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2006.10.07

[書評]「快楽 ― 更年期からの性を生きる」(工藤美代子)

 工藤美代子「快楽 ― 更年期からの性を生きる」(参照)をようやく読んだ。書名は「けらく」と読ませているが、エロス的快楽(かいらく)ではなく仏教的な「けらく」で宗教的な含みを持たせた趣向といったふうでもない。テーマは更年期にさしかかった女性の性、もっと端的に言えば、おセックスにまつわる話ばかりである。帯的にはこう。


現実と欲望の間で揺れる身体とこころ。男性から見た女の更年期、セックスの重み、新たな性の目覚めに向けて、求めつづける女たち…。更年期の性の問題を深く掘り下げるノンフィクション。『婦人公論』連載を単行本化。

 いかにも「婦人公論」的な話がてんこ盛りなので、続けて読んでいると船酔いみたいな吐き気にも似たようなものが私などには感じられる。と、私とは四九歳の男である。つまり、少年期青年期の同級生の女性たちがここに描かれているわけだし、そうした思いで読み始めた。彼女たちはどうしているのだろうか、と。
cover
快楽
更年期からの
性を生きる
 読み進めていて、そこに描かれている更年期の女性たちの性行動、とくに不倫が多いのだが、それは端的に言って、私より上世代である団塊世代の女性特有のものではないかという感じがした。平凡パンチで後楽園球場百人ヌード写真イベントとかいうと、どっとあつまってすっぽんぽんになっていた若い日の彼女たちが後年繰り広げそうな光景だな。
 本書では不倫の話が多いのだが、そのフレームワーク内の男は、やはり妻子持ちの男性、しかも中年五十、六十でまだガタが来ず、社会的に地位のある男。著名人だとあんな感じと過去エントリの参照をつけたくなるが控える。しかしだな、そんな男が私の世代にどれほどあるだろうか。女は五十過ぎの独身。そういうのが社会に希少とまでは言わないが、まずそういう男女が主体に描かれることに私は世代的な異和感を感じる。
 加えて、その不倫の背後にはハウスホールダーというかハウスキーパー的な女があるはずなのだが、彼女たちがまったく描かれていないわけでもないのだが、うまく話に取り込めていない。ぶっちゃけた言い方をすれば、本書は「婦人公論」を読むタイプの女性に向けてある種の不倫幻想なり日常の鬱憤晴らし的なお下劣話を提供するもののようだ。
 団塊後の私の世代の女性が更年期を迎えるのはたぶん、シフトして十年から五年後。本書に描かれる中年女性の性行動に類似の光景が今後展開されるだろうか。
 もちろん女性の更年期という現象は世代的な問題ではない。更年期前後の性交痛の問題などは確かに大きな問題だし、本書に描かれているホルモン補充療法(HRT)についてはかなり妥当な入門的な指導内容になっていて好ましい、と思う。
 本書のなかである意味で文学的な陰影を感じたのは著者工藤美代子と晩年の森瑶子の交流だった。森瑶子についてウィキペディアに解説があるかと思ったらない。もう忘れられた作家なのだろうか。没年を見ると九三年。もう少し調べると七月六日。五十二歳だった。デビューは三五歳の「情事」(参照)。すばる文学賞で文壇デビューし、「誘惑」「傷」芥川賞候補となったが芥川賞は得ていない。
 私は森の小説のよい読者ではないがエッセイはよく読んだ。エッセイと言っていいのかわからないが、ユング派の精神分析を受けていく過程を描く「夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場」には衝撃すら覚えた。同書はアマゾンにはない。一度文庫化されているので古書店で見つからないものでもないだろう。ネットを見ると復刊リクエスト(参照)があるがその価値がある。同書の刊行は八三年なので森が四二歳のことであっただろう。更年期にはまだ早いが心の中の葛藤はある極限に達していた。
 工藤の「快楽」から森瑤子に話がそれたが、私の印象では、「快楽」に描かれている、ある種強迫的ともいえるような中年以降の女性の性行動には森が直面していたような精神的な問題が関係しているだろう。同書も子細に読むと工藤もそうした直感を得てはいるようだ。が、雑誌連載でもあり、また彼女の資質からしてもこれ以上掘り下げられるものでもないだろう。
 ただ掘り下げて何があるのだろうか。意味があるのかというとわからない。人生触れないでおくほうがいいような真実の類かもしれない。それでも、その何かは来年五十歳にも達する男の自分にもまったく関係のないこともでないのだろう。そういえば、中年のうらぶれた男の側の教訓としては女が情事にいちいち点数を付けているあたりがよかった。

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コメント

 米と栗と枝豆やるからたんと食って元気出して風俗逝って一発抜いてすっぱり忘れろバカチンコフが。露西亜人かお前は。

 と か 言 っ て 。 ぷぅ~。

投稿: ハナ毛 | 2006.10.07 22:49

なーんか黒崎さんがコメントしそうなエントリーですね(笑)

投稿: トリル | 2006.10.08 01:12

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