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2006.09.15

韓国の戦時指揮権問題

 日本時間一五日未明米韓首脳会談が終わり、日本国内のニュースサイトをざっと眺めるがあまり取り上げられていない。特に想定外のこともないからとも言えるが、今日に至るニュースでもこの会談についてはあまり触れられていないようだ。しかし、この会談で扱われる韓国の戦時指揮権問題は日本にとっても重要ではないかと思うので簡単にブログしておきたい。
 韓国の戦時指揮権問題は簡単にいえば韓国での有事の際に、その戦争の指揮権にどのように米軍が関与するかという問題で現状では米韓合同司令部が担っている。が、盧武鉉大統領は韓国の主権確立という名目で米軍の関与を排除しようとして、一二年までに戦時指揮権の返還を米国に求めていたところ、米側は前倒しに〇九年でよいという流れになってきた。盧武鉉政権としてはこの返還により韓国に対する米軍の支援が薄くなるわけではないと表明しているようだが、実際に米軍の関与は薄くなることに加え、後で触れる大きな問題が発生する可能性がある。韓国国内では指揮権の早期返還について軍関係者や識者の反対が強いが、韓国オーマイニュースなどから見る市民の意見は盧武鉉支持が多いようだ。
 共同ニュース”盧武鉉大統領、北朝鮮追加制裁に反対 米韓に溝”(参照)では標題のとおり、北朝鮮制裁として話題が仕立て上げられ、そのおまけのように指揮権移管問題について触れている。


 両首脳はまた、米軍が保持する有事における韓国軍の作戦統制権を韓国に移管する協議を積極的に推進する方針を確認。米側が2009年、韓国側が12年を主張する移管時期をめぐる調整については、ロードマップを作成する10月の米韓定例安保協議に委ねることになった。

 結局、指揮権移管が〇九年に決定したのかわからない。YONHAP NEWS”韓米「包括的接近案」協議に着手、6カ国協議問題”(参照)ではこう伝えている。

 戦時作戦統制権の韓国移管問題については、移管時期を含む具体的事項は来月行われる定例韓米定例安保協議会(SCM)で合意するとしている。ブッシュ大統領が政治的問題となることに懸念を示したが、宋室長はこれに対し「両首脳は基本的に安保と軍事問題が、合理性の欠如した政治的要素により決定されてはならないとの認識を同じくしている」と説明した。軍事当局間での実務的協議を経て立場を定めることが望ましいとの見解で一致したという。

 私の印象では盧武鉉独走がだいぶセーブされているという印象はもつ。韓国世論の影響もあるかもしれない。朝鮮日報”【統制権】韓国人「単独行使に反対」66% ”(参照)ではこの問題の世論調査を公開している。

 朝鮮日報と韓国ギャロップが11日、全国の成人611人を対象に行った電話世論調査によると、「アメリカと共同行使している戦時統制権を韓国軍が単独行使する」という政府の方針について「安保を不安にし、時期尚早なので反対する」という回答が66.3%と最も多いことが分かった。「主権に関わる問題で、自主国防能力があるから賛成する」という回答は29.4%にとどまった。「分からない・無回答」は4.3%だった。
 また、統制権を韓国が単独行使する場合、韓国の安保が「不安だ」(71.3%)という意見が、「不安ではない」(25.6%)という意見を大幅に上回った。このため「現政権では統制権単独行使に関する論議を中止し、次の政権で論議するべき」という意見についても賛成(71.3%)が反対(23%)を圧倒した。

 朝鮮日報だけの調査であればフカシがあるかとも思うが、韓国ギャロップを含めているのでそれほど外してはいないだろう。簡単に言えば韓国民の本音は戦時指揮権の移管について不安を抱いている。
 しかし、実際には、全体の米軍のシフトから考えて〇九年の指揮権返還となるだろうと思われるし、韓国もこれに対応していなかくてはならなくなるだろう。という意味はなにかというと、単純に言えば、韓国は自主的に軍事増強をしつつ(米国から武器購入を進めなくてはならない)、かつその反面で太陽政策を推進せざえるを得ないという矛盾を抱え込むことになる。
 しかし一番重要なことは、NHKの報道解説にあったが、現在の米韓合同司令部体制の場合、実際には米軍がトップに立つとはいえ、条約上米軍の活動は韓国政府の合意を必要とする点だ。これは、ある意味「統帥権」の歯止めのようなものでもあり、実際に米国クリントン政権の際の北爆決定について歯止めとなった経緯もある。が、指揮権の移管により、合同指令部は解体され、米軍は実際にはフリーハンドを手に入れることになる。悪く言えば、米軍は韓国を守る必要はなくなり米軍の都合で朝鮮半島で軍事活動が可能になった。あまり言うべきではないが米側の空気を読んでいると、在韓米軍はできるだけ朝鮮有事に受動的に巻き込まれる可能性を減らし米兵の損失を避けたいようでもある。
 余談のようだが関連のニュースを読んでいてネットとジャーナリズムの関係で興味深い話があった。朝鮮日報”【統制権】「12年前に朝鮮日報も賛成した」のか? ”(参照)より。

 今回の大統領発言より前から、大統領府と与党からは「過去には賛成していたメディアが、今になって反対している」との主張が上がっていた。
 盧武鉉政権寄りのインターネットメディアであるオーマイニュースも先月5日、「朝鮮日報は金泳三政権当時、社説などで戦時作戦統制権を還收する必要があると主張していたにもかかわらず、12年後に正反対の主張を行っている」と報じた。
 しかしこれは記事の一部分のみを取り上げ、全体の論旨を無視した解釈だ。

 興味深く思えたのは、オーマイニュースについてで、韓国の場合、オーマイニュースが報道社としての主張を持つのかという点だ。日本の場合、朝日新聞でも産経新聞でも社説があり社としての主張を持つのだが、オーマイニュースも同様なのかということは知らなかった。というのも日本のオーマイニュースを見ていると、設立時の田代砲の祝砲が消えてからアクセスは激減しており(参照)、「転電」と称して他報道機関のニュースを事実上コピペ(ただコピーして貼り付けるだけ)スペースというのと、ネラーとプロ市民の遊び場というふうな印象しか受けないからだ。
 と思って久しぶりにオーマイニュースを見たら多少改善しつつあるようだ。”「オーマイ速報」休止のお知らせ ”(参照)より。

 この度、オーマイニュースでは、「オーマイ速報」を休止することにいたしました。
 これまで「オーマイ速報」では、新聞各紙、テレビ各局など様々なメディアが報道するニュースを編集部でウォッチし、オーマイニュース読者の皆さまにお伝えしてきました。 
 しかし、今後速報ニュースをより良い形でお届けするため、9月13日22時30分をもって「オーマイ速報」をいったん休止し、一新することにいたしました。

 とかあるのだが、実際はさすがに「転電」というコピペはさすがにまずいでしょという背景があると思うので、そのあたりを記事していただけるといいのだが。
 というわけで、日本版オーマイニュースの「転電」と称するコピペ問題は解消に向かうとして、それで日本のオーマイニュースって何が残るのだろうとも少し思った。韓国オーマイニュースのように社としての主張が出てくるようになるのだろうか。その際は、是非韓国での戦時指揮権問題にも触れてもらいたい。

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コメント

>社としての主張が出てくるようになるのだろうか。

 出るわけないじゃん。

投稿: ハナ毛 | 2006.09.15 13:52

> 韓国の戦時指揮権問題

少し前に日本のメディアでも盛んに取り上げていたように記憶します。盧武鉉さんが「準備は出来てる」と大見得を切ったら、ラムズフェルドさんが「じゃぁ09年に返す」と応じたと。米韓関係のギクシャクぶりを象徴するような応酬だと感じました。

米韓首脳会談の記事は、日本とアメリカではほとんど見かけません。日本はともかく、アメリカのCNNとかロイターとかNY Timesで見かけないのは、ちょっと背筋が寒くなります(と思っていたら、あるブログでWashington Postに記事が載ったことを知りました。もっとも、記事を読むとますます寒くなる類のものでしたが)。

韓国保守紙の社説は、おしなべて事態を危惧しているようです。米国の盧武鉉さんへの冷遇を嘆くコラムもありました。

国際関係のブログでは、冷ややかな反応を示すところが多いように思われます。近いうちに日中首脳会談が実現する可能性が高まったと見るや、擦り寄ってくる韓国政府のやり方にも冷笑的です。

日本としては、盧武鉉政権を他山の石として、対応を誤らないようにしたいものです。

投稿: 木星人 | 2006.09.15 18:52

戦時指揮権の返還で韓国が米軍と切れる話と、一部で囁かれているらしい北朝鮮の人民共和国併呑の話はリンクしている気が。
緩衝地帯としては韓国があればいい、ということかな?

投稿: KU | 2006.09.16 11:07

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