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2006.08.31

下山事件的なものの懸念

 安倍晋三政権がほぼ確実という流れになってきた。私は安倍晋三は評価しない。父っつあんの晋太郎みたいにきちんと外交の仕事とかしてきたわけでもないのにというのが理由。つまり評価しようがないというのがより正確。経歴を見るにあまり頭もよさそうでもないが、それを言うなら森喜朗とか鈴木善幸とか指三本とかなので特に言うまい。この間の官房長官としての仕事はというとそう悪くもなかった。経済面での発言などを聞くに、ブレーンの説明を理解しているようではある。うまく人を使える人なのかもしれないが、そのあたりは蓋を開けてみないとわからないところはある。
 個人的に気になるのは、祖父岸の亡霊が出てくるってことはないのかというあたりだ。先日安倍晋三が統一教会に祝電したと左翼っぽい感じの人たちが一部騒いでいたが、率直に言って君たちそんなことも知らないでこれがネタだと思っているのとか驚いた。昭和の歴史が忘れられて久しい光景なのだろう。祝電問題自体はそれほどどうというほどでもないが、それでも関係は続いていたのだろうなとは思った。
 岸の亡霊ということで、なんとなく気になるのは、うまく言葉になってこないが下山事件的なもので、これがまさに戦後の亡霊みたいなものでもある。下山事件自体についてはウィキペディアの項目(参照)に簡素にまとまっている。


下山事件(しもやまじけん)とは、第二次世界大戦敗戦後の連合軍による占領中の1949年(昭和24年)7月5日、時の日本国有鉄道(国鉄)初代総裁・下山定則(しもやま さだのり)が、出勤途中に公用車を待たせたまま三越日本橋本店に入り、そのまま失踪、15時間後の7月6日午前零時過ぎに常磐線・北千住駅―綾瀬駅間で轢死体となって発見された事件。事件の真相が不明のまま多くの憶測を呼び、「戦後史最大の謎」と呼ばれる。また、同事件から立て続けに発生した三鷹事件、松川事件と合わせて国鉄の戦後三大ミステリーとも呼ばれる。

 近年この事件が顧みられたのは、森達也の「下山事件・シモヤマケース」(参照)がきっかけだろう。当時の報道を見ると、共産党の犯行が示唆される、世間の空気が感じられる。だが、森が改めてこの事件を追っていくと歪曲された目撃証言や事実隠蔽があり、政府首脳や国鉄幹部らの世論誘導があったのではないかというのだ。つまりこの事件はその後日本が反共かつ対米追随路線を取るきっかけとなった、と。森の意図をさらに乱暴に言えば、昨今の北朝鮮脅威論みたいなものはメディアの誘導ではないか、踊らされてはいけない、という主張を込めたかったのだろうと思う。
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下山事件
最後の証言
 ところが森のこの著作のネタとなるべき証言者柴田哲孝が翌年「下山事件―最後の証言」(参照)を著した。これが森の著作を補うようであればいいのだが、そう読める部分もあるにせよ、私が見るかぎり異なったストーリーを展開していた。森の見る、政府側の反共・対米追随路線もだが、当時の国鉄売却の攻防から満州史の亡霊を示唆しているのだ。当然ここに岸の存在が浮かんでくる。
 柴田の著作ではさらに驚くべきことに森達也「下山事件・シモヤマケース」の情報誘導まで暴露されており、私はこれまで森達也の著作をある程度信頼して読んできたこともあり、軽い衝撃感を受けた。とりあえず、森達也はボーガスとしていいだろう。
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昭和史の
謎を追う
 ここで問題なのは、まず前提として、「下山事件」は他殺なのか自殺なのかということだ。前二著は他殺論に立っている。この他殺論の系譜は松本清張の「日本の黒い霧」(参照〈上〉〈下〉)にひな型を持ち、柴田の著作などを読むと自殺論はありえないかのようだが、史学的には(柴田が集めた証言が考慮されていないこともあるが)秦郁彦「昭和史の謎を追う〈下〉」(参照)でまとめられているように、またウィキペディアのまとめもそうだが、自殺か他殺かわからないとしか現状では言えない。
 歴史の謎としてはそこまでが精一杯なのだが、「下山事件―最後の証言」は他殺論の追求というよりも、当時の日本の政治状況と満州史への闇に考察を伸ばしていき、それが興味深い。思わせぶりな書き方でもあり、柴田自身も未整理なのかもしれないが、事件に深く関係がありそうな亜細亜産業の矢板玄のつぶやきを重視している。

 事件の背後には、大きな三つの流れがあった。莫大な国鉄利権を守ろうとする者。事件を反共に利用しようとする者。大局を見つめ、すべてを操ろうとする者。三者の利害関係が一致した。たまたま三つの流れの合流点に、下山定則という男が存在した。すべては、運命だった。そういうことだ。
 だが、たったひとつだけ、最後まで理解に苦しむ謎が残った。矢板玄が生前に言った、あの一言だ。
「ドッジ・プランとは何だったのか。ハリー・カーンは何をやろうとしていたのか――」

 同書はこのあと、ハリー・カーンの考察を数ページ進めていくのだが、いうまでもなくハリー・カーンについてはジョン・ロバーツらの「軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男」(参照)が詳しい。もっとも、当然というべきか、下山事件とハリー・カーンの関係についてこの書籍が扱っているわけではない。むしろ、下山事件は現状では判断しかねる問題でしかないのに対して、ハリー・カーンが戦後なにをしていたのかという問題はその延長の歴史を生きる日本人にとって重たい課題を残している。ごく簡単にいえば、GHQの施策を逆行させたのがハリー・カーンの一派だということ。これにはサウジアラビアの石油の問題も関係しているし、今日日本国憲法として残されたGHQの遺産が奇妙な形でねじれているのもハリー・カーン一派の影響が大きい。
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軍隊なき占領
 そのハリー・カーン一派の日本の政治へのほぼ直接的な関与のインタフェースとして浮かび上がってくるのが岸信介と彼らに関わりさらに韓国を巻き込む諸団体である。このあたりが、冒頭亡霊といった懸念を連想させる。
 しかしことは簡単ではない。ハリー・カーン・プラス・岸であたかも陰謀の根が同定されるわけではないからだ。ここでロッキード事件にやや隠れた形のダグラス・グラマン疑惑が関係してくる。このあたりから私が生きている時代の歴史になるのでいろいろ考えさせられることが多い。
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巨悪vs言論
田中ロッキードから
自民党分裂まで
 話を端折ってしまうのだが、立花隆「巨悪vs言論―田中ロッキードから自民党分裂まで」(参照〈上〉〈下〉 )に描かれているように、ダグラス・グラマン疑惑とはハリー・カーンを失脚させるための事件であった可能性が高い。余談だが、当然同じようにロッキード事件を考えることもできそうだが、立花はシンプルに田中角栄を巨悪に置いている。そしてこの構図が以降文藝春秋ジャーナリズムの呪いとなっていく。いわゆる左翼も立花・文藝春秋ジャーナリズムと同じ見解に立っているようだ。
 ダグラス・グラマン疑惑がハリー・カーンを失脚させるものであれば、それを失脚させた側の構図が描かれなくてはならないし、その構図がその後の現在の日本にまで影響してはいるのだろう。このあたりはやや陰謀論的な発想になりがちなので要注意だが。
 参考書が多く、話が錯綜してしまうのだが、もし岸の亡霊というのがあれば、それは一旦大きな挫折を経由し歪んだ形のものではあるのだろう。その一例は可視だが可視ではない部分がどれほどあるのだろうか。

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コメント

>私はこれまで森達也の著作をある程度信頼して読んできたこともあり、

あんた
オメデタイねwwwwwwww

投稿: っm | 2006.08.31 17:27

山口県ったら、あんた勿論・・・

投稿: わ | 2006.08.31 19:54

 長州閥は信用しちゃイカンヨ。
 井上馨みたいな人材が(確かにそうではあるけど)傑物だもんよ。ゼニカネにルーズな面々が多いんだよね。
 ゼニに汚いといえば、権力握れば誰しもそうなんだけど。
 その点だけ薩摩閥のほうがマシな気もする。気だけ。

投稿: ハナ毛 | 2006.08.31 20:36

えー。「A」(書籍のほう。映画は見てない)は健全な社会正義と思ったんだけどなあ。

投稿: cru | 2006.09.01 21:40

森達也なら今月の「クイックジャパン」で小林よしのりとロング対談してますな。

シンゾーは安部の方の祖父もいたはずなのにおぼえてる人いないのか、シンゾー本人もおぼえてないのか。

投稿: ゾフィ | 2006.09.01 23:39

「最後の証言」については、以下を読んでください。
http://www.geocities.jp/kosako3/shimoyama/nagashima_nengajo.html

投稿: kkos | 2012.01.04 12:19

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