飯の中の人は。大目に見ましょうよ。とか言って。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.10 18:27

 ついでに添削。

>事実上戦時だったなのだと
→事実上戦時だったのだなと

>イラク戦争自体が間違っていたらイラクの混乱が今日あり
→イラク戦争自体が間違っていたからイラクの混乱が今日あり

>「ラムちゃん、バイっちゃ」
→適正な言い回しはよく分からんけど、少なくとも本編作中でこういった喋り方はしないし、音読しづらい。そういう日本語は禁止。

 早く平時の弁当に戻ってくださいね。とか言った。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.10 18:37

>適正な言い回しはよく分からんけど、少なくとも本編作中でこういった喋り方はしないし、

思い出しましたよ。確かに「バイっちゃ」なんて言い方はしてません。finalventさん、もしかしてDr SLUMPの「バイちゃ」と誤認してませんか?

投稿: F.Nakajima | 2006.11.10 19:01

 そういや、なんかアレですね。

 文部省に自殺予告ハガキが大量に届いたらしいですけど、アレ、「ひとりを除いて全部おなじヤツが書いた(クイズダービー風)!」だったら、凄まじいギャグですね。あんだけ同時に届くのは、フツーに大人のイタズラとしか思えませんが。真相はいかに!?

 んでもって真正差出人が永田元議員(元民主党)だったらベリーナイス。相変わらず体張ってますね、って感じ?

 あとさ。女の子(?)のハガキ。文面見たけど、字 が き っ た ね え な ぁ というのが、率直な感想。いじめに悩む以前に 字 く ら い 小 綺 麗 に 書 け バ カ と。そんな感じ。

 んでもって、ここぞとばかりに政府を攻撃しまくる民主党。
 なんかね。幾らなんでもそおゆうの政争のネタにすんのは非道すぎるでしょ。軽くキレてた文科相にちょい同情。
 なんていうか、そういう下衆さが政権取れない最大の要因だと思うんですけどね。>民主党


 なにはともあれ、いじめに負けず頑張れと。はらたいらさんファンでしたと。ご冥福をお祈りします。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.11 03:07

 だいたいな、いじめられて苦にして遺書書くようなヤツは その時点で死を決してるからわざわざ他人に送り付けたりしねぇよっての。そんな悠長なわけネーだろ。

 私的に「7,8割がたイタズラ」と踏んでるんだけどさ。
 そういうとき「某2ちゃんねる」「某緑運動公園管理人」あたりがピーンと浮かんじゃうのは気のせいですか?

 まぁ後者はあり得ないとしても、前者は十分アリエール。幼稚な怪文書の類が出回ったら、とりあえずそっち疑っとけって感じ。

 世の中いろいろ大変ですな。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.11 03:24

ハナ毛さん、こんにちは。誤字のご指摘ありがとう。修正しました。標題の洒落は洒落ということで。コメントをもって履歴に代えます。

投稿: finalvent | 2006.11.11 09:48

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