3+2×4をどう読む?
学力低下問題に関心ないとか言っておきながら昨日のエントリの続きのような話。今度は算数。産経新聞”3+2×4=20? 四則計算、小6の4割誤答”(参照)で、標題のような誤答をする生徒が多いという話題。
一貫した論旨の展開や数学的な思考が苦手な小中学生が多いことが14日、国立教育政策研究所が実施した学力テスト(特定の課題に関する調査)の結果で明らかになった。「3+2×4」(正答は11)という基本的な四則混合計算では小5の3分の1、小6の4割強が誤答し、深刻な計算力不足がうかがえる。国際調査で学力低下を示す結果が相次ぐなか、現在進められている「ゆとり教育」(現行の学習指導要領)の見直し作業にも影響を与えそうだ。
新聞的にはだから困ったもんだという話なのだろうが、私は、「3+2×4」をどう読ませているのだろうかと疑問に思った。昔、家庭教師をしていたころ、数学が苦手な子に数式の読み方を教えたことがある。読めないものはわからないというところで学習がブロックしているように思えたからだ。
数式には意味がある。意味があるものは文章で表現できる。だから、「3+2×4」も読み下せるわけである。漢文と同じ。読み方も漢文と同じで、白文素読と返り点などを付けて読み下すかであろう。
で、「3+2×4」を、「3・たす・2・かける・4」と読み下すと間違い。読み下しだと、「3・に・2・かける・4・を・たす」であろう。読み下すことができれば計算はできる。というか、読み下しでパージングも行われる。ちなみに、なでしこ(参照)で「3に2掛ける4を足して表示」とやったら落ちた。
では白文素読的に読めるか?読んでよいのかとなると、よくわからない。
いずれにせよ、教育の場では、数式を読み下しさせればいいのではないか。「3+2×4」を「3・たす・2・かける・4」という読み下しで子供が表出すれば間違いのプロセスが明示される。読まないでいると、思考のプロセスがわからない。
ただおそらく、数学ができる子とそうでない子の差は、こうした数学という言語をそのまま、英語のように外国語として理解する能力なのではないか。ジョン万次郎が作った英語の教科書を見たことがあるが、英文に返り点などがついていた。そういう教育もありなんだろう。
話がずっこける。昔岡田英弘先生の講義で、先生が冗談で漢文のようなものを書いて、これは何語だかわかりますかと訊かれたことがあった。生徒がきょとんとしていると、英語ですよ、と英語で読み下した。なるほどなと私は思った。先生が言われるのは、漢文と中国語は違い、漢文というのは英語も表現できるということだった。
![]() 数と計算の意味がわかる 数学の風景が見える |
2たす3は5
つまり2+3=5
であるが、これを読むとき
2と3を加えると5
と言う人と
2に3を加えると5
という人がいる。どちらも5には違いないが、イメージは微妙に違う。
として図で示し。
とのほうを合併、にのほうを添加と呼ぶことにする。
として概念を分けていく。
些細なことのようだが、恐らく数学をきちんと学んでいくときには、こうした差をきちんと理解することが重要なのではないかと思う。
プログラムをやっている人なら、仮にだが、オペレーションとオブジェクトのメソッドの差は感じられると思う。
add(2,3)
というのと
a = new Number(2);
a.add(3);
という感じだろうか。
冗談のようだが。
野崎先生の監修の本では、37℃+37℃は?という例もあった。とんちのようだが、重要な問いではある。他に、なぜ1に同じ1が足せるのかという疑問もあった。
愚問に聞こえるかもしれないが、代数学の基礎にはこうした愚問が横たわっているし、むしろ数学という学の基礎を問う思考を含んでいる。
もちろん、目下の問題は、3+2×4=11とする子を増やせということなのだろうし、それには、読み下しさせるのがいいのではないかと思う。
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コメント
このエントリは面白かった。
投稿: けろやん。 | 2006.07.17 13:43
昔、四則演算を学んだとき、+/-より*/÷を優先して計算しなさい。と私は学びましたが、そのとき私が思った疑問が、(なぜそんなルールがあるのか?)ということでした。
「3+2×4をどう読む?」と言う題に
「3・たす・2・かける・4」と読み下すと間違い
「3・に・2・かける・4・を・たす」と読むのが正しい
のはなぜなのか、という疑問を発せられたとき、いかなる理由で上が間違って、下が正しいと答えるべきなのでしょうか?
まあ、これは数学や論理学を突き詰めていったら最後に何が出てくるのかという話なのですが、
http://homepage1.nifty.com/ktimeh/essay/essay12.htm
このようなことを考えていると自分達の立っている言語や論理の基盤も自分達が考えているほど不動ではないようです。
投稿: F.Nakajima | 2006.07.17 14:18
もともと 3+(2×4) (表記は違っていたかもしれませんが)であったものを簡便にするために「かけ算・割り算はたし算・引き算よりも先にするという規則ができたのではないでしょうか。
ちなみに私は頭の中では「3たす 2かける4は」みたいな感じで読んでいるような気がします。ただし、きちんと表記したいときは「3に2と4の積を加える」のように書きます。
あと、たし算・引き算できるのは同種の量だけですね。質料どうし、長さどうし……など。
でも体積どうしなどは同じものでないと意味がありません。水2リットルにアルコール3リットルを加えても5リットルにはなりませんし。
「37℃+37℃は」に関しては「74℃」が正解です(「37℃よりも37℃高い温度は?」とか)が、言葉足らずでそう表現したのなら答は違ってきますね。「37℃のお湯に37℃のお湯を加えたら、温度はそのまま37℃のまま」ですが、「37℃のお湯に50℃のお湯にを加えたら?」では情報不足で答が出せません。
投稿: シカゴ・ブルース | 2006.07.17 17:57
3+(2×4)=?
と、正しく質問しない方にも問題があるような気がします。
(3+2)×4=?
3+(2×4)=?
3+2×4=?
の3つで試験したら結果はどうだったでしょうか。少し興味のあるところです。
投稿: くれよん | 2006.07.17 18:24
(3×1)+(2×4)=?
が最も正しい質問か・・・。
投稿: くれよん | 2006.07.17 18:28
ポーランド記法の話ですね。
+3 * 2 4 と書くと間違えない。
投稿: dianoia | 2006.07.17 20:29
温度の足し算は面白かったです。
単3乾電池2個の合計電圧は1.5V or 3V
投稿: lba | 2006.07.17 21:26
> なでしこで「3に2掛ける4を足して表示」とやったら落ちた。
「2掛ける4」も書き下さないといけないのではないでしょうか。
投稿: | 2006.07.17 23:22
初めまして。
> なでしこで「3に2掛ける4を足して表示」とやったら落ちた。
「掛ける」は「【引数】{=?}AにBを|Aへ|Aと」なっていますので、「3に2掛ける4を足して表示」ではなく「3に2を掛けて4を足して表示」でないと動かないはずですし、実際、Ver1.3994で試した所エラーが出ました。
なお、Ver1.3994で「3に2を掛けて4を足して表示」とやっても落ちませんでした。
投稿: 狩田英輝 | 2006.07.17 23:57
「なでしこ」ってなんだろう?と思って検索してみました。日本語プログラムだったんですね。面白そうなのでインストールしました。
まだ、マニュアルを読んでいる段階ですが楽しみです。
投稿: シカゴ・ブルース | 2006.07.18 06:16
最近の子供は読み方感じ方が直線的なんですな。
読み下しとか、あえて捻った方法論をやんねえというか。
表面上○○の並び順ですけど実は××ですよ、的判断ができない(できそうにない)あたり、学力以外のいろんな部分に問題が出てきそうですな。
投稿: 私 | 2006.07.18 07:13
言葉として読んだ事がなかったです。
頭の中で記号化していました。
掛ける割るがあったら、ひとかたまりだ、という風に。
読めといわれると、すごく自分の中で違和感があります。
投稿: ぷらぷらごろりん | 2006.07.18 07:15
盆栽に対する美意識の変化とかは、どうなんでしょうな?
投稿: 私 | 2006.07.18 07:45
小学校の「算数」と中学校より上級の学校の「数学」には大きなギャップがあります。それは単位の問題です。
小学校の算数で台形の面積を求めるとき、cm^{2}などの単位をつけなければ先生に怒られます。ところが、中学校より上級の数学では面積を求めて答えを書く際にも数字のみを書けばよいのです。
つまり算数に必ず単位が含まれているのに対し、数学には単位という視点が抜け落ちていきます。算数は子どもの発達段階をふまえて、具象とつながりをもつような指導をしているからこのようなギャップが存在するのだと思いますが...
なお先刻御存じと思いますが、野崎氏が指摘している「温度の加算」ですが、あらゆるパラメータを「示強性」、「示量性」と区別します。(とくに熱力学、物理化学などで顕著です。)この区別の仕方では、温度は「示強性」に分類されます。
投稿: HDK | 2006.07.18 10:10
dianoia氏のコメントのポーランド記法と聞いて思い出したのが、昔懐かしロゲルキスト。「物理の散歩道」
曰く"日本語の構造は逆ポーランド記法である"
3を2をたし、4をかける。
3 2 + 4 *
するっていと
3 2 4 * +は、
3を2に4をかけてたす?
投稿: cru | 2006.07.19 00:40
訂正:「3を2にたし、4をかける。」
3 2 4 * +は、
でも普通の日本語なら、"2に4をかけて3をたす"だよなあ。
3を(2に4をかけてから)たす?
投稿: cru | 2006.07.19 00:44
>「37℃+37℃は」に関しては「74℃」が正解です
>(「37℃よりも37℃高い温度は?」とか)が、言葉足ら>ずでそう表現したのなら答は違ってきますね。
37℃+37℃は74℃、ではないです。
そもそも、温度という単位は、足し算できるものでは
ありません。
もともと、温度は最初、
「37℃の水100ccと73℃の水100ccを足したときの温度は」
と聞かれれたとき「50℃」と答えれられるように作られた
単位です。
ですが、このとき何を足してるのかを考えるには、
熱力学を勉強しなくてはいけないですし、熱力学を勉強すると、実は上の問題もかなりインチキだとわかってきます。
なので個人的には、小学校の算数で水と温度を使った問題を
出すのは、やめたほうがいいと思っています。
投稿: とむけん | 2006.07.19 02:06
>ポーランド記法の話ですね。
>+3 * 2 4 と書くと間違えない。
「逆ポーランド記法」というものはありますが、
「ポーランド記法」はありません。
一般に「前置記法」と呼ばれるものを
なにか勘違いされているのでしょうか。
逆ポーランド記法の由来をお調べになられては
いかがでしょう。
投稿: ん | 2006.07.19 03:28
「37℃+37℃」をgoogleで検索するとおもしろいですよ。
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rls=GGLD,GGLD:2004-39,GGLD:ja&q=%EF%BC%93%EF%BC%97%E2%84%83%EF%BC%8B%EF%BC%93%EF%BC%97%E2%84%83
投稿: ramanujan | 2006.07.19 08:19
皆さん自分に関心のあることにしか対応しないくせに結構いい加減な知識で騙っていることが分かる、貴重なエントリーでしたとさ。
世の中平和ですな。
投稿: 私 | 2006.07.19 10:52
>ん | 2006/07/19 3:28:50
「前置記法」のことを「ポーランド記法」と書くのが先にあって,そこから「逆ポーランド記法,RPN」があるのです・・・グーグル先生かウィキペディアに聞いてみてくだされ。
投稿: ハローワールド | 2006.07.19 11:57
とむけんさん、こんにちは。
> 37℃+37℃は74℃、ではないです。
> そもそも、温度という単位は、足し算できるものでは
> ありません。
これについては、長くなるので自分のところに書きました。「温度はたし算・引き算できないか」という稿です。トラックバックしましたのでご覧下さい。
投稿: シカゴ・ブルース | 2006.07.19 12:11
シカゴ・ブルースさん、こんにちは
>これについては、長くなるので自分のところに書きました。「温度はたし算・引き算できないか」という稿です。トラック>バックしましたのでご覧下さい。
サイト、読ませていただきました。
この件については、完全に私の読解ミスです。
確かに、37℃より37℃高い温度は何℃、といった足し算は
成り立ちますよね。
すみません。
ただ、どういう条件で足し算ができるか、という点については説明が必要なこと、温度を考えるときには「温度差」が重要だ、という点は小学生にも勉強してほしいと思います。
それがはっきりしていないと、ramanujanが引用したgoogleが間違えたように、勝手に℃をKに直して計算してしまう、といったことにもなりかねませんから。
投稿: とむけん | 2006.07.20 11:59
僕は「3たす、2かける4」と読む。読む順序を変えるよりは「演算の結合力の強さ」という概念を体得させるのが本筋では。
投稿: き | 2006.07.23 19:58
読み下せる知能があればこの問題は普通に解ける希ガス。
投稿: mitsu | 2006.07.25 00:23
わからせてからできるようにするのか、
できるようにしてからわからせるのか、
基礎であればあるほど後者のような気がします。
大人は自分が子供だったころに戻って教えないといけないですね。
投稿: | 2006.07.25 20:33
あの後、何かfinalventさんの主張について釈然としないものがありましたが、やっとそれが何なのかに突き当たりました。
>数式には意味がある。意味があるものは文章で表現できる。だから、「3+2×4」も読み下せるわけである。漢文と同じ。読み方も漢文と同じで、白文素読と返り点などを付けて読み下すかであろう。
これは論理学的には意味論と呼ばれるものです。数式の意味を教えるものです。
>数学ができる子とそうでない子の差は、こうした数学という言語をそのまま、英語のように外国語として理解する能力なのではないか。
そして、数学・論理学ではその他に「構文論」、すなわち数式の意味を考慮せず、数式の規則などのみを考察する仕方が同じくらい重要であり、同時に教えるべきです。読み下しだけでは数式の規則(公理系)を理解できないため、数学を理解する能力は身につきません。
その二つの能力があって、初めて数学を理解できる能力と言えるのです。
投稿: F.Nakajima | 2006.07.28 22:35
F.Nakajimaさん、こんにちは。ええ、その二つの能力は重要だと思うのですが、かなりの人がその「数式の意味を考慮せず、数式の規則などのみを考察する」能力を持っていないと思うのです。なので、もっと汎用のインタフェースである読み下しがいいでしょう、もともと算術のレベルなので、ということだったのです。
投稿: finalvent | 2006.07.29 07:46
>「前置記法」のことを「ポーランド記法」と書くのが先に
> 投稿 ハローワールド | 2006/07/19 11:57:02
確かに「前置記法」を発表したのはポーランド人(?)の論理学者です。
しかし、当時は注目も集めず埋もれてしまったようです。
後に、コンピュータ・サイエンスの業界内でスタックマシンの研究中、後置記法を「あのボーランド人と逆の方法」ということで「逆ポーランド記法」と呼ぶようになったそうです。
これらのことから、「逆ポーランド記法」という言葉の成立時に、「ポーランド記法」という言葉が無かったか、有ったとしても参照していないか、のどちらかだと思われます。
つまり、言葉としては最初から「逆ポーランド」だったわけです。
ずいぶん昔にいくつかの書籍で業界内のクダリ部分のような話を読みました。
また、書籍によっては件の論理学者はポーランド人ではなくウクライナ人であり、「逆ポーランド記法」というのはそもそも誤解であるとか。
全て同一ソースからのヨタ話である可能性もありますが。
投稿: ん | 2006.08.03 03:10