スワンナプーム空港
先月二一日バンコクの新空港スワンナプーム国際空港が報道陣に公開された。東南アジアにまた一つ産まれる大きなハブ空港である。予定では利用者は年間四五〇〇万人、広さは成田空港の三倍。四〇〇〇メートル級の滑走路も二本。さらにもう一本追加の予定もある。開港予定は九月二八日。オーマイニュースが軌道に乗るとするとその一ヶ月後くらいかな。現在のドンムアン空港は貨物用になるらしい。
開港は当初予定からすると一年ほどの遅れであり、今回の九月も無理じゃないのという声も聞かれるが、タクシン首相は期日を強調している。とはいえ、アナウンスでは開港には多少のトラブルもあるかもとしているらしい。他の類例からしてもトラブルはあるだろう。newsclip.beの記事”スワンナプーム空港、国際機関が安全性に疑問符”(参照)は安全性についてこう伝えている。
スワンナプーム空港の安全性については、国際民間航空機関(ICAO)が行った調査で、全93項目のチェックリストのうち、「高い危険」が29項目、「中程度の危険」が43項目に上った。
大きな問題とならないといいが。
いすれにせよ、そう遠くなくスワンナプーム空港の運営も軌道に乗るだろう。運用の印象は先のnewsclip.beでは試乗記”新空港、初フライトに試乗”(参照)も参考になる。記事には言及がないが、スワンナプーム空港はアクセスの便もよい。高速道路でバンコクから三〇分ほど。バンコクに向けた電車も開通予定とのこと。
ウィキペディアを覗くとすでに項目があり(参照)、名称についての面白い話も載っている。ちなみに英語表記はSuvarnabhumi Airportである。
英語表記はサンスクリット語によるローマナイゼーションを利用しているので実際の発音とは相容れないが、英語表記をそのまま読み下して、スヴァルナプーミー空港とも、またノーングーハオ町にあるため、ノーングーハオ空港、あるいは単に新バンコク国際空港(NBIA)とも言われる。
そういえば、アテネ空港は英語だと「アスンズ」と聞こえて最初ちょっと戸惑ったことを思い出した。
ウィキペディアでは開発経緯の話も比較的詳しい。
1973年(タイ仏暦2516年)にタノーム政権時に用地買収が完了した。しかし同年に発生した10月14日政変によりタノーム首相が辞任し、計画がお蔵入りした。その後何度かこの計画が現れては消えたが、1996年(タイ仏暦2539年)に再び計画が現実味を増しバンコク新空港株式会社が設置され、計画が日の目を見ることになった。しかし、翌年アジア通貨危機に見まわれ、またもやお蔵入りになった。その後、建設費用取得のための円の租借交渉で多少の問題が起きたものの、空港会社設立から6年後ようやく建設が開始された。
一度頓挫しかけたのは九七年のアジア通貨危機であり、これが克服できたのは日本からの有償資金援助である。別ソースだが工費の半額を占めているそうだ。「スワンナプーム」という言葉は「黄金の土地」を意味するらしいが、ジパングの援助をかけた、わけではない。
日本から恩を着せがましいこというのも下品なことだが、スワンナプーム国際空港は日本の投資なくしてはできなかったのだろう。というあたりで、先日読んだ本を思い出す。「極東ブログ: [書評]藤巻健史の5年後にお金持ちになる「資産運用」入門」(参照)で触れた。
みなさんは、「いま日本という国が、どうやって食べているのか」ということを考えたことがありますか?
モノを作り貿易して、日本は食べることができている、そういった昔のイメージを持っているかもしれません。貿易立国というわけですね。しかしいまの日本は、けっしてそうではない。日本のモノの取引などの黒字幅は減ってきているのです。
細かい数字は省きますが、どういうところで日本は食べているかというと、投資の収益が非常に大きくなっているのです。
モノとサービスの収支を合わせたよりも、いまは所得収支のほうが大きくなってきているのです。
所得収支とは何か? モノを海外に売ったりサービスを海外に提供して黒字を貯めますよね。その黒字を海外に投資して、海外の株や債権を買ったりします。その配当金や利息が入ってきます。それが所得収支です。日本はいまそれで生きているのです。モノを作り輸出して食べている国から、投資をして儲かっている国に変わっている。
ですから、投資が悪いとかディーリングがいけないとかいうとことになると、日本が生きている道を否定することになるのです。
スワンナプーム空港の援助が直接日本の利益に結びつくのかどうかはわからないが、そういう投資をアジアに向けて行なっていくことが日本が生きる道だというのは間違いないだろう。
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コメント
いつも楽しく拝見しております。
ところで、以前タイに住んでいたため気になったのですが、参照先のサイトは「@タイランド」ではなく「newsclip」だと思います(アクセス増加に気が付いた管理者から連絡があるかもしれませんが)。
これからも楽しみにしておりますので、頑張ってください。
投稿: | 2006.08.03 17:24
>アテネ空港は英語だと「アスンズ」と聞こえて最初ちょっと戸惑った
昔、成田空港の英語放送でカタカナ読みの「チューリッヒ」という発音が聞こえた時は耳を疑いました。Zurichは英語読みなら「ズーリック」になるはずだし、ドイツ語なら「ツューリヒ」でないといけません。「チューリッヒ」だと日本人以外誰にも通じないのに英語放送でそう言ってしまった日本人スタッフの語学力に大変不安を覚えたものでした。
投稿: | 2006.08.03 17:46
「newsclip」のご指摘ありがとうございました。訂正しました。
投稿: finalvent | 2006.08.03 18:59
>その黒字を海外に投資して、海外の株や債権を買ったりします。その配当金や利息が入ってきます。それが所得収支です。日本はいまそれで生きているのです。モノを作り輸出して食べている国から、投資をして儲かっている国に変わっている。
ですから、投資が悪いとかディーリングがいけないとかいうとことになると、日本が生きている道を否定することになるのです。
未だに藤巻氏のその書籍は未読ですが、この文章だけ取り出すと読者を誤解させかねないと思います。
所得収支の黒字の中には、日本の現地法人が稼いだ利益の還元も含まれています。つまり、中国や東南アジアをはじめとした全世界に進出した日系資本の工場の収益還元が貿易収支のかなりの部分を占めており、それを除けば外債や外国株による利益はかなり額が減るはずです。
従って、
>ですから、投資が悪いとかディーリングがいけないとかいうとことになると、日本が生きている道を否定することになるのです。
もちろんこのこと自体は悪いことではありません。但し、コレを名目にして「海外投資は儲かる」という詐欺事件が頻発している今日、誤解を与えかねない、と指摘をしておきます。(もちろん藤巻氏のその書籍にその旨記載があるならば、私の心配も取り越し苦労ですが)
投稿: F.Nakajima | 2006.08.04 22:56
私の文章の中で、貿易収支と書かれた部分は全て所得収支と読み替えてください。失礼しました。
投稿: F.Nakajima | 2006.08.04 22:58