イランの年代別人口構成を眺めて悩んだ
評論家田中直毅が最近イランに行き現地の経済学者たちと懇談したという話を朝のラジオでやっていた。これはきっと微妙な形でイラン擁護をぶちかますのだろう。ワクテカ。手品のようなお話かな、と耳を傾けた。
枕はもちろん昨今のウラン濃縮関連。続いて日本や世界はイランの国内社会・経済を考えましょうと来た。で? イランの経済は国際社会から排除されている、と。ほぉ。それが一九七九年の通称ホメイニ革命後二十六年も続いている。国際決済システムがないし米国の金融も入らない。民間航空機の部品すらまともに買えない。外人向けホテルでクレジットカードすら使えない。ほぉ。でインフレだ、と。そういえばもう十年以上も前だが私がトルコに行ったとき紙幣の数字の桁に驚き、トルコ現代経済の歴史をちらと調べたことがあった。インフレっていうのはすごいものだなと思った。
イランがインフレだと聞いても発展途上国ってフツーそんなものかなと思っていたのだが、田中が言うにそうではない、と。現代世界では発展途上国のインフレが少ない。世界経済の連動が先進国のインフレ抑制を通じて発展途上国にも及ぶらしい。ふーん。ところがイランは世界経済から隔離されているのでそうはいかず、インフレ率は二十パーセントを上回るらしい。その関連で失業率も高い……で話はよかったか。与太話とまではいかないが、いい味出してきたぞと思っているとちと意外な話に転換。
ホメイニ革命後イイ戦争があって、イランでは産め世増やせよということだったらしく、出生率が高まったとのことだ。それで現在二十歳までで総人口の半分を占めるらしい。三十歳で総人口の三分の二。すごいな。当然そこに失業問題が直撃するわけか。田中の話はそれからイランの閉じた国内の金融政策に移る。イランでは預金者金利も貸出金利も政府で操作・調整しちゃえということをやっているそうだ。ここは笑いのポイントだよな。とりあえず笑っておこう、ふふふココリコは面白いなと話は終わる。
田中の話を聞いた後で、なんとなく気になったのはイランの人口構成だ。本当にそうなのだろうか。米国国勢調査局のIDB Population Pyramids(参照)で調べてみた。余談だが、このページで各国の人口構成を見ると面白い。
米国国勢調査局の今年の推計は田中の話とぴったり合っているわけではないが、大筋合っていると見てよさそうだ。が、グラフを見ていて気になったのだが、十五年くらい前からがくんと落ちている出生率の意味はなんだろ? これはどうみてもイイ戦争(参照)の終わり(正確には停戦)の影響と言ってよさそうだが、戦争が終わると出生率が落ちるものなのだろうか。それとこういう人口構成の国は一般的に今後どういうふうになっていくのだろうかとしばし考え込んだが、わからない。
田中の話は嘘とまでは言わないが各方面の思惑もあってフカシだろう。イラン経済の現在はもっと微妙だ。端的に言えば、年間六百億ドルのオイルマネーで政府側はじゃぶじゃぶしている。ニューズウィーク日本版8・16/23”間違いだらけのイラン政策”ではこう伝えている。
テヘラン市内のショッピングセンターに群がるティーンエージャーを見ると少年の髪形は両側を長く伸ばしたダックテールで、少女たちは派手なサングラスにエリオ・ブッチで決めている。若者たちはコーラを飲み、iPodで音楽を聴き、衛星テレビで違法に受信してジェニファー・ロペスやマドンナに熱狂する。
そんな風景らしい。
何よりもいいのは、原油価格の高騰による収入増で社会の隅々まで潤っていることだろう。テヘラン市街では、あちこちで高層ビルの建設が進んでいる。
ニューズウィークとしてはイラン政府がオイルマネーで国民を買収しているというわけだが、じゃあ国際社会はこの国にどう向き合うべきかとなるとはっきりしない。
他国のあり方について間違っとるとか言うことはできないのだが、どうもイランについてはその人口構成も含めて、なにか基本的なところで考え直さないといえないのではないかという気がすごくする。
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コメント
finalventさんはよくnewsweekを引用されていますが、私は情報ソースとしてはあまり感心しません。ある事件に対し、現地報道をその国のnational paperで確認した後、newsweekやTimeを読むとこれが同じ事件を扱っているのか驚くことが多々あったため、私は両紙とも信頼できるソースとして認識しなくなりました。日本国内のメディアと情報が相違しているため、newsweekは事態を「正確に報道している」と写るかもしれませんが、彼ら自身の報道傾向は「アメリカ」に傾斜しており、意識的に中立的な報道方針から離れている場合すら多々あります。
newsweekやTimeはその行間を読めないと後でひどい目に会う場合があるのでご用心ください。特に記事を基にしてブログなどで話を展開させる場合には。
投稿: F.Nakajima | 2006.09.02 12:06
>現代世界では発展途上国のインフレが少ない。
80年代の中南米のハイパーインフレを忘れちゃったのかなぁ?
投稿: | 2006.09.02 13:18
>十五年くらい前からがくんと落ちている出生率の意味はなんだろ? これはどうみてもイイ戦争(参照)の終わり(正確には停戦)の影響と言ってよさそうだが、戦争が終わると出生率が落ちるものなのだろうか。それとこういう人口構成の国は一般的に今後どういうふうになっていくのだろうかとしばし考え込んだが、わからない。
行間を読めてません。ここまで落ちると何か人為的要因があるのではないかと考える。
で、色々ソースを当たる。例えばwikipediaのイランなどを読んでみると、、、、
>イランの人口は20世紀後半に劇的に増加。2006年には7000万人に達した。しかし多くの研究では21世紀への世紀転換点には、人口増加率の抑制に成功し、ほぼ人口補充水準に到達。
という記述が見つかる。おっと抑制策かっと気がついて、
googleで検索をかけると、
http://www.mnforsustain.org/iran_model_of_reducing_fertility.htm
とこういったサイトが引っかかってくるわけです。
現代は検索機能のおかげで大抵の情報にはアクセスできるのですから、「わからない」ですませようとしないで調べましょう。
投稿: F.Nakajima | 2006.09.02 14:43
>インフレ率は二十パーセントを上回るらしい。その関連で失業率も高い……で話はよかったか。
インフレ率が高いことが原因で失業が多くなることはないのでは?普通は低いほうが高くなるはず。
あと人口の半分が20未満と言うのはアフリカ中東では珍しいことではありません。
http://dataranking.com/table.cgi?TP=po03-2&LG=j&RG=7
http://dataranking.com/table.cgi?TP=po03-2&LG=j&RG=8
今のイランのように高出生率だったのが、その後落ちて人口ピラミッドが崩れていくと言うのは団塊後の日本を含めNIESなどでもよく見られることなのでそれほど心配する必要もないと思います。
投稿: ○ | 2006.09.02 15:56
F.Nakajimaさん、こんにちは。調査ありがとう。人口抑制の成果と見てよいのかなとも思いました。
雑談ですが。
>現代は検索機能のおかげで大抵の情報にはアクセスできるの
>ですから、「わからない」ですませようとしないで調べま
>しょう。
基本的にはご示唆のとおりなのですが、私は、ブログというのは問いを立ててみることに意味があると思っているのです。そしてF.Nakajimaさんのような諸賢のお考えを聞く場であればよいと考えています。
過去エントリでも、私のエントリより優れたコメントがあります。みなさんに感謝しています。
Thank you for your contribution!
投稿: finalvent | 2006.09.02 17:07
こんにちは。小生は商社でイランとのビジネスに携わっており、出張でテヘランに来ているのですが、昨日のドバイ経由テヘラン行きのエミレーツ航空で田中直毅氏とおぼしきgentlemanをお見かけし、さっそく色々調べておりましたところで、このブログに行き着きました。96年に訪イされている事は知りませんでした。今回の訪問でどんな反応があるのか、是非ともこのブログで取り上げて頂ければと思います。どうぞ宜しくお願い致します。
投稿: TC | 2008.05.11 14:25