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2006.08.11

中国の外貨準備高が日本を抜いたことへのやや妄想っぽい話

 先日書いた”極東ブログ: [書評]もう一つの鎖国―日本は世界で孤立する (カレル・ヴァン ウォルフレン)”(参照)のことがその後もなんとなく気になっているのだが、その関連で、アジア特に中国の外貨準備高について、先日ラジオで聞いた内橋克人の話がわかりやすかった。そのさわりのメモからファクツを並べてみる。
 ポイントは中国の外貨準備高だが日本を抜いたこと。日本が八千五百億ドルだが、中国は八千五百三十六億ドル(GDPの四割)。しかもその達成速度が速い。この二年間に二倍になった。毎月百八十億ドルの増加。年内に一兆ドル規模に近づく。
 中国の外貨準備高増の理由として主に対米の貿易収支による黒字が筆頭でこれが増分の半分を占める。次に対中直接投資(資本進出)が三割。投機は一割程度。
 東アジア全体の外貨準備高も増加し、世界四兆ドルの外貨準備高の六割がアジアが占める。上位七国が東アジアの国ということで、一九九七年のアジア通貨危機といったことはほぼ完全に過去のことになった。
 これらの外貨準備高だが米国債として消化されるわけで、中国の外貨準備高の六割から七割がドル建ての米国債になっている。
 当然、米国債を支える外国の比率も変わる。二〇〇四年段階で、ヨーロッパが三九・七パーセントに対して、アジアが四一・二パーセント。米国を支えているセクターとしてはアジアのほうがヨーロッパより大きい。この変化も最近のことで、二〇〇〇年ではヨーロッパが六一・四パーセントに対して、アジアは二二・八パーセントだった。
 以上がファクツ。
 これに対して内橋は、問題点として、もし中国が米債を売るようなことがあれば、ドルが暴落しアジア全体に影響するだろうし、日本は急激な円高になるだろう、ということで、そうしたことがないように中国とアジアの経済の協調体制を重視しなければならないというのだが、そのあたりが、れいによって私にはよくわからない。
 わからないポイントは、”極東ブログ: [書評]もう一つの鎖国―日本は世界で孤立する (カレル・ヴァン ウォルフレン)”(参照)でも触れたように、やはり中国が米国債を売るということがあるのかということだ。
 同エントリでは、”マクシミリアンの日記:中国は米国債を売るか”(参照)で親切にもトラバをいただいた。まず前提としてはウォルフレンも言っているのだが、そう短期的にそうした動きが出てくるわけではない。つまり差し迫った危機というほどではないとは言える。
 では、そんなことは長期的にもないのかというとよくわからない。


不良債権処理はどうか。対外的に伸して行くためには、当然BIS規制をクリアする民族資本銀行をいくつか持っておきたいところでしょうから、積極的に処理していくでしょう。そうなった場合、政府のバランスシートの悪化は免れません。これを何でファイナンスするかが問題になるでしょうね。米国債でやっちまおうという輩も出てくることでしょうが、多分その頃には中国は自力で十分ファイナンスできるようになっていることでしょう。

 私が経済オンチなこともあって、反論とかではなくその予想に妥当性を感じない。

とは言え、中国が、長期的にはユーロを交えた通貨バスケット制に移行したがっているのは周知のことですから、徐々に外貨のウチの米債の比率を少なくしていく方向にはなるんでしょうな。もしかしたらコレ、中国のエネルギー問題絡んでませんかね。アメリカは米債を売ったら「損をするのは中国」で「他にもドル債を買える国はある」と言ってますが、ユーロ圏のロシアが米債を買うことは無いでしょう。アメリカにとって悩ましいのは、インドとブラジルをどれほど頼りにできるのかということ。

 つまり、中国の米国債減少はある程度オン・スケジュールでBRICS移行があるか? そのあたりもあまりピンとこない。
 中国の米国債減少は国策と見てもいいのだろう。うさんくさい話を広げたいわけではないが、四月の”中国は米国債の保有高を徐々に引き下げるべき=全人代副委員長”(参照)のストーリーに関心が持たれるということ自体がある程度の裏付けなのだろう。

中国全国人民代表大会(全人代)の成思危副委員長は、中国は米国債の保有高を徐々に引き下げるべきで、ドル建て債の購入を中止することもできる、との考えを示した。香港の中国系新聞「文匯報」が伝えたもので、発言は3日に香港で行われた。


 中国は大量の米国債を購入して、米国の経常赤字をファイナンスする形となっているため、この発言が伝えられたことを受けてドルがユーロや円に対して下落し、米国債が売られた。
 ただ、同副委員長の発言が、中国の外貨準備政策の決定権限を持つ最高幹部の意向を反映したものかどうかは明らかになっていない。
 同副委員長は10人以上いる全人代副委員長の1人で、経済政策について発言することの多いエコノミスト。ランクは閣僚よりも高く、副首相と同等だが、経済政策について特定の権限は持っていない。

 私の認識としては、ウォルフレンの警鐘はけっこう重要なのでないかということで、そこから彼の議論を再構築すると、いわゆるネオコン的な米国の動向はその対応と見てよいのではないかという感じもする。と書きながらトンデモかもな俺感はあるが。
 どさくさっぽい言い方になるが、いわゆるテロとの戦い史というかブッシュ・レジームによるとされている米国の巨大な赤字だが、米国が赤字を垂れ流しているというより、こうした米国債を購入する中国プラスアジア諸国のお買い物として、実際上用意されていたということではないのだろうか。
 話をきな臭くもっていくという自覚を残しつつ言うのだが、日本の米軍基地は日本ではあまり語られていないが、日本を暴発させないための「ビンの蓋」という意味があり、それは東京を米軍が一気に鎮圧できる配備でもわかるものだった。これが今後、ビンの蓋から、米国の対アジア・中東の戦略基地という形で一体化されるわけだが、広く見れば、今後はアジアのビンの蓋となると見えないこともない。
 話がだいぶ杜撰になってきたが、私は中国なんていう巨大な国家はなんかの錯誤で、あの全体が南米のように分割されるのが歴史の必然というものだろうと考えていた。しかし、経済的な理由から、つまり米国を中心とした経済の世界システム的なものの必要性から、あの巨大国家は維持されなければならず、しかも、暴発しないようにかつ資金を吸い上げるように軍事フィクションという芝居を続けることになっているようにも思える。
 そんなことはあり得ないよというのがあれば、傾聴したい。

追記
 有益なコメント・トラックバックをいただいた。感謝したい。この問題に関心あるかたに示唆深いと思われる。

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「経済」カテゴリの記事

コメント

 基本的には「そんなことあるよ」なんだけど、そこを承知で「そんなことないよ」に移行しそうでつね。

 中国10億人もそうだしインド8億人もそうだけど、べつに数揃えたからって全員が全員似たり寄ったりなわけではないじゃん。すんごい格差あるじゃん。
 日本1億がある意味特殊なんであって、中印18億は種々雑多。1億単位で18分割したっていいくらい千差万別でしょ。
 それが、経済上の必然だけで統御できるとは思えない。

 あと、経済上の必然から必ず個々の需要を満たす方向性に話が進むし、話が進んだら結果もある程度出る。結果が出たら、交わるものは交わり、交じり合えないものは交じり合わなくなるだけ。

 正直、日本は武装鎖国をしないと大波に飲み込まれてしまうと思いますけどね。経済立国ゆえに。

投稿: 私 | 2006.08.11 19:49

 倭寇の時代の物語など考察されると、今後10~20年程度の行く末が見えるんでないかと。>最終弁当(finalvent)

投稿: 私 | 2006.08.11 19:51

どうもご無沙汰しております。

そもそも中国において外貨準備が急速に拡大したのは、対米輸出増と固定相場制に原因があります。そもそも、「貿易赤字とは所得以上に消費すること」すなわち借金をすることと同義である以上、逆に貿易黒字を生むことは他国にお金を貸すことと同義になるわけです。変動相場制の場合、ここで中国がアメリカにお金を貸さない(=投資しない)と、ドル安人民元高が起こってアメリカの貿易赤字・中国の貿易黒字が強制的に是正されます。

固定相場制の場合、中央銀行がドル買い介入を行うことでこのドル安元高の発生を食い止めますが、そもそもドルの現金を保有するということ自体がアメリカに貸していることになります(ドル紙幣は政府・中銀の負債であるため)。ですから、中国が米債のビッグホルダーになるのは当然の帰結です(現金を保有しても利子を生まない以上、安全債券で運用せざるを得ず、外貨準備に見合う十分な発行高を持つ債券は国債しかない為)。

ただし、これはあくまでも2国間関係に単純化した場合の話で、多国間関係の中では議論が少し複雑になります。例えば、ここに日本を入れてみましょう。日本も対米貿易黒字から、アメリカに対して巨額の投資をしています。この場合、中国は米国債を売却することは理論上可能になります(日本という買い手が理論上存在するため)。この場合、当然米国債の買い手は日本になります。中国は米債を売却する代わりに日本の債券を購入し、日本はそこで調達した資金で中国が手放した米債を購入することになります。このとき、ネットベースでは中国のドル売り円買い、日本にとってはドル買い円売りが起こります。ここで為替レートがどう動くかは分かりません(理論上は需給はバランスしているので、期待値レベルでは変化しないでしょう)。

ただし、日本がそのような取引に応じるかどうかは別の問題になります。もし日本が応じない場合、中国が放出した米債には買い手がつきませんから、ドルと米債は暴落することになります。日本がドル買いに応じた場合は暴落は避けられます。すなわち、ここでの日本のドル(債)買いは暴落を避けるための買い支えと同義です。

もし日本がドル買いに応じない場合、理論上ドルの価値まではゼロまで下落します(ドルの買い手がいなくなるため。これは3カ国モデルを仮定しているために生じる問題です)。このとき最も損をするのは中国になります。中国はドル債から資金を移そうとした結果、外貨準備それ自体を失うことになります。当然、日本の外貨準備も巻き添えを食らって(ほぼ)ゼロになります。アメリカは純債務国ですから、今借金の返済を求められたらデフォルトするしかありません。借金を踏み倒して再出発になります。軍事力の彼我から言っても、日中などの債権国がアメリカの資産を差し押さえることは不可能ですから、アメリカは実はそれほど損をしません。

つまり、中国が米債を売るかどうか、というのは余り重要な問題ではありません。中国が米債を売れるのは他国がその債券を購入してくれるという確信があるときだけであり、その意味で主導権は中国にはありません。で、現実に購入できるだけの資金と信用があるのは日本だけであり、日本がドルを買い支えるかどうかが問題になります。このロジックは昔「貿易赤字のチキンレース」で書いた事情から変わっていません。「買い支えない」と断れば中国はドルを売れませんが、もし中国が暴発したら日本も被害をこうむります。だからといって、買い支えてしまうと中国にfree lunchを許すことになるわけです。日本にとっては、「ぐちゃぐちゃ言ってもいざとなれば買い支えるだろ」と中国に思わせないこと、すなわち、なめられないことが重要になります。これも「外交演習」(The EconomistのいうところのAssertiveness Training)の必要性を示唆する一件ではありますね。

投稿: 馬車馬 | 2006.08.11 22:53

米国債のうち外国が保有しているのはどれくらいあるのかということも見ないと駄目なんじゃないでしょうか。
6兆ドルほどある米国債のうち外国に保有されてる米国債は3割の2兆ドルくらいでそのうち日本が1割の6千億ドル保有してます。2000年は海外保有は1兆ドルほどしかなく5年で1兆ドル増えてますが、だからといってドルが何倍にも暴騰したり何分の一かに暴落するということはおきていません。
中国保有は2~3千億ドルほどだし、元切り上げもあって伸びが鈍るので、これより大幅に増えることもないだろうから、うったとしてもアメリカにとってはたいした影響はないと思います。内需中心の経済で貿易の影響は大きくないですし。
そもそも海外が保有している国債社債株式を全てあわせてもアメリカの個人金融資産40兆ドルの1割くらいしかありません。
内橋氏が言う暴落というのがどの程度かはわかりませんが、1割や2割なら動くかもしれませんが、ドルが数分の一や10分の一にまで下落すると思っているなら荒唐無稽な話ではないかと思います。

投稿: ● | 2006.08.11 22:55

>有益なコメント・トラックバックをいただいた。感謝したい。
>この問題に関心あるかたに示唆深いと思われる。

単に「経常収支黒字=資本収支赤字」だということを知らなかっただけだろ。w
実質金利と名目金利の違いも分からずインタゲ批判してたのと同じ。
かっこつけて間違ってたことを誤魔化そうとするから何年経っても進歩がないんだよ。

投稿: うんこ | 2006.08.12 11:59

初めまして。弊ブログをお取り上げくださいましてありがとうございます。

米中関係って、アメリカが資金運用して投資して、中国がその金使って物を作って、それをアメリカが中国から借金して買うというサイクルができちゃってます。その間に中国のほうに貯蓄が増えていくわけですが、増えた貯蓄を運用する連中がいないからウォール街に運用をお願いするしかない。中国が強化したいのはそこなんだろうなと。結局かなり前から米国債を売る話はくすぶってたのに売らないで日本の準備高を越えちゃた。

世界のレントナーになるためには、ある種の文化的な前提ってのがある気がします。先の対戦前の英米仏は金融国家で日独は製造業の国でしょう。国柄ってあると思いません?金融国家が育つためには、文化の深さとか奥行きとか言ってちゃダメだし、デフレを偏愛してちゃダメだし、何より金融資本を敵視してちゃダメですよ。あと肌の色とか習慣とかで人を差別しちゃいけないっていう社会的合意が一応ないと、色のついてないお金は扱えませんよ。その点で日本はマダマダだし、中国はもっとキツイ。ドイツなんてユダヤ人殺しの国家社会主義労働者党に乗っ取られちゃった。

ところで、馬車馬さんの議論は売らないじゃなくて、「売れない」って話なんですよね。考えてみりゃそーかなという気もいたします。私は誰かが買うよなという認識でおりました。個人的には、ブラジルには対米90億ドルの黒字と5パーセントのインフレがあるうちに買っておけという感じです。今後ブラジルと日本はエネルギーと労働者の逆輸入絡みで深い関係になりそうな気がします。

中国が割れたときは、アメリカは何かの理由をつけて侵攻するだろう、と私は思っていますし、そんなに非常識な観測じゃないと思います。終風さんはどの辺が引っかかっているんですか?

私にとっては日本の反米化のほうがネタ的には面白いですね。デフレが更に進行したとき、小林よしのり主義みたいなものがデフレ下での生活哲学のようなものを補強し、軍事独裁国家に逆戻りなんていうシナリオです。その場合、アメリカは東京を鎮圧というより、まず沖縄を確保するんじゃないかと。そうするとまた国が裂かれてしまいますね。

投稿: maxi | 2006.08.12 14:22

>瓶の蓋
>世界システム的なものの必要性から、あの巨大国家は維持

の方のフィードバックは未だないようね。
「瓶の蓋」は大いに同意。
「巨大国家の維持」は、果たして外的に支えられるものかいな?
精々延命処置をして、同時崩壊・ドミノ崩壊は避けつつ、絞れるモノは絞り、延焼の被害を最小限にする努力というのが、世界システムとしても実体じゃないかな。
世界システムは、多分未だそういう計算や計画ができるほどに完成していない、と思う。

投稿: トリル | 2006.08.12 14:23

ttp://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20060610

投稿: nanasi | 2006.08.12 21:32

うーん、大きな分裂はないと思います。
仮にある程度の民主化が行われる際には
連邦制に落ち着くのでは?
西部などの極一部で分裂はありうるかもしれないけれど。

投稿: りす | 2006.08.16 07:01

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終風先生のところに興味深い文章が書いてあるのですが (→http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2006/08/post_192d.html) 売るつもりなんでしょう。(断言) しかし、売るつもりがあることと実際に売ることが出来るかどうかは違うでしょうが。 何でそう思った... [続きを読む]

受信: 2006.08.13 08:13

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