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2006.11.14

フィナンシャル・タイムズが支持する安倍改憲論

 このネタは不用意な誤解を招くかと思ってスルーしていたのだが、週刊新潮(2006.11.16)に「日本の改憲を支持した『フィナンシャル・タイムズ』」という小記事があった。日経新聞か朝日新聞でこのフィナンシャル・タイムズ社説は翻訳されたのだろうか。見落としたか。ネットをざっくり見ているわりには、改憲論とか安倍首相というと脊髄反射的に騒ぎ立てる勢力があるのに特にそうも見えないので、まあ、一様にスルーってことでひとつ、となったのかもしれない。ま、私もそれでいっかぁと思ったのだが、週刊新潮の記事を読んでいて、もしかして、記者はオリジナル社説読んでないかもという印象を持ったので、簡単にブログっておくのも悪くないだろう。あー、言うまでもないことだが、私はウィークな改憲反対論者ですよ。
 切り出しとして週刊新潮の記事だが。


 靖国問題は、”曖昧戦術”で乗り切り、中韓との関係改善に成功した安倍首相。すっかりタカ派色を薄めているが、憲法改正については別のようだ。首相就任後初の新聞単独インタビューとなった英フィナンシャル・タイムズ(FT)との会見でこう話したのだ。
<私の任期は1期3年まで、自民党総裁は最長2期まで在任できる。その期間内に私は会見の実現を目指すつもりです>

 というわけで、我ながらうかつにもへぇと思ったのだが、改憲の意志を明確にしたのはフィナンシャル・タイムズ会見が初めてだったのだろうか。れいの「美しい国へ」とやらでは触れてなかったっけ(ざっと読んだだけ)。

「これまでは”改憲を政治日程に乗せる”と言ってましたから、今回の発言は一歩踏み込んだものです」
 と政治部デスク。おまけに、FT紙は2日付けの社説で、
<憲法を改正したいという安倍首相の意図は理にかなったもので、長く待ち望まれていたことだ>
<9条はすでに実体を失っている>
 と安倍宣言を全面肯定。首相は少なくとも改憲について英高級紙の支持は取り付けたのである。

 とまとめているのだが、この記事は、「政治部デスク」とやらのメモから起こしたものか。
 オリジナルは”Japan's constitution”(参照)である。
 まず気になるのは、週刊新潮記事にFT社説からとして引用された該当部分の照合だが、<憲法を改正したいという安倍首相の意図は理にかなったもので、長く待ち望まれていたことだ>については次の部分だろうか(他に見あたらない)。

Mr Abe's intention to rewrite, within his maximum six years in office, the constitution imposed by the US occupation forces in 1946 is sensible and overdue.
(試訳)
安倍氏が首相在任中の最長六年間で米国占領化の一九四六年に押しつけられた憲法を書き換えたいと意図するのは、理にかなっているし、遅すぎた。

 週刊新潮の引用のクリッピングが恣意的な印象を受けるのだが、実はこの部分は以下の部分に続く。

Shinzo Abe, who has replaced Junichiro Koizumi, is indeed a nationalist, and any revision of the constitution now will certainly mean watering down the eternal renunciation of war enshrined in Article 9.

Such fears, however, are misplaced. Mr Abe's intention to rewrite, ......
(試訳)
小泉純一郎を継ぐ安倍晋三は確かにナショナリストであり、現状では憲法のいかなる改定さえ第九条で神聖視されている戦争永久放棄を骨抜きにしかねない。そのような恐れは、思い違いである。安倍氏が……


 安倍宣言を肯定というより、むしろフィナンシャル・タイムズのほうが第九条とその改定を冷ややかに見ていることがわかる。
 もう一点、<9条はすでに実体を失っている>はどうか。

On the military side, the promise in Article 9 that "land, sea and air forces, as well as other war potential, will never be maintained" has already been flouted, although a verbal figleaf to cover up the reality of Japan's powerful navy, army and air force is maintained by calling them the "Self-Defence Forces" and restricting them to non-violent roles in international peacekeeping operations.
(試訳)
軍事面については、第九条に約束されている「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」はすでに侮蔑された状態にある(has already been flouted)。しかも、日本は強力な海軍、陸軍、空軍を「自衛隊」と称して保持しているし、国際的な平和維持軍として非戦闘的な役割に限定しているとはいえ、アダムとイブの恥部を覆うような言葉のイチジクの葉で恥ずべき実像を申し訳程度に覆っているにも関わらずそうなのだ。

 ちょっと意訳が過ぎたかもしれないけど、floutedやfigleafの語感を強調してみた。いずれにせよ、フィナンシャル・タイムズの指摘はむしろ日本人の道徳性の欠落を示唆しているように思われる。つまり、実体を失っているということ以上の指摘である。
 むしろ、なんでフィナンシャル・タイムズはこんなに乗り気なのだろうか。週刊新潮の記事では、安倍政権がフィナンシャル・タイムズのお墨付きを取り付けたみたいなフカシでごまかしているが、記事を最後まで読め、だ。問題は中国なのである。

China, having focused almost obsessively on Yasukuni, will now find it hard to complain about modest revisions to a 60-year-old constitution provided Mr Abe does not actually visit the shrine.
(試訳)
中国は強迫神経症的なまでに靖国問題を焦点にしてきたが、今となっては安倍氏が靖国神社に参拝しない限り、六〇年目の憲法改定にいちゃもんを付けるのは難しいだろう。

 つまり、靖国問題をバーターに持ち込めば、中国は日本の改憲を呑むよとフィナンシャル・タイムズは言っているのである。
 中国市場に乗り出したいと画策を続けているフィナンシャル・タイムズの立ち位置とここで言われている中国とは上海閥であると考えるなら、中国の現政権の一部から、日本の改憲はスルーしまっせのシグナルが出ていると読んでいいのだろう。なぜか、とまでは考察したくもないけど。

【追記 2006.11.16】
コメント欄にて、同社説の翻訳があることを教えてもらった。

日本の憲法 フィナンシャル・タイムズ社説(フィナンシャル・タイムズ) - goo ニュース

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コメント

この訳から「日本人の道徳性の欠落を示唆しているように思われる」との解釈は無理があるように思いますが、それ以前に試訳の日本語に違和感有ります。

「侮蔑された状態にある。しかも……にもかかわらずそうなのだ。」
あたりの係り受けはおかしくないですか?
「そう」というのは「侮蔑された状態にある」ことなんでしょうか。

あと英語力中学生なみの私がいうのもおこがましいですけど
「a verbal figleaf」を「アダムとイブの恥部を覆うような言葉のイチジクの葉」
「cover up the reality」「恥ずべき実像を申し訳程度に覆っている」
とはいささか超訳では?

辞書をひきながら単純に訳したらこんな感じになりましたが如何でしょうか。

第九条で約された「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」は、軍事側面で既に嘲弄された状態にあるにもかかわらず、「自衛隊」と呼び国際的平和維持活動における非戦闘的役割に限定する、というイチジクの葉のごとき口実で日本の強力な陸海空軍の実像を隠蔽している。

これだと九条は、実際は強力な軍隊なのにそれを隠蔽するためにつかわれる詐術、といった意味合いになります。

投稿: ふへ | 2006.11.14 18:25

「A, although B」は「Bにも関わらずA」と言う意味ですから、
訳としては間違ってないかと。
しかし、どう読むかはなかなか難しい・・・。

投稿: うps | 2006.11.14 20:52

>うpsさん
「A, although B」は「Bにも関わらずA」と言う意味ですから、

なるほど、
B=「自衛隊」という言葉で強力な軍であることを隠蔽している
にも関わらず
A=9条の「戦力の不保持」の約定は侮蔑されている

ですか。すっかり逆に読んでましたね。ありがとうございます。

ただ「日本人の道徳性の欠落を指摘してる」部分がどこにあたる(またはどの表現のニュアンスから感じられる)のかはやっぱりわかりません。
イチジクの葉が隠しているのは「恥ずべき」部分じゃなくてたんに「大事なところ」なんではないかと。

投稿: ふへ | 2006.11.14 23:43

http://news.goo.ne.jp/article/ft/index.html
参考までに、このあたりに記事はいかがでしょうか。

投稿: exocet | 2006.11.15 09:33

exocetさん、こんにちは。インフォありがとう。それが翻訳ですね。というわけで、みなさん、そちらをご参照されたし。

投稿: finalvent | 2006.11.15 09:41

>つまり、靖国問題をバーターに持ち込めば、中国は日本の改憲を
>呑むよとフィナンシャル・タイムズは言っているのである。

なるほど。そう理解されましたか。
でも、文章を読んだ限り、微妙にニュアンスが違う気もしました。靖国問題にばかりほとんど一辺倒に執着してきた中国は、その靖国を安倍氏が訪問しないとあっては、反対する理由を失ってしまう。こうなると、"憲法のささやかな修正"程度では、そうそう中国様も文句を言えなくなって"しまった"。という風に私には読めるのですね。読めるというか、そのまんまですが。中国が「靖国参拝」のみに問題を収斂してたことで、かえって日中間の問題は、シンプルになった。そこをうまく安倍氏は突いた。「今のところ安倍氏は、対中関係を巧みにこなしてきた(So far, Mr Abe has handled the China relationship deftly)」と安倍氏を評価している文章に読めました。

投稿: 非常にシンプルな社説に読めますが | 2006.11.15 12:28

つうか、なんでも無理に陰謀論に仕立てなくていいよ。おなか一杯。

投稿: | 2006.11.15 14:33

 要するに採集弁当おじちゃんは喧嘩下手ということで宜しいか。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.15 18:42

>overdue.

 っていうかさ。ファイナンシャルタイムズ社説の骨子は、ここでしょ。他はどうでもええよ。どう読んでもどうにでも取れるんだから。

投稿: ハナ毛 | 2006.11.15 19:07

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受信: 2006.11.15 09:26

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