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2006.10.08

「MOON -月亮心-」(チェン・ミン)

 昨日も美しい月だったが、今日もまだ見た目には満月に見える。美しい。が、月の美しさというのに私は奇妙な違和感がいつもある。沖縄の人は、私がそうなのだが本土日本人とは違った月への思いというのがあり、長く暮らして、少しわかったように思えた。そして、中国、アジアの人の月への思いというのをときおり考える。理解が深まるほどに、違和感も深まる。

cover
MOON-月亮心-
チェン・ミン
 月への思いは、それをテーマにしたチェン・ミンの「MOON -月亮心-」(参照)にも感じられる。このところ季節がらというか、このアルバムをiPodでよく聞く。美しい曲が多いし、確かに月というものを強く感じさせる。
 チェン・ミンは素直にいうと苦手だ。美人過ぎるところに違和感を覚えるし、中国人に対してどうしてもアンビバレンスな思いもある。彼女の演奏や曲へのインサイトにはそうした見てくれなどどうでもよい純粋な部分もあるのだが、そこでもなにかがなじめない。女性だからということではないと思うが、ヨーヨー・マやユンディ・リなどには東洋的・中国的な身体的ともいえる感性があっても大枠で西洋音楽のなかで聞くことができるし、その音楽的な情感の作りもそうした安心感があるのだが、チェン・ミンには奇妙な不安感がつきまとう。
cover
魅惑の二胡
チェンミン
MOON 月亮心
(yueliang xin)
チェンミン監修
 「MOON-月亮心-」では「PHOENIX~ベートーベン「悲愴」より~(MOON Ver.) 」にそうした違和感が強い。どうしても受け入れられない。こうしたアレンジや演奏があってもいいし、むしろベートーベンを忘れてもいいと思うのだが、なかなかそうはいかない。奇妙なのは、坂本龍一作曲の「ラストエンペラー」だが、坂本龍一自身が関わった演奏では、言い方は悪いが、東洋趣味・中国趣味の西洋の偽物として安心して聞ける。そしてその情感は私には馴染みやすい。だが、チェンミンの演奏はむしろそうした坂本を忘れさせてしまうものがある。
 素人の当てずっぽうにすぎないのだが、二胡という楽器の魅力や能力は「万華鏡」によく現れているし彼女の純音楽的な才能はここに活かされているのだろうと思うし、ああ、これは中国人だと逆に距離感を置いて安心してしまう。
 そうした音楽外の情報を一切抜きにして、「feel the moon」はただ心を奪う音楽の力がある。曲想は日本的だし、クラッシック音楽とは違った西欧的な響きがある。その美しさにシンプルに圧倒される。作曲は月下團とあるが澤野弘之という人なのだろうか。いずれ、日本人的な印象を受ける。
 「feel the moon」には、チェン・ミン(陳敏)自筆の蘇軾の水調歌頭が添えてある。

人有悲歓離合
月有陰晴圓缺
此事古難全
但願人長久
千里共嬋娟

 訓ずるに。

人に悲歓、離合有り
月に陰晴、円缺有り
此事、古より全う難し
但願わくば、人、長久に
千里、嬋娟を共にせんことを

 試訳。

人には悲しみと喜びが別れと出会いにあるが
月に明暗と満ち欠けがあるのと同じことなのだ
このさだめは昔から避けがたい
人は永遠に憧れ
遠く離れてもこの月の美を共にしたいと願う

 この月への思いというのは、中国的な感性かなと思う。
 「feel the moon」での音楽的な美しさとは少し違うのだが、私がもっとも好きな曲は「恋雲」である。ベタに日本的と言ってよさそうな曲調だし日本人的な感情の動きがあるのだが、ところどころにこの人は外国人だな、チェン・ミンという異国人だなというフラッシュバックのような起立感と、日本の少し貧しい風景を含んだ、もう三十年以上前に感じていた若い日の恋のような感情を喚起させる。それでいてさらっと泣きに転じていない大人というか青春を過ぎた軽さが救いになっている。
 チェンミンが来日したのはこのアルバムから十三年前とある。九一年であろう。今から十五年前。読売新聞大阪”二胡奏者のチェン・ミン 異文化吸収し、表現力豊かに 3作目アルバム発表”(2001.06.28)ではこう伝えている。

 父は上海音楽学院の教授で二胡奏者、母は女優。幼いころから二胡を学び、上海の民族楽団で活躍する一方、テレビドラマにも主演した。順調な芸能生活だったが、十八歳の時、日本人の知人を頼って来日した。「毎日、同じ生活をしているのが嫌で、違う世界を体験してみたいと思ったんです」
 音楽で生計を立てるつもりだったが、言葉が通じないから、自分が二胡奏者であることがなかなか伝えられない。「ボロボロのアパートに住み、喫茶店でアルバイトをしながら、語学学校に通う毎日でした」
 その後、共立女子大に入学。サークルで二胡を弾いたのをきっかけに名前が知られるようになった。カルチャースクールで教え、演奏会で弾くようになった。一九九五年にデビュー。昨年、チェロ奏者のヨーヨー・マと共演したウイスキーのテレビCMは、清らかな美しさと二胡の穏やかな音色が印象的だった。

 女性の歳に関心を持つのはよい趣味ではないが、彼女は現在三三歳くらいだろうか。曲に現れるものからはもう少し成熟した印象を受けるが。
 それにしても、喫茶店でアルバイトしている十八歳のチェン・ミンの姿に「恋雲」が重なるような感じがしてならない。

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コメント

初めまして。今日、NHKの昼の番組にチェン・ミンさんが出演されていました。そのなかでアナが23歳の時に来日・・・と発言していました。とすると、ミンさん今年39歳。私、今日この番組見るまで、30前後の方と思ってたのでとってもびっくりしました。39歳であの美貌を維持できてるのはすごいですね。最近は皆さん外見が年齢より若い方が多いけど、ミンさんは特に若く見えますね。

投稿: ペガサス流星拳 | 2007.02.21 13:44

学園祭 で 二胡 の サークル を 見せていただきましたが そのような いきさつ が あったとは… なるほど と 納得した次第です。

投稿: kiyo ̄chan’ | 2010.10.19 00:37

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