レバノン危機の難しさ
イスラエルとレバノン内ヒズボラの紛争が激化している。前回「極東ブログ: 軍服もどき」(参照)を書いたときは私としてはガザ地域の紛争に力点を置き、ヒズボラとの紛争についてはここまで悪化するとはあまり想定していなかった。ただ、産経新聞の記事を引用しヒズボラの背後にシリアとイランが動いているとなると話は全然違うだろうなと思っていた。
その後の経緯のなかで、私の関心はシリアとイランが今回どのようにヒズボラの行動に関わっているかに向いたのだが、エントリに書けるほど確たるソースなり分析というのは見かけなかった。むしろ、そんなの当たり前でしょという感じの議論も多いのだが、慎重を期したいというのと、シリアと米国の関係について「極東ブログ: シリア制裁発動」(参照)でも触れたがそう簡単に割り切れないものがある。
世界の平和を希求する日本国国民としてはとにかく停戦あるべしということだろうし、国内報道もそうした流れをまず錦として掲げる。そして現状を見ればまずイスラエルが空爆を止めるべきだというテーマになり、そこからお話ができあがる。そしてそれはお誂え向きにイスラエルを擁護する米国批判ということになり、諸悪の根源はブッシュということで、FAとか。
まあそんなものだろうと思って新聞社説やNHKでの解説などを見ていたのだが、今回は多少トーンが違い、イスラエルの心情なりや米国の戦略を読み取ろうとする解説も目に付いた。日本での中近東報道も成熟しつつある。
大手新聞社説で一番冷静に見ていると思えたのは昨日の日経新聞”米欧不一致で遅れるレバノン停戦”(参照)だった。標題は米欧批判のように見えるが内容はリアリズムに近い。
イスラエルの作戦の目的は可能な限りのヒズボラの軍事的な弱体化であり、最低限の目標はイスラエル領内へのロケット弾攻撃を不可能にさせるようレバノン南部国境地域を緩衝地帯にすることだろう。
主要国首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)が軍事行動の自制を求め国際部隊派遣構想が浮上した後、米国はすぐに仲介外交に動かなかった。ヒズボラがイスラエル攻撃能力を保持したまま停戦するのでは将来に禍根を残すとする米国は、イスラエルに作戦遂行の時間をある程度与えたものと解釈できる。
イスラエルは緩衝地帯を確保すれば、自ら占領せず後は盾としての国際部隊に委ねる計算だ。その点で今後のシナリオはかなり明白だろう。即時停戦を求め、国際部隊派遣に積極的な欧州諸国も、ヒズボラと自ら対決するリスクは避けたいから、派遣時期はイスラエルの作戦遂行が進んでからという本音がうかがえる。
このシナリオについて日経は直接批判を加えているわけではない。むしろ、これで「シナリオは見えてきたが、問題は時間だ」として被害を最小限に抑えるしかないというまとめにしている。
確かに子供まで巻き込む目下の被害に目をつむれと言えるわけもないが、ここでイスラエルを暴発させない仕組み作りが重要だろう(イスラエルの暴発がなにをもたらすかは言うまでもない)。
ただ「緩衝地帯」なりが実現してもヒズボラは射程六〇~一〇〇キロのミサイルを保有すると見られるので、現実的には何か別ものが想定されているのだろう。たぶん、過去の失敗も顧みずイスラエルは大規模な地上戦に踏み出すのではないか。
この間私がもう一つ読み違えていたなというのは、イスラエルによる国連レバノン暫定軍監視所への空爆だ。当初誤爆だろうと思っていたし、イスラエルもそう主張するのだが、いくつか状況を見ると(標識もあり連絡も取っていた)、これはアナン国連事務総長の見解が正しい。読売新聞”「計画的に標的にした」アナン国連事務総長が非難声明”(参照)より。
アナン国連事務総長は25日、レバノン南部ヒアムで国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の施設がイスラエル軍の攻撃を受け、停戦監視要員が死亡したことについて「衝撃と深い悲嘆」を表す声明を発表した。
声明は、攻撃が国連施設を「明らかに計画的に標的にした」と非難。イスラエル政府による徹底調査と、国連の施設や人員に対する攻撃の中止を要求した。
イスラエルはばっくれるのだろうが、ここまで国連を脅す必要がなにかあったと考えるべきだし、その部分がよく読めない。”レバノン危機:イスラエル空爆、国連の中国人死亡”(参照)でも伝えるが今回の死者には中国人が含まれてたので、中国としても強い不快感を示している。
話が散漫になるが、全体の遠い背景としては、シーア派イランの孤立があるように思う。アラブ世界の多数は穏健なスンニ派なのでそうした穏健勢力の育成を計っていくことが構造的な問題の緩和になるのではないか、遠回り過ぎるかもだが。
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コメント
個人的な憶測ですが、、
http://signs-of-the-times.org/signs/editorials/signs20060719_NotefromLebanon.php
こんな英語ブログを見ると(もちろん、ほぼ戦争状態なので信頼するかどうかは個人判断です)、UNを狙った理由がわかるような気がします。
http://www.sreedhara.com/2006/07/28/things-you-would-not-see-on-cnn-superb-photos/
あとはこれですかね。
投稿: ななしさん | 2006.07.29 17:40
イスラエルが国連爆撃したのは、米国が途中逃げとか状況に応じた懐柔策を採り難くするためなんじゃないかと。
いやまあ、米国は逃げんでしょうけどさ。
戦争状態にあるときって、どこで何がどう転ぶか分かりませんから。
これは、と言えるだけの楔が欲しかったんじゃないかと。
投稿: 私 | 2006.07.29 21:57
本文にはちと関係ないが。昔、張り付いてた敏腕コメンテターのnoneco。最近見ないけど、何処行ったの?だれか知らね?
投稿: けろどん。 | 2006.07.30 07:41
え?nonecoがどうしたかって?
ttp://news18.2ch.net/test/read.cgi/news2/1152096216/
を読むとわかるんだが、なんか話題になってるべ。
で、ここの常連さんでnoneco最近いねえがどうしてんだ?
って心配してる人間もいるだろって思ってね。
あ、レバノン。
奥深そッスね。イランがキーだってさ。
newsweekに書いてたべ。
あとイラクが抜けたこともデカイってさ。
極東さん。今週の新潮や文春面白いッスよ。
投稿: けろどん。 | 2006.07.30 10:04
昨日の深夜、CNNで国連暫定レバノン軍をイスラエルが爆撃し、
インド人国連兵2人が負傷と報じていました…。
finalventさんの仰られた通り、イスラエルは国連をターゲットに
しているみたいですが、一体イスラエルにそのことに
どんなメリットがあるのか、全然分かりません…。
「敵の敵は味方」でヒズボラに対する支持がこれまで非支持だった
レバノン北部を含め、中東全体で高まっていると報じていました。
投稿: kagami | 2006.07.30 12:14
「穏健なシーア派」の事も忘れないであげてください(涙
投稿: き | 2006.07.30 12:30
http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-3282569,00.html
http://michellemalkin.com/archives/005611.htm
まあ信じるかどうかは…
投稿: Shaul | 2006.07.30 14:50
私はレバノン危機よりも事件報道最優先のわが国のマスコミの報道姿勢に愕然としましたね。
やっぱ日本のマスコミにとっては中東の出来事など他人事なのでしょうかね。原油価格の問題も絡んでいるのに。
投稿: 悪党の最後の逃げ場 | 2006.07.31 21:02
こんなのありました。
http://blog.mag2.com/m/log/0000012950/107569714.html
投稿: MAGUMA | 2006.08.11 16:50